第八章:マコトの執念
太郎が超人的な速度で攻撃を避けた瞬間、マコトは驚きに目を見開いた。信じられない、という表情を浮かべる。
「まさか、お前も…」
マコトはそう呟き、さらに力を込めて太郎に襲いかかる。しかし、太郎の動きは先ほどとは別人のようだった。流れるように攻撃をかわし、マコトの体へとカウンターの一撃を叩き込む。
ゴンッ、と鈍い音が響いた。
その瞬間、マコトは激しく血を吐き、膝から崩れ落ちる。彼の体もまた、限界に達したのだ。マイクロマシーンの力が暴走し、彼の肉体を蝕んでいく。
「くそっ…!」
悔しさに顔を歪ませるマコトを尻目に、太郎は花子の手を取って走り出した。二人は、再び街の雑踏の中へと姿を消していく。
組織は、力尽きて倒れたマコトを迅速に回収した。彼は全身にダメージを負っていたが、マイクロマシーンの技術によって、彼の命は辛うじて繋ぎ止められた。
薄暗い研究施設で意識を取り戻したマコトは、自分の身に何が起きたのかを理解していた。桐生と同じ、適合の限界が来たのだ。だが、それ以上に彼を苛んだのは、太郎の覚醒だった。
彼は、モニターに映し出された監視カメラの映像を食い入るように見つめた。そこには、超人的な速さで動く太郎の姿が捉えられていた。
「どうしてだ…!あの男は、ただのくたびれた中年男だったはずだ…!」
マコトには、すべてが分かった。太郎は花子を手に入れた。そして、花子を通して自分と同じ力を手に入れたのだと。
桐生が愛した巫女の力を、太郎が手に入れた。そして、自分が追い求めた花子も、太郎の隣にいる。
彼の胸に湧き上がったのは、絶望ではなく、燃え盛るような執念だった。
「許さない…!あの男だけは、絶対に許さない…!」
マコトの執念は、彼の体内で暴走するマイクロマシーンをさらに活性化させていく。組織の技術者たちが、彼の反応に驚きと戸惑いを見せる中、マコトは静かに、しかし決然と告げた。
「花子と太郎を、探し出せ…!」
彼の声は、もはやただのエージェントのものではなかった。それは、復讐の鬼と化した男の、魂の叫びだった。