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第一章:非日常への扉

川沿いを、太郎はあてもなく歩いていた。55歳。会社を渋々辞めて、今はただの無職だ。彼の瞳には、夢のかけらも宿っていなかった。河川敷に広がる景色も、ぼんやりと味気なく、ただ川が流れている。そんな彼の視界に、若い女性が倒れているのが入った。声をかけようにも気の利いた言葉は何一つ出てこない。


「私、死のうかと思っていたのに。」

女性が小さくため息をついた。


「金か? 男か?」

思わず口から出た言葉だった。


「ああ、ありきたりなのね、私。さっきまでとても悲しかったのに、くたびれたおっさんに言い当てられてなんだか馬鹿馬鹿しくなった。私、花子。名前もありきたりでしょう。」


「俺は太郎。似た者同士だな。とはいえ俺は会社を首になったようなもんさ。社会から弾かれたようなもんさ。」


短いやり取りの後、二人は言葉もなく川を眺めた。


「3万でどう?」

太郎が尋ねた。花子はムッとしたが、確かに金はない。昨日、有り金は全部彼氏が持ち逃げしたのだ。


「もう、元カレだけどね。」

「まぁ、いいわ。それで。」

花子はなんだかどうでもよくなった。夏の暑い太陽が照りつける中、生暖かい風が吹き抜けていく。太郎は財布から一万円札を一枚取り出した。

「今日はこれしか持ち合わせがないんだ。」


「安いわね。私。」

花子が呟くと、太郎はすぐに言った。


「いやいや、予約だよ。残りは明日払う。」

花子が施しはちょっと、と押し返そうとすると、太郎は遮るように言った。


「明日、ここにきて。時間は10時だ。」

それだけ言うと、太郎はスタスタとどこかへ歩いていった。


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