自分を見て。好きになって。お願いだから好きって言って。
ああ、そうしてみてもいいかもしれない。ふとした思い付きが頭を占め、みっともなく泣き喚きながら惨めにも縋りついてくる手を振り払わなかった。
泣き腫らした目は腫れぼったく、涙と鼻水に濡れた顔はべたついて赤くなっている。自身の足で歩けもしないまま地面を這いずったせいで膝は擦れて砂にまみれ、薄らと血が滲んでいた。
これが世界の全てだとでもいうように、こちらの服の裾を皺になるまで握り締め、真っ白になった指先。
目を離した隙にいなくなるとでも思っているかのように、未だ溢れ続ける涙も構わずこちらを視線で捕まえ続ける濡れた瞳。
求めて、焦がれて堪らないと、小さな体で必死にしがみついてくるその様は、想定外に自分を惹き付けた。
愛しいなんて甘ったるい感情ではない。
慈しみなんてお綺麗な感情でもない。
憐れみ。哀れみ。
ああ、この子は酷く可哀想だ。
内心呟けば、小さな体躯はさらに小さく頼りなく見えてきた。
ほんの思いつきみたいな行動。気が向いただけで、その向きさえ容易く変わってしまうかもしれないけれど。
服を掴んだままの指をそうっと解き、不安定に宙を掻く華奢な手を掬い上げてやる。
それからもう片方の手で乱れた髪を撫ぜて直すと、その下から覗く目が不思議そうに瞬いた。
あれだけ求めたくせにいざ与えられると理解が追い付かないらしい。
知らず笑っていたらしいこちらの表情を確かめ、試すかのように繋がれた手に力が籠る。ほんの僅かで、気のせいかと思うほどに控えめなか細い力。
同じだけの力で握り返すと、真っ黒な瞳の奥で何かが煌めいた。その何かはきっと期待や希望の類いなのかもしれない。
光を含んだ瞳は過分に熱を持ち、こうも見つめられていたら焦げ付いてしまいそうだ。
この子の神様にでもなってみようか、と。
軽率で無責任な企みが愉快に弾んだ。