表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コネクト  作者: 浅野エミイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

Vol.12 エゴ

「わぁ、すっごい! 広くて外の風景独り占めだぁ〜!」

 ユタはガイやミュウと違って楽天的であった。最初宇宙に連れてこられたときは確かにパニックだったが、今は少し違う。コロニーには素晴らしい自然があって、今のところは食事にも困らない。地球にいたときのことを考えると、過酷なことは変わりはしないが、むしろ地球にいたときよりも食うに困らないかもしれないとすら思えるのだ。

 確かに、地球では人がたくさん死んでいる。レックスは宇宙戦争だと言った。だけど、ユタの住んでいた場所はどうだ? 頻繁に内戦があって、飲むことや食べることに困るなんて日常茶飯事。内戦がないときだって、飲水に苦労している人たちがいたことも知っている。今はインフラが多少整備されてきていていたとしても、過酷であるのは地球も、このコロニーも一緒だ。だけど、コロニーのいいところは、衣食住が保証されているということだ。もちろん、この場所は宇宙空間。酸素がなくなったら、とか諸処の問題はあるかもしれない。しかし、このコロニーでは勉学も自由にできる。図書室があるから。宇宙は暗くて吸い込まれそうで、怖いことも否めないが、こんな広い窓の風景を堪能できるなんて、地球で生きていたら自分の一生であり得ないことだったろうと思う。

 ぽすん、とコクーンという名のベッドに横になってみる。最初は寝心地も気にしていなかったが、よく見るとこのマットレスは上質そうだし、布団も最新のテクノロジーを使った布地を使っているようなことがわかる。ともかくここの居心地は悪くないのだ。

 地球にいる親たちのことをふと思い出す。

「やっぱりあの人たちは勇散だったんだ。最後まで自分たちを守ろうとした……」

 だけど、自分も悲しんでいるだけじゃいられない。だからと言って、ユタ自身がポジティブシンキングだったというわけではなかった。ーーユタの周りは、人が死にすぎていたのだ。それこそ想像がつかないくらいに。

 生命の儚さは知っている。しかもそれをある日突然理不尽に奪われることも、知っている。誰かを恨み、憎しむことも知っている。理性を失うことも知っている。だけどーー今回は地球に何が起こったのかも「知っている」。そして、知っていたところで何もできないほど、人間がちっぽけな存在だということもわかっているのだ。

 だとしたら、自分にできることはなんだ? 今の状況を楽しく生きることなのではないのだろうか? 少なくとも、このコロニーは今のところ平和だ。1日くらいしか一緒にいないからまだよくわからないが、4人はお互いを尊重し合っている。この空間は人間の尊厳が守られている。その事実は、ユタにとって大きな幸せなのだ。自分のいた場所になかった争いがない世界。自分は今、そんな場所に存在している。ユタにとってそれこそが信じられない奇跡なのだ。

 ユタはベッドで寝返りを打つと、何気なく明日のことを考える。とりあえず、起きたらまず何をしよう? 多分食事はしないといけないから、材料をとりにみんなで自然フロアに行くことになるだろう。レックスの話だと、果樹園や茶畑もあるみたいだから、余裕があったらそれらも見つけてみたい。そして、材料を手に入れたら料理だ。自分は料理のことが全然わからなかったから、今日は新しいことを勉強できて嬉しかった。今日できたことは、じゃがいもの皮むきだ。地球にいたときだったら、じゃがいもの皮むきなんて体験しなかっただろう。そしてできたてのスープもおいしかった。スクランブルエッグや炒め野菜も、茹でたさつまいもも。こんな豪華な食事は久しぶりだった。地球のときよりも贅沢で、満たされているとも思ってしまう。

 図書館から持ってきた絵本が、電気スタンドの元に置かれている。ジグが本を持っていきたいと言ったとき、便乗して自分も持ってきたのだ。どことなく温かみのあるイラストだ。こんな絵が描ける人は、きっと心が豊かなのだろう。自分もそうなれるだろうか? 絵を描いたことはあまりなく、描いたとしても地面に描く程度だったけれど、もしここに画材があるならば、自分も描いてみたい。この絵本に描かれている絵みたいに、自分も表現してみたい。もし、自分が何かを表現できたら、少しだけ周囲を幸せにできるのではないだろうか? 自分が今、この絵本のイラストで心を温めているように。

 ベッドから起き上がり、ガラスの外を見てみる。相変わらず真っ暗な中、地球が青く光っている。この地球の青さも絵にできないだろうか? 本当に隕石が降ってきていて地球が危ないのなら、ここからだと今は美しく見える地球を描き残しておくことも重要だ。それに、地球の絵があったら、ここにいる3人の心も慰められることができるだろう。きっと3人も地球に対して想いがあることだろうし。

 それができたあとは、自然フロアを描きたいと密かに思う。レックスに見せれば何の植物かとか、食べられるかとかがわかるだろうが、レックスは自然フロアをうろうろできない。だから絵にすれば、どんなものか検索できるようになるのではないだろうかというのがユタの考えだ。

 あと、余裕ができたら音楽もやってみたい。レックスは楽器があると言っていたし、ミュウは音楽がなくてさみしいと言っていた。自分は机を叩いて歌うくらいしかできなかったけど、楽器があるなら練習できるかもしれないし、それも心の栄養になるかもしれない。

 地球より狭い空間にいるはずなのに、なんて自由に好きなことができるのだろう? ここは食べ物もあるし、風呂には入れるし、温かい毛布に包まって眠ることができる。その上、勉強や音楽という趣味まで堪能できる。争いばかりだった地上。大切な人がいた地上。でも、隔離されてしまった今は、感傷に浸っている場合ではない。何事も前向きでありたい。そんな強い思いの中、明日のことを考えるだけでワクワクする心の疼きが止まらない。

「よぉし! そうと決まればよく寝て疲れを取って、英気を養わなきゃね! 明日も頑張るぞ〜!」

 ユタはそう声に出すと、空に拳を突き出す。気合が入ると、布団に潜った。全力で動いていたユタが寝付くのに、時間はかからなかった。


ウィーン……。ドアが開く。

「…………」

 ジグは扉が閉まると、おでこに手をやった。まずは冷静に今の状況を把握し、明日に備えるべきだ。今の状況。地球に衛星が落ちている。そのことで家族や友人が……。それはもちろん大きな悲劇だ。それなのに、今のジグは様子がおかしかった。悲劇を目の当たりにしているのにも関わらず、先ほどから頭の中に浮かんでいるのはユタのことだったのだ。

「俺はこんな状況でどうかしている」

 重苦しいため息をつく。今日一日の感想。目覚ましを止めたのはガイだ。重力の中でうまく行動できたのはユタ。そして、牛の乳搾りをしたのもユタ。畑や温室の野菜はみんなで収穫したが、料理を指示したのはガイとミュウ。その場の雰囲気をよくしていたのも……ユタだろう。自分の不甲斐なさを情けなく思う反面、ジグはユタに対して複雑な感情を抱いていた。

 今日一日、4人は誰一人欠けてはならないように協力し合っていた。ガイに言わせると、自分がみんなの士気を上げていたというが、場を和ませていたのはユタだった。今日のMVPをひとり決めることはできない。4人は協力してことを成し遂げていたとはっきり言える。それなのに、自分はどことなくユタを特別視しているような気がするのだ。

 ユタ以外の他の2人にもいいところはもちろんある。1日じゃ知り得ないような良さももちろん今後見つけられるだろう。そんなことは自分でもわかっているのに、ユタを特別扱いしそうになりそうで怖いのだ。

 なぜそんな思いになるのだろう? ユタは何かを持っているとでもいうのか? 世にいうカリスマ性というやつだ。確かに彼女はポジティブで、前向きだ。運動神経もよく歌もうまい。だけども、ミュウだって料理ができて聡明だ。ガイだって気のおけない人物である。3人それぞれの良さがあることは重々承知している。

 ……彼女。そもそもユタは自分の性をどう思っているのだろうか。ユタは「自分の国では男女関係なく戦っていた」と言う。そういう国があることも知識としては知っているし、自分たちにはうかがい知ることのできない過去を持っているのだろう。だからユタは中性的であろうとしているのだ。それも理解はできるが……どうにもユタのことが気になって仕方ない。この気持ちは一体何なのだろうか? 異性への興味という言葉が一番しっくり来るのだが、ここはなにせ宇宙空間。なによりも協調性が大切だと言える。4人はお互い高め合い、励まし合っていく必要がある。そんな状況ーーしかも地球で家族の最後を見た後にこんな感情を抱くなんて、道義的ではない。

 この感情に名前がついているとしたらーー。顔を手で覆い、考えついた結果。これは「恋」に近い感情だと気がつく。

「なんで今なんだ……しかもユタなんだ……」

 しかし、この極限状態だから異性へ対して恋慕の情がわくというのもどことなくわかってしまうのだ。ただ、その相手は恋慕の情どころか自分の性についてもどう思っているかがわからない。

 相手が悪すぎる、と一瞬思うが、悪いのは自分だ。この地球が攻撃されているときに、自分自身が生きていくのに大変なときに、理性的だと思っていた自分が持つ感情が「恋」だなんて。認めたくなかった。

「父さん……」

 ガラスから見える地球に目をやると、父を思い浮かべる。父ならなんと言うだろうか。今の自分を見て。

『がっはっは、ジグも一丁前に恋愛する年頃になったんだなぁ!』

 感傷に浸りそうになったが、ふと思い浮かんだ自分の父親の想像があまりにも大雑把で、思わず噴き出してしまった。……そうなのだ、ジグの父ならそういう言葉で笑って答えるのだ。堅物と言われるくらい真面目に見えて、ときに豪快。そして家族を何よりも大切にする父。レックスの見せた動画だと、父たちや家族は今はもう……。だけど、自分の持っている父の印象、思い出から「父さんだったらこう言うだろう」という感情は想像がつく。

「いや、恋愛してる場合じゃないんだが……困ったな」

 ジグはそうこぼすとその場にしゃがみこんだ。しかし、父の言いそうな言葉の想像は、自分にとって有効だった。そうだ、今は恋愛している場合ではない。まずは自分たちが生きていくための活動。そして、それができるようになったら、地球を救うことや帰ることも考えなくてはならない。

 持っている本に目を落とす。今日は結局ずっと趣味の本を見てしまったが、少しでも先に進まなくては。そう思って持ってきたのは、『水車の作り』というものだった。

 自然フロアには水車があった。もしかしたらこれを利用すれば、小麦が挽けるかもしれない。それに水車を取っ掛かりにして、自然を使った動力について学べるかもしれないと思ったのだ。動力の原理を知ることは、コロニーという場所を知ることの第一歩になるだろうとジグは確信している。この高度な科学技術の原理を紐解くことで、もしかしたら降り注ぐ隕石をどうにかし、地球に帰還できるのではないかというかすかな期待も込める。明日からもまだまだやることは山積みだ。多分明日も食料をとりに自然フロアへ行く。そのとき、少しだけ水車も見学したい。みんなに言って4人で見たら、もしかしたらもっといいアイデアもわくかもしれない。まだまだ自分は地球を諦めていない。いや、諦めてたまるか。

 そう勢いづいたところで、枕元のスピーカーから声がした。

「ジグ、寝てないにゃか? そろそろ寝ないとダメにゃ!」

 レックスだった。いけないな、根を詰めるなと言われたばかりだったのに。まるで母親に叱られたときと同じだ。「勉強するのはいいけれど、夜遅く寝すぎよ」。宇宙空間でAIに同じことを言われるとは、やっぱり自分はダメだな。まずは自分の制御ができるようにならなくては。急いで本を閉じてベッドの布団に潜り込むと、レックスに返事をした。

「すまない! もう寝るよ」

「よく休むにゃ。おやすみにゃー!」

 布団に入ると目を閉じる。不安なこと、不思議に思うこと、悩むことは山程あるが、そんな感情すら制御できるようにならなくてはな、と思うジグであった。

 こうして、ガイ、ミュウ、ユタ、ジグの初めての夜ーー宇宙空間だから、常に暗闇ではあるのだがーーは更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ