第5話
「優香は文月町には初めて?」
電車から降りた私と優香は、駅を出て歩道を歩いていた。
4月の8日、今年は桜がすでに散り始めていて綺麗だった。
私たちは小さな端を渡る。
橋の下に広がる一文字の河川を見てみた。
桜の花びらが水面に降りそそがれ、ゆらゆらと流されていく。
「ねえ優香」
「なあに?」
「あれはね、“花筏“って言うんだよ」
「ひとみんの苗字とおんなじ!」
二人で笑い合うその時は、人生でも指折りの幸せだった。
優香と他愛のない話をしている時間は、何よりも楽しく、早く感じた。
いつの間にかショッピングモールに着いていた私たちは、入り口の電子案内図を見ていた。
「ひとみんまずどこ行くー?」
「優香の行きたいとこでいいよ」
小さく微笑んで見せた。
「じゃあお洋服みたい!」
目を輝かせている優香。
行動も言動もすごく可愛い。
そして私たちはアパレルショップへと向かった。
「うわ〜!可愛い!」
優香がテンションマックスで可愛らしい洋服を見ている。
「優香はそういうの似合うね」
羨ましいけど、優香を妬むのはおかしい話だ。
私は私の容姿にあった、清楚な服を見ようと別コーナーへ移動しようとする。
その時、急に優香に腕をひっぱられた。
「ひとみん、これ着てよ!」
目をキラキラさせた優香が、私に押し付けてきた服、それは1度も買ったことがないような、ふりふりとした可愛らしいものだった。
いや、私には似合わないから…
そう言おうと思ったけど、優香の純粋無垢な瞳には逆らえなかった。
「…わかった」
優香から洋服を受け取り、縮こまりながら試着室へ入った。
やっぱり似合わなかった。
鏡を見てすぐにでも脱ぎたくなったけれど、衝動を抑えてカーテンを開ける。
「ど、どう?」
「か…」
優香の反応は微妙、やっぱり似合ってないようだった。
優香が少し下を向いてプルプルと震えている。
え、笑われてる?
だが、次に優香からでた言葉は、笑いでも軽蔑でもなかった。
「…かか、可愛いすぎる!?」
・・・
気づけば私はすっかり顔が熱くなっていた。
初めて可愛いことをして、初めて可愛いなんて褒められた気がした。
呼吸すら忘れて、優香の顔をじっと見てしまった。
「え、なに!?」
その言葉のおかげで、私は軽い放心状態から戻ることができた。
「優香…ありがとう」
少し泣きそうな震え声が出てしまう。
優香が距離を縮め、少し手を伸ばして私の頭を撫でてきた。
「ひとみんは本当に可愛いんだから、もっと自信持っていいんだよ?」
本当に涙が出てきそうだから、優香の腕を優しく掴み、頭から下ろす。
「うん…」
私は声を絞り出す。
優香は優しい顔をしながら、私の手を握ってきた。
「あたしもう選び終わったから、お会計行こっか!あ、ひとみんまだ選ぶ?」
気を遣わせているようで申し訳ない…
「大丈夫だよ、お会計行こう」
無理やり微笑んだその顔は、きっと不自然だったと思う。
お会計のとき、優香が自身の財布を見て、苦しそうな顔をしていた。
「ひとみん…ごめん。ここで全財産尽きるかも…」
さっきは気を遣わせちゃったから、お礼のつもりだった。
「優香、もしよかったら私が奢ろうか?」
私が財布を取り出し、今どのくらいの金額を持っているのか確認しながらいった。
「…ひとみん、それひとみんのお金…?」
「うん、そうだけれど」
「何じゃその札束は!!!」
そんな会話もあり、優香は「絶対返すからね!」と言って、ひとまず奢らせてくれた。
そして、行きたいお店をいくつか巡った。
本屋で私のおすすめの本を優香におすすめしてあげたり。
初めてのゲームセンターでクレーンゲームに苦戦したり。
どれもこれも、優香といるだけで本当に楽しかった。
私はふと、スマホで時刻を確認する。
「ひとみん、スマホ持ってたんだ」
「あんまり使わないだけで、流石に持っているよ…」
時刻は16時30分前、門限は17時なので、あまり余裕はない。
「優香、ごめんね。もうそろそろ帰らなくちゃ」
「え〜そっかー…」
しょんぼりする優香。
私はせめてもの気持ちとして、さっき優香にされたことをし返してみた。
「ん」
片目を閉じて、私によしよしと撫でられる優香。
手を離すと、少し優香は残念そうな顔をしていた気がする。
「また明日」
そう言って、私は優香に背を向けて歩き出した。
…そういえばこの服で帰って、母にでも見つかれば怒髪天だ、どうしよう。




