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第四章 19話 覗き見

「街は森から少し離れた所にあるから、あと少しの辛抱だよ! 辛かったら僕が抱えるから遠慮くなく言ってね?」

「だ、大丈夫だよぉ……はぁ、私も森でケイラくんと出かけてるちに体力付いたからさあ! はっ……ぁ」

「ほんとに大丈夫? 抱っこする?」


 大丈夫と言う割に、切れ切れな息を吐く蒼空を心配しつつも、ケイラは自分の出番か出番かと、今か今かとそわついている。ワクワクと目を輝かせているようにも見えた。


 そんなケイラの期待を裏切るように、蒼空は足を一歩一歩ゆっくりと引き伸ばして歩みを進める。その事に対してケイラはガックリと肩を落とした、断りを入れないで急に持ち運ぶ事は、紳士の欠けらも無いかなと悩んで行動に出せない。

 やはりかっこよく思われたい為、無理やりを押し付けたくなかった。


 この後頑張った蒼空を、人気のお店に連れて行って休ませようと、内心誓う。冷たい飲み物に、美味しいスイーツも付けて買おう。あぁ! スイーツはどれにしようか、やはり最初の頃に話したキチュシャを食べさせてあげたいけど、あの街に売っていたっけっな? と呼吸がぜぇせぇと上がって下がらない蒼空は歩くことに必死で、ケイラがそんなことを考えてるのを知らない。──そのキチュシャというスイーツが、民の間ではどういった物なのか。


 蒼空は特別体が弱いわけではなかった。運動は得意でも大の苦手ではなく、普通の下ほどの評価だ。なのに、苦手意識もあるものの何故こんなにも疲れているのかと言うと二時間以上程の長い道のりを歩いていたからである。

 休憩をしなかった訳ではない、でも重ね重ね疲労が積み重なり体力の底が尽きそうになった。

 休みたいがあと少しだからと、蒼空お得意の[無理をして歩く]を発動する。

 このスキルは効果終了後、体力が回復するまで寝たきりになる。どれだけ彼女の耳元で叫ぼうが、深い眠りに入った彼女には通用しない。


 そんなヘロヘロとした蒼空と比べ物にならないほど、ケイラはピンピンとしていて流石だ。季節は夏が始まったのか、いい汗を流している。汗で適る髪は、顔つきが成長したのもあり目に毒で直視しずらい。なので蒼空は俯きがちに歩いていた。前を向いて歩かないのはとても危険である。


 あと少しあと少しと、フラフラと左右に揺れながら歩く蒼空の両手をケイラが自然と掬い取り、介護するように歩調を落として一緒に歩く。

 暑さもあって非常に今の蒼空は非常に危険な状態だ、熱中症の恐れもある。


 視界がふらついたのか、遂に蒼空は足を踏み外した。転倒しそうになり、咄嗟に蒼空は目の前の布を掴み、その布に自身の身体を任せるように寄りかかった。


「え!? 蒼空大丈夫!?」

「うぅ、暑い……」

「……」


 これは抱っこをしてもOKってことでいいよね? 縋るように今も僕に身体を預けているし、これは許されたって事だろう。よし。


 さっきまで紳士の体を気にしていたが、ケイラは据わったような顔をして開き直った。だけど俳優よろしく、すぐに表情を入れ替えて爽やかな笑顔をお届けした。


「蒼空、もう大丈夫だよ。 あとは僕に任せて楽にしていてね」


 蒼空の両膝の下に左手を通し、右手は腰を支えた。ゆっくりと持ち上げるケイラに、蒼空の意識はリタイヤしていて恥もなにも気にする余裕もなかった。


 目をグルグル回してる蒼空を見て、ケイラはもっと早くこうすればよかったと自責の念に駆られる。蒼空は自信をすり減らして無理しちゃうから、もっと僕が強引になっても許されるよね。そうしないと、蒼空頑張っちゃうんだし。今度からは遠慮なんてしないで、ガツガツいこう。


 そうして先程までのっそりとした蒼空の歩調とは比べ物にならないほど、眩しさも暑さも何のその、足の歩幅が広いケイラには時間をかけずあっという間に街の前に辿り着いた。いつも蒼空の歩幅に合わせていたので時間がかかった。これだったら蒼空は、もっと早くケイラに運ばれていた方が予定より少し早く着いていただろうに。



 ***



「蒼空着いたよ? ほら、お水。零さないように気をつけてね」


 手に冷たい物を掴まされ、飛んでいた意識が戻る。

 冷たい……気持ちい。その冷たい物を無意識に口へと運び、ゴクリと喉を動かす。


「生き返った……!」

「ふふっ、よかったよかった!」


 ケイラくんの声が近くから聞こえて、しばしばと眠気が漂う瞼を上へ開けると案の定ケイラくんが目の前に居た。

 私はまたしてもケイラくんにお世話になってしまった。甘えすぎてケイラくんに申し訳なる。


 ケイラくんは冷たい水をいつ間にか取りに行ってくれていて、それを私に手渡ししてくれた。本当にいつの間……?

 そしてどうやら、ここは宿? なんで宿にいるんだろう? 目が覚めたら見知らぬ天井で、遅れながら驚く。

 街へ出かけたあと日帰りするのかと思ってたけど、一日泊まっていくのかな?


 キョロキョロと室内を不思議そうに眺めている蒼空に、気づいたケイラは言い難そうに頬を掻きながら口を開いた。


「その、蒼空言いづらいんだけどね……、あの後蒼空は疲れちゃっていて、かなりの時間眠っていたから今はもう夜なんだよね」

「え!?」


 バッと反射的に視線を彷徨わせると、バチリと宿の窓に視線が止まる。ケイラくんと過ごしていた家は窓がなかったから、時間を把握するのは難しかったけど、宿から覗く窓の景色は日が落ちて夜の帳が下りていた。


「ごごごめんね!!! せっかくのお出掛けを私が潰しちゃった……」

「嗚呼、大丈夫だよ! 言い忘れてたけど、昨日僕達寝るの遅かったし、出る時間も遅かったから、今日は泊まって明日街巡りを楽しむつもりだったんだよね」

「ご、ごめんね」

「もう、蒼空は謝らないで! ほら、明日のこと考えて一緒に楽しい事を考えよ!」

「そうだね、ありがとう!!」


 蒼空の返答に満足しながらケイラは立ち上がり、扉に近づく。


「このまま、昨日のように一緒に夜更かしするのも魅力的だけど、明日は存分に街を巡る為に、少しだけ覗き見しに出掛けよっか?」

「えっと? 覗き見?」

「そ、偵察ってやつだよ! 蒼空こっち!」


 手招く、ケイラくんの後を腰を上げて後を追いかけた。

 廊下へ出ると奥まで長く続いており、たくさんの扉が並んでいた。それだけで大きな宿だと見て取れる、というよりか宿というよりホテルに近い気がする。

 木製で作られた壁や床は、これまで過ごしていたケイラくんの家に雰囲気が近くて他の場所来たというのに心休まる場所だ。

現在の時刻はかなり遅い時間だからなのか、人気が少なく部屋の人達は既に寝てしまっているのだろう。

 起こさないように、なるべく物音を立てないよう忍足へと切り替えた。

 こんな夜更けに偵察ってなんだろう? 覗き見って意味もよく分からない。


 そう頭を悩ませていると、ケイラくんは突然とある場所で立ち止まった。そして準備はいいかと私に振り返って聞く。

 それも一帯なんの準備なんだろう、と思いながらも、とりあえず頷いた。分からないことだらけなので、心の準備をしとこう。


 ケイラくんは扉の前で足を止めていたようで、ケイラは右手で取手を捻る。

 扉が開くと同時に、ケイラくんの左手が私の右手に重ねて、扉の中へと小走りで手を引かれ、つられて私も駆け出す。

 そして駆け寄った先で、眼前に広がったのは夜空に流れる星の川。

 小さい星、大きい星、白い星、青い星、丸い星、など色んな星がたくさん浮かんでいる。中には現実じゃ見ることの無い、不思議な形や色をしている星もあった。


「この街は、色溢れる星が名物なんだ。名物といっても雨や曇りで天候が悪い時は見れないけど、今日は晴天だったから絶対見れると思っていたからよかったよ!」

「わぁ、すごいよ! あぁとっても綺麗……」

「ふふ、この街の人達はこの景色に見慣れてしまっているけど、僕は何度訪れてもこの場所が好きなんだ。幼い頃はよくここに来て、心を慰めてもらっていたよ──」


 あぁ、見慣れてしまうなんて、勿体ない。小並感のある感想でしか説明できない自分が悔しいほど、この景色は素晴らしいものだと大勢の人に知らしめたいほど。

 この街では空が晴れていれば、この美しい星空はどこでも見れるのだろうか。なんとも、羨ましい。


 凄いなぁ、と別次元をまたしても身をもって知っていく。

 此処、異世界には星座はあるのだろうか? 私は青空が一番好きだけど、空ならなんでも好きだ。だから星座も一時期、特に夏休みなんかはよく調べて、幼馴染達と天候を見に巡っていた。


 星と星を繋げて星座を探している蒼空に、ケイラは自分に意識を向けるように、未だ繋がれている蒼空の右手を自分の方へ少し引く。


「ねぇね、蒼空。明日が楽しみで仕方がないね」

「うん、とっても! 明日は絶対楽しい日になるよ」


 この景色に誓って、明日は幸せな一日になる。いいものを見れらたお陰で、明日への期待で胸が膨れ上がった。

 星空にうっとりと魅入り、今も尚視線は釘付けだ。それに、ケイラくんと会話を広げて心も踊った。

 人は美しいものを見ると幸せになれる。


 ──だから、今日はとってもよく眠れそうだ。

 そう思うとほんの少し前まで寝ていたからか、襲ってきた眠気にふわぁ、と欠伸が漏れる。


「もういい頃合いだし戻ろうか、蒼空」

「うん、ケイラくんありがとう」

「ふふっ、急にどうしたの? それは何に対して?」

「んー、内緒!」


 街に連れてきてくれたのも、この景色を教えてくれたことも。そしてこれまでの全ての感謝を込めた、なんて重いだろうか。

 気恥しくなって隠してしまったけど、この美しい景色を眺められたのはケイラくんのお陰だ。

 ──嗚呼、明日が、本当に待ち遠しい。

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