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Vol.7 Cooking

「……おかえりにゃー!」

 エレベーターの扉の前に到着すると、スリープモードで待っていたレックスが再起動して4人を迎えてくれた。

「レックス、なんでここは川があるんだ?」

「それにコロニーとは思えないほど広く感じたよ!」

「牛や鶏の世話はどうやってたの?」

「この空の太陽は人工よね? どういう仕組みなの?」

 4人はレックスを質問攻めにする。レックスは困り顔を表示した。

「みんなの聞きたいことはわかってるにゃよ。でもこれをイチから説明するのには時間がかかるにゃ。少しずつ教えていくにゃから、まずはその手に持っているもので食事を作るのが先決じゃないにゃか?」

 野菜を食べたことで多少腹はふくれたが、そもそもの目的は「食事の用意」だ。もちろんそれだけではなく、小屋にいた牛や鶏の世話の方法を知らないといけないことや、畑や温室で穫れる野菜は何かを調べることも後々必要となることではある。川や太陽など人工的に作られた自然のことも知らなくてはならないだろう。だけどもまずは、穫れたもので食事を作ること。「料理」だ。

「料理を作るところはあるの?」

「もちろんにゃ! この階の上のところに調理場があるにゃよ。案内するにゃ!」

 レックスはエレベーターを作動させると、また4人は箱の中に乗り込んだ。今度はこの自然フロアの上の階らしい。どんなところだろうか。この自然フロアは癒しだった。今度の場所もわくわくするようなところだといいな……と4人は密かに期待していた。

 ーーエレベーターがまた、チンと鳴る。今度のフロアは研究室のようだった。部屋がいくつか並んでいる。その中で『キッチン』と表示されている場所で、レックスは止まった。

「ここで料理をするといいにゃ。ワタクシはみんなのサポートをするにゃよ」

 ガラッ、と引き戸を開けると、中は広いクッキングスペースになっていた。シンクも広いし、皿が入っている棚もある。IHクッキングヒーターなども完備されているようだし、料理するにはうってつけの場所だ。

「……」

 4人はとりあえずカウンターの席に座る。自然フロアではしゃいだので、少しばかり疲れたのだ。自然フロアでは色々なことをした。牛の乳搾り、卵採取、川の水も飲んだし、畑や温室でとりたての野菜を食べたりした。楽しかったが、本番はそれらを使っての調理ーー。ただ生活するだけでも、こんなに大変なのかと思い知らされた。

「恵まれていたんだな」

 ジグがこぼすとガイとミュウはうなずいたが、ユタは笑っていた。

「もう! こんなくらいで疲れたなんて言わせないよ? まだまだ料理もしなきゃなんだから!」

「ユタは元気ね、私はへとへとよ」

「多分運動量が違ったんじゃないかな? だけど、料理ができるのは僕とミュウだし、ここは頑張らないといけないよ」

 オタク気質だと思っていたガイが意外な根性を見せると、ジグは腕をまくった。

「そうこなくちゃな! で、俺は何をすればいいんだ?」

「うーん、まずはメニューを決めようか?」

「……そうね、頑張らないと。穫ってきた食材を確認しましょう!」

 手にしていた食材をカウンターの上に早速並べる。まずはバケツにたっぷりの牛乳。そしてキャベツと大根、さつまいもとじゃがいも、レタス、トマト、きゅうり、ナス……。

「フルーツもあれば最高だったね」

 ガイが言うと、ジグがレックスにたずねた。

「レックス、あそこの自然フロアにフルーツは栽培されているのか?」

「むむむむむ……サーチ完了にゃ! フルーツは一応あるにゃね」

「温室では見かけなかったよ?」

 不思議そうにするユタに、ミュウが返事をした。

「もしかしたら果樹があるのかも。見つけなかっただけで」

「だったら次行くときに探してみよう」

 ジグがまとめると、ガイは手近にあったメモ帳に簡単にさらさらっとレシピを書いた。

「ミュウ、この材料でできるメニューを考えたんだけど、見てくれる?」

「ええ、もちろん。……へぇ、ミルクスープとサラダ、キャベツとナスの炒め物、卵焼き。主食は……さつまいも? お芋を主食にしている国も確かにあるものね」

「ご飯やパンが食べられないのはきついけどね」

 ガイが肩をすくめていると、ジグが難しそうな顔をして考え込んでいた。

「小麦自体はあったな。けど、挽かれていない。米も多分そうだろう。だとしたら、芋を主食にするのがベストなんだな」

「なになに、ミルクスープとサラダ作るの? おいしそうじゃん! 早速作ろうよ!」

 ユタが急かすと、ガイとミュウは立ち上がった。

「そうね、もたもたしていても仕方ないわ!」

「だね。メニューもOKってことだし、取り掛かろうか」

 こうして4人は共にキッチンへ立つことになった。

「まずは調理用具と皿と野菜の洗浄だ」

「調理用具は何を使うんだ?」

「ミルクスープなら鍋ね。あと、ボウルが必要」

「わかった! それと、取り分けるお皿と、トングなんかもあるといいよね!」

 ジグとユタは調理用具探しを始める。自然フロアで食べられるもの探しのあとは、「調理用具探し」だ。

「あと……調味料が必要だけど、ここにはあるのかな」

「塩がないと人間は生きていけないわよ。あるはずよ、きっと。私は野菜を洗うから、探してくれる?」

「わかった」

 ガイは調味料探し、ミュウは野菜洗浄だ。自然フロアに連れて行かれたときは、レックスをまず頼ろうとした4人だったが、今は少し違う。自分たちで率先して、やらなくてはならないことなどを探し、互いに指示をし、共同で動いている。レックスはその状況を見て、画面に涙を浮かべていた。

「調理用具は洗ったぞ!」

「お皿は拭いておいたから、すぐに使えるよ!」

「こっちも調味料を見つけたよ」

「野菜も洗ってあるから、あとは調理するだけよ」

 4人の準備は整った。あとはどうやって調理するかだ。メニューを考えたガイに注目が集まる。

「えーと……まずは下ごしらえからだね。じゃがいもは皮を剥こう。大根は輪切りにしてから皮を剥く。さつまいもは皮ごとでいいから茹でるけど……これも半分に切らないと鍋に入らないかもね。きゅうりもとナスも切って、トマトはくし切り。卵焼きはミュウに任せられる?」

「わかったわ。あなたのいう卵焼き……は難しそうだから、スクランブルエッグでもいいかしら?」

「うん」

 ガイとミュウが確認し合うが、ユタとジグは混乱していた。

「うわー、やること多すぎて覚えられないよ〜! くし切りって何?」

「ただのミルクスープとサラダと炒め物を作るのに、こんなに手間があるんだな……」

「……ガイ、もう少し簡単なところから始めたほうがいいかも」

「そうだね」

 ガイは自分の言ったことを紙に書き出すと、ユタとジグに再度指示を出し直した。

「料理は簡単なのからがいいかも。ユタはこのピーラーでじゃがいもの皮を剥いてくれる? ジグはきゅうりとナス、さつまいもを切ってほしい。トマトと大根は僕がやるよ」

「よし、野菜を切るんだな? それならできるはずだ」

「ピーラーって何?」

 ユタが不思議そうにしていると、ガイはしまったと思った。国によって、ピーラーの概念がないのだ。使い方の説明についてどうしようかと思ったとき、目に入ったのはレックスだった。

「レックス、『ピーラーの使い方』っていう動画は再生できる?」

「できるにゃよ」

「なるほどね! それならボクもできそう!」

 ユタはレックスの側面にある画面に集中しながら見様見真似でじゃがいもの皮むきを始める。ガイが2人に説明している間に、ミュウはスクランブルエッグ作りを始める。まずはIHクッキングヒーターの使い方だ。家にあったのはガスなので初めて使うが、火の付け方はヒーターの側面の注意書きを見ればなんとなくわかる。ただ、フライパンを取り出して困ったのは、油がないことだ。

「ねぇ誰か、油を見なかった?」

「油か? 俺は見なかった」

 ユタは動画に夢中だが、ガイがすっと取り出した。

「調味料のあった場所においてあったから持ってきた」

「ありがとう」

 礼を言うと、少し油を垂らしてフライパンに敷く。そして卵を割り入れ、フライ返しでかき混ぜる。本当はミルクも入れるとおいしいのだが……と思い、スプーンで一匙すくうと、それを卵に混ぜた。

「切るって簡単に言われても、切り方ひとつ取っても難しいな……。包丁はどこだ?」

「そう言えばないね」

 ジグとガイが困っていると、動画再生中のレックスが声を上げた。

「刃物は危ないから、まな板と一緒にワタクシが持っているにゃー! 右側面に入っているにゃ。開けるにゃー!」

 そう言うと、ウィーンと音を立てながらレックスの側面が開く。そこには何本かの包丁があった。

「……どれがいいんだ?」

「こっちは肉切り包丁だし、それは魚用だね。野菜を切るのはこの万能包丁がいいかも」

「これか? わかった」

 ふたりは包丁とまな板を取り出すと、野菜を切り始める。ジグは大胆にガタン! ガタン!と音を立てて野菜を刻むが、大根の皮を剥きながらその音を聞いていたガイが「力を入れすぎ」と軽くたしなめると、ジグは笑った。

「スクランブルエッグ、できたわ!」

 ミュウが皿に盛り付ける。とりあえず一品は完成した。3人は美味しそうなスクランブルエッグを見つめる。本当は熱いうちに食べたいところだが、料理はまだすべて完成していない。

「こっちもじゃがいも皮むけたよ!」

「野菜も切ったぞ!」

「大根とトマトも下ごしらえできた。あとは……炒めて、和えて、茹でて、配膳かな」

「味付けは塩でいいかしら?」

 ミュウが聞くと、全員がうなずいた。国や文化が違えど、塩味は変わらない。

「今フライパンを使ったから、多分みんなにIHヒーターの使い方を教えられると思うし、ナスとキャベツの炒め物は私が作るわ」

「あと……スープを作って芋を茹でるんだったな?」

 ジグが確認しているうちに、ガイはひとつの鍋にミルクとじゃがいも、もうひとつの鍋にさつまいもと水を入れていた。

「これをヒーターにかけてくれる?」

「わかった」

「ボクのできること……この野菜を混ぜるんだっけ?」

「うん、そして味付け……ミュウ、ドレッシングってどうやって作るの?」

 ヒーターの前にいたミュウに、ガイがきく。

「油と塩でドレッシングの代わりになるわ!」

「わかった。じゃあ僕はそれを作るから、ユタは生野菜を和えてくれる?」

「了解!」

 4人で手際よく料理をしているところを見ると、チームワークは悪くないと思える。サラダが完成するのには時間がかからなかった。

「ナスはこのくらい炒めればいいかしら?」

「そうだね」

 ナスとキャベツの炒め物も完成だ。あとはスープとさつまいもが茹で上がるのを待つだけだ。

 その間に、出来上がっているサラダと炒め物を皿に盛り付け、取り皿やカラトリーを準備した。

「ガイ、さつまいもはどのくらいで茹で上がると言えるんだ?」

「うーん、フォークがすっと刺さるくらい……うん、このくらいで大丈夫そうだね」

 さつまいもも茹で上がると、4人は食卓にようやくつくことができた。

「これでやっと食事にありつけるんだな。こんな苦労をしないと、料理って食べられないのか」

 ジグがぼやくと、ユタは言った。

「すっごく豪勢だよ! 今日の食事」

「それに、みんなで作ったからね」

「協力して作り上げたんだから、おいしくいただきましょう」

 4人は一息入れると、自分の小皿に料理を盛る。先ほど生野菜を食べて、多少腹は膨れていると思っていたのだが、手間をかけた料理を見ると再度食欲がわいてくる。

「どんなのを作ったにゃか?」

 その場を見守っていたレックスは、カウンターの上の料理にカメラをズームすると、栄養素を測定する。

「なかなかバランスいいにゃね」

「ありがとう、レックスも手伝ってくれたよね」

 ガイが礼を言うと、レックスは照れたような画面表示をした。

「スクランブルエッグおいしー!」

「ミルクをちょっと混ぜたの」

「へぇ……それでこんなにまろやかになるんだ。サラダもやっぱり新鮮だよね」

「スープもなかなかだぞ? 芋は茹でただけなのに、こんなに甘いんだな」

 全員で協力して作った食事を互いに分かち合いながら賑やかな食卓を囲む4人。しかし、ジグの言う通り、食事にありつくのにも一苦労であることには変わらない。だが、4人にはまだこの状況を楽しむことのできる力が備わっていた。

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