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初対面は幼稚園の正門前。らしい。覚えていない。
我が子の名前をきっかけに知り合った母同士が意気投合。さらに結婚を機に地方の実家から出てきて知り合いが少ない、という抱える事情と不安も似通っており、知り合ってから現在まで一番の友達を双方自称している。
互いの家に遊びに行くとき、まだ幼い晶たちも当然のように同行させられ、大抵は二人で遊んでて、と体よく放牧されていた。
晶より一つ上の章はたかが一つ上とはいえお兄ちゃんとして面倒を課され、同じ響きの名前を持つ一人っ子の二人は兄妹のように育ってきたのだ。
「晶ちゃんのお遊びは随分長く続くよね」
「お遊び? ……ねえ、雅巳くん行っちゃったからもう私行くよ」
「凝り性なのは昔からだけど、ここまでとは思わなかったなあ。すぐに飽きると思ったから放っておいたのに」
「……さっきから何? そもそも学校で話しかけてくるなんて今までなかったのに」
酷く醒めた目で見下ろされ、晶もつられて睨み返す。
二人の住む家は近かったが学区が異なっており、幼稚園を卒園してからは違う小中学校に通った。母同士の付き合いは続いているが、晶が小学三年に上がる頃には二人を伴うことはなくなっていった。
年に何度か、母たちが企画する二家族合同でのバーベキューやら旅行やらのイベントで半強制的に顔を合わせる機会はあったが、晶は雅巳に付きっきりなため幼い頃ほど二人きりでいることもない。
それは、二人が同じ高校に進学しても同様のはずだったのに。
「話しかけてほしくなさそうだったからねえ、どこかの誰かさんが」
「だって章くん、目立つから」
「薄情じゃんねえ」
晶が志望校を決めた理由は章の存在とは一切関係ない。雅巳がこの高校を第一志望としていると聞いたからだ。通学の距離や学力レベルなどが晶にとって無茶なものでなかったのも後押しした。章の後輩になることについては、志望理由にならずとも、雅巳と別々の高校に通ってまで避ける事象でなかっただけである。
「……晶、顔色悪いね」
不意に章が手首を掴むのと逆の手で、晶の頬に触れた。ひんやりとした指先が頬をなぞり、首の後ろあたりが粟立つ。
「別にそんなことない」
「また貧血かな。ちゃんと薬飲んでるの?」
薄情と口にしたときよりよっぽど不機嫌な様子が見えて、つい逃げるように顔を逸らしたが、手首を掴まれたままなので逃げ場がない。晶の母がよくやるのを真似て目の下をぐいと引っ張り覗かれ、「ほら白い」などと言い出すので手を振るって彼の拘束から抜け出した。
「……ちゃんと飲んでるもん」
「今日一緒に帰るよ。終わったら連絡して」
「雅巳くんと帰るから無理」
「どうせ雅巳クンは嫌がるでしょ?」
そんなことない、と言い切れるほど、雅巳の感情に疎いつもりがなかったから、晶は袖についたピンクの汚れを無気力に眺める。
こんな強引なこと、するつもりなかったのに。自分は少し焦りすぎなのかもしれない。