第四章:元ミリオタの反撃
「どうやら今日は、家には帰らないほうがよさそうだ。」
太郎は、財布に残った三万円の感触を確かめる。二人はすぐさまタクシーを止め、近くの安ホテルへと向かった。恐らく、つけられているだろう。
安ホテルの薄暗い部屋で、ベッドに腰掛けた花子が、バッグから取り出した銃を太郎の目の前に置いた。
「あなた、さっきどうして避けられたの?」
「ああ、サバゲーをやってたもんで、つい、さ。」
太郎は自嘲気味に言った。
「男の子はこういうの、好きなんでしょ?」
花子の言葉に、太郎は首を振った。
「人殺しはゴメンだ。ゲームはゲームだよ。」
花子は冷たい目で太郎を見た。
「私はともかく、あなた、それないと死ぬわよ。」
「理由も、聞いてないんだぜ。」
太郎はそう言い返したが、花子の有無を言わせぬような眼差しに、結局は押し負けてしまうのだった。
夜中の2時。静まり返った安ホテルの部屋に、突然の衝撃が走った。窓ガラスが砕け散り、闇の中から鋭い閃光が走り抜ける。敵のスナイパーが、二人の宿泊する部屋を襲撃してきたのだ。
窓に映る二人の影に向かって放たれた弾丸は、確実に二人を捉えたかと思われたが、それは太郎が即席で作り上げたダミー人形だった。太郎は、その場にあったものを駆使して人形を窓際に立てかけ、自身と花子は身を潜めていたのだ。
手応えのなさに、敵は部屋に侵入しようとドアを開けた。その瞬間、待ち伏せていた太郎が花子から受け取った銃を構え、敵の腹部を撃ち抜いた。
「パスッ」という音と共に、倒れ伏すスーツ姿の男。太郎は迷いなく男にのしかかると、すぐにその腹部にある防弾チョッキを確認した。
「肋骨折れたくらいじゃ、人は死なないぜ。」
太郎は、どこか冷静にそう呟いた。彼の脳裏には、過去の記憶がよみがえる。神社の石段を転げ落ち、世界がぐるぐると回っていた、あの幼い日の光景。そして、巫女の乙女に救われたこと。彼は紛れもない元ミリオタだった。