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相棒は地球産  作者: 西玉
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3 荒野の魔獣に失望し、ささやかな細工を施す

 冷凍睡眠から目覚めて、新天地で新しい生活を始めるのを待つ地球人たちのために、俺はたどり着いたこの惑星のことを知る必要があった。

 人間の街で冒険者という職業につき、広く世界を旅することにした。

 俺が所属しているのは『静かな騒霊』というチーム名の冒険者グループで、メンバーは20人いる。


 かなりの大所帯だが、その分個々の行動に関心が薄く、人数が多いためどんな依頼でも受けられるという利点があった。

 俺は『静かな騒霊』の交渉係ドナンが引き受けて来た荒野の魔獣討伐に繰り出した。


 まずは俺とビッチが先行して調査を行い、魔獣の強さと分布、群れやリーダーの有無を報告する役を買って出た。その後、『静かな騒霊』としての行動方針を決めることになった。

 俺が、自ら調査役を名乗り出たのは、荒野が危険な場所でなければ困るからである。


 俺は、当然ビッチと一緒に荒野を訪れた。ビッチと一緒であるのは、つまりビッチは俺から10メートル以上離れると爆発するからである。

 荒野といっても、地形は丘や谷があり、木々に覆われた森もある。

 豊かな生態系をしているとは思えないが、隠れる場所は多い。


「ビッチ、本当にこれだけか?」


 俺は荒野に調査に出て、2時間後にビッチに尋ねていた。

 森に囲まれた丘の麓にある、洞窟の途中でのことである。


「はい。荒野に住む人間の脅威となり得る生物は、この一種のみです」


 俺が転がったサソリの死骸を足で転がしながら尋ねると、ビッチは肯定した。

 洞窟を見つけて、なんとなく入ってみたのだ。

 うっかりと襲われたのだ。


 俺が止める間もなく、俺の生命の危機を感じたビッチが踏み潰したのだ。

 踏み潰したと言っても、サソリのサイズは熊ほどもある。ビッチの細い足で頭を踏み潰され、まだ足もハサミも動かしていたが、一撃で正常な動きは不可能になっていた。


「では、冒険者組合で依頼している荒野の魔物の討伐は完了か?」

「そうなります」

「……荒野は危険な場所か?」

「危険は排除済みです」


「つまり……この荒野を持っている伯爵にしたら、手放す理由のない土地だということになるな」

「さすがキャプテン・ヒルコ、おっしゃる通りです」

「『おっしゃる通りです』じゃない。どうするんだ? 荒野が危険な場所じゃないと、地球人が住む場所として貰い受けることができないぞ」

「危険な場所にすればよろしいのではないでしょうか」


 ビッチの提案を、俺は推測していた。ビッチに言わせたかったのだ。


「仕方ないな。どのクラスだ?」

「レベルB数匹で十分かと」

「レベルBか……レベルCでは足りないか?」

「討伐される可能性があります」

「そうか。わかった。こちらキャプテン・ヒルコ、レベルBモンスターを三匹転送しろ」


 俺は、左腕のブレスレットに向かって命令した。

 左腕のブレスレットは、通信装置から変身キットの転送まで、あらゆることを可能にする万能マシンなのだ。

 ちなみに、母船に収納されているモンスターは強さに応じてS級からD級に分かれている。


「了解しました。レベルBモンスターを三体、転送します」

「お前が答えるのか」


 俺がブレスレットに向かって言った命令を、すぐ隣でビッチが受諾した。

 ブレスレットに命令した意味はなかったのだ。

 命令はすぐに実行された。


 全て、俺の最強の相棒であるビッチ一人で事足りる。ただビッチにできないのは、判断し、決定することなのだ。

 俺は、母船から転送されてきたレベルBモンスターに、好きに暴れるよう命じて、ビッチに抱えられて洞窟を脱出した。


 ビッチに抱えられたのは『静かな騒霊』に早く報告するためであり、ビッチに抱っこされたかったからではない。

 俺は、冒険者組合で待つ仲間たちに見たままを伝えた。


「身長10メートルのオーガに、前足が6本あるクマに、30メートル以上の女郎蜘蛛だって!」


『静かな騒霊』のリーダーが、口から泡を飛ばした。 

 レベルBというのは強さの基準であり、形状や特徴は個体によって異なるのだ。


「はい。数は少ないです。一体ずつです」

「そんなのが群れになっていたら、この国は崩壊している。三体で十分だ。軍隊が出ないと太刀打ちできないぞ。冒険者組合長に相談する。キャプテン・ヒルコとビッチさんも来てくれ」

「はい」


 リーダーのゴメスは、人間としては最強クラスの戦士だろう。冒険者組合からの信頼も厚く、『静かな騒霊』はこの街では最高ランクの冒険者チームだ。


「キャプテン・ヒルコ、いいのですか?」

「いや……リーダー、冒険者で勝負できない相手なら、領主様に直接進言したほうがいい」


 ゴメスは振り向き、しぶしぶという表情で頷いた。


「わかっている。冒険者組合長なら、領主との面会も可能だ。俺だけでは、直談判はできない」


 俺はビッチを振り返る。

 ビッチは俺を抱きしめた。

 ビッチが、俺の周囲の大気の光の屈折率を調整する。


「リーダー……」

「どうした?」

「キャプテン・ヒルコとビッチさんが消えた」


 俺とビッチは動いていない。だが、周囲の人間の目には、俺もビッチも映らない。俺たちは、鏡の中にいるようなものだ。


「あの二人のことは放っておけ。また荒野に調査に行ったのかもしれない。冒険者組合長には俺から話す」


 ゴメスが大股で歩き去る。俺はビッチと共に、冒険者組合を抜け出し、領主の屋敷を目指した。

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