前世
一応こちらの話は、現在の話と過去の話(時間軸や視点はバラバラ)を
ある程度交互にやっていきたいと思っています。途中から合流するか、
過去の話のネタがなくなったらやめます。
「エフィ。ご覧」
声をかけられた背後の人物は、億劫そうに進み出て、隣に並んだ。眼下の景色を一緒に見つめる。人々が身を寄せ合って生きる、ある街の姿である。そこそこに栄えていて、昼間は人の多さに辟易するくらいには人が行き交う。
「見ました」
「どう思った?」
「どうとも。塵のように人間がいますね」
正直すぎる感想に、笑いがこみ上げる。
「お前はちっとも変わらないね。もう少し色々なことに興味を持つべきだ」
「貴方以外に、価値があるものはありません」
断言するその姿が、愛しくも、寂しくもある。
「ヴィヴィエナ様。なぜ、私の興味を移そうとするのですか?私との契約を後悔しているのですか?」
「そんなはずがない。私はお前が大事だよ。でも私は、お前よりも早くこの世を去るだろう。その時に、お前の寄るべが私だけではいけない」
振り向くと、傍らの人物がひどく悲しそうにこちらを見下ろしている。
「そんなこと……冗談でも仰らないでください……」
「冗談ではない。お前が大事だし、お前より長くは生きられない。だからお前に大切なものを増やしてやりたい」
「要りません。あなたがいない世界に価値はない」
「なんてことを言うんだ」
苦笑するも、今にも泣きそうな顔は治らない。その白い頬に手を伸ばす。
「エフィルカ。そんな顔をするな。」
そっと撫でると、自らすり寄せてくる。
「例え私が先に死のうと君が長く生きようと、きっとまた会える。私がそう言うんだ、信じなさい」
言い聞かせるように言えば弱々しく頷く。本当に、可愛い子だ。
空を見上げる。曇天に、その向こうから届く弱々しい太陽の光。あの太陽が燦然と輝くのは、たった一人の人間を照らすためだけである。
「少なくとも、奴を打破するまでは、私もお前も死なない」
「――それは、もちろんです。俺が貴方を守ります。あいつも倒します」
先程までの泣きそうな表情とは打って変わって、強い決意が表れている。淡い金の瞳は、月光のように優しい色なのに、その奥には炎が燃えているようだった。
「頼もしい限りだ」
笑って、頬から手を離して踵を返す。決戦の時はもうすぐだ。
お読みいただきありがとうございました。
設定を考えるのが楽しい話なので、
書きたいことはあっても話にまとめるのが大変です。