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「あーきらちゃん」
五限目とホームルームが終わった瞬間、呑気な声とともに章が教室に現れた。
「まだ連絡してないよ」
「待ちぼうけ喰らいたくないし」
雅巳を優先して生きてきた晶に後回しにされた経験が少なくない章は、いじけたような顔で晶の席の横に立った。突然教室にやってきた上級生の姿に、周囲がざわめきだすのを感じる。
章は目立つのだ。母親似の綺麗な顔立ちは、昔から人の目を惹いた。
学校内において晶との接点は今までなかったから、二人が親しげに並ぶ姿は周囲を困惑させたようだった。また、幼馴染みへの異常な好意と執着ばかり目立っていた晶が、自然な様子で他者と関わる様子にも幾人かは驚いているようだ。
それらに一切構わず、章の優しい目が線になって笑みを作る。
「帰ろ」
「うん」
素直に頷くと線が真ん丸になった。丸い目がそのまま雅巳のいる方をそっと窺う様子に笑ってしまう。
「え。どしたの?」
「もう終わった」
「わあ。そかそかあ」
筆箱をリュックサックに仕舞いながら間延びした返事をすると、章の顔がだらしなく緩んだ。しゅっとした顔をしているのに、急に可愛らしい雰囲気になるところも章は母親に似ている。
宿題が出ている授業の教科書とノートをリュックサックに詰め終えると、まだにこにこしていた章と連れ立って教室を出た。
やたらと視線が刺さるけれど、誰も声をかけてはこなかった。雅巳への執着に拘りすぎてまともな人間関係を築けていないのが理由かもしれない。授業のペアは組めても、放課後や休日に誘われることはないような薄い関係ばかりだ。入学後少しの間は声をかけられたが、晶は全て雅巳を理由に断っていたから仕方ないだろう。
「長かったよねえ。そんなに楽しかったの?」
「段々周囲の『うわまじかこいつ』みたいな反応を求めてオーバーになっていた部分はある」
「立派な芸人魂だよそれ」