三話
語彙力がないと痛感しています。
ネックレスやブレスレット、ティアラにイヤリング。
様々な形の宝石達に、ヴィエラの目は人生で一番の幸せを享受していた。あっちを見てもこっちを見ても宝石……本当に目が幸せだ。
幸せで目が忙しいヴィエラに代わり、護衛のケビンが周囲を確認している。人にぶつからないよう、怪しいものを近づけないよう。
ケビンはヴィエラが外出をする際に護衛を務めることが多いので、よく心得ている。近づきすぎて邪魔をしない、離れすぎて見失わない。ヴィエラもケビンのそういうところを気に入って護衛をお願いしているのだ。
ケビンは展示の宝石には目もくれずに周囲を警戒している。人が増えたことを察してさりげなくヴィエラと周囲の壁になりながらも、人が増えた原因を探る。それはすぐに分かった。
この展示の目玉、王族所有の宝石が展示されている特別展示ブースだ。全体的に混み合っている宝石展だが、そこは人の集まり方が他よりもかなり多い。入り口から順番に見てきたヴィエラも、ちょうどそのブースに差し掛かるところだった。
「あっちに行きたいけど……なかなか人が減らないわね」
ゆっくりと眺めたいヴィエラは集まった人が少しでも減るのを待ちたかったが、どうにも人の流れに動きがないように思えた。
周囲を警戒していたケビンは、人々のざわめきの中から拾った話をヴィエラに伝える。
「……お嬢様。おそらく人はしばらく減りません。それどころか増えるかも。どうも、王族が視察に来るようです」
「えっ」
ヴィエラの「えっ」は、王族の来訪よりも、人がいなくならないことにショックを受けた「えっ」だった。
「こんなごみごみしたところに王族がいらっしゃるの?」
「さぁ……確かにこれでは、中止になるかもしれませんね」
なってほしい、とヴィエラは不敬にも思った。中止になってくれたら、人が減る。宝石が見やすくなる!という単純思考である。見ようとしている宝石は王族の所有物で、その様子を持ち主である王族が見に来ようとしているのだから、帰って欲しいとはとんでもない不敬である。
「じゃあ、もう少し様子を……」
見ましょう、と言いながら一歩下がると人にぶつかった。この混雑だからもう仕方ないとしか言えないが、それにしたって結構思いきりぶつかってしまった。
「あ、すみません」
振り返って謝罪をする。視界に映ったのが首元だったので、反射的に視線を上げると、目が合った。
――月。
本の挿絵でしか見たことがないのに、どうしてそう思ったのだろう。淡い金色の瞳が、月を連想させた。ヴィエラを見下ろすその目に、みるみる涙が溜まる。
「って、ええっ!?」
そんなに強くぶつかった?泣くほど?もしかして、足踏んだ?
思わず足元を見るが、どうにか踏まずに済んでいた。ではなぜ泣いているのだろう。
「――失礼」
泣いているその人とヴィエラの間に、ケビンが無理やり身体を滑り込ませてくる。
「うちのお嬢様が失礼しました」
謝罪をしてはいるが、実際には素性のわからないものをヴィエラから遠ざけたのだろう。護衛としては正解だ。そもそも、ヴィエラが知らない人間と接触した時点で失態なのだが、この人混みでは、ケビン一人でどうこうできる問題ではない。今日がこれほど混雑すると分かっていれば、あと数人は連れてくることになっていただろう。
泣いていたその人は軽く涙を拭うと、にこりと笑った。
「こちらこそ、失礼を。驚かせてしまいましたね。よろしければ、お詫びにお茶でもいかがですか?」
「えっ」
声をかけられた内容にも驚いたが、その声にも驚いた。
ヴィエラがぶつかった相手は、つばの広い帽子をかぶった女性――だと思っていたが、今の声は男性だった。よく見ても格好は貴族の令嬢そのものだが、そういえば背はヴィエラよりかなり高かった。
「少し、お話がしたくて」
女性――なのか男性なのか、その人は懐から何かを取り出して、ヴィエラとケビンにだけ見えるように示した。
「――」
王家の紋章を前に、二人は言葉もなかった。
今後のためにちょっと急いだ気がします。
読みづらくて申し訳ないです。