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第三章 12話 酔い熱

 [メインクエスト発生! ]

 [難易度★★★★★ケイラくんを寝かしつけよう! ]


 私の最終奥義を解放する時が来た! 、と疲労からか謎のテンションで私は彼に立ち向かう。

 いつしかの日にお家の中を探索していたら、とある部屋を見つけたのでケイラくんの断りを入れてそこへ向かった。

 私はそのミッションを達成するために、その部屋から持ち出した"ある"物を取り出した。


「絵本……? 懐かしいや、その本あの古い書庫の中に埋まっていたんだね」

「あ、この本読んだことあった? 違う本の方がいい?」

「んん、既に書庫の本は全て読み漁ったものだから大丈夫。それにね、その本は幼かった僕のお気に入りなんだよ」


 私が選択した寝かしつける方法とは、夢で見た読み聞かせだ。私の読み聞かせで幼じみは必ず寝落ちていたから、お墨付きもあって寝付くこと間違いなし!


「ケイラくんのお気に入りの本か〜!なら、そのケイラくんの好きな本を読み聞かせしてもいいかな? 私、読み聞かせをする事が好きなの!」

「ふふ、蒼空らしくていいね! 喜んで、お願いするよ!」


 私らしいか……。初めてそんなことを言われたけど、好きなことを私らしいと言って貰えるなんて、嬉しい決まっている!なんだか、少し照れてしまうな。

 感情が昂って、両手で抱えていた本をギュッと強く抱き込んだ。


「えと、じゃあ始めるね」

「うん! 楽しみだな〜!」


 気恥しさで初々しい様子の蒼空を、ケイラは大人しくベッドで横たわって見守っていた。

 蒼空の細い指がページを一枚一枚と捲りながら、登場人物の心を読み進めた。感情豊かに本の様子を、ゆっくりと大切に紡いで聞かせていく。二人はまるで物語の中へ入ったような、そんな心地で絵本に魅入っていた。


「青い空は少年に語りかけました。太陽さんが大きな山に沈んでしまっても、私は少年の傍にずっと居るよ!」

「私は星空のドレスを纏って、月さんと一緒に少年を見守っています。空さんはそう言い残して夜が訪れました。」

「そうして少年は友達の空さんが夜になってもずっと一緒に居ると安心して、星の光に包まれて眠りについたのです。」


「……素敵なお話だったね! 少年と空さんは夜も一緒だなんて。青い空は夜空となって少年とずっと繋がっている」

「ふふっそうだね。きっと少年もいい夢を見て、そして朝になって青い空さんとまた楽しくお話してるんだと思うよ!」


 この絵本は一人ぼっちの少年に、青い空さんが話しかけて友達になる話だった。

 だけど、夜が訪れ会えなくなると悲しんだ少年に、青い空さんは夜空となって一緒に居ると教えて、少年はその言葉を信じて夜空と一緒に眠ったことでこの物語は終わった。

 幼じみと違って最後まで人に読み聞かせを出来たのは嬉しいけれども、作戦は失敗だ。

 それどころかケイラくんは、私の読み聞かせを気に入ってくれたのか、あれもこれもと絵本を押し付けられる。悪い気はしないので、二冊目三冊目とどんどん読み進めていく。

 だけどもケイラくんは眠るどころか、もはや眠気が覚めてしまっているんじゃないか? もしかしなくても、逆効果だったかもしれない。

 時間はかなり経過し、30分はゆうに超えているだろう。


「蒼空次これ! 次この本をお願い!」

「うーん、この本を読み終えた後しっかり眠ってくれるなら……」

「……んー、分かった! 蒼空も一緒にね!」


 そろそろ折れる時が来たかもしれない。ケイラくんに無理をさせたくない為、彼の言葉に頷き、どうにでもなれの気持ちで四冊目の本のページを開く。


「光に照らされて、影が動き出します。僕の真似をする影は__」

「ゴホッ……! ヴッ、ゲホッゴホッ……!」

「ケイラくん!!」


 四冊目を話し始めると、ケイラくんが咳き込み咄嗟にその背を左手て摩った。

 ケイラくんの顔は真赤で、目の標準はあっているようで私と視線を合わせられていない。私が変に粘ったせいで結果、彼に無理をさせてしまっていた。

 一緒に寝ることなんて、どうってことないじゃないか私。

 ケイラくんの瞳に右手を添えて視界を塞いだ。


「お願い、私は元気なケイラくんに会いたいな。絵本だっていつでも読み聞かせられるんだよ? お願い、無理しないで」

「……。ごめんね、意地悪しすぎちゃったね。僕はただ蒼空と居たかっただけなんだ」


 ケイラくんの瞳を塞いでいる右手に、温かい熱が重なる。その熱──ケイラくんの左手は、私の右手の甲をさわさわと流れるように撫で付けた。


「うん、分かっているよ。でもね、私はケイラくんが無理していることがとても悲しいのに」

「ごめんね、僕はね目的のためなら自分を犠牲にしてもいいんだ」

「僕の勝ちだね」


 ーーやっと捕まえた。

 ケイラくんの視界を塞いでいた右手を取られて、ぐいっと私の右手をずらしそこから見えた表情は笑っていた。

 その右手を彼が引いて、私をベッドの中へと引き摺り込む。

 ケイラくんの体温で温まっていたベッドは、ポカポカとしていて 疲労していた私の眠気を誘った。

 眠るのは私じゃないのに、ダメなのに……。


「おやすみ、蒼空。共にいい夢を」


 慰めるような、優しい歌声が脳を揺らす。

 あぁ、またこの歌。最初出会った時のように、彼は鼻歌を歌い出す。

 彼の子守唄に、睡魔を拒めない。ケイラくんが瞼を閉ざしていることを確認して、私も視界を閉ざして夢の中へ沈んでいく。

 おやすみなさい。


 

 ***


 

 異世界に来てから過去を思い出すことは、夢が関係していそうだ。

 今日の夢は、一体どんなことを教えてくれるのだろうか。一番最初に思い出したのは自分の居場所。そして昨日見た夢で、自分の好きな事について思い出した。

 夢で見た読み聞かせが好きだということだけじゃなく、他に自分の好きなものや苦手なことも同時に思い出すことが出来た。好きな物は、両親が私の名を考える時に由来した青空。好きな色だって青。絵を描くことが得意で、体を動かすことが少し苦手。

 夢での追憶で、ピースが当てはまっていく。だけどあと少し何かが足りない。他のことも思い出さなければ、欠けてしまった記憶を完成させることが、私の新たな目標となった。

 全てを思い出してからでは、分かれ道を選択するのは遅いだろうか……。


 今日見た記憶以外にも、ケイラくんの夢を、過去を見たのも私にとって大切な鍵だと、そんな予感がしている。

 夢を見よう。過去を知ろう、記憶を思い起こそう! 素の自分に戻ってきている気がして、ドキドキとした心で夢に期待していた。




 __ズキリ……


 __ズキズキズキ!!!


 突然、刺すような激痛が脳に走る。

 そして同時に雪崩込む、いつしか味わったことある激しく反発する感情の波。


 ーーーー思い出した。


 痛い! 痛い痛い痛い!!!

 寒い。急に体温が凍りつくように下がり、寒さからか体がガタガタと音を出して震え出す。

 震えを収めるために体を丸め込むが、止む気配は無い。

 真っ黒な視界の中落とされた、痛みと震えに恐怖を抱く。

 そしてなにより恐ろしいのが、寂しいという感情だ。

 独りだ。傍に居てくれたケイラくんもスカーも居ないんだと寂しさがそう刻む。


 この異世界に来てから一番私が恐れていたのは、それは孤独だ。

 物音一つしない静寂の中、私の嗚咽がよく聞こえる。

 瞳を開けば、思い出した通りに物静かな過去の私の部屋。


 この日は幼い私が急に熱を出して、心配する幼なじみ達の家族を仕事や学校に追いやり、一人でお留守番をする!と学校を休んだ日だ。それも、初めての高熱。

 改めて、明るい部屋で独りになると寂しくて、部屋の電気を消して睡眠の体制を取る。けども痛みと寒さで眠れる気配はなく、独りで熱に耐えていた。

 用意された食事と共にこまめに水分補給をしていたが、孤独さが心細い幼い私の敵をする。食欲は失せ逃げるようにベッドに潜り込み、夢の中へ向かおうとするが目を閉じても感じる無音が辛くて、私は声を上げる。自身の熱が上がっていく様子をひしひしと体感して、唇は戦慄し手足の感覚が分からなくなっていく。じっとりとに汗が吹き出て体中についてまわり、気だるさに体力を奪われる。

 幼い私一人で耐えられるはずもなく、虚しくもなって誰も居ない部屋に助けを求めに視界を開きぐるりと目を回す。誰も居ない部屋を目撃すると、もっと自分の心が空っぽになった。

 目を閉じれば蝕むような無音に襲われ、目を開けば誰も居ない孤独の証明。後に繰り返し繰り返し、眩暈のような吐き気を覚える。


 幼い私にとって熱は激しい感情だった。痛い、寒い、寂しいと、そんな感情が料理のようにグツグツと煮ては掻き回される。

 その感情から逃れられるのは、やはり眠りだった。苦痛と孤独から逃げるように、目が覚めたらみんなが帰ってきて、張り付くような熱が下がっていることを祈り、ただ只管に眠り続けた。寝つきは最悪だったけど、時間が経てば幼い私は寝息を立てる。見た夢はいい夢だったか、悪い夢だったかは覚えていないけれ

ど。




 今回の夢は、いわゆる一人称視点というものだった。幼い私に憑依のようなもの事をしたのか実際自分が経験した、苦痛や感情、そして記憶を思い出す。私にとって一番辛かった過去だったことを覚えている。

 だけどこの夢は、私に何を教えたかったのだろうか。熱の辛さだろうか。

 ーーそれとも、孤独の辛さか……。


 あの後は目を覚ましたら幼なじみ達が帰ってきてくれたんだろうなと、考察に近い思考をする。それ以降の記憶は無いから、予想と言った感じとなった。

 皮肉のように熱の出来事を懐かしいと思い、脳がはっきりと意識を持って覚醒する。

 寝覚めは良くなかったが、夢と違い今の私の体調は至って普通だ。でも夢見が悪かったから、そんなに眠れていない。元々異世界に来てからは拍車をかける用に睡眠時間が短くなったから、あまり大差無いかもしれない。

 前の夢のように、今日の夢で私の過去について大体思い出した。途中モヤがかかったように抜けているところもあるけども、過去が私にとって印象的な程くっきりと思い起こせている。でも相変わらず大事な人達の顔や名前は思い出せない。

 今日の収穫は、"過去"だけでそれ以下も以上もなかった。過ぎてしまったものを思い出して、浸かっていればいいのだろうか。

 元の世界のヒントを与えられず焦っているため、過去を思い出せたことに私は素直に喜べなかった。


 夢について考え事をしていると、腕に巻き付く温もりに気がついて、目を向かわせるとケイラくんの両手が私の右手を握っていた。

 その様子に熱の時、一番恋しくなるのは人の体温だったと思い巡らせる。私も彼を安心させようと、私の方からギュッと力を込めて握って体温を譲り渡す。

 彼は悪寒が走り温もりを求めてしまう段階だろう、けれどその段階が過ぎたらその温もりすら暑苦しくなる。今は温めてあげることしか出来ないが、その時はすぐに冷えたタオルを用意しよう。


「んん……、蒼空」


 ……ッ!?

 突然名前を呼ばれてびっくりした……! 起こしてしまったのかと思ったけど、スゥと落ち着いた寝息が聞こえてそうではなかったと安心した。

 よかった、穏やかに眠っている。夢の中では苦痛はない。孤独も与えぬよう安心させて、静かに休ませてあげよう。


「……なぁに? 大丈夫ケイラくん、私はここにいるよ」


 そう呟くと、聞こえていたのか知らないがゆったりと穏やかな笑みを浮かべた。

 今はこの優しい空間を堪能しよう。

 私が彼に向ける視線が、幼い私と重ねて同情を宿していても。

 知らないふりをして、彼と共に次こそ安息な眠りへもう一度。


「おやすみなさい」


 

 ✤✤✤



 二人の寝息が充満して、蝋燭の炎だけが見守っている部屋の中。

 片方の背が、むくりと起き上がる。だけど、部屋の中で響く寝息はやはり二人分。

 だけど、その影は意志を持って立ち上がり歩き始める。影は俯いていた顔を持ち上げるが、その視線は合わない。


 目を閉ざして夢を見ている少年は、どこかへ誘われるようゆっくり足を進める。


 __夢現。


 プログラムされた機械のように的確に目的を持って行動するケイラは、寝ているのか信じられないほど器用に扉の取手を捻る。

 異様に足取りはしっかりとしていて、部屋から影が一人去ろうとしていた。


「おい、戻れ」


 そんな彼を咎めるような声が、廊下へ足を踏み入れたケイラに届いたか怪しいがその言葉は、言霊のようにケイラの行動を従えた。ピタリと動きを止め、踵を返して来た道を戻っていく。


「はぁ、お前の体調が悪いとオレも本調子が出ない。早く安静に熱を下げろ」


 起きた時のように、むくりとした言動でベッドへ体を潜り込ませるケイラを、見届けた一人の影は更に深くため息を零した。

 子供のように無垢に眠りにつく二人に、意味深な表情を浮かべたがすぐさま呆れ顔になる。


「ケイラは時が止まっている(・・・・・・・・)からと言って、お前も子供のように眠るな。ほんと、世話が焼ける」


「嗚呼、でもこれ以上は表に出れないな。」

「勘づいているどころか、後に全て知ってしまうだろうから。」

「全部時間の問題か、その前に早く事を動かさねば__グ……、ハッア! ゴホッ!ゴホ」


 誰のことを指して話しているか、苦痛に耐える声が言葉の続きを被る。

 寝ている二人がその呻き声に気づく前に、部屋から影は消え、それを追いかけるように蝋燭の火も消えていった。

 何事も無かったのように穏やかな時間が過ぎていくが、部屋の中は真っ黒に包まれている。

 けれど二人は起きても気づかないだろう。何も知らない、眠っている二人にとっては何事も無かったのだから。

 夢現のケイラが何処へ向かおうとしたのか、この場にスカーが現れたことも知らないのだ。


 __そしてケイラに迫った危機すらも、何も知らないままでいた。

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