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 昼休み、事情を聞こうとして職員室に三人を呼び出した教師に、雅巳は何も言わなかったし、夏見は何も言えなかった。


「テストが近いのにこんな下らないことで時間とらせないでください」


 シャツの一部をラメ入りのピンクに染めた元凶が悪びれなく宣えば、もうこんな騒ぎは起こさないように、と具体性のないふわふわした注意で終わった。呼び出された職員室の片隅で、聖職者も生徒に対して一人の人間として苛立ちを覚えるものなのだと、担任が晶を見る目だけが露骨に変わるのを見て学んだ。まだ一学期も終わっていないのに、余計なことをしたかもしれない。



「教師に嫌われると面倒だよ」



 晶が職員室を出た瞬間、彼は蛇のように纏わりついてきた。


「ああいう小生意気なこと言ってる生徒くらい、いくらでもいますよ」


「虚勢張ってぶってる奴はいるけどね。さっきの晶ちゃんほど教師を見下して嘗めきった態度とるようなくそ生意気な生徒、ここみたいな中途半端な進学校にはいないよ」


「内申に響いたらどうしよう」


「思ってもいないこと真顔で言うよねー」


 雅巳と夏見は教師の話が終わった途端、示し合わせたように足早に職員室から出ていったため、廊下の陰に潜んで晶を長い腕で捕えた男の存在には気がつかなかったようだ。


 後ろから抱き締められるみたいに腕を両肩に乗せられ、そこから伸びる手はだらりと晶の胸の前で揺れている。構わず歩いていると、晶より随分と大きな背丈の彼は酷く歩きづらそうに猫背でそのままついてきた。


「重いです」


「背後霊ごっこー」


「成仏してください」


「俺まだこの世に未練たらたぐっ」


 前のめりになり過ぎた彼の顎が晶の頭頂部に激突した。目の前で星が煌めいてる、と痛みに耐えるように晶の肩口に額を埋めて彼は呟いた。存外余裕そうだ。


 天体観測に忙しそうな彼の腕からするりと抜け出ると、晶は解放感に首を回しながら教室に向かおうとして、しかし直後、不安に足を止めてしまう。


 雅巳に置いていかれてしまった。


 雅巳は、あの女と二人で、晶を置いていった。昔はそんなこと、絶対にしなかったのに。焦燥と苛立ちから無意識に唇を噛む。


「痛くなっちゃうよ」


 晶はまだ側にいたらしい彼を胡乱な目で見上げた。心配する言葉の割に表情は軽薄に緩んでいる。彼は晶の手首を捕まえるみたいに掴んだ。


「先輩には関係ありません」


「先輩だなんてそんな他人行儀だなあ。幼馴染みじゃん。親しく名前で呼んでよ晶ちゃん」


「……ややこしいんだよね。(あきら)くん」



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