Vol.14 侵入者
侵入者が入ってきたことで、4人と1AIに緊張が走る。
「レックス、敵は何者なんだ?」
「ま、待ってよ! まだ敵とは限らない。もしかしたら僕たちと同じ地球人かもしれないよ」
「確かに敵と判断するのは時期尚早ね。同じ地球人という可能性はあるわ。コロニーに避難してきたのかも」
「でも、敵……宇宙人かもしれないよ? どちらにせよ、対策を練らないと!」
「どんなやつがコロニーに入ってきたか、どこから入ってきたのか解析はできないのか?」
レックスはむむむ……と考え込むと、また耳をピコン! とした。
「侵入者の解析はできないにゃが、侵入経路とどこにいるかはわかったにゃ! 侵入者は一番地下の通路から入ってきて、今は自然フロアにいるみたいにゃ!」
「地下に通路なんてあるのか、このコロニーは」
ジグがつぶやくが、まだ4人はコロニーのすべてを把握していない。当然、地下の通路のことも初めて知った。
「自然フロアにはカメラとかないの?」
「牛さんたちを管理しているのはレックスやAIなんだよねぇ? カメラはあるんじゃないの?」
「一応『お天気カメラ』なるものがあるにゃ。それを映してみるにゃね。ワタクシの横の画面を見るにゃー!」
レックスの言う通りに4人はモニターを見つめる。そこには相変わらずのどかな自然の風景が映っていた。
「……別に変わった様子はなさそうだな」
「そうは言っても自然フロアは広いからね」
ジグとガイは広い自然を見渡すが、畑やあっても数本の木、原っぱと川くらいなので、この辺で隠れられそうなのは正直なさそうだ。隠れようがないと判断する。
「侵入者がどこか屋内に隠れているのかも知れないわ」
「屋内なら、温室や牛さんたちがいるところじゃない? カメラは向けられる?」
ミュウとユタの発案で、建物内部の様子にカメラが切り替わる。だが、そこにも人影のようなものはなかった。
「誰もいなさそうだけど……本当に侵入者はいるの? レックスや管理をしているAIの不具合とかじゃなくて?」
ガイが聞くと、レックスは否定した。
「きちんとレーダーが反応したにゃよ。ここに必ず侵入者はいるにゃ!」
「うーん……困ったわね。相手を把握できない」
「しかし、敵だろうが味方だろうが、相手のことがわからなかったら何もできないな」
ミュウがあごに手を当てて考え、ジグも腕を組む。何か妙案はないだろうか? と考えていると、ユタがおもむろに言った。
「だったら、ボクたちがここを出て、侵入者を確認すればいいんだよ!」
「だが、敵だったらどうする? 戦うのか?」
「武器なんてないわよ。包丁とフライパンくらいしか……」
「戦うより、まずは話し合いが重要じゃないかな。相手がどうしてここに来たのかとかも知らないと。……まぁ相手が宇宙人だったら話し合いもできるかはわからないけどね」
ガイはそう言って肩をすくめた。しかし、今の状況だと侵入者が敵か味方かも判断できない。できるだけ穏便に、ことを進めなくてはならないのだ。
「相手がもし宇宙人だったら……どうやって交流すればいいのかしら? 話が通じなくても、一説では宇宙人は私たち地球人よりも遥かに文明が進んでいるって聞いたことがあるわ」
「それは俺も映画で見たことがあるな。宇宙人はAIよりも高度な文明を持っている……」
「ボクは勉強とか苦手だからよくわからないけど、つまり人間より頭がよかったら、人間の言語なんてヨユーで理解できるってこと?」
「そういう考えもできるね。ってことは……宇宙人だった場合、コミュニケーションはそんなに問題ないんじゃない?」
一瞬焦りそうになった4人だが、自分たちより高度な知能を持っているならば、自分たちの言語も理解できるだろうことに期待を始める。自分たちが相手の言葉を理解できなくても、相手は自分たちの言葉を理解している。要するに、コミュニケーションは取れなくはない、ということだ。
「ははっ、宇宙人に対して太鼓や音波でコミュニケーションを取っていたというドキュメンタリーを見たことがあったが……」
「もしかしたら意外と意気投合して、一緒にバンドでもやってたのかもね?」
ピリッとしていた場の雰囲気が和んだ。侵入者が来ても、できるだけ話し合いで解決すべきだし、宇宙人が自分たちより高度な文明を持っているのだとしたら、きっと自分たちの意見も聞いてくれるだろう。地球という小さな星にいた地球人。だが、地球という星に住んでいたからこそ育まれた知性や感情というものはある。確かにこれは理想論だし、期待を込めてはいる。だが、少しくらい楽天的なほうが、物事はすんなりとうまく進むことがあるというのも事実なのだ。
「とりあえず、侵入者を確認しないことには話が始まらないね」
「そうだ! 会いに行ってみようよ! ちょっと緊張するけどね」
ユタの大胆な提案を受け、ミュウが少しだけ尻込みするが、キリッとした顔つきに変わった。
「……ユタの意見に賛成するわ。敵だとしても、敵を知らないとって話だし」
「カメラでも把握できない侵入者だ。油断は禁物だがな」
ジグも覚悟を決める。ガイもはっきり意思表示をした。
「僕らの意見は決まったよ。レックス、シェルターモードを解除してくれるかな?」
「俺たちは今から、自然フロアへ向かう。……まさに『未知との遭遇』だな」
「わかったにゃ。ワタクシは自然フロアでは身動き取れないにゃから、あまり助け舟は出せないにゃ……だけど、もし何かあったらワタクシのところまで戻ってくるにゃよ? エレベーターをシェルターにはできるにゃから」
「何かあったらエレベーターまで逃げてくればいいってことね?」
「じゃあ、そうとなったらさっそく行ってみよ! ここで閉じこもっていても何もならないからね!」
「シェルターモード、解除にゃー!」
レックスが大声を上げると、シャッターがガラガラと開き出す。これでキッチンの外に出ることも可能だ。
「丸腰で大丈夫か?」
念の為、という具合にジグがたずねると、ガイが返答した。
「宇宙人相手に逆に武器を持っていたら、警戒されるかも」
「それこそ自然フロアが戦いの場所になってしまうかもしれないわ」
「何かあったらエレベーターに逃げる! そしてまたシェルターモードにするっていう手、ボクはありだと思うよ」
「……よし、その作戦で行こう」
方向性を決めると、4人と1AIはキッチンを出て、エレベーターへ向かう。目的地は、自然フロアだ。
チン、と階に到着する音がすると、扉が開く。
「レックス、侵入者がどの辺にいるかという予測は立てられないの? カメラでは目視できなかったけど、生体反応を探すことはできるはずよね? だから侵入者に気付いたわけだし」
ミュウがたずねると、またレックスは糸目になった。
「むむむ……サーチ中、サーチ中……」
しばらく糸目だったが、ピンと耳が立った。
「サーチ完了にゃ! 今現在、生体反応は、牛たちがいる納屋にあるにゃ!」
「牛さんと鶏さんがいるからだよねぇ?」
ユタがツッコむと、ガイがフォローする。
「まぁそうだろうけど、一応牛たちの様子は見といたほうがいいんじゃない?」
「宇宙人が家畜を襲うという事件もあったぞ」
その言葉に一同ドキリとするが、ミュウが諌めた。
「ジグ、脅かさないで。今はできるだけ穏便に話を進めることが重要よ」
「そうだったな。みんな、すまなかった。ここは恐怖心を捨てよう。前進あるのみだ」
「よしっ、行くぞ!」
ガイも気合をいれると、エレベーター前待機のレックスは念を押した。
「何かあったらここまで逃げてくるにゃよ」
「は〜い!」
ユタが元気よく手を挙げると、緊張が幾分ほどけるような気がする。4人はジグの言う通り恐怖心という心を捨て、何がいるのかを確認しようという強い心を持ち、小屋へと進んだ。
「……どう? ミュウ。こっちは何もなさそうだけど」
「こちらも異常はなさそうだけど」
「モォー!」
ガイが小さな声できくと、牛が鳴いた。何かいるのかーー? 4人に緊張が走る。ジグとユタが前に飛び出るが、特段先ほどと変わりなく、牛は尻尾を振っているし、鶏もうろうろ歩いているだけだ。
「侵入者と思われるものはいないな」
「あっ!」
「どうした、ユタ!」
声を上げるユタに反応するジグ。ユタは牛の後ろを指さした。
「牛さんが糞してるね。あとで処分しないと」
「……なんだ、脅かさないでよ、ユタ」
ガイがほっとしている中、ミュウが目を凝らす。
「ちょっと待って。何かいるわ。細かいの」
「なんだ? 細かいのって」
ジグはミュウの視線をたどる。ガイとユタもそれに習った。確かに牛の後ろには糞がある。そこに、細かい何かがいるのだ。ユタが近づいてみる。
「これ、蝿だ!」
「……もしかして、生体反応とか侵入者って……」
「もしかしても何も、蝿なのでは?」
ガイが間の抜けた声を出すと、ジグも呆気に取られたような表情をする。
「えぇっ! 私たちが大騒ぎしていた原因が……蝿?」
ミュウもほっとしたのか、大げさに驚いたリアクションを取る。
「虫、どうする? 蝿は感染症も引き起こしちゃうよ?」
ユタが言う前に、ジグがペしっと蝿を叩いた。
「これで大人しくなっただろう」
「なんだぁ……蝿だったか」
「でも、虫についても知らないといけないわね。蝿とは違ってこれが蜜蜂とかだったら、簡単に駆除できないわ。それに蝿ももしかしたら、何か必要性があって生まれたのかもしれないし」
「だが、ここの環境で蝿は自然にわくものなのか? レックス……このコロニーは蝿も連れてきているのか?」
「それはわからないよ。とりあえず、レックスに聞いてみないと」
一同侵入者の原因がわかったことで安堵するが、また新たな問題が増えてしまった。ずばり、自然フロアなどでわく虫をどうするかだ。ミュウの言う通り、蜜蜂などは花粉を受粉したりする力を持っているし、もしかしたら蝿も何らかの意味を持っているのかもしれない。そこはレックスに聞かないといけないことだ。
だけど、侵入者がいるということでピリッとしていた空気が一気にほぐれる。そこまで大変なことではなかったようだ。
「牛の糞の始末はどうしよっか?」
「今までどうしてたんだろうね? AIの全自動掃除機とかがあったのかも?」
「昨日、私たちが来た時はきれいだったから、そうかもしれないわね」
「糞は農作業で肥料になるだろう。掃除機があるとして、どうやって始末していたのかは知らないといけないな。一度戻ってレックスに聞いてみよう」
ジグの言葉で、一度エレベーター前に戻ることにする一同。本当に大事ではなくてよかった……と思う反面、牛の糞の処理という新たな課題もレックスへのお土産になった。レックスはヒントを教えてくれるし、自分たちの健康管理やコロニーの管理もしてくれる存在だ。だけど4人はまだレックスのこともよくわかっていないということに気づいている。睡眠管理をしてくれるのはわかる。何故なら、そういう機械がすでに現実にあるからだ。人間のフォローをしてくれるAI。それは現実にも実際ある。だけどコロニーはどうやって、こんな自然を維持しているのだろうか? 一度謎だと思ったら、その謎は尽きない。人間は常に悩み、考え続ける存在なのだ。
「みんなー! 大丈夫にゃったか?」
「ええ。いたのは蝿だったわ」
「そんなに心配することじゃなかった。ちょっとした問題だったよ」
「ねぇレックス。牛の糞はどうやって処理すればいいかなぁ? 虫がわいてたんだ」
「今までは全自動で清掃もやっていたんだろう? 糞は畑や温室の肥料のために再利用していたのか?」
レックスは4人の話を聞くと、何故かガタガタ震え始める。そして表情が表示される画面が真っ青になった。
『試験終了、試験終了。コノ空間ハ消滅シマスーー繰リ返シマス、試験終了、試験終了、コノ空間ハ消滅シマス』
「え、え? レックス、どうしちゃったの!?」
「な、なんだ!? 空間がーー消滅するだと?」
「試験って何! 僕は夢の中でまで試験を受けていたっていうの!?」
「えーーガイ、今なんて言ったの!?」
『コノ空間ハ消滅シマス』
ーーピー。FAXを送る時のような音がコロニー内に響く音がする。それと同時に、心臓の鼓動のような、太鼓の音が聞こえる。なんだ、何が起きているんだーー!? ドキン、ドキンと胸が疼き始める。再び生き返るかのように。元の世界へ意識が戻っていくように。
ーー4人はその場所で気絶した。




