第10話
優香が口を開く。
「そうだね〜…」
目を合わせようとしない優香。
「ゆっくりでいいよ」
無理をさせないことを最優先だ。
しばらくして、優香がもう一度口を開いた。
「あたしは…」
すごく苦しそうだ。
しかし、突然私を見る優香。
そして、決意を固めたような顔をして言った。
「あたし、“嫌がらせ“されてるの」
…なるほど。
私がこれを聞いて浮かべた感情は、主に怒りだった。
言葉の出ない私を置いて、日向が口を開く。
「だから、お前と関わることで不利益が生まれるかもしれないだろ?」
学校で人目を置いてもらってる私が、嫌がらせを受けている優香と関わったら目立って、より状況が悪化するかもしれない。
考えられなくもない話だった。
「ただ、まあ状況を理解して、上手いこと立ち回るなら別だけどな」
私のせいで優香がひどい目を見るなんて、絶対に許容できない。
私は口に出して決意を固める。
「辛いのに言ってくれて、本当にありがとうね。私は、優香を護るよ」
それを聞いた優香が照れくさそうに笑う。
ただ、ここで私は一つだけ聞きたいことがあった。
「“先生は動いてくれないの?“」
それを聞いた優香と日向の表情が曇る。
「そんな簡単な問題じゃないんだ」
いつもよりワントーン低い日向の声は、とても説得力があった。
次の日、相変わらず私は優香と一緒にいた。
周りに聞こえないくらいの声で、優香に質問する。
「ねえ優香、その、嫌がらせしてくる人って誰なの?」
護るため、聞いておいた。
こんな話題なので、気まずかったけれど答えてくれた。
「このクラスにはいないよ〜、みんな内進の子なの」
まだ入学して間もないので、それはそうだ。
それなら今は心配することはないかと思った時、優香が口を開く。
「でも、私と関わるとその子たちに目をつけられちゃうから、私とはあんまり仲良くしてくれる子はいないんだ〜」
これが、友達がいない理由。
微笑んでいるものの、内心はすごく苦しそうだ。
少し雰囲気が暗くなってしまったので、私が話題を変える。
「そういえば、こないだは少ししか遊べなかったから、お休みの日とかまた遊べないかな?」
前回、一方的な事情で先に帰ってしまったのを申し訳なく感じていた。
私の誘いに対する返事は嬉しいものだった。
「もちろん!今度のお休みはどう!?」
いつみても嬉しそうな優香の顔は本当に可愛い。
「ふふ、気が早んだから。今度のお休みは確か…空いてたと思うよ」
にぱっと笑顔になる優香。
「やったー!」
遊ぶことが決定したけど、まだ決めることがある。
「どこで遊ぶ?」
私としては、優香と遊べるならどこでもいいのだけど。
「ん〜じゃあ…」
ショッピングモール、遊園地、海。
色々と予想してみたけど、どれも外れた。
「あたしの家は?」
優香の家…すごい行ってみたい。
「優香が良いならもちろん」
上品に振る舞ったつもりだけど、内心はドキドキとワクワクが込み上げていた。
「じゃあ決まりね!」
今度のお休み、すごく楽しみだ。
――――――
これは、優香もひとみも日向も知らない、とある女子グループのSNSチャット。
「雅まじキモくね?」
「いやそれな、動きとかマジで無理w」
「そんな可愛くないのに調子乗ってるでしょあれ」
「“花筏さんも絡まれて絶対うざいっしょ“」
「それな〜」
「こっちがシカトしてんだからあいつも空気読んで何もしなければ良いのに」
「てか学校来なければ良いのにw」
「あいつ内進で中学の時不登校なりかけたらしいよ」
「何それおもろw w w」
「大宮?って子がめっちゃ中学の時絡んでそうなったとか」
「最高じゃん。今度その子と絡みたいw」
「いいね」
――――――
楽しみなことがあったからか、いつの間にか休みの日になっていた。
私は起きてすぐ、上機嫌で支度をする。
「哀、お姉ちゃんお友達と遊んでくるから、留守番お願いするね」
と、メモを残してから靴を履いた。
行ってきます、心の中で唱えてから家を出た。
優香の住む夏加町までは電車で1時間と少しかかった。
電車に乗って、駅から駅へと、近づけば近づくほど胸が高鳴る。
優香の家でどんなことするのかな。
映画見たり、お話ししたり、お菓子作りとか。
優香の部屋ってあるのかな。
あったら、どんな部屋をしているのかな。
可愛らしい部屋、これが解釈一致だけど意外とオシャレな部屋だったりして。
そんなことを考えていたら、電車が止まる。
「夏加町、夏加町になります。降りる方は…」
るんるんと改札をくぐる。
途中で背の高い女の子に肩をぶつけられたけど、そんなこと気にならないほど気分が良かった。
そのすぐ後に、こちらに手を振る少女の姿を見つけた。
華奢で背の小さい、優香だ。
どうやら迎えにきてくれたらしい。
私は少し早歩きで優香の元へ向かう。
「お洋服可愛い」
思わず口に出てしまった。
白色のふわふわとした私服を着た優香は、制服の時とは違うタイプの可愛さを持っていた。
「ひとみんおはよ〜!」
緊張しているのか、いつものように照れずに少しだけ顔が引き攣っていた。
「おはよう優香」
それから私たちは、行こっか、と言って、優香宅へ向かい出した。
優香の家は、白い外装のマンションだった。
エレベーターに乗ると、優香は5階を指定した。
5階に着くまで、私は気になることを聞いてみていた。
「優香は何人家族なの?」
今から家に行くので気になった。
「妹と私とパパとママ、4人だよ!」
優香の妹…絶対可愛い。
「今日妹さんは?」
かなり気になるので聞いてみた。
「いると思うよ〜」
それはぜひお目にかかりたい。
そんな会話をしていると、エレベーターが止まった。
そしてついに優香宅が目の前に。
優香がドアを開ける。
「お邪魔します」
まず最初に現れたのは、若い女性。
「いらっしゃ…」
言いかけた言葉を止める女性。
優香に小声で何かを伝えている。
「どこのお嬢様よこの子…」
「友達だって普通に!」
少しして平静を取り戻した女性が口を開く。
「優香とお友達になってくれてありがとうね、私は優香の母です!」
ウインクをしたその容貌は、あまりに若々しく、姉と言われても気づかないだろう。
そんなことを思っていると、突然肩を震わせて涙目になる優香母。
「ちょ!?ママ!?」
露骨に驚く優香。
「だって…だって、あの優香が…お友達を連れてくるなんて初めてじゃない…」
なんというか、切なくて私まで泣きそうになってくる。
優香が優香母の腕を掴んで別室へ連行していった。
少しして戻ってきた。
「ごめんね、涙脆い母で…」
苦笑する優香。
「全然。良いお母さんだね」
私が微笑むと優香も微笑み返してくれた。
そして玄関を上がって、優香の部屋と思われる部屋に案内されていた時。
「え!!!!????」
優香に似ているが、少しだけ高いその声の主。
今までの話から予想するに、優香の妹さんだろう、会ってみたかったのでテンションが上がる。
「げ…未亜…」
優香が未亜と呼ぶその少女。
優香と同じ髪色だけど、髪は私より少しだけ短いくらいの長さで、編んである。
さらに顔は優香をさらに幼くしたような感じを、少しいじったような雰囲気で正直すごく可愛い。
そんな未亜ちゃんは、私の前に途轍もない速度でやってくると開口一番にこう言った。
「どこのお嬢様ぁ!?」
お母さんと同じことを言っている。
「あ、私は優香の妹の未亜って言います!」
「え、なんで優香と友達になったんですか!?」
「あの、もし良かったらSNSなんか繋がりません!?」
この子、優香よりも喋り始めたら止まらないタイプだ…
そんな未亜ちゃんを無理やり引き剥がす優香。
「ひとみちゃんは!あたしと!遊びに来たの!邪魔しないで!」
軽く取っ組み合いしてる2人の様子は、すごく癒される。
それに、久しぶりにひとみちゃん呼びされて少し照れくさい。
未亜ちゃんも腕を掴まれて別室へ連行されていった。
「ひとみんごめんよ…」
「全然大丈夫だよ」
むしろ眼福で良かった。
そしてついに、優香の部屋へと案内されたのであった。
優香の部屋、どんな感じだろう。
さっきの問いの答えが、ついに。
か、かわいい…
ぬいぐるみがたくさんあって、全体的にピンク色の部屋は、まさに女の子という感じだった。
「座って座って!」
そう指さされた場所は、優香のベッドだった。
優香のベッド、優香のベッド…
座り心地はふわふわだった。
「今日は来てくれてありがとうね!」
2人きりになって安心したのか、優香は満遍の笑みを浮かべていた。
「優香の部屋、すごい可愛いね」
可愛らしく微笑む優香。
「ひとみんの部屋はどんななの〜?」
優香の部屋と私の部屋を比べると、質素で全然可愛くなさすぎて嫌になる。
「全然可愛くないよ…真っ白で、何にも置いてないの」
「へぇ〜、“ひとみんの家にもいつか遊びに行きたいな〜“」
それはぜひ来てほしい。
「もちろん、また今度ね」
「やった〜!」
ああ、本当に愛らしい。
可愛い空間に、可愛い生き物だからか、いつもよりも愛らしく見える。
「ねぇねぇまず何して遊ぶ?」
そういうと、いつ準備してたのか、何かを取り出す優香。
優香の取り出した物、それは右から、ゲームのソフト、映画のDVD、トランプ。
そういえばさっき映画を見たり、なんて妄想をしていたのを思い出した。
「映画、なんの映画なの?」
裏面でタイトルが見えないので聞いてみる。
くるっとDVDを回すと、タイトルが見えた。
「ツギハギお化け!」
それは今年大ヒットしたホラー映画だった。
「優香が良いなら、それ観るのはどう?」
優香、ホラー大丈夫なのかな…?
偏見だけれど、怖いのは苦手そう。
「も、もちろん!ホラーとか大得意だし!」
少し言葉が詰まっていて察したけれど、優香が観る気満々で早速準備を初めていたので止めれなかった。
ちょっと待ってて!と言われて待っていると、ジュースにポップコーンを持ってきた。
「よお〜し!観るぞ〜!」
そう言うと、棚にかけられている可愛いカーテンを取った。
景観を損なわないためにカーテンをかけて、テレビを隠していたようだ。
そしてまさか、この映画鑑賞で、あんなことが起きるだなんて。




