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花筏さんはビタースウィート  作者: あま


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第8話

「え…」「あ?」

 目が合ってしまった。

 しかも口調がすごく怖い。

 私が怯んで声を出せずにいると、女の子が吠えるような声で詰め寄ってきた。

「なんだお前、冷やかしか?」

 拳を握りしめる女の子に、私は必死に口を動かす。

「え、いや、ちが」

 バッ、女の子に肩を突き飛ばされる。

 私は尻もちをついてしまった。

「お前、名前は?」

 震えながら答える。

「花筏…花筏ひとみです…」

 

 …女の子がしばらく固まる。

 

 すると私の顔の前に手を差し伸べてきた。

「優香の友達か、乱暴して悪かった!」

 何だかよく分からないが、敵でないことは理解してくれたようだ。

 私は女の子の手を掴み、立ち上がる。

 近くに立って、彼女を見てみると、すごく整った顔立ちだった。

「うちの名前は憂信日向ゆうしんひなた、よろしくな!」

「よ、よろしく…」

 私はまだ警戒したままだったけれど、彼女の豪快な笑顔は魅力的に感じた。

 金髪ポニーテールで、太陽のような笑顔を貼り付けている風貌は、美少女そのものだ。

「で、なんか用か?」

 別に憂信さんに会いにきたわけではないのだけれど。

「クー君に会いにきたの」

 本当は考え事するために一人になりたかったなんて、恥ずかしくて言えない。

「なるほどな、じゃあクーを撫でながらでもちょっと喋ろうか」

 突然のお誘いに驚いたし、一人になりたかったから断りたかったけど、憂信さんが怖くて言えなかった。


 私たちは木陰に座った。

 憂信さんは、クー君を先ほどの乱暴を忘れさせるように優しく撫でている。

「ひとみ、優香から聞いてるよ。優しいやつだって」

 優香が裏で私のことをそんな風に言ってくれているのは嬉しい。

「憂信さんは、優香とどういう関係なの?」

 話す話題がなかったのもあるけど、友達がいない優香の友達ということで、気になったので聞いてみた。

「日向でいいよ。んー、そうだな。あいつとは腐れ縁ってやつだな」

「腐れ縁…」

「幼稚園も一緒だし、小中高も一緒だな」

 いわゆる、幼馴染というやつだ。

 次は日向が質問してくる。

「ひとみは、優香となんで友達になったんだ?あいつ、ああ見えて人見知りだろ?」

「私は…優香に『友達になってほしい』って突然言われて、色々とあって」

 2人で抱いて泣き合ったり、一緒に宿題解いたり、お出かけしたり。

 まだ出会って数日なのに、私にとってすごく濃い思い出だ。

「ふーん、ひとみって…“ヘンなやつだな“」

 初めて言われたその言葉に、思わず日向の顔を見つめてしまう。

「だって、優香が自分から絡んでくるなんて、相当おかしいことだよ」

 それはそうだ。

 優香は私にはあんなに積極的なのに、他の子と絡んでいるところを見たこともない。

「なんで優香は、私に接してくれるんだろう」

 何も考えずに出た言葉だった。

 日向が数秒黙り込んでから口を開く。


「逆に、“どうしてひとみは優香と接してるんだ?“」


「え?」

 どういう意味かわからなかった。

 私は、優しく接してくれる優香が好きで、一緒にいたいと思ってる。

 その好きという感情を、少し見失いかけているのだけど…。

「あ?もしかして、お前、あいつの事情知らないのか?」

 少し睨むような顔をして日向が言った。

「…知らない、だけど、知りたいとは思ってるの。でも先生は教えてくれなくて」

 優香のこと、もっと知って、もっと一緒にいてあげたい。

 これが私の本心だ。

「まあそう簡単に話せる内容じゃないからなー…」

 先生が詳しいことを隠すのは、大人の事情があるのだと思っていたけれど、生徒である日向まで隠すなんて。

「…てことは、もしかしたら…」

 何かを呟きながら、日向が険しい顔をしている。

「なあひとみ」

 クー君を優しく置いて、立ち上がる。

 私は見上げて、次の言葉を待った。


 

「お前、優香の友達やめろ」


 

 …?


 私は何を言っているのかわからなかった。

「じゃあ、そう言うことで」

 当たり前のように去ろうとする日向。

「ちょっと待って!」

 久しぶりに大きな声が出た。

「なんで優香と友達やめなくちゃいけないの!」

 心臓がバクバクとして、私は異様に焦っているようだった。

「何も知らないであいつと絡むのは、あまりに罪だから」

「じゃあ教えてよ!」

 私は確かに何も知らないけど、あの子を救いたいと言う気持ちは、誰よりもあると思ってる。

「…それは無理な話だな」

 そんなあしらわれ方されて、納得できるはずがない。

 感情が昂りすぎたせいか、涙目になっていた。

 それを見た日向が、ふん、と鼻を鳴らして去っていってしまった。

 私は膝から崩れ落ちていた。


 優香、あなたの闇は、どこまで真っ暗なの?


 昼休み後の授業は、何も頭に入ってこなかった。

 色んな感情が込み上げてきて、何かハプニングでもあれば号泣してしまいそうだった。

 何とか授業を全て終えて、誰とも話さずに私は帰路についた。


 その日、お風呂でずっと考えていた。

 私の不甲斐なさ、優香の事情、日向の言葉のこと。

 でもどれだけ考えても、結論を出すことはできなかった。

 鏡に映る私は、いつの間にか涙を流していた。

 私って、こんなに涙もろかったっけ。

 優香のことになると、どうしてこんなに情緒が不安定になるのだろう。

 私の流した涙は、風呂場の水滴と混じって、どれだけ流れたかもうわからなかった。


――――――


 次の日、教室に入ると優香の姿があった。

 一昨日ぶりの優香に、私は安心感を抱く。

「優香、大丈夫だった…」

 そう言いかけた時、優香のそばにいる人物に目が留まる。

 金髪ポニーテール、憂信日向だ。

 日向が私を睨みつけてくる。

「ねぇ日向、やめてって…」

 優香が気まずそうな様子で止めに入る。

 私は怖かったが、2人に向かってゆっくりと歩き出した。

 まだ朝が早い、教室には私たち以外誰もいない。


「日向、私は優香と一緒にいたい」


 上手く結論の出せない私は、気持ちを伝えることしかできなかった。

「ひとみん…」

 すぐに「あたしも」と言ってくれないのは、葛藤しているからだろうか。

 日向が優香に囁く。

「優香、絶対にあいつと絡めば不幸になる、お前だけがだ」

 私は思わず言う。

「どうしてなのかは、教えてくれないの…?」

 初めて優香に、遠回しだけど、教えてほしいと言ってしまった。

 重たい空気の中、優香が口を開く。

「私は…ひとみんには心配させたくないから」

 優香なりの優しさだろう、でも、私はどうしても言いたいことがあった。

 

「何も言ってくれない方が心配よ!」

 

 優香は雷にでも打たれたかというくらい驚いていた。

 この私が声を荒げるなんて思ってもいなかったのだろう。

 私の声に呼応するように、日向が口を開いた。

「じゃあ全てを知ったお前は、優香から離れてくれるのか?」

 日向の目つきは今までに見た誰よりも鋭く、私に突き刺さった。

 私はその言葉には返答せず、優香に問いかける。

「優香、あなたはどう思っているの」

 優香が下を向きながら、小さな声で答える。

「日向のあたしを大切に思ってくれてる気持ちもわかるし、ひとみんの気持ちもわかる…だからあたしは…」

 優香が深呼吸をする。


「誰にも傷ついて欲しくない!」


 優香の渾身の叫び。

 私はそれを受け止め、口を開く。

「傷つかないよ。それに、優香を傷つけもさせない」

 これは、決意の表明。

「何も知らないくせに、その言葉は無責任だ」

 日向が反論してくる。

 日向が続ける。

「それ以上何か言うなら、“うちは優香と縁を切る“」

 優香が日向を見て目を見開く。

「何でそうなるの!?」

「勝手にして、勝手に不幸になりやがれ。私の視界の外でな」

 優香が涙を堪えた顔で言う。

「じゃ、じゃあ!」

 一度涙を拭いてから、私と日向を交互に見て口を開く。

 

「勝負してよ!私を賭けて!」


 予想外の言葉だった。

「日向が勝ったらひとみんとは友達やめる!ひとみんが勝ったら一生友達!」

 わかりやすくはあるけど…なんというか物騒だ。

「勝負って…なんだ殴り合いでもすんのか?」

「しない!」

 確かに勝負の内容は気になる、私が不利なことは避けたい。

 優香が悲鳴にも近いような声で言う。

 

「今日の体力テスト!」

 

 体力テスト…確かに今日あるけど。

 偏見だが、日向は運動神経が良さそうで不安になる。

 案の定、日向が口角を上げる。

「そいつはいいな、やってやるよ!」

 自信に満ち溢れている様子だった。

 優香が私の目を見てくる。

 きっと「ひとみんは?」と言いたいのだろう。

「…わかった。それで納得してくれるなら」

 私は渋々それを承諾した。

 優香が少し安心した顔で言う。

「じゃあ恨みっこなしだからね!」

 そう言うと席を立って、日向の腕を無理やり掴む優香。

 そのまま廊下に締め出した。

 ドアを閉め、振り返った優香が言う。

「ひとみん、本当にごめんね…」

 優香は何も悪くない、どちらかと言えば、情報弱者の私が原因だ。

 私は日向がいなくなり、反論される心配がなくなったので、一つ提案してみた。


「もしよければ、私が勝ったら。

 “優香の事情、教えてくれない?“」


 デリケートな話で言うか迷ったけれど、日向の言葉のこと、ちゃんと確かめたかった。

 優香は少し考えて、こう言った。

「考えておくね」

 私は困った顔をした優香に近づく。

 近くで見て気づいたけれど、優香はすごく震えていた。

 私はそんな震えた右手を両手で握り、持ち上げる。

「無理しないでいいからね」

 そうしていると、廊下から足音が聞こえてきたので、アイコンタクトをして席に戻った。

 

――――――


 しばらくして、ついに体力テストのすぐ直前になった。

 私と優香は、体育着に着替えながら話をしていた。

「優香、日向って、運動できるよね…」

「うん、去年の体力テストはほとんどの種目で1位だったね…」

 優香、どうしてそんな人と私を勝負させようとしてるの…

 そんな気持ちを読み取った優香が言う。

「でも、ひとみんなら勝てると思う」

「どうして?」

「だってひとみん、スポーツ“も“できるでしょ」

 薄すぎる根拠に、私は頭が痛くなる。

「優香…」

 確かに私は勉強も運動も、小さい頃から人一倍、いや人三倍はやらされてきたけれど。

 そうして着替えを終え、私たちは校庭に出た。

 そこで目に入る少女、日向だった。

 日向はこちらを見るや否や、向かってきた。

 目の前にやってきた日向が声を発する。

「よろしくな!」

 先ほどと同じ、自信に満ち溢れた様子だった。


 こうして、私たちの戦いが幕を明けたのであった。

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