第1話(2)
入学式、それは新たな生活の幕開けを表す、本来であれば期待や緊張という感情が湧いてくるのだろう。
だけど、母や父が求める造形物を淡々と演じるだけの私にとっては関係のない話であった。
校長先生に名前を呼ばれて返事をする入学式の恒例行事。
不思議なほど元気な子、声がほとんど届かない子、色んな子がいた。
そしてついに私の名が呼ばれる。
「はい」
全方位から向けられる視線はチクリと痛く、自分の存在を再認識させる。
そこからはあまり覚えてない、校長先生の話が面白くないのは、中学と同じらしい。
こうして、私の学校生活が幕を開けたのであった。
入学式の後、事前に伝えられていた自身のクラスへと移動すると、校舎の上品な雰囲気とは裏腹に、室内は賑わいを見せていた。
黒板に貼ってある座席表を確認し、私は静かに席についた。
特にやることもないので、今日提出する書類を確認しようとした時だった。
「ねえ君名前は?インコネ(※SNSアプリ、インスタントコネクトの略)やってる?交換しない?」
数人の男子が、私に機関銃かの如く言葉を放ってきた。
私は流れ作業のように、にこやかな作り笑顔を瞬時に作り、返事をする。
「花筏ひとみです、どうぞよろしく。SNSはどれもやってないの、ごめんね。」
そう言うと、男子たちは少しがっかりした様子だったが笑いながら、おっけー!よろしくな!と大声を発すると、別のところへと去っていった。
私はこういう場だとよく話しかけられる。
もう数人が話しかけてきたが、同じような返答をし、気づけば最初のホームルームが始まっていた。
ホームルームで現れた担任の山田美生先生は、若くも優秀そうな装いだった。
「初めまして、今日から担任になる山田美生です!みんなよろしく!早速だけど、身体計測の…」
連絡事項を3つ伝えられた後、チャイムがなり、私たちは解散を告げられた。
帰ろうと荷物をまとめていると、今度は女子数人が話しかけてきた。
もうグループができていることに、戦慄すら感じる。
「ひとみちゃん、だよね?よろしく!今日もし良かったら一緒に帰らない?」
友好関係を深めるには、これ以上ないチャンスだ。
もちろん、と言おうとしたのだが、異常に視線を感じる。
今話している女子たちの背後、いや右も左も私に視線を向けていた。
不自然に目の前にいる女子たちとは距離が空いているので、おそらく別のグループなのだろう。
私は何かやらかしたのだろうか、そう思っていると、しまいには廊下からも視線を浴びていることに気がついた。
私は最新情報に疎いから知らなかったが、この学校の情報伝達網はとてつもないらしい。
そう、まだ入学式を終えたばかりと言うのに、美人と噂される私を一目見に集まったようだった。
流石の私とはいえ、これには恐怖を感じた。
そしてずかずかと他人が私に近づいてくると、先ほどの男子の言葉が機関銃ならば、次は未知の宇宙人が使う最先端レーザー銃のような褒め言葉の弾丸を浴びせてきた。
美人だね、かっこいいね、クールだね
耳を研ぎ澄まして聞いてみたが、私の求める言葉が飛んでくることはなかった。
どう対応しようかと、あたりをキョロキョロとしていると、一人の女の子と目が合った。
助けて、そう言わんばかりに見つめてみたが、その子は席を立ち上がって教室を出てしまう。
それから2分くらい、ニコニコとしながら話を聞いていたが、過去類をみない褒められように疲弊してしまったのか、頭痛とともに、気分が悪くなってきた。
周りの声を遮って、
「ごめん、少し気分が優れないから、保健室に行ってくるね」
そう言うと、リュックを背負って逃げるように教室から去った。
付き添おうか?と何人かに声をかけられたが、大丈夫、と引き攣った笑顔で手を振った。
放課後に保健室に行くのは、時間を無駄にするようだったが、それよりも本格的に体調が悪くなってきた。
やはり広すぎる校舎をしばらく歩き回ったが、保健室は見当たらなかった。
みんな帰ったのか、人は少しずつ減っているように感じる。
諦めて帰ろうとした時だった。
時は正午に差し掛かる少し前だった。
正面玄関のある一階へと、歩を進める。
足音がする。視線をやる。
階段を下った先に、
“女の子がいた“。




