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Vol.9 シャワー

「……ん?」

「あれ? 寝てたのか?」

「ふわぁぁ、気持ちよかったぁ〜」

「すっかり寝入っちゃっていたようね」

 4人が目を覚まして声を上げると、スリープモードになっていたレックスが声に反応して起動する。

「……みんな、うたた寝してしまったにゃね。疲れていただろうし、仕方のないことにゃ」

「しかもお腹いっぱいになったからねぇ」

「それもそうね」

「うたた寝するには適切な空調だ」

「その上みんな無言だったからね」

 4人は伸びをしたり、肩を回したりする。机に突っ伏していたので、少し体が強張ったのだ。

「調べごとは尽きないにゃろうから、頻繁に図書室には来るといいにゃよ」

 そうだ。結局娯楽ばかりに現を抜かしてしまったが、本来調べなくてはいけないことはたくさんあるのだ。自然フロアのことばかりに気は行ったが、おいおいコロニーの作りについても理解しなくてはならないだろう。しかし、子どもである自分たちにそれができるだろうか? そんな不安もあるが、この場所での適応とは、ある程度環境になれることだ。ある意味、4人はこのコロニーという環境でうたた寝できるくらいには適応していると言えるだろう。

「それより、少し自然フロアで作業したから、シャワーを浴びたりしたいわ」

「汗かいたもんね!」

「言われてみれば少し肌がベタベタしてるかもね」

「レックス、シャワーは浴びれるのか? まさか自然フロアの川で水浴びしろとか言うのでは……」

 4人からの要望に、レックスは答えた。

「さすがにそれはないにゃ。排水や水質管理の問題もあるにゃからね。シャワー室ならあるにゃよ。シャワーを浴びる前に、片付けするにゃ!」

 4人は本を棚へ返すと、おやつの袋の残骸や、マグカップに目をやった。

「マグカップはさっきのキッチンで洗うとして……ゴミはどうするの?」

「やっぱりリサイクルとかあるのかな? ペットボトルみたいに」

「リサイクル? 何それ」

 ガイの言葉を不思議そうに聞くユタに、ジグが説明した。

「ゴミの再利用だ。このお菓子やスナックの袋はプラスチックだよな?」

「そうね。でもプラスチックという資源を、どうやって次に活かすのかしら? この宇宙環境で」

 つぶやくと、考え込むミュウ。大規模な処理施設があるわけではない。子どもたちはゴミのことは全く知らないでいた。ゴミはごみ収集所やコンテナに入れておけば、回収の人が持っていってくれるというだけの認識だったが、ここでは違うらしい。

「そう言えば、さっき料理で出た生ゴミはどうしたっけ? 誰か処理した?」

「うーん……多分そのままじゃないかなぁ? 一箇所にまとめておいたとは思ったけど」

「生ゴミも室温で腐ってしまうな」

「ゴミの処理も考えないといけないのね、ここの空間では」

「そうにゃ。やれやれ、仕方ないにゃ! ワタクシが少し教えるにゃよ。ゴミとマグカップを持ったらキッチンに移動にゃ」

 言われた通りに、自分たちが使ったマグカップと、食べたお菓子のゴミを持つと、レックスに続いて4人は図書室を出た。

 ーー廊下を通って、先程のキッチンへ移動する。料理で出た生ゴミは、シンクの隅にまとめられている。これはガイが何気なくまとめておいたら、ジグとユタもそこに野菜の皮やヘタを置いたのだ。

「さて、これをどうするかだ」

「宇宙だし、ただ捨てるだけじゃないよねぇ? ……想像つかないや」

 ジグとユタが悩んでいると、レックスはゴミ処理についての説明を始める。

「みんな、聞くにゃ。生ゴミは再利用できる……何に利用するか、知ってるにゃか?」

「利用? うーん……何かしら?」

「もしかして、肥料とかじゃない? 畑の」

 ミュウの代わりにガイが答えると、レックスは「正解にゃ!」と言った。ガイの国のゴミ捨てルールは厳しかったりする。それなので、ゴミの分別などに少しの知見はあったのだ。

「だが、この生ゴミをどうやって肥料にするんだ?」

「そうだよ! ただ畑に撒くわけ? それだけじゃ、肥料にはならないと思うけど……」

「あそこの隅にあるコンテナには気づかないかにゃ?」

「コンテナ……?」

 レックスに言われて視線を移すと、確かにコンテナがある。ジグが中を開けてみるが、まだ中身は空だ。

「ここにゴミを入れればいいの?」

「ただ入れて腐らせるだけで、肥料はできるものなのかな?」

「そこに糠や落ち葉を入れておくにゃよ。それで肥料ができるにゃね」

 4人はレックスの言葉にただ感心する。そうか、料理で出た生ゴミは肥料にする。そうしてまた、野菜として育っていく。自然の循環だ。

「でも、こっちのお菓子の袋とかはどうするのさ? 肥料にならないよね?」

「何か処理施設があるのか?」

「ご明答にゃ。プラスチックゴミに関しては、そこのダストシューターに入れてほしいにゃ!」

「ダストシューター? そんなものここにはなさそうだけどな」

「……まさか、この壁の取っ手……あっ、開いた!」

 ミュウが壁についていたバーを引き上げると、四角い穴が空いた。ユタがその穴を覗き込む。

「……これ、下の階とつながっているようだねぇ」

「プラスチックゴミはここに落とすだけでいいのか?」

「一応はそうにゃ。あとはロボットが分別してくれるにゃが……君たちはそこも是非見学してもらいたいにゃ。ロボットが壊れたとき、故障を直さなくてはならないにゃからね」

「ガイはハッキングとか言っていたけど、ロボットは直せるの?」

「いやぁ……ロボットは全然わからないよ。だから、みんなと一緒に学ばなくちゃいけない」

「図書館にロボットに関する資料も置かれているのか?」

「もちろんにゃよ!」

「ふーん、やることは本当にたくさんあるんだねぇ。本当に趣味の本を読んでいる場合じゃなかったのかぁ」

「娯楽も大切よ?」

 ユタのつぶやきにミュウがフォローをする。しかし、本当に調べることは山程あるらしい。

「気が遠くなりそうだ……」

「わかる。でも少しずつやっていこうよ」

 少しずつ、地道に。一気にやってしまえることは幸いなのかもしれないが、継続して勉強に励み、少しずつ知恵をつけていくことも必要なのだ。

 マグカップを片付けようと食器洗浄機を見ると、先ほどの食器洗浄が終わっていた。4人は乾燥までされた皿や調理用具を取り出すと、元にあった場所へと戻す。そして今度はマグカップをそこに入れた。それが済むと、生ゴミをコンテナに入れる。糠の場所をレックスに聞いて、生ゴミの上からかけると一応は完了らしい。プラスチックゴミは、とりあえず今のところはロボットに任せるとして、ダストシューターに投げ込んだ。

「ふぅ……ようやくこれで一段落、かなぁ?」

「早くシャワーを浴びたいわ!」

「俺もだ。一度リフレッシュしたい。まだうたた寝したあとだからか、少しぼーっとしている気がする。疲れたってことなのかもしれないな」

「そもそも昼とか夜の概念がない空間だから、何時間動いたとか全然わからないからね」

「では、シャワー室に案内するにゃ!」

 後片付けを済ませると、キッチンを後にする。同じフロアの奥にトイレがあった。4人はひとまずそこで用を足してから、隣のシャワールームと表示されている箇所に向かう。その前で、レックスは止まった。

「シャワールームなんにゃけど、1人ずつしか入れないにゃよ。大変かもしれないけど、今回は順番を決めてほしいにゃ」

「順番ねぇ……」

 ユタがどうしたものかと考えていると、ミュウが手を上げた。

「ここはやっぱりレディーファーストじゃない?」

 その言葉に意見したのがガイだった。

「この空間では平等にみんな疲れているし、シャワーも浴びたいよ。それは男女関係ない」

 ガイの言葉に同調したのがジグだった。

「ミュウはレディーファーストの本当の意味を知らないのか? 女性を優先させることで盾にしていることもあるんだが……」

「ユタはどう思う?」

「え、ボク?」

 突然ミュウに話を振られたユタが、困ったような顔をする。それもそうだ。ユタの場合、特に自分の性を気にしていなかったのだから。中性的と言えばそうなのだろう。

「そうだね、ケンカになっても困るから、ここは男女関係なく公平にくじ引きがいいと思うよ!」

「決まりにゃー!」

 少しがっかりしたミュウだったが、くじがいいという意見には反対しなかった。確かに公平だからだ。「しかし、どういうくじがいいと思う?」

「あみだくじなんてどう? 僕、ちょっと図書室から紙とペンを持ってくるよ」

 ガイはそう言うと、図書室へ走っていってしまった。

「……あみだくじ? どういうのだろう?」

 ユタが不思議そうにしていると、ジグがレックスに聞いた。

「レックス、ガイの言うあみだくじってどんなものだ?」

「これにゃー!」

 体の側面モニターで、あみだくじについての動画が流れ始める。3人がそれを見ていると、ガイは戻ってきた。

「あれ? 何を見てるの?」

「あなたの言う『あみだくじ』についての説明動画よ」

「ふうん、線を縦と横に引いて、迷路みたいにするんだねぇ」

「たどり着いた番号がシャワーを浴びる順か。悪くないな」

「じゃ、決まり! ささっとくじを作るよ」

 ガイが紙に4本の線を引く。そしてその先にはシャワーを浴びる番号だ。横の線はみんなで数本ずつ足していった。

「どれを選ぶ?」

 ユタが聞くと、ミュウが答える。

「じゃあ、一斉にどれを引きたいか、指さしましょう」

 一斉にたどりたい線をさすと、見事にバラけた。そしてさらに横線を書き足すと、完成だ。一本ずつ線をたどると、シャワーの順番が決まった。ジグ、ユタ、ガイ、ミュウの順だ。

「俺からか。石鹸やシャンプーはあるのか?」

「あるにゃが、石鹸だけにゃね。石鹸もそのうち作れるようになってほしいにゃ!」

「えぇ!? 石鹸もぉ〜!?」

「本当に自給自足なんだね……」

「思った以上に大変だわ、これは」

 レックスの発言に一同驚きを隠せなかった。石鹸も自分たちで作れるようになってほしいという話は、自分たちが普段の生活でどれだけ人の作ってくれた物に囲まれていたかということを痛感させた。

「タオルも作れ、とかいう話になるのか?」

 ジグの問いかけに、レックスは画面表示を左右に振る。

「タオルは洗濯して使えばいいにゃ。だけど、そのうち糸を紡ぐことはしてほしいかもしれないにゃね」

「綿花もあるわけ? このコロニーは」

 ユタが聞く。綿花も自然フロアにあるとするならば、あそこの環境は独特なものということになる。畑では野菜が穫れ、温室もあり、聞く話だと果樹園や茶畑もある。それに加えて綿花も栽培されているとは。地球の気候でそれらが同じ場所に存在できるかという問題にもなるが、この宇宙空間では可能らしい。

「とんでもない場所なのね、ここは」

「……まぁ宇宙だからね」

 ミュウが驚きを隠せずにリアクションを取るが、「宇宙だから」ということでガイは納得しようとしていた。

「とりあえず、シャワーの使い方は全員で確認しておくか?」

「そうね。水しか出ないとかだったら嫌だけど……」

 ジグが言うと、ミュウが賛成した。ガイとユタもそれに同意する。4人でシャワー室の扉を開けると、広い場所にシャワーが備え付けられている、至って一般的なシャワールームだった。

「わぁ、広い!」

「贅沢を言うと、浴槽もあると良かったけどなぁ」

 広々としたシャワールームに驚くユタだったが、ガイは少しだけシャワーより風呂がいいなと地球を思い出していた。

「じゃあ、ジグからね」

「ああ。タオルは……これか。ドライヤーもシャワールームの外に置かれているな」

「ボクらは図書館で待ってようか?」

「そうだね。ジグ、終わったら図書館に来てくれる?」

「わかった」

「着替えはドライヤーの隣の棚に入っているにゃ! 名前ごとに分かれているから、自分の場所の服を着るにゃよ?」

「ああ」

 ジグをシャワー室に残すと、他の3人は図書室へ移動する。ここでまったりと調べごとをしていれば、そのうち順番が来るだろう。

「また寝入っちゃわないようにしないとね!」

「眠っても、ジグが起こしてくれるわよ」

「ははっ、まぁまぁ。調べごとはたくさんやらなきゃいけないんだし、娯楽の本を読みつつ、少しずつやっていこうよ」

 3人はまた本棚から本を探し、席に着く。今度は先ほどの娯楽の本とは違い、少しだけ専門のムックなどを手にしていた。これも少々の進化である。

 ジグは案外さっさと出てきた。着替えた服は、映画で見るジャージに近い感じだった。体にフィットしている素材だが、ゆとりがあってきつくない。まだタオルを首に巻いている状態で、レックスにたずねる。

「洗濯物はランドリースペースみたいなのがシャワールームの横にあったから、そこに入れてきたぞ」

「にゃ。ドラム式洗濯乾燥機だから、そのまま全自動にゃ!」

「そこは便利なんだね」

「じゃ、次はボクだね!」

 ユタもシャワー室へと向かう。その様子をジグは何気なく見ていた。

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