遠回り系ギャルと真っ直ぐ系草食男子
初投稿です
よろしくお願いします
「はい、いっくんあ〜ん」
「ちょ、姫奈抜け駆けすんなし〜」
「おーい真白胸当たってっから!」
「ちげーし当ててんよ」
「はー?マジビッチじゃん!?」
「家庭的なギャルアピってる裕美子に言われたくねーし」
ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい、僕の頭上で三つの黄色声が良く響いてる。
髪は皆染められてて、金髪の人も居れば、赤い人も居て、銀色?灰色?みたいな人もいる。
赤い人はツインテールで、金髪の人はボブカット。銀の人はポニーテール?一つ縛り?よくわからないけど、皆髪型も違くて、個性が出てる
ただ一つ共通なのは、皆…お化粧が派手で、露出が多い。
その、ワイシャツは第三ボタン位まで開いてて、そこから、凄く…とっても大きなおっぱいが良く見えてる。
銀髪の人は日焼けした肌の胸の谷間と、そこの下着の日焼け跡まで見えてて、凄い目のやり場に困る。
スカートも短い。太ももが凄い出てる。
もうすぐお尻が見えそうな位だ。
兎に角、今僕の周りには、三人の女の子がピッタリくっついてて、皆お弁当を持って僕に食べさせようとしている。
三人の…ギャルの女の子達が
ーーーーーーーーーー
「えっ?また転校?」
「うん。こっちの支社無くなっちゃうみたいでね、向こうの本社に異動ってか転属になるの」
一ヶ月半前。ゴールデンウィーク明けでまだ頭がパッとしない、朝ご飯を食べ終えて流しに食器を持ってく僕の耳に、人生何度目かの、母さんからのいきなりな報告が届いた。
危うく味噌汁椀を落っことしそうになるのを、どうにかバランスを保たせながら聞いたけど、流石に高校入学して一ヶ月ちょっとでそんなことになるとは、思いもしなかった。
「向こうって…そんなに遠くになるの?」
「そりゃそうよ。一応全国展開してる会社だもの。だけど壱正も知ってると思うけど、本社自体はおじいちゃん家の近くだから、そこから通えると思うわ」
「おじいちゃん家って…凄く山奥の田舎じゃない!?」
「そうねー、一日バスニ、三本しか通らないもんねー」
「もんねーって…」
随分他人事だなぁと思う。そりゃ母さんは自分の車で通えるかもしれないけど、僕はどうすれば良いんだろう。母さんに送ってもらうのかな?
「母さんと一緒なら何時に起きれば良いの?」
「あー大丈夫大丈夫!壱正はそんな早く起きたら、若い子が睡眠不足になっちゃうもの」
「じゃあどうすれば…」
「ハイコレ、今から通って取っといて」?…へ、バイク?」
「田舎の高校だから小型二輪?ってのまでは良いみたいだから、コレで125ccのバイクの免許取って通ってね?一正昔から仮面ライダー好きでしょ?」
「いや、好きだけど…母さん最近のライダーは全然乗らないんだよバイク…劇場作品とかはまだしも…」
「じゃ、行って来るわね〜!分かんないことあったらおじいちゃん詳しいし、聞いとくのよ〜!」
「あっちょっ…」
そんな訂正に聞く耳も持たず、バダバタと出て行く母さん。
父さんが居なくなって女手一つで育ててくれたバイタリティには感謝だけど、コレはいくら何でも急だなあとは思った。
ただ、今住んでるそれなりに公共交通機関が発展してる住所の高校じゃ取れないだろうから、そこだけは楽しみな僕だった。
そうこうして、転校までの間にちょこちょこ自動車学校に通って、小型バイクの免許を取った僕。
そのまま余り仲良くはならなかった元の学校とクラスメイトに別れを告げて、引っ越し初日。
おじいちゃん家に着くや否や、おばあちゃんの良く冷えた麦茶と共に待っていたのは。
「うわ…おじいちゃん良いの?」
「うむ。壱正ももう一丁前にオートバイ乗れる男になったからな、プレゼントだ」
「ありがとう…!」
元白バイ隊員のおじいちゃんが、僕用のバイクを用意して待っててくれた。ピッカピカの新車って訳じゃ無いけど、スクーターじゃなくてちゃんとマニュアルのだし、綺麗だし、凄い…コレ僕が乗って良いんだ…。
「早速家から学校まで走って来てみたらどうだ?慣らしといた方がいいだろ」
「そだね…うん。ちょっと行って来る」
「気をつけるのよ〜!」
「はーいおばあちゃん!」
おばあちゃんの言伝はちゃんと聞くけど、やっぱり今の僕にはこのバイクに乗れるのが楽しみで。
まだちょっとおっかなびっくりだけど跨ったらエンジンを掛けて、ハンドルの所のスマホホルダーにナビを点けたスマホをセットして、学校までの道を走り始めたんだ。
「…道が結構空いてて走り易いなぁ」
走り始めて二十分位。元いた街とは違って、何車線もある大きな幹線道路みたいなのは無いけど、程々に車が通ってて、見通しの良い道が出て来た。
「ココが郵便局でコッチが交番か」
おじいちゃん家は流石に山奥だったけど、この辺りまでこうやってバイクで来られるなら不便でも無いかな?
「えっと…僕の行く高校は確かこの先の交差点を右折して…?」
ナビの順路を見て、もう直ぐなのを確認する。
すると、曲がった先の道の方から、制服を来た人達が沢山歩いて来た。
「あの制服…確か僕が行く高校の…じゃあやっぱりもうすぐそこだ」
安堵して右折。対向車も二台位しか来なくて曲がり易い道だなぁ。
おっと、でも渡ろうとしてる高校生が居るから横断歩道の手前で止まらないとね。
「よし。じゃあとは…あ、見えた」
右折したら、直ぐ先の脇道を斜めに左折すれば、まだ少し遠いけど、視界に新しい高校が見えた。
良かった。コレで一安心……?
「あ、なんか…凄いカッコの人達だな」
目の前から歩いて来た、派手な格好をした人達。
その、お化粧が濃いっていうか、肌の露出も多いっていうか、髪の色も凄く明るい人達。
いわゆるギャルの人達かな。ココまでコテコテな人達は初めて見るけど…。
「(まぁ…僕は関わり合いにならないまま卒業しそうだなぁ)」
なんて、思って通り過ぎたら、遠くの対向車のスクーターの動きが、やけに気になった。
ノロノロノロノロ。幾ら原付でも少し遅すぎる。
明らかに、ワザと遅く走ってる動きだ。
「…何か、嫌な予感がす「ちょっ!!!何すんだよぉ!!!」!?あっ!」
考えてたら数秒、後ろから女の人の驚いた声。
振り返ればあのスクーターの運転手が、あのギャルの人達の一人から鞄を引ったくって、走り去ろうとしてたところだった。
「いった!?おいお前ふざけんなよマジでェ!!」
「裕美子大丈夫か!?」
「ましろぉ…あーどうしよう…あのバッグおばあちゃんから貰った財布入ってんのにぃ…」
「ちょ、あーし走って取り返してくっから!」
「無理だよ姫奈ぁ!」
いきなりの出来事に、慌てたり怒ったり悲しんでるギャルの人達。
関わり合いにならない気がしてたけど、でも…もしかしたら、こういう事で、関わる事もあるかもしれない。
「えっと…右にウインカー出して、ハンドルを思いっきり切って、シートの外側の角に座る様にして回れば…出来た!」
気付いたら、Uターンをしてた。
「っ…」
「あ…」
女の子達も追い抜きながら、一目散で追いかけ始めてた。擦れ違う時に、一瞬だけ目が合って。
免許を取って、初めて公道でバイクに乗った日なのに、なんでこんな事してるのかなって思ったけど、でも僕は、ココでUターンしない考えが、その時は全く無かったのを、良く覚えてるんだ。
「えっと何処…あ!居た!」
「…」
「どうしようクラクションを鳴らし……たら逃げられちゃうよね」
入って来た脇道を右折して、暫く走ったらもう居たスクーター。
相手も125c cだけどコッチの加速が良いお陰で直ぐに追い付けた。でも余り近付き過ぎたら気付かれて逃げられちゃうだろうし…。
「どうし…!しまった!」
迷ってる間に気付いたのかもしれなくて、一気にスピード上げるスクーター。ナンバーは隠されてて、証拠の印が殆ど無い。
このままだと土地勘活かして逃げられちゃうかも…。
「なら、その前に…ちょっと飛ばそう…!ゴメンおばあちゃん!」
ギアを六速まで上げて、アクセルを全開で加速した。
初めてで首が後ろに置いてかれそうな感じだったけど、お陰で…。
「ーーーっ!!返せーッ!!!」
「ッーー!?」
追い抜き様に左腕伸ばして、思いっきりバッグを引っ張った。
どうにか取り返せたけど、スクーターは怒ったのか取り返しに来ようと迫って来た。
でも…ココは…。
「ッ…」
「残念だけど…交番の前だよ」
逃げてく引ったくり犯。このまま追いかけようかとも思ったけど、先ずはコレを、隣のココに、届けないとだ。
「えっと、お兄さんが、バイクでひったくり犯から、このバッグを取り返したって事?」
「そういう…事ですね」
「お兄さん凄く勘違いされそうな事してるね…」
「まぁでも、自分から交番に行くひったくり犯も居ないでしょうし…」
交番にそのまま届け出て、事情を色々説明する。多分…もしかしてだけど…。
「それもそうだよね…とりあえず「あーー!裕美子のバッグー!」?もしかして…」
「あ、僕はそろそろコレで「おめーかよ!裕美子のバッグひったくったのはよぉ!」あぁ〜やっぱり〜お巡りさぁ〜ん」
「だからややこしくなるって言ったでしょ…」
ギャルの女の子達がドバッと交番に雪崩れ込んで来たら、その中の金髪の女の子に思い切り胸倉を掴まれてしまった。
案の定、僕を犯人だと思ってしまってるみたいだ。またお巡りさんにした説明をしなきゃいけなくなっちゃったかな…。
「あの、僕は「真白ちょい待ち。犯人が交番来る訳無いっしょ」あっ…」
「あー…それもそっか…」
「それにそこに停めてあるバイク、さっきのひったくりヤローの原チャじゃないし」
「確かに…」
銀髪のポニーテールで、日焼けした褐色肌の女の子、さっきは良く確認しなかったけど、少しだけ目が合ったバッグを取られちゃった本人の子が、冷静に友達を宥めてくれた。良かった…。
「とりあえず…説明します…ね?」
「マジでゴメンッ!!」
「ああいや!僕も紛らわしい事してごめんなさい!」
パンって大きな音立てて両掌を合わせて謝ってくれた金髪の女の子。
少なくとも誤解は解けたみたいで良かった…。
「ていうか…キミ、さっきアタシら追い抜いてったバイクの人だよね?」
「ああ…ハイ。分かり…ました?」
「まーね。そっか…ありがと」
ニコって笑って、お礼を言ってくれた銀髪の女の子。
お化粧は派手だけど、笑うと穏やかな顔に見えるんだな、ギャルの人達も。
「にしてもやるね〜キミ。そんな草食顔で根性あんじゃん〜」
「姫奈、馴れ馴れしくすんなし」
「あはは…」
赤い髪の人に頭ポンポンされて褒められてるのを銀髪の人が宥めてて。やっぱりギャルの人達って距離の詰め方が早いなぁなんて思ったりした。
「そういえば中身は大丈夫ですか?おばあちゃんからのっていう…」
「ああ、うん、ちゃんと入って……てか何で知ってんだし…」
「あ、ごめんなさい、盗られた時近くに居たから、結構おっきな声で聞こえちゃって…」
「マジか…ハズ…」
「でも、あったなら良かったです」
「うん…ホントありがとね」
ペコってお辞儀してくれた銀髪の人。なんか…凄い恥ずかしそうな感じだ。
何にせよ、何も盗られなくて本当に良かった。
「ゆみこ〜顔赤くね〜?」
「キュンでーす?」
「ばーかそんなんじゃねーし…良いからもう行くよ」
「あ、ちょっと待ってね。取り敢えず調書必要だから」
「あ、ハイ…」
話が纏まりかけたところで、お巡りさんにちゃんと色々聞かれ始めた僕達だった。
「ん。取り敢えずこんな所かな。それじゃ四人共気をつけて帰りなさい」
『はーい』
30分位掛かって、漸く解放された僕達。もう日も大分沈み始めたから、皆そそくさと帰る準備だ。
「あ、そういえば」
「?」
「アンタ…アタシらと同い年位に見るケド、何処高?」
「あー僕、今日引っ越して来たばかりで、明日、皆さんの高校に、転校する予定なんです…」
帰り際に銀髪の人が訊ねて来た。確かに高校一つしかないから、見慣れない僕はちょっと浮いてるよね…。
「マジ?って事はもしかしてウチ等とタメなん?」
「姫奈ガッついてんじゃねーし」
「あんだよ真白もちょっと面白がってん顔してんじゃんよー」
「そりゃおもしれーべ」
「お前ら楽しんでんなよ…ゴメンね。アタマは軽いけど根は良いやつらだから許して」
「ああいや…」
ケラケラ笑う赤髪の人と金髪の人を嗜める銀髪の人。
この人がリーダーっていうか纏め役の人みたいだ。
なんか…三人仲良さそうで良いな。
僕も…明日からの学校で、仲良い友達、出来る…かな。
「そうだ、名前何?」
「僕の…ですか?」
「それ以外無いっしょ」
「あっ…結城…壱正です」
「いちまさか。わかった。じゃあ…バイバイ」
「はい」
小さく手を振ってくれて、帰ってった女の子達。
僕はそれ以上に小さく手を振って、一応姿が見えなくなるまで手を見送った後、漸くバイクのエンジンを掛けて帰った。
転校前から一騒動でちょっと大変だったけど、転校前に知り合いが出来たのは…良かったかな…?
「まぁでも…ああいう子達とは、学校じゃ関わり合いにはなれないよね…あはは…」
なんてちょっと、自虐的に思ったのだけれど。
因みに、帰ったらおばあちゃんに大分心配されちゃって、ちょっと申し訳ない気持ちにもなったりしたんだけどね。
転校当日。午前中はつつがなく自己紹介とか、色々当たり障りの無い対応で、クラスに馴染むのを頑張ってた。
そんな中での昼休み。母さんから貰った昼食代で、僕は何処でご飯食べようかななんて思ってた所で、とりあえず購買へ向かったんだけど…。
「うわぁ…人凄いなぁ…買えるかな…」
購買も学食もごった返してて、全然レジまで辿り着ける気がしなかった。
この街は高校が一つしかないけど、それでもそこに沢山の生徒が居るから、そりゃこんな風にもなるよね…。
「どうしよう…待ってたらお昼休み終わっちゃうよ「よっ!いっくん!」…へ?」
「いっちーウチの学食今から並んでもムダだぞー?ウチらと食おーぜ!な?裕美子」
「う…壱正…ちょっと…用あんだけどついて来てくんない…?」
「あ…皆さん!」
後ろから肩を思いっきり叩かれたと思ったら、昨日の赤い髪の女の子。
勿論金髪の子に銀髪のあの人も居て、意外にも早く、再会の時は訪れたんだ。
「その…良かったら食べていいから」
「えっ?」
「昨日のお礼。アタシこんくらいしか出来ないし…いや、やっぱキモいから良い「なーに日和ってんだよ裕美子ぉ〜!」バカ真白!取んな!」
皆さんに連れて来られたのは屋上。
開いてないことで有名な場所だけど、赤い髪の子が何でか持ってた鍵で入っちゃった。
そしたら銀髪の子が、三段位のお重を出してくれて、蓋を開けたら、凄い美味しそうなお弁当が所狭しと並んでたんだ。
「あ…ありがとうございます!すっごい美味しそうです!本当に食べて良いんですか!?」
「そ、そっかな?もち沢山食べていいかんね!」
「やったぁ〜!…って、そうだ」
「どうした?」
「あの…今更なんですが、皆さんのお名前よく分からないんですけど…」
『!!!』
「あー…そうだったわゴメン。アタシら滅多にちゃんと名前言わないから昨日言い忘れてた…」
「ちなみウチは紅林姫奈ね〜!ヒナで良いよ〜!」
「あーし黄山真白、マシロさんなー」
「勝手にさん付け強要すんなし…アタシ…黒井裕美子ね。ヨロシク。壱正」
皆それぞれ個性的に自己紹介してくれた。
見た目はやっぱり派手だけど、凄い明るく優しく教えてくれて、ホッとした。
「えっと改めて…結城壱正です。よろしくお願いします。紅林さんに、黄山さんに、黒井さ「だーかーら、名前で良いって」…姫奈…さんに真白さんに…裕美子さん」
「…ん。改めてヨロシク。壱正」
「もーとっとと食おーよー!」
「それな。早くしないとヒナあーしらのメシ食い尽くすし」
「うーがー!」
「あはははは…」
そんなこんながあって、一番最初の冒頭に戻る訳なんだけど…。
「あ、あの自分で食べられるので…」
「だってさ裕美子ー。いっくんあーんしてやれんねー」
「誰もアタシやりたいとか言ってねーし…」
皆、特に姫奈さんと真白さんが凄い僕にくっつきながら、食べ始めちゃって、その、屋上で解放的なのに、変な窮屈さを感じちゃってたりする…。
「まー気にすんなよイッチー。おっぱいは触れられる内に触れとけー」
「真白…いい加減に「あ、この卵焼き凄く美味しいです」!マジか…良かった。壱正甘いの嫌いじゃなかったか…」
「あー…実は、そんなに食べたこと無いんですけど、今日初めて甘い卵焼き美味しいって思いました!」
「!…へー…変なヤツ」
アレ?…裕美子さんちょっと俯いちゃって…なんか…気を悪くさせちゃったかな…?
あんまり食べないって言わない方が良かったのかな…?
「なー真白ー、いっくんってタラシだな」
「それな。しょーがねーから、おっぱいもう少し当てとくか」
「りょ」
「ちょ!お前ら「裕美子も当てときなー乳は活かさんと勿体ねーぞ」…あーもう。ほら、どんどん食べな壱正」あ、はい…!」
右肩に真白さんのおっぱい。左肩に姫奈さんのおっぱいが当たってて、真正面に裕美子さんのおっぱいがある…。
ていうか、裕美子さんが膝の上に別のお重を置いてるんだけど、その上におっぱいが乗っかっちゃってる状態になってる…。
凄い光景だなぁ…。
「…う、うん。この俵おにぎりもシャケが入ってて美味しいです!」
「そっか」
「こっちの唐揚げも凄くジューシーで美味しいです!」
「良かった………ってあのさぁ!二人共!」
「あんだよ裕美子ー」
「凄い楽だったのにー」
怒る裕美子さん。それもそのはずで、ヒナさんとマシロさんは上手い具合に僕の肘をおっぱい置きにしてたんだけど、僕が腕を動かす度にゆさゆさ揺れちゃうから、その…目に入っちゃうんだよね…。
「だーってこんなラクなおっぱい置きねーって」
「ホントそれ、マジ一時の癒しだわ。ありがとなーいっくん。爆乳まぢ疲れっからさ〜」
「そうなんですね…」
「壱正まともに聞かんで良いから…」
「裕美子もちょっとは置いときなよー。クーパー靭帯伸びんぞー」
「気軽に男に胸当てねーのアタシは…」
「気軽に弁当作って来るのに」
「それな」
「コレは…お礼だっつってんじゃん!!もーどけー!」
無理矢理二人を退けて、隣に座ってくれた裕美子さん。
お重全部膝の上に並べてくれたら、凄く色とりどりで綺麗だった。
「壱正、嫌いなモノ無いか?」
「はい、大丈夫…あ、ミニトマトはちょっと苦手ですけど、頑張れば食べられます」
「そっか。偉いな」
「こんなに沢山お弁当作ってくれる裕美子さんの方が偉いですよ」
「アタシは…普段から作り慣れてっし、大丈夫」
「そうなんですね。凄いなぁ…あ、このアスパラベーコンもおいしいです!」
「っ…お前、美味しそうに食うな」
「おばあちゃんにも良く言われます」
「壱正もおばあちゃん子なのか?」
「一緒に暮らし始めたのは昨日からですけど、遊びに来てた時はおばあちゃんに付きっきりで」
「そっか、優しいんだな。壱正は」
「裕美子さんもじゃないですか」
「ばか…アタシの事はいいんだよ…」
学校で会話をしながら、しかもこんな風に楽しく食べられたの、凄く久しぶりな気がした。
それが昨日会ったばかりの女の子と、しかもその手料理と一緒なのもだけど。
でも凄く、安心出来る昼休みだったのを、後で思い返しても良く覚えてるんだ。
「なーあーしら蚊帳の外じゃね?」
「それなー」
「あー食った食ったー。乳も久しぶりにちょっとラクだったし」
「だーからマシロ「あれ?真白さん…」?どした壱正?」
「そのお弁当の袋、手作りですか?」
食べ終わった真白さんの刺繍の入ったお弁当包みを見て、凄く可愛いっていうか、売り物じゃなさそうに見えたから、思わず訊いてみた。
「おーそーだよ。あーしの手作り巾着。可愛いっしょ?」
「因みにウチはコレねー」
「姫奈さんのは水筒のケース…お二人も器用なんですね」
「おん?まーね。だってウチら、家政部だし?」
「えっ?」
思わずびっくりしてしまった。
まさかこのギャルの三人の女の子達から出て来るとは思わなかった部活の名前な手前、ちょっと失礼かなとは思いつつも。
「まー…壱正的にはビックリするよな。こんなメイク濃いめで色々デコってる三人が家政部とかさー」
「でも好きな事出来るの一番向いてっからやってんだ〜。裕美子は料理でねー、ウチとマシロが洋裁!」
「まーあーしら以外部員居ねーけど。アハハハハハハ」
皆ちょっと自虐的に、だけど凄く楽しそうに言ってくれた。
本当に、好きなことしてるんだろなって。
「ううん。素敵だと思います。やりたい事やってるって。だから皆さん活き活きしてるんですね」
『…』
「(あ、あれ?なんか変な事言っちゃったかな…?)」
「あんさー…いっくん。めっちゃ良い子だね」
「それな。親御さんの育て方が素晴らしいわ」
「あ、ありがとう…ございます」
急に黙っちゃって、怒らせちゃったかな?なんて思ったけど、逆に褒められてしまった…。
「…」
「裕美子…さん?」
「ありがと…アタシ等そうやって褒められんの、慣れてなくてさ。どうせ周りの人らにはチャラいギャルがヒマする為とかテキトーにやってるとか思われてたから、めっちゃ嬉しい」
「だって…裕美子さんのご飯凄く美味しいですから、適当だなんて思える訳ないですよ」
凄く、心の籠った味がした。
食べた人が喜んで貰える様にって考えながら、作ってくれた様な味がしたんだ。
それが、凄く伝わって来るお弁当だった。
「壱正…お前、素直な気持ち出し過ぎなんだよ…」
「よーしじゃあもっかいおっぱい乗せとくか!」
「ん!いっくんおっぱいスタンドせーっと!」
「だからお前等は直ぐ乳を置くなよ!」
「あ、あははは…」
コレがやりたい事だからすぐやっちゃうのは、流石に僕もよく分からないけどね…。
「ん。ココな。アタシ等の部室兼活動場所」
「わ…」
放課後、裕美子さん達に案内されてやって来たのは、皆が使ってるっていう家庭科室。
オーソドックスな、キッチンと裁縫台が兼用になってるタイプのテーブルが、九台位ある、シンプルな家庭科室だった。
「で、ココがあーしの机で」
「コッチがウチの机ー」
「コレがアタシのね」
「皆さん机は別々なんですね?」
てっきり、同じテーブルで話しながらやるのかと思ってた。
「あーイッチー、一つのテーブル囲って駄弁りながらやると思ってたべ?」
「すいません…」
「まー駄弁りはすっけどね?でも時間勿体ねーし、割と集中してる時は黙々だよ〜」
「それが楽しいしさ」
皆明るく説明してくれるけど、何処か真剣さも垣間見えて、ちゃんと『部活』をやってるんだって伝わって来た。
「まーじゃ、とりあえず今日は見学ってこって、いっくんは裕美子のテーブルねー」
「ちょヒナ勝手に決めんな「じゃねーとおっぱい置きにしよっかなー…」…壱正、ココ、座んなよ…」
「あ、はい…」
裕美子さんの使うテーブルに案内された。
そのまま三人は作業に取り掛かって、真白さんと姫奈さんはミシンを出して。
裕美子さんはエプロンを着けたら、手を洗って…あ、ネイルが取り外し式だ。
「ん?あーコレ、ジェルネイルだから剥がすの楽なんだ」
「へー…」
「何、似合わない?」
「違くて…寧ろ凄い似合ってるなって」
「!…」
「そーなんだよイッチー、こーいう所キッチリしてんだよ裕美子。家庭的なギャル目指してっから〜」
「ギャップ萌え堪んねぇよな〜」
「もーうっさい。早くせんと終わらんからやれし」
『はーい』
最初こそそんな風なやり取りをしてた三人だけど、直ぐに皆黙って、自分の作業を淡々とこなし始めてた。
真白さんは、大きな布生地を、大きな鋏で切って、そこに当て紙をして、鉛筆で線を引いて、形を作ってく。これは…服の原型なのかな?
姫奈さんは、編み棒を使って編み物を進めてる。それでもまだ未完成とはいえ色んな種類の糸を使って、複雑な模様を作ってるみたいだ。
そして裕美子さんは…。
「…ダメだ」
冷蔵庫から取り出した人参に、細かく包丁を入れてって、花の形を作ってた。
いわゆる飾り切りってやつだと思うんだけど、僕の目からはどう見ても上手いのに、裕美子さんは納得いってないみたいだった。
「…」
「拘ってんなって思う?壱正」
「あ、ハイ…普通に綺麗な飾り切りに見えるんですけど…」
「ありがと。でもホラ、ココ花びらの厚み不揃いっしょ?近くで見っとカッコ悪いんだ」
「…?」
ちょっと位な違いで、殆ど気にならないけど、裕美子さんには大事な違いなんだろうな。
真白さんと姫奈さんも、凄い集中してやってる。片手間な感じも、和気藹々とした感じも一切無くて、本気でやってるのが伝わって来る。
皆、カッコいいな…。
「ふぃー…あーもう終わりか〜!」
「ホントはえーし」
一時間経って、部活終了の時刻。
やってる方もだけど、見てる僕もあっという間に時間が経った気がした。
そんな中でも裕美子さんは。
「…あー…うん。しゃーないか」
「裕美子相変わらず厳しーよな。コレでダメなん?」
「ダメ。なんか角立ってるし」
「なるー」
「つーか疲れたー。いっくんおっぱい乗せさせてー」
「えっ、あの…」
「うーんラクだわ〜」
姫奈さんに思いっきり頭の上におっぱい乗せられてしまってる…。
お、重たくて、熱いなぁ…。
「ヒナ、次あーしねー」
「遊んでないで片付けろし…」
そう言って自分の中では失敗だって言う飾り切りをタッパーにしまう裕美子さん。家に持って帰って自分で食べるのかな…?
「つか見学してもらったのに会話無さすぎてごめんな壱正」
「いやいや、凄く面白かったです。皆さん一生懸命で!」
「アハハ、イッチーハズいからそんなダイレクトに言わんでいいから」
「でも裕美子はいっくんに見られてたから何時もより気合い三割増しよな〜」
「別に関係ねーから…」
終わればさっきまでの雰囲気に戻る皆。
ちょっとの間だけでも、三人の仲の良さがしっかり伝わって来た。
こんな風な友達同士で居られるの、ちょっと羨ましいな。
「壱正、大丈夫か?バイク押して重くね?」
「大丈夫ですよ。それなりに軽いバイクですから」
下校になって、皆で帰る事になったんだけど、昨日の今日だから、大通りに出るまで僕もついてく事にした。
「つーかイッチーこの単車カッケーね」
「原チャじゃねーじゃんスゲー」
「ありがとうございます」
姫奈さんと真白さんがシートをペシペシ叩きながら珍しそうに見てくれた。
確かに駐輪場も大体原付スクーターだから、ちょっと目立つけど。
「そもそもウチの高校こんなバイク乗れんの知らんかったわ」
「姫奈バカ過ぎて免許取れねーしな」
「名前に白って入ってんのに赤点族に言われたくね〜」
「うるせ〜」
「…壱正殆ど隣町だもんな。大変だろ?」
「まぁでも、その分乗れますから」
「そっか。壱正はコレが好きなんだな」
「折角おじいちゃんが買ってくれましたし」
「でも、そういうの抜きに好きそーな顔してんじゃん」
「!…そう、見えますか?」
「…うん」
ニコって笑って答えてくれた裕美子さん。
さっきの調理中の時と同じ様な、好きな物に向き合ってる時の顔に見えた。
自分の好きな物だけじゃなくて、他人の好きな物も認めてあげるのが、この人達の素敵な所だなって思う。
「なーハラ減らね?どっか寄ってこーよ」
「昨日の今日だから帰るよ。また壱正に迷惑かけらんねーし」
「僕は迷惑じゃないですけど…そうですね。今週は早めに帰っといた方が良いかもしれませんね」
「っとにムカつくわあのひったくりヤロー」
「…じゃね。壱正」
「はい。皆さんもお気をつけて」
「あんがとイッチー。明日またおっぱい乗っけてやっからなー」
「ウチも〜」
「あはは…」
人通りの多いところに出て、今日は解散。
転校一日目から、凄く楽しかったな。
明日もまた…!あ、その前に。
「裕美子さん」
「?」
「ごちそうさまでした!」
「っ……どういたしまし…て」
お礼、ちゃんと言っとかないとだよね。
今日もまた三人が見えなくなるまで見送った後エンジンを掛けて、二回目の下校路を帰った。
ーーーーーーーーー
「ただいまー」
壱正に途中まで送って貰って、真白と姫奈とも別れて家に着いた。
何度も潜ってる『割烹宵月』の暖簾を通ったら、中からおばあちゃんの世話しない声。
「ん?あら裕美ちゃんおかえんなさい」
「おばあちゃんただいま。父ちゃんは?」
「今仕入れに行ったのよ。夜の分のハマチが足りないみたいでね」
「そっか」
「今のうちに練習する?」
「うーん…そだね」
おばあちゃんのちょっと悪そうな顔。
でも父ちゃん帰ってきたら仕込みの手伝いだから、今のうちに自分のやりたい様にやっちゃお。
板場の広い所で出来る時、滅多に無いしね。
「…あら、裕美ちゃんなんか今日は楽しそうね」
「えっ、そ、そうかな?」
「なんかいつもよりテンポが良いじゃない?」
「そんな事無いよ…」
「もしかして…男の子?」
「…は、はあ?あっ!」
急に言われるから、手元狂うじゃんおばあちゃん…包丁使ってる時に止めろし…。「も、もうおばあちゃん!そんなんじゃねーし!」
「こーら裕美ちゃんそんな言葉遣いしないのよ〜第一朝のお弁当で察しついてるもの〜」
おばあちゃんは歳以上に若々しく見えるけど、こういう話する時は凄く楽しそうなんだよな…。
でも、お母さんが早く居なくなっちゃったアタシにとっては、お母さん代わりで、お姉ちゃんみたいで、大事なおばあちゃんだから。
そんな事言ってたら。
「…アレ、ゲンちゃん居ないの?」
「あぁタツさん。父ちゃん今仕入れに行っちゃってる」
「そっかぁ」
準備中の立て札掛かってる中入ってきたおじいちゃん、常連のタツさんだ。
奥さんがアタシのおばあちゃんの同級生で、そのよしみで仲良くなったら、なんでか旦那さんのこの人が通う様になったっていう。
町外れからバスに乗ってわざわざ来て、大体最終便の夜前まで一杯引っ掛けてる。
でも身なりはしっかりしてるから、飲んだくれのダメジジイって訳じゃないんだろな。「ま、じゃあ今度出直すか」
「わざわざ来たんだからお茶くらい飲んできなよ。みっちゃんに無駄な散歩だってドヤされるよ」
「へへっ悪いね」
ってな具合で特に用もなくたむろってる事も多かったりするんだけどね。
「おっ裕美ちゃん今日も精が出るねぇ」
「まーね。もしかしたら新入部員入ってくれるかもだから」
「おぉそりゃめでたいな」
「タツさんトコもお孫さん引っ越して来たんだっけ?」
「ん!俺に似てオートバイの腕が立つ可愛い孫よ」
湯呑みを日本酒みたいな煽り方で呑むタツさん。なんとなく機嫌が良いのは、孫バカ出てるからか。
にしても…。
「(バイク乗ってて可愛い孫…か)」
ふと、アイツの顔を思い浮かべた。
「ふぅ…今日も疲れたぁ〜…」
タツさん帰った後の夜の営業の手伝いも終わって、お風呂入ってスキンケアしたら、部屋で一人、粘土とヘラを持って、飾り切りの練習をする。
包丁一人で使うなって父ちゃんに言われちゃってるから、その代わり。
「…結城…壱正か。ふふっ」
なんか、面白いやつだな。ヘラヘラしてるってか、優男っぽいのに…でも素直っていうか、お世辞とかじゃなくて褒めてくれて…真っ直ぐなヤツだよな…。
「明日のお弁当どうしようかな。ミニトマトは苦手なんだっけ……って何で明日も持ってこうとしてんだしアタシ…」
でも、あんな風に自分の料理認めてくれるの、初めてだったから、凄く嬉しかったな。
壱正、フィルターとか掛けないでアタシ達の事見てくれてんだもん。
ギャルっぽい格好してると、どうしても色眼鏡で見られちゃうから、マイナスからのスタートなのに、壱正、そういうの抜きで見てくれた。
「この飾り切りだってやたら褒めるし…」
タッパーからさっきの取り出して、ジッと見つめる。
凄く嬉しかった。アタシの内面見てくれたみたいで、凄く、凄く嬉しい。
男なんて大体身体ジロジロ見て決め付けて来るから、ロクなもんじゃないと思ってたけど…アイツなら…。
あの時の…顔を見たら…。
「って…あーもう!全部花びらになってんし〜!」
やっぱり…明日もお弁当持ってこっかな。
ーーーーーーーーー
「どうだ壱正。オートバイ少し慣れたか?」
「うん。道ももう結構馴染んで来たよ」
「お爺さんそれより学校の事を聞きなさいよ」
帰ってきたら、夕飯はおじいちゃんとおばあちゃんと三人で食べる。
母さんはいつも夜十時過ぎ位になっちゃうから、先に済ませとく事になった。
それでも前に住んでた所だと独りご飯だったから、こうやって皆で食べられるのが嬉しい。
「すまんすまん。初日はどうだった?」
「うん。えっと…楽しかったよ」
「お友達は出来た?」
「友達…かはまだ分からないけど、知り合いにはなれたかな…?女の子だけどね」
「ほぉ〜…流石俺の孫だ手練れよのう」
「あらあら」
あ…女の子だって事は言わなくても良かったかな?
でも…ちゃんと自分達の事を教えてくれた裕美子さん達の事は、言っときたいって思ったから。
「皆優しい人達だから、多分やってけると思う」
「そうか。壱正は優し過ぎるきらいがあるから心配してたが、それなら大丈夫そうだ」
「何か部活もやるの?」
「えっと…それはまだ考え中かな?」
「うん…僕が入って良いかどうかは、わからないもんね」
ご飯食べ終わって後片付けして、課題終わらせたらお風呂入って、自分の部屋でゴロゴロする。
ココは凄く静かで、車の音も殆ど無くて落ち着くな。だから直ぐ眠くなっちゃうんだけどね…。
「裕美子さんのお弁当…美味しかったな…真白さんに姫奈さんも明るくて…ちょっと…スキンシップが激しいけど…みんな…いい人で良かった…」
ーーーーーーーーー
翌日。今日からは自己紹介も無い普通の登校が始まる日だから、普通に教室に入ったんだけど…。
「…?」
『………』
なんだろう?皆、凄く僕の方を見てる。
アレかな?バイク通学で目立ってるのかな?
でも、バイクってだけなら他の人もそれなりに居るし、なんなんだろう?
そんな中で、自分の席におずおずと座ったら、女の子がゆっくり、僕の方に近付いて来た。
確か…クラスの委員長って人だよね?
「あの…結城君?」
「ハイ…なんでしょう?」
「昨日さ…四組の黒井さん達と一緒に居たよね?」
「ハイ…えっとそれが何か…?」
なんだろう、話が全然見えない。
でも顔がやたら険しい委員長さんだ。
「結城君、悪い事は言わないから、あんま関わり合いにならない方が良いよ?」
「なんでですか?」
「あの人達、中学の頃から素行が良くないから、面倒な事に巻き込まれる前に、距離置きな?」
「そうなんですか?」
「うん…」
多分委員長さんが言いたいのは、裕美子さん達のイメージの話なんだろうな。
確かに僕も最初見た時は関わり合いにはならないと思ったけど、でも、ちゃんと知り合ったら、想像もしなかった部分が見れたから。
「でも…巻き込まれるかどうかは、自分で決めてみます。ありがとうございました」
「っ…そっか。一応忠告はしといたからね」
「ハイ」
そう言ってスタスタ席に戻る委員長さん。
他のクラスメイトの皆もまた話し出して。
ただ…僕に話しかけてくれる人は殆ど居なくなっちゃったな。
でもそれでクラスメイトを取って知り合った人との縁を無くすのは、なんか嫌だったから、それでいいや。
「あ、このサバの塩焼きも美味しいですね!ワカメごはんに合います!」
『……』
昼休みになって、また裕美子さん達に屋上に誘ってもらったんだけど、ちょっと皆浮かない顔をしてる様な…?
「あのー…皆さん?」
「いや…そのさ、壱正のクラスでの話、アタシ等の耳にも入って来てさ…」
「イッチー、イッチーは来たばっかだから、そっち優先でも良いんだぞ」
「ウチ等なんてどうせずっとドベだから、ほっときな〜」
そっか…皆、僕の事で気を揉んで…。
だけど、あのままなぁなぁにするのは、自分が嫌だったから、アレで良いんだ。
「確かに…僕は皆さんの事全然知らないです」
「だろ?イッチーの想像よりめっちゃアタマヤバいよ?」
「それな〜…」
「でも、僕…元々友達が殆ど出来なくて、自分からは勿論、人からの距離の詰め方も、上手く受け取れなくて」
転校が多かった事もあるけど、そんなに仲良くならなくても良いかなって考えが、無意識に人との壁を作ってたんだと思う。
だからこの学校でもそれで良いかななんて、思ってはいたけど。
「壱正…」
「そうしたら、ココで皆さんが思いっきり踏み込んでくれて、嬉しかったんです」
きっかけは中々無い事だったけど、それでも唐突に出来た縁に、心が擽られた気がしたんだ。
今までに、味わった事の無い感情がして。
「いっくん、明るい顔して頑張ってたんな」
「頑張ってもはいないですよ…ただ、とやかく言われたって、こうやって裕美子さんが美味しいお弁当を作ってくれる事と、真白さんと姫奈さんが裁縫に凄く一生懸命な事は、皆さんが昨日教えてくれたお陰で知ってます。僕は、そっちを信じたい…信じてみたいです。それじゃ…ダメですか?」
『!…』
出会って三日目で、大仰かもしれないけど、初めて芽生えた気持ちだから、大切にしたいんだ。
皆には…気持ち悪がられる…かな。
「なーヒナ…」
「んー?」
「あーし母乳出そうだわ」
「それな。出たらいっくんに飲ますべ」
「えっえぇ…」
「アホな事聞かんで良い…でも、ありがとな壱正。アタシも、そんな風に思ってくれたのちゃんと言葉にしてくれて、伝えてくれたの、アンタが初めて」
「!…ハイ!」
良かった…嫌がられなくて…。
少し…不安もあったから。
だけど受け止めてくれるかもっていう期待も、半分ずつあったから、ホントに良かった。
「ってヤッバ昼メシの時間もー殆どねーじゃん!」
「よーしイッチーあーしも手伝うわ!裕美子筑前煮もーらい!」
「ちょ真白勝手に食うな!」
「頑張って急いで味わって食べますね!」
「お、おう壱正…」
「おーいっくんウチ等のノリ分かってきたな!後でおっぱい乗っけてやるよ〜!」
また何時もの三人に戻って、昼休みはあっという間に終わったんだ。
そんなこんなで午後の授業も終わって、今日もまた家庭科室に行かせて貰おうかなって思った放課後。
「えっと確か理科棟三階の…うわっ!」
「おぉ、すまんな少年」
「あ、いえこちらこそ余所見してて…」
「なら私も同じだ。お互い様と行こう」
「ハイ…」
ちょっと急いで小走りで角を曲がった所で、女の人とぶつかってしまった。
白いワイシャツとスラックスをピシッと履いてる、黒い髪が長くて綺麗な、身長の高いカッコいい女の人だ。
生徒…じゃなさそうだから、先生…かな?
「しかし…見ない顔だね?」
「あ、昨日転校して来たばかりでして…七組の結城壱正です。よろしくお願いします」
「転校生だったか。私は青戸玲香。見ての通りの教師だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
見ての通り…と言っても、先生というよりかはバリバリのキャリアウーマンって感じの先生だなぁ。
黒いバインダーを持ってないと分からない位だ。
「しかし…転校生が放課後理科棟三階とは…科学部室なら二階だぞ?」
「その…三階の、家庭科室に用がありまして」
「家庭科室……もしかしてキミ、家政部に行くのか?」
「はい」
答えた瞬間に、ジッと僕の方を見る青戸先生。
やっぱり、裕美子さん達の事を知ってるから、詮索されてるのかな。
止めとけ…とか言われるかもしれないけど、ちゃんと行くって言わなきゃ…。
って心構えをした僕に。
「ヨシ。じゃあ一緒に行こう」
「……へっ?」
ーーーーーーーーー
「イッチーちょっとおせーな」
「それな。やっぱ考え直しちったかな〜?」
「何でアタシの方見んだよ…」
「だってそしたら一番寂しいの裕美子だべ?」
二人からの視線が強い。
そりゃ、さっきの今だから、少しは思う所あるけど…壱正の学校生活は壱正のモノなんだから、アタシがとやかく言うもんじゃねーし。
でも…あんな風に言われて、それで来なかったら、やっぱりちょっと、悲しくはある。
「転校したばっかで忙しいんしょ。いーから始め「おーい、居るかー」!…なんだセンセか…」
ノックの音が聞こえたら、答えるよりも先に入って来る、背の高いカッコいい女の人。
青戸玲香先生。アタシ達家政部の顧問で、家政部を作った時、唯一顧問を引き受けてくれた人。
「なんだじゃないだろ。顧問なんだから」
「不定期訪問の不良顧問じゃん」
「あーしらよりワルだよねー」
「先生は嫁入り修行しないタチだから良いんだよ」
「なんそれズルー」
「てか先生三日ぶりだよ?もう少し顧問やってよ」
あんまりアタシ等の事を見てはいない先生。
生徒の自主性を大事にするとか言ってるけど、サボりたいのが見え見えなんだよね。
でも、何やってても尊重してくれる、良い先生でもあるんだけどさ。
「すまんすまん黒井。ただ今日は新人部員候補連れて来たゾ!」
『?』
三人一斉に頭にハテナを浮かべる。
けどそれは、直ぐに解消されて、昼間も見たばっかりの…ちょっと可愛い顔してる、男子の姿だった。
「すいません皆さん…青戸先生に捕まっちゃいまして」
「コラ人を国家権力見たく言うな」
「おじいちゃんがそうだったモノで…」
「そうだったのか…」
「…もう、壱正」
「ハイ」
「おせーし。早く部活やるよ」
「はい!」
「イッチー今日はあーしの見ろよ。あ、おっぱいじゃねーぞー?」
「真白さんは服を作ってるんですか?」
「そーそー。ココ田舎なのもあっけど、売ってる服ってイマイチピンと来ねーっつーか、なんかモヤッてたから、自分で作ろっかなーって、イッチースルースキルついて来たな…」
今日は真白さんと姫奈さんの作業を重点に見学する事にした。
真白さんは昨日裁断した生地を縫い合わせてく作業みたいだ。ミシンの音がリズム良く響いてる。
「ウチら量産型ギャルにはなりたくねーからねー、バチボコユニークギャルにならねーとなんよ〜」
「髪の色シャアだもんなー」
「ライデンだっつの〜」
「?」
多分、ガンダムの話なんだろうけど、僕はそこまで詳しく無いから、ちょっと分からなかった。
ていうか姫奈さんが詳しいのが意外…ううん。コレも勝手なイメージの決め付けだよな。良くないね。
「姫奈さんはどういう作業なんですか?」
「コレな〜ステッチ編みっつって模様付けてんよ。立体感あった方が3Dって感じだべ?」
「でも凄い複雑そうですね」
「ソコはこの姫奈サマの腕の見せ所だし〜まーでも肩凝っから、後でいっくんおっぱいスタンドよろ〜」
「バーカ先はあーしだっつの」
「あの…」
やっぱり僕が許可しないまま話が進んじゃってるなぁ…。
ココだけは今でもよく分からない…。
「おい黄山も紅林もやめんか」
「先生…!」
あ、先生はちゃんと注意してくれるんだ…!
やっぱり大人の先生はしっかりしてるよね…!
「こういうのは先生が先だ。そういう事してるなら教えとけ」
「え、えぇ…」
「おー楽だ。ありがとうな結城。私も凝りやすくてな」
「あーずりィよセンセー」
「大人の方が深刻なんだよクーパー靭帯」
結局今日も、頭の上におっぱいを乗せられてしまっている…。
今日も、凄く熱い…ホッカホカだ…。
転校して二日、おっぱいの大きい女性のおっぱいはとっても熱いという情報だけが、僕の頭に刻まれてしまっている…。
「(てか…多分このままだとまた裕美子さんに怒られちゃう気が…)っ…」
「……」
チラッとそっちを見れば、裕美子さんが凄い真剣な表情で、一筋一筋ずつ、丁寧に野菜に刃を入れていた。
昨日にも増して、集中した顔で。
「…出来た……なぁ壱正、コレ「綺麗です…」へっ…?」
「凄く…凄く綺麗です。この飾り切り」
「あっ、あぁ…そっか。ありがと…」
素人目でも分かる位に、昨日から更に上手になってる、裕美子さんの作品。
本当に本物の花みたいで、心の声が漏れてしまった。
でも今すぐ伝えたい位に、綺麗だったから。
「おーマジだ。めっちゃじょうずくなってんじゃん裕美子ー」
「愛の力すげー」
「は、はぁ?何でそういうの関係あんだし」
「…しかしコレは中々上手くなったな黒井。この間見たのと違う……なるほど」
真白さんも姫奈さんも、先生も僕の方を見てニヤニヤしてる。
裕美子さんが上手くなった理由に僕が関係してる……?
「(…あ)裕美子さん、褒められると伸びるタイプなんですね!」
「!?お、おー…そうだな。そうだよ。壱正が褒めてくれたし、良く…出来たわ。サンキュ」
良かった。裕美子さん、凄い嬉しそうだ。
中々上手く行かなかったって言ってたもんね。喜びもひとしおだよな。
「いえいえ!どういたしましてです!」
「…なぁ黄山、紅林。結城はタラシなんだな」
「ね、やべーっしょ」
「だからおっぱい乗せがいがあんよね〜」
青戸先生からの妙な視線を感じつつも、今日も部活の時間は過ぎて、あっという間に下校の時間だ。
「さて、そろそろ終わりだな。ところで…結城」
「はい」
「君はこの家政部に入るのか?」
「えっ」
「見学に来るという事は、入部の意志があると見て良いのかな?」
当たり前だけど聞かれる質問。
昨日の流れで今日も見に来ちゃったし、そもそも昼にあんな事言っちゃったし、普通に考えたら、そういう意味だよ…ね。
「僕…は」
『…』
皆、ジッと見てる。特に裕美子さんは…なんか、少し不安そうな顔をして。
もしかしたら、嫌かもしれないし、三人の仲良い空間を、邪魔しちゃうかもしれない。
だけど…。
「裕美子さん。真白さん。姫奈さん。良かったら僕も…家政部に、入れてもらえませんか?」
「……」
「…」
「…よっしゃあ遂に部活として認可じゃおりゃあぁァァァ!!!!」
「…えっ!?」
真白さんが凄く喜んで雄叫びを上げた。
というか部活として認可…ってどういう事?
「あの、どういう「ゴメンな壱正。アタシ等、家政部って言ってたケド、まだ同好会だったんよ…」そうだったんですか?」
「なんよ〜四人からじゃねーと部として認めねーってさ〜」
「だからイッチーが見学してっ時、めっちゃハラハラだったんだわ!あーしら嫌われたらヤバいってさ〜!」
皆口々に安堵の言葉を並べてた。
本当に肩の荷が降りたっていうか、止めてた息を吐いたみたいな。
「だから、もち普段もテキトーにはやってねーけど、ちゃんとしてるトコ見せて、壱正に…興味持って欲しかったから、ホント…ありがとな」
「皆さん……なんか凄く可愛いですね」
「ちょっ、イッチー生意気〜!おっぱいサンドすっぞ姫奈!」
「あーもうギャルにチャラいセリフは許さみ無しだかんな〜!」
あ、可愛いって言っちゃうの、ギャルの女の子達には良くなかったのかな!?
でも、一生懸命魅せようってのは、凄く可愛くて、カッコいい事だと思うな。
「ところで結城は何をする?」
「あー、そっか。壱正部員になんなら何かやらんとか」
「やっぱ服作ろーぜ!」
「雑貨っしょ」
「料理…やりたいなら、教えても…イイよ」
「えっと…」
どうしよう?どれも楽しそうだし興味があるなぁ。
一つずつやって見るのも良いけど、でも皆集中してる中頼りにするのもな…。
「そういえば最近駐輪場に停めてある、見慣れないネイキッドは結城のか?」
「はい。おじいちゃんが買ってくれたバイクです」
ネイキッドってバイクの種類知ってるのは、先生も乗ってたりするのかな?
「フム。ではそうだな…結城壱正。キミはステッカーを作りたまえ」
「えっ?ステッカー…ですか?」
シールみたいなモノ…だよね。
バイクとか、ヘルメットとかに貼るヤツかな。
確かにそれなら、皆の邪魔をしないで、一人作業に集中してやれそうな気もするし、良いかもしれない。
「良いじゃん楽しそーだなイッチー」
「ハイ…ちょっと家庭科ってより図工とか美術な気もしますけど…」
「いや、コレは大事な役目だよ結城。キミに最初に任せたいのは、この家政部のロゴステッカーだからな?」
「…?」
「センセ、壱正にロゴステッカーって…何?なんなん?」
なんだろう、青戸先生、ちゃんと部になったから、話を一つ進めようとしてる…?
「単刀直入に言うとだ、君達の作品、今度沢山の人に見せてみないか?」
『…?』
ーーーーーーーーー
「で、どうすん裕美子?」
「やんの〜?ウチはなんでもおけまる水産」
「うーん…」
部活終わって帰り道。今日も壱正はついてきてくれてる。
律儀っつーか。生真面目っつーか。
「壱正はどうよ」
「そうですね…僕としては…急といえば急ですけど…」
〜〜〜〜〜
「来月の終わり頃にこういうのがある」
「?…ユース…クラフトアート展覧会…?」
青戸センセがバインダーん中から取り出したチラシを読んでみた。
ざっくり見渡してみっと、要は高校生のハンドメイドの発表会みたいなモンっぽい。
「おーん?全国行ったるで的なヤツ?」
「ウチ甲子園より花園派なんだが〜」
「生憎そこまで大きくは無いんだがな。所謂小規模部活の総合展示会みたいなモノだ。君達も部になったから正式に参加出来る」
「タイミング良すぎじゃないですか…?」
疑問に思う壱正。そりゃそうだよな。
自分が入部したなら直ぐちゃんとした部活の体で色々やれとか。
「何、そろそろちゃんと、お前らが真面目に部活やってるって所、私が見せたくなって来たんだよ」
『!…』
「ずっと持ってたんだがな。今日漸く結城が入ってバインダーから取り出せたんだ」
「…いちいちカッケーよな。玲香ちゃん」
「それな〜」
「私だって顧問の端くれなんだぞ?」
じゃあもっと普段の活動見てよって言いたくなるけど、無理に部員集めろって今まで言わなかった辺り、センセー的にも、活動の妨げになるくらいなら、集めなくても良いって尊重してくれたんかな。
「勿論お前達の意思で出る出ないは決めてくれて良い。ただ…」
『ただ?』
「出店形式の出展も出来るから、売上が出る」
『!』
「そして結果が出れば部の予算会議で、部費が上がる!」
『!!』
「ま、そういう事だから、明日までに考えといてくれ」
って言い残して、さっさと帰ってったセンセだった。
〜〜〜〜〜
「でも…僕の入部理由は、裕美子さん達の頑張りを、僕だけでも知ってたいって事なので、もしそれが他の人にも知って貰えたら、僕は嬉しいですね」
「いっくんそれ答えになってね〜」
「何か的外れだぞイッチーウケるわ」
…確かにちゃんと答えにはなって無いけど、壱正はアタシ等の事、知らないヤツに何言われても知らんっつって、家政部に入ってくれた訳で。
それって…逆に言えば。
「アタシ等が結果残しゃ、壱正がおかしな事言ってるヤツじゃねえって、知らしめてやれるって事か」
「!…イイね裕美子。それはおもしれーわ」
「そろそろ材料費切り詰めんのもキチーしね〜。このガッコ、バイト基本出来ねーし」
「皆さん…じゃあ」
「おう。やってやろーぜ。壱正」
「っ…はい!」
元々、好きな事を好きな様に好きなだけ集中してやりたくて作った部活だもの、それを好きな様に見せびらかしたって良いよね。
「ちな何出すん?」
「ウチ今作ってんの量産しまくって売ろ〜」
「あんだよザク女ずりぃー。あーしどうし…!んじゃクラブTデザインすんべ。皆で着んの」
「イイね真白。じゃあアタシは…「出店だから裕美子さんの料理を食べて貰いませんか?」!…先に言うなし壱正」
「あっすみません!でも美味しい裕美子さんのご飯なら大人気ですよ!」
「…変なプレッシャー掛けんな」
「ご、ごめんなさい…」
嬉しいけど、緊張しちゃうのが、アタシなんだもん。
勿論、壱正はお世辞でも何でもなくて、本気で言ってんのは分かるけど…本音過ぎて、ちょっと気構えちゃうじゃん…。
「つっても絶対人気出るべ。ギャルメシ」
「な。裕美子が爆乳エプロンで売り捌けば優勝間違い無し」
「やらねーし、真白のクラブTでやっから…」
「じゃあ、僕もステッカーのデザイン、頑張って考えますね」
「ん。頼むな。壱正」
皆やる事は固まって来たみたいだ。
昨日の今日でいきなりだけど、やる事は今までの延長だから、浮足立つ事もねーし、大丈夫っしょ。
ーーーーーーーーーー
「…おはようございます」
『…』
入部から少し経って、いつも通りに朝、自分のクラスに入って挨拶してみるけど、返事はもう殆ど無い。
やっぱり、皆裕美子さん達のイメージから、一緒に活動してる僕の事も引いた目で見てるのかな。
でも…良いんだ。それで
「(全部の場所で…全部居場所にしなくたっていい…)ッ…」
「オォ、悪りぃな。見えなかったわ」
「…普段の生活も前方不注意だと、いつか大事故になるよ」
「アァ?」
座ってる僕の斜め後ろから、わざとらしく足音立てて歩いて来ては、わざとらしくぶつかった身体の大きい男子生徒。
手には乱雑にステッカーを貼ったハーフヘルメット。
多分だけど、このクラスで僕以外だと唯一のバイク登校の生徒だ。
「ハーフヘルメットはいざって時頭を守り切れないし」
「転校生よォ…一丁前にストファイ乗ってっからって説教する位に偉ぇんだなぁ。ヤンキー女共と連んで気ィデカくなってんのかよ?ハハッ」
「…」
「人差し指、あんまり力入って無いね。フロントブレーキしっかり掛らないよそれだと」
「ッ!……黙ってろ」
胸倉を掴まれた。
だけど、目は逸らさないでずっと見てた。
ココで逸らしたら、三人を馬鹿にする言い方を認めたことになる気がして。
眼は、絶対に逸らさなかった。
「(今度は…椅子からも浮かない位にしなきゃ)」
怖さは無いもの。
おじいちゃんの方が、よっぽどだから。
「イッチーどーよ?」
「中々難しいですね…」
「つーかいっくんは絵とか得意なん?」
「中学の美術は三です…」
「なんだ壱正フツーだな」
「そーですよ普通ですよ僕は。へへへ…」
放課後、もう慣れた様に通りに部室に来て、三人と一緒に活動を始める…んだけど、今日は皆僕のステッカーデザインの作業ばっかり見てた。
でもこうやって、みんなと『普通』に部活動出来るのが一番良いんだ。
「イッチーって得意科目なんなん?」
「えっと…特に無いですね」
「えーそうなん?」
「まーいっくんなんか平均でバランス型っぽいもんな」
「その平均にも届いてねぇアタシ等が言う事じゃねぇっつの」
「インテリギャップ萌えギャルにはなれねー!」
だらーんと机にへばりつく姫奈さん。
大きなおっぱいがクッション代わりになってるなぁなんて思ったりしちゃった。
「で、でも皆さん家庭科は得意じゃないですか!」
「おーんまぁな?」
「分かってんじゃんいっくーん」
「いーよ気ぃ遣わなくて…第一、得意なモン無くたって、壱正にはガッツが……おい壱正、そこどうした」
「えっ?」
裕美子さんがやたらと僕の方を注視して、少しドキッとしてしまった。
でも見てるのは僕の目じゃ無くて…。
「ココ、ワイシャツの襟んとこ」
「?…あ」
「おーどしたイッチー、機械油みたいなんで…指紋?」
真白さんの言葉で、何なのかは大体察した。
多分、今朝のアレなんだと思う。
あの人ライディンググローブも付けないで乗ってるから、車体の何処か触ってついた真っ黒なオイル染みが、指から移ったんだろな。
「いや…大丈夫ですよ「誰だ。壱正」っ…」
「クラスの連中か?」
裕美子さんの顔は凄く落ち着いてるけど、目の奥が、とても震えてる気がした。
震えてる…怒りに。
「…クラスにもう一人、バイク通学してる男子が居て、その人に少し因縁つけられちゃって」
「イッチーのクラスって七組…!オイ裕美子」
「あーだな真白。アレだわ」
「…あの野郎ォ…」
「皆さん…?」
察したかの様な顔をしたら、直ぐに眉間に皺を寄せた三人。
あの男子と心当たりがある…のかな?
「悪りーなイッチー、その木偶の僕、こないだ裕美子に告ってフラれたバカだわ」
「!」
そういう…事だったんだ。
妙に僕に突っ掛かって来る様な態度だったのは。
だけど、それとは別に少し、思ってしまった事があった。
やっぱり…裕美子さん達皆綺麗な人達だから、モテる…よね。
良いのかな。僕なんかが一緒に部活やってて。
「壱正?大丈夫か?やっぱりどっか怪我してんじゃ」
「全然大丈夫ですよ!」
「そっか…ゴメン。アタシのせいで…」
「裕美子さんのせいなんかじゃないですよ。それに…もしそうだとして、僕に因縁を付けてくる様なら、器が小さいと思いますし」
裕美子さんに気負って欲しくないのもあるけど、今の話を聞いて、益々萎縮したくない気持ちが強くなった。
八つ当たりしてくる様な人に、屈したくない。
「おーイッチー言うねー!」
「こーいう所オス臭くてウチすこだわ〜」
「…ん。でもあんまりしつこいならちゃんと言ってくれよな壱正」
「はい!」
裕美子さん達に面倒が掛からないように教室じゃ相手したつもりだったのに、結局気を遣わせちゃったな。
もっと心配させない位に頼り甲斐がある人間にならなきゃ…だ。
「んじゃさ!ココらでいっちょ、団結深めるべ!」
『?』
ーーーーーーーーー
「えっと…こっちの先に…あ、あのショッピングモールかな?」
翌日、土曜日のお昼前。
姫奈さん主導で交換してもらった連絡先から送られて来た目的地を目指して、バイクを走らせて30分。
国道沿いに見えるこの辺りで一番大きいショッピングモールに辿り着いた。
「こんなに大きいトコあったんだ…」
ショッピングモールにホームセンターに、大型家電量販店もあるタイプの広い敷地だった。
コレだけ纏めてギュッと詰まってる所は初めてだから圧倒されるな…。
「駐輪場…ココで良いかな?」
とりあえずショッピングモールの真ん中辺りの駐輪場にバイクを停めて、集合場所の中央入口って所に向かってみる。
中央だから真ん中だよね…。
「…アレ、まだ皆居ないのかな…?」
標識を見るけど合ってるっぽくて、でももう後五分位で集合時間なんだけど、三人とも居ない。
皆、時間ピッタリに来るタイプなのかな?
「まだ全然知らない街の知らないお店に一人…中々寂しいな…」
でも、転校して四日でこんな風に遊びに行く事なんて無かったから、今が変なのかもな…。
「皆、距離の詰め方が早くてビックリしちゃったな…ギャルの子達のバイタリティって凄いなぁ…でも優しくて、凄い面倒見が良い人達で…」
トントン拍子で話が進んで、部活にまで入って、展覧会にまで出ようってなって…凄い密度だ。
「夢みたいな…っ…」
ちょっと不安になる、もしかしたら、夢だったのでは?と。
いくらなんでも色々、事が運び過ぎな気もする。
そんなに、おっぱいを軽々しく乗せる女の子や、手作り弁当を作って来てくれる女の子がいるだろうかって。
出会って間もない僕の身を、あんなに親身に心配してくれる子達なんているだろうかって。
もしかしたら今でも夢を見てて、僕はまだ転校してないのかもしれない。
「それは…嫌だな…もし…全部、裕美子さん達も居なくて「いっくんめーーーっけ!」………あ…」
「えっ?…およっ…?」
視界が塞がれて、声が届く。
背中におっぱいの感触も一緒に。
思わず安心して、目が潤んでしまった僕だった。
「イッチーゴメンな?ちょっと驚かせてやろってヒナがさー」
「あんだよマシロもノリノリだったべ〜…でもいっくんマジごめん」
「いやいや!僕こそ勝手に不安になって恥ずかしいですよね…」
姫奈さんの声に続いて真白さんの声も聞こえて、本当に夢じゃないなって落ち着けた。
勿論…最後には。
「いや、やっぱアタシ等距離感バグってんよな壱正…」
「でも…そこが裕美子さん達の良い所じゃないですか」
「それに裕美子が三十分も早く着いたから思い付いたネタだしね〜」
「なー」
「関係ねぇだろお前らなぁ!」
そうなんだ…そんなに早く…僕が土地勘無いから、なるべく早めに来ようとしてくれたんだ。裕美子さん。
やっぱり、凄い優しい女の子だ。
「ていうか…」
『?』
「皆さん、今日の服、可愛いですね」
「おーいっくんわかってんな〜。イイだろこのマインレイヤー系女子〜」
「マイ…?」
「地雷系なイッチー。ヒナこんなんしか持ってねーのよ」
「な、なるほど…」
ピンクのフリルのついたシャツに、スカートも短いけどフリル付きで、バッグとか小物もみんな可愛い系のなんだな、姫奈さんは。
「こんなんじゃねーし〜。オフショルしか持ってねー風邪引き予備軍に言われたくね〜」
「ワンショルもあるっつーの。つかギャルは肩出してなんぼだし。なぁ?イッチー」
「そう…なんですね!」
真白さんはいわゆるオフショルダー?っていう肩が見えてるタイプのセーターに、ショートパンツでおへそも見えてて露出がかなり多い格好だ。
でも自信たっぷりに着こなしてる感じがカッコいい。
「壱正まともに聞かんでいいから」
「あはは……裕美子さんも、とても良く似合ってますね」
「ん…サンキュ」
裕美子さんはダメージデニムに、シンプルな白いTシャツで、上に黒いライダースジャケットだ。
クールでカッコいい装いだなぁ。
あと…やっぱり皆、私服でも、おっぱいが凄い目立つな…大迫力…!
「つかバイクで来たいっくんがライダース着てなくて、裕美子着てんのなんかウケる」
「おーそれなー」
「バイク乗らなきゃ着ちゃいけねー訳じゃねーし」
「そうですね。ライダース着なくてもバイク乗れますから」
「アッハハハハ!やっぱイッチーあーしらのノリ分かって来たなぁ!」
「よっしゃご褒美に一回おっぱい乗せとくべ」
「もーいーから先にメシ食うかんね!」
『うーい』
大変だけど楽しそうな一日になりそうだ…。
「つー訳で家政部よーやくちゃんと部になってー…あとイッチー入部おめのかんぱーい!」
『かんぱーい!』
「ってもー少し纏めろし真白〜」
「まー何でも良いっしょ?」
「すいませんわざわざ」
先にお昼って事で、モール内のバイキング…ビュッフェ?かな。で腹ごしらえ。
ランチ千円で色々食べ放題だから高校生にはありがたいね。
「良いんだよ。壱正入ってねーとこうやって出来なかったんだから」
「ホントありがとな〜」
「今日はあーしらの奢り!…に出来る程金ねーけどいっぱい食えよイッチー!」
「はい!」
って意気込んではいるけど、皆結構なボリュームでもう盛ってあるなぁ。
唐揚げにグラタンにパスタにハンバーグ。
麻婆豆腐に焼きそばに餃子に春巻き。
天ぷらにお寿司に茶碗蒸し。
和洋中全部取って所狭しと並んでて。
「あーマシロ醤油取って」
「ヒナの方がちけーし、つかあーしのマーボーのレンゲ手元に置くなー」
「…コイツら結構食うだろ?」
「ちょっと…意外でした」
「普段は材料費に当ててっから、昼メシは抑えめなんよ。だからこういう時は全力。ウケるっしょ」
「でも楽しいです。こうやってワイワイ食べるの、とっても久しぶりなので」
「っ……そっか。んじゃ壱正も沢山食べろ!早くしないとミニトマトだけ置いとくぞ〜!」
「それは困るので頑張りま〜す!」
「あー食った食った〜お昼寝すっか〜」
「ヒーナ何しに来てんだよ…」
「イッチーどっか行きてートコある?ってまだわかんねーか」
「はい…やっぱり雑貨屋さんとかが良いんですかね?」
食べ終わって、ショッピングモールの中をぶらぶら歩く。
前に住んでた所はお店毎に店舗が個別にある所だったから、こうやって大型商業施設の中を歩くのも結構新鮮だなぁ。
「んー、まぁ要は一番最初に決めんのは外観?つか全体のフンイキが良い訳なんだろな」
「このちっちぇー…一角がウチらのか〜」
裕美子さんが取り出した薄い小冊子。
それまでの展覧会のイメージが乗ってて、いわゆるミニテントにデコレーションした出店でそれぞれ個性を出してる感じだった。
行った事無いけど、ネットで見るライブとかの物販?の感じにちょっと似てるかな。
「カワイくてー、カッコいいのがいーべ」
「そうですね。見た目のインパクトは大事ですよね」
「じゃあカラーイメージだな〜何色にすん?」
『…』
皆一瞬だけ沈黙する。でも直ぐに言葉が出た
『黒と白だな』
「あっ」
ギャルの皆さんはやっぱりそこに落ち着くんですね…。
「んじゃどうすっか?とりあえずバラけるっしょ?」
「壱正はどうすんだよ?」
「あ、えっと…そうですね。出来れば皆さんのイメージをもっと知りたいです」
その上で、ステッカーのデザインが思い浮かぶ事もあるだろうし…。
「じゃあ、いっくん全員と同伴って事で〜、よろ」
「へっ?」
「じゃー先ずあーしからな!」
「よ、よろしくお願いします!」
てな訳で姫奈さんの提案もあって、皆と一人ずつ、それぞれの買い物を一緒させてもらう事になった僕。
真白さんと二人きりで話すのも初めてだから、ちょっと緊張するね…。
「固くなんなってイッチー。いや、あーし相手じゃカタくなってもしゃーねーけど」
「?」
ど、どういう意味だろう…えっと…多分真白さんの事だからエッチな意味なんだろうな…。
「…ゴメンゴメン。やっぱイッチーピュアでカワイーわ。あっちの生地屋見てこーぜ!」
「はい!」
真白さんが案内してくれたのは大きな筒状に丸まった生地が沢山並んでるお店だ。
基本色から柄物まで色とりどりに並んでる。
「お!この柄いーな!最近入ったんかなー」
「真白さんは生地から服を作る様になって結構経つんですか?」
「おーんそうだな…小五?からだから…結構だな!」
「凄いですね」
アバウトだけど、確か家庭科の授業って本格的に始まるのが小学五年生からだから、ずっと手作りしてるって事か…。
「確かねー、ナップザックかなんかだったんだけどー、家庭科の担当のセンセーがさー、どう見てもヨレヨレな作り方なのに、教科書に書いてあんソレ通り作れってうっさくてさー、そんでもーいーやイチからあーし作ろ!ってなって!その次のエプロンから完全ハンドメイドってなった訳よ!」
じゃん!って感じでそのエプロンの写真をスマホから見せてくれる真白さん。
凄い…かなり細かなフリルが波波とあしらってあって、とても小学生とは思えない細やかさだ…。
「アンミラの制服っぽいエプロンでねー、でももっとギャルっぽくイケイケな感じにしたんよ!ほらココスリットがカッケーっしょ?」
「ホントだかなり深い切れ込みがシュパッって入ってますね」
「このチラ見せ生脚がキモなんだぜーふふん!」
腕を組んで凄いドヤ顔で自信満々な真白さん。
胸を張ってるから、おっぱいも凄く迫力あるなぁ。
だけど自分がカッコいいと思ったモノは絶対に完成させようっていう気概をとても感じた。
真白さんに任せれば、きっとカッコいいイベントTシャツが出来る筈だ。
「あっおじさーん!このマットブラックの生地四メートルねー!コッチのシャンパンゴールドは三・五おなしゃーす!」
「へぇっ!?」
「だいじょーぶ大丈夫!そんなんあっという間だから!イッチー一緒に運ぶのよろー!」
「は、はーい!」
カッコイイし…ド派手なのが出来そうで楽しみだね。
「さーいっくんイチャイチャラブラブちゅっちゅデートしまちょ」
「ひ、姫奈さん!?」
「気にしない気にしな〜い」
と言っても思い切り腕を組んでるのだけれど…。
真白さんと交代して、次は姫奈さんと手芸屋さんを巡る。
生地屋さんの迫力あるラインナップの風景とはまた違った、無数っていうぐらい沢山の小物、小道具が所狭しと並んでる所だ。
「いや〜こういう風なのやってみたかったんよ〜」
「そうなんですか…僕で良ければ…どうぞ」
「あんがとな〜いっくん。いっくん優しくてすきー」
「僕なんかで優しいですか…ね?」
「自信持ちな〜。いっくんは〜良い男だぞ〜ちょっと女タラシでシャアっぽいけどね〜」
相変わらずガンダムの事はよく分かってないけど、とりあえず一番有名なキャラクターのシャアは女の人をよく誑かすんだね…覚えちゃった。
「ウチいっつもこんなノリでしょ〜女子からはウザがられるし〜、男子からはアホでユルそーな手頃女だと思われてるフシあっからさ〜」
「…あんなに集中した顔で細かな作業を精密に行える姫奈さんが…ですか?」
でもそれは僕が見た事あるからで、外面からしか知らない他の人達は、確かにそこまで思い浮かばないのかもしれない。
ううん。僕だってもしこのまま関わり合いにならなかったら…って思ったら、決して他人事では無い事だったんだろうな。
「ウチほらすっとろいっぽい思われてるトコあるし〜、小学校はもち、中学も途中までは鈍臭女扱いでね〜、筆箱とか髪留めとか〜、小物系他の子と被っと、マネすんなとかパクんなとか言われてた訳よ〜」
「…」
真白さんも姫奈さんも、何時も元気で明るいけど、だからってずっとそうだったって訳じゃなくて。
それでも今こうやって明るく元気に居られる…居ようとできる強い女の子達なんだな。
「…わりシリアス勘弁よな〜。でも別に〜パクってねーし?真似する気もさらさらねーのに?なーんでそんなん言われなきゃだし?って思ったらさ〜、んじゃもーウチだけのモン作るしかねーべ?ってなったんよ〜」
「そうすれば…誰にも何も文句は言わせませんものね」
「そ!さすがいっくんよーわかってるわ〜すき〜」
「あはは…」
褒めてくれるのは嬉しいんですけど、ピッタリおっぱいの谷間の所に僕の腕を挟むのは止めて欲しいというか…凄い…やっぱり爆乳のおっぱいの谷間ってとってもほっかほかなんだなぁ…。
「だから、ウチも他の出店と全然被んね〜雑貨、沢山作んね?」
「はい。楽しみです!」
「王の帰還である〜」
「姫奈なげーし、壱正疲れてないか?」
「大丈夫ですよ?楽しかったですし」
「ふーん…」
あれ…裕美子さんを気遣わせまいと思って言ったんだけど、ちょっと不服だったかなぁ…?
女の子の気持ちは中々難しい…ね。
「んでとりま裕美子は何出すん?」
「えっ?アタシ?」
「だってあーしとヒナは今イッチーと周ってきても、つまるトコ、学校でのエンチョー?みてーなもんだし、裕美子が作る料理がキモっしょ?」
「別にアタシのメインにする訳じゃねーケド…うーん…」
悩む裕美子さん。
お昼のお弁当もだし、部活の時の飾り切りもだけど、何でも料理は器用にこなせる人だと思うから、何を出しても美味しいとは思うけど…。
「とりあえず…僕達も一緒に見て回り…ませんか?」
「っ…ん…いいよ」
やっぱり、それが手っ取り早いしね。
ーーーーーーーー
「悪いなー…壱正」
「気を落とさないで下さい!僕も頑張って考えますから!」
あの二人の余計すぎるお節介に巻き込まれて、壱正と二人、あちこち見て回る事にした。
しかしまぁ…提案した本人の割に、案の定壱正は二人にされたホントの意味自体は、よくわかって無いみたいだけど。
「(なら…シンプルに料理の事だけ考えられるかな)とりあえずアッチ行っていいか?」
「ハイ!」
「うわあ…凄い。調理器具一杯ですね!」
「ん。デカくて結構良い店なんだ。ウチの父ちゃんも使ってる…」
「?裕美子さんのお父さんは料理人さんなんですか?」
「ああそっか…言ってなかったよな。アタシ、実家が和食割烹なんだ。つっても半分居酒屋みたいなモンだけど」
「だから裕美子さんのご飯は凄く美味しいんですね」
「っ…それは、知らねーけど」
コッチしっかり見て笑顔でそんな事言う壱正。
ていうか、アタシ自身実家が飲食店なのを他人に堂々と言うの、初めてかもしれない。
料理屋で、その娘で、こんな感じの見た目って言うと、どうしても色眼鏡で見られて来たから。
それでも素直に言えたってのは…やっぱり壱正のこと、信じてる…のかな。
絶対…物珍しい目で、見ないって。
「でもココに入った時から裕美子さんの目がキラキラしてますから、普段の道具も使われるのが嬉しいのかもしれませんね」
「そんなん知らないし…まー確かに、道具は大事に扱ってる。それで一つ一つ使いこなせる様になったら、また新しいの使いこなせる様に、練習するんだ」
「あっ、僕も全然年季違い過ぎますけど、バイク乗る様になって、そういう気持ちが芽生えて来てます」
「壱正ならモロそういう感じだもんな」
「そ、そうですか?」
「うん」
自分で見つけたモノ、一つ一つ大事にするタイプだなって、凄いわかりやすいから。
昨日のだって、多分壱正なりにアタシ等の事守ろうとしてくれたんだよな。
出会ったばっかりなのに、あんなに威勢張ってさ。
壱正に大事にされたら…幸せなんだろう…な。
「(それが…モノだけじゃなくて、人…でも…なんて)」
「あの、裕美子さん」
「ん?」
「もし…良かったらなんですけど、裕美子さんが料理をしようと思った理由を、聞かせてもらっても良いです…か?実は二人にも教えてもらって、そしたら良いステッカーのアイデアになるかなって」
「!…い、いいよ?」
ちょっと急に来た質問に、面食らうアタシ。
だけどアタシの事を自分から知ろうとしてくれてる壱正に、ちょっと胸が高鳴っちゃったのが分かった。
落ち着けアタシ。ゆっくり…ゆっくり話せば良いだけだから…。
「ウチ、早めに母ちゃん死んじゃってさ」
「!そうなんですね…僕も…父さんは物心つく前に…です」
「そっか…壱正も大変だな」
「いえいえ!料理を頑張る裕美子さんのが凄いですよ!」
「ありがと。まぁ確かに?一人で頑張る父ちゃんの姿見て、アタシも早くいっちょ前の料理人になりたいって思いもあって、頑張ってんだけど…やっぱ一番はシンプルに、作ったモノ美味しいって言って貰えた時が、嬉しいからなんだろなーって…」
今までもばあちゃんやお客さん、あとホントに時々父ちゃんにそう言われて嬉しかった時はあった。
それが凄くモチベーションになってた事も。
でも…この間のお昼。
あの時、重箱に詰めたお弁当、一つ一つ…全部美味しそうに食べる壱正を見て、今までで一番美味しそうにアタシの料理を食べてくれる人だなって、思っちゃった…んだよな。
「…裕美子さん?」
「?…!お、おいちけぇよ…」
そんなジッと見つめんなって…てかまつエクも付けてねぇのに睫毛長いな壱正…。
眼も…透んで綺麗だし…。
「すみません急にボーッとしてたので…具合悪くなっちゃったのかなと…」
「あぁ…悪い。元気だから心配しなくていいかんな」
「わかりました!」
ニコニコまた笑って、可愛い顔で至近距離で見るな…。
熱無いのに、ほっぺめっちゃあっちぃんだよ…もう…。
「ちなみに、出す料理はやっぱり和食にするんですか?」
「あっ…ああ…うーん、でも姫奈や真白は洋裁で、カジュアルな感じだからなー…もっと食べ易そーな感じが良いのかな?」
「出店ですしね…なるべくコンパクトで…歩きながら食べられるモノ…おにぎり…は、流石に安直ですよね…」
目線動かしながら、色々考えてるっぽい壱正。
自分の事じゃないのに、自分の事みたく考えてる。
そういうのが、初めて会った時にも現れてたんだろうな。
あの時の、一瞬目が合った時。
引ったくりに会って、泣きそうだったアタシに壱正が、ヘルメット越しだけど、絶対取り返してやるって目で見てくれた事を覚えてる。
自分のとか他人のとか関係無く、悲しい思いさせたくないって、そんな目。
「…あの、裕美子さんは何が良いと思いますか?」
「っ!あ、アタシ?そだな…どうすっかな…」
って何また意識飛ばしてんだし…つか、またそんなジッてこっち見んな壱正…近い…。
時々距離感バグってるよなコイツ…顔あちーんだけど…。
「別に和食に拘る必要も無いだろうけど…うーんファーストフード的なヤツが良い訳だよな?」
「ハンバーガーとかサンドイッチはどうでしょう?」
「パンってコスト結構掛かるんだよ。最近小麦たけーし」
「そうなんですね!流石割烹屋さんの娘さんです!」
そんなにキラキラした目で感心すんな…。
直ぐに人の事褒めるし、お人好しなんだからさ…。
「このナリで娘さんなんてタチじゃねーし、まぁでもそうだな…あ、ライスバーガーでもやるか。かき揚げとか挟んで」
「良いですねそれ!なんかもう食べたくなってきました。あははは…」
「さっき食ったばっかだろバカ…」
なんて言っても、ついアタシも笑っちゃう。
隣を歩く男と一緒に笑って買い物してるって、もしかしたら側から見たら…付き合ってるっぽく…見えるのか…な?
「じゃああの、かき揚げタワーを揚げる器具が要りますね!」
「あんなの挟めねーじゃん…いやインパクトはあるか…?」
「ハイ!」
ハイじゃねーよ…ふふっ。
「うぇーいカノジョ〜ウチらと遊ぼーぜうぇ〜い」
「姫奈重い」
「イッチーはもう、あーしらのおっぱい重く無いべ?」
「すみません重さについてはノーコメントで…」
三十分くらいして、漸く姫奈と真白と合流。
さっき壱正に付き合って貰ってんのに、新しく結構買い込んでんし…。
「もう決まったん?」
「んー。大体こんなモンかなーっての片っ端からね〜」
「イッチーまた良い生地あってさー!大分買っちった!」
「大荷物じゃんよ…ウケるな」
「今から完成が楽しみですね」
壱正も興味津々だな。
何にでも食い付いてくれるのはコイツの良い所だけど、特別扱いではないってのは、ちょっとヤキモチ妬いたりは…する。
「しっかしアタマ使ったら甘いモノ食いたくならね?」
「それな〜キューケイすんべ」
ーーーーーーーーーー
「ん〜♪うまっ」
「この生クリームの暴力が堪んねぇのよ」
買い物終わりに一息吐くのにフードコートでクレープ。
って言っても食べてるのは三人なんだけどね。僕はジュースだ。
さっき沢山バイキングで食べたけど、やっぱ女の子は甘い物は別腹なんだね。
「あーイッチーコイツら食うなーって顔で見てんぞ裕美子〜」
「えぇっ!?」
「壱正…食べたいのか?」
「いやいや!僕はまだお腹いっぱいですから!」
「ま〜その内慣らしてきな〜いっくん。ウチらはさ〜爆乳キープの為に必要なカロリーだから…おっと」
なんて事言いながら、おっぱいの上にちょっと生クリーム落としちゃう姫奈さん。
テーブルじゃなくておっぱいがクッションになるのが、やっぱり凄いおっぱいなんだなぁって感心してしまう。
というか…。
「そういえばその…今更なんですが…姫奈さんと真白さんは…僕に、その、胸を触れさせるの…大丈夫なんですか?」
『…』
思い切って聞いてみた。裕美子さんはちょっと真剣な顔だ。
昨日の話もあるから、もう少し男性に警戒心を抱いてもおかしくない気がしてたんだけど…二人は変わらずにスキンシップしてくれる。
だからか、二人は目を丸くして暫く固まってた…?
「なーる、漸くイッチーも疑問に思ったな」
「夢から覚めちったか〜」
「あっ、やっぱり何か理由が「ねーよ?ただイッチーは大丈夫そうだから」えっ?」
「いっくんには、乗せても危険ではないと思うからよ〜」
「あ、だからって男としちゃダメって訳じゃねーよ?」
うーんどういう事なんだろ?男として見られて無いという訳でもないという事?
でも変な意味なくおっぱいは乗せに来てくるというのは…???
「やっぱさー、この爆乳だと疲れる訳。ぜってー羽休めは要るワケ」
「は、ハイ」
「でも〜、他の男は乳に邪念抱くじゃ〜ん」
「イッチーは、乗せても揉まなさそうだったから乗せた訳よ」
「は、はあ…」
うーん?やっぱりよく分からない。
でも、多分二人もそのスタイルの良さからいろんな目に晒されてたのかもしれなくて、それでもし僕が安心出来る場所になれるのかもしれないなら、協力してあげたいな。
「…アタシは気安く乗せさせすぎだと思ってっからね」
「はい…って僕の問題ですか?」
「青戸センセにもやらせてるし壱正!」
「それは…中々逃げられないんですよ〜!」
あんなにおっぱいに囲まれたら、身動き取れないですって裕美子さん!
「つっても裕美子もそう思ってから、許可してっ的なだから安心しろしイッチー」
「それな〜。裕美子の男にこんな柔い態度見せんの早々ねーもん」
「うるせー…」
「…良かったです」
そっか。裕美子さん…今の真白さんと姫奈さんの話と合わせても、男性から、あんまり良い思いはしてこなかったんだろうな。
それで僕なら大丈夫って事なら…大丈夫な男子で居てあげられたら、良いな。
「つってもいっくんも男だから、揉みたい時は良いな〜」
「下乳なら良いぞー」
「???」
「はぁお前らさぁ…まぁ良いや。壱正。こんなんだけど、頑張ろうな」
「…はい!」
「今日は…楽しかったな」
夕方になって皆と解散して、ちょっと遠い所停めちゃったバイクに乗って、帰り道に着く。
思い返せば、こんなに一日中遊んだのは初めてかもしれない。
それくらい、今までの僕の人生の中でも珍しい事だと思う。
僕も裕美子さん達を色眼鏡では見ないでいるつもりだけど、裕美子さん達も僕の事をそういう風に見ないでいてくれるのが、ありがたくて、暖かい気持ちになる。
何より今日は、三人の事を今まで以上に沢山知れて、もっと仲良くなれた気がする。
「コレからも…ずっと……っ…?」
そんな風に未来の事を思い浮かべ様とした矢先、目の前の交差点から、一時停止を無視して飛び出して来た一台の原付二種のスクーター。
目出し帽まで被って悪い奴だななんて思うのも束の間、その雰囲気に、僕の頭の片隅が引っ掛かった。
「アレ…もしかして…!」
黒いスクーターなんて珍しくもなんとも無いけれど、でも覚えてる。
何せ今日もまた、乗っている人間とは似つかわしくない女性のバッグを足元に置いていたから。
あの時の、バッグこそ取り返せたけど逃してしまったスクーターだ。
「どうす……っ…!」
迷った瞬間、裕美子さんの顔が思い浮かんだ。
僅かながらでも知った、裕美子さんの哀しい気持ちになった時の顔を。
そうだ。そこまで信頼してくれたあの人に、今度また同じ様な事が起きるのは、僕が我慢ならない。許せない。
だから…行こう。
「ッ!」
あの時みたくまたバイクをUターンさせて、スクーターが通った道を追う。
姿が中々見えない。この辺りはまだ走り慣れてない道だから、やっぱり土地勘を活かして逃げ…!
耳に入る、微かな排気音。荒っぽい吹かし方でどんどん遠くに向かって行くのが分かる。
「いやもしかして…!やっぱり!」
「…」
サイドミラーに映る、後方に走り去る影。
恐らくは僕の存在を横切った時に認識して、脇道から回って戻って来たんだ…!
「今度こそ…っ!」
捕まえて、裕美子さんを不安無くさせたい。
僕の為に想ってくれる人に、僕も応えたい。
「!…クソっ…」
だけど振り返れば一時停止の道で、運悪く車の流れが続いて、早々に渡れない。
排気音はどんどん遠くなって、とうとう視界から消失してしまった。
せっかく捉えられたあの犯人を、今度の僕は、追い掛ける事も出来なかった。
「皆の事もっと知れて良い日だったのに…最後に、ケチがついちゃったな…」
「…どうした壱正。今日は楽しくなかったのか?」
「ううん。皆と遊びに行ったのは凄く楽しかったよ」
帰宅して、いつも通りにおじいちゃんおばあちゃんと夕食を囲む。
けれどさっきの事が頭から離れなくて、上手く喉を通らないでいた。
「じゃあ何か壱正ちゃんの嫌いなもの入ってたかい?」
「ううん。今日も美味しいよおばあちゃん。ありがとう」
「そうかい…」
ちょっと心配させちゃってるよね…よし。
「おじいちゃん」
「うん?」
「おじいちゃんはさ、白バイ隊員だった頃、悪い人を見失っちゃった時もあった?」
こういう時は、思い切って聞いてみよう。
その方が、分かる事もあるだろうから。
「うーむ…そうだなぁ。正直若い頃は全部の違反者や逃亡者を検挙出来てはいなかったな」
「そういう時って悔しい?」
「それはそうだ。だから次は絶対逃げられない様に沢山練習したなぁ」
ちょっと遠くを見る様に話すおじいちゃん。
でも昔の話でも、よく覚えてる様な顔だった。
「…それでもな、こう言い聞かせたんだ。少なくとも自分が追い掛けて暫くは、少しだけ平和が保たれる…とな」
「!…」
「勿論その後起きるかもしれんという不安はあったがな。でも少なくとも自分の目が見ている内は…いや、捕まえるまで見ているぞと、心に決めていたぞ。気休めかもしれないが」
「おじいさんはそういう日は必ずケーキを買ってきたのよね。イライラをお家に持ち込まない様に」
大分昔の話でも、昨日の事みたく話すおばあちゃん。
そういうの、全部覚えてるんだろうな。
僕も、裕美子さん達との出会いを、ずっと覚えていられるかな。
「…おじいちゃん。お願いがあります」
「どうした?」
「僕…もっとバイクの運転上手くなりたいから、教えて下さい」
「壱正…何か、理由があるんだな?」
「…」
無言で頷く。事細かに説明したら、多分おじいちゃんは首を縦には振ってくれない気がして。
だから目を見て、決意を汲んでもらうしかないんだ。
「…わかった」
「!ありが「ただ、教習所の比ではない厳しさだから、覚悟するんだぞ」っ…が、がんばるよ!」
顔つきが変わったおじいちゃん。
でも、僕も出来る事をしてみたい。
コレから展覧会まで…ううん。この先もずっと、裕美子さんに不安が無い様に、僕はしたいんだ。
ーーーーーーーーーー
「ククク……ハハハハハ!!!!!」
ガレージ内でほくそ笑み、大声を上げる男。
喜びの余り脱いだハーフヘルメットを放り捨てる様に投げ、布の破れたソファーに横たわった。
「アァ…ただでさえ上手パクれた上にあのクソヤローも撒けたんだ…面白くねぇ訳がねぇ…ハハハハハ…」
バックから取り出した財布から、紙幣を指折り数え、しかしその頭の中では別の事柄を思い浮かべていた男だった。
「つーか…やっぱりあのヒョロカスだったなァ…大口叩いてあのレベルかよしょうもねぇ…」
嘲笑しつつも、胸の内に未だ怒りを宿す男。
しかし直ぐにその顔つきを最も醜悪なモノに変えると。
「まァ折角だしなァ…今度こそあの女から大事なモン奪って…完全に屈服させてやるかァァ?…ハハハハハ!!!!!!」
ーーーーーーーーーー
それから約一ヶ月、僕等は黙々と、時々(主に)真白さんと姫奈さんのおっぱい攻撃に巻き込まれながら、料理、服飾、手芸作品、そして部活のロゴマークにもなるステッカーのデザインを、頑張って作っていた。
勿論、その合間合間におじいちゃんのバイクの猛特訓…ていうかもう、鬼訓練を受けて。
「…あ、コレカリカリの衣とタレの染みったご飯が抜群に美味しいですね!」
「そっか。衣重めだからタレを出汁効かした
タイプにしてみたんだ」
「コレなら何個でも食べられそうですよ裕美子さん。海苔もパリパリで美味しい〜!」
裕美子さんのライスバーガーの試作も好調で、売ったら普通にお客さんがリピートして買ってくれそうっていうか、ちゃんと売り物として完成された美味しさになってる。
凄く、人気が出そうで楽しみだ。
「イッチー沢山食えよー。裕美子のラブバーガー」
「んー?つかいっくん最近妙にガタイ良くなってね?」
「そう…ですか?」
「うん」
今日も変わらず姫奈さんと真白さんは僕の肩におっぱいを乗せてリラックスしてるんだけど、感触が変わったんだろうか。
「ホントだ腕がカテぇ。バッキバキじゃん」
「いっくん男性ホルモン出し過ぎはカワイー顔が髭ボーボーになって裕美子悲しむぞー」
「いやアタシは別に……でも確かに壱正、なんか、筋肉ついたな」
「そうですか…ね」
多分、おじいちゃんとの特訓で、毎日毎日重たいバイク引き起こしては倒したり起こしたり、押したりしてて、勝手に筋トレになっちゃってるんだろな。
「まー男は必ず筋トレブームが来る生き物だからしゃーねーよ。ウチのバカ兄貴もそう」
「マシロのにーちゃん一時期肌テッカテカでキモかったもんな」
「それよ。筋トレしても良いけど家族に見せびらかすんは無理寄りの無理」
「壱正は見せびらかしたりはしねーから大丈夫だろ」
「あ、ハイ…」
…ちょっと考える。本当の理由を言うべきかどうかは。
でも、もし知ったら裕美子さんは心配しちゃうかもしれないから、今は黙っておこう。
それにもしかしたら、使う時も来ないかもしれないから。
「ま、爆乳置きやすいからオッケーだぜイッチー!」
「それな〜」
コレは副次効果っていうのか、功罪っていうのかは僕にも判断しかねるけど…。
ーーーーーーーー
「よし、着いたな」
「お〜結構広いじゃん〜」
放課後、アタシ達は青戸センセの車に乗って、展覧会の会場まで連れて来てもらった。
学校から車で二十分位。隣町の大きめの公園のイベント広場での開催みたい。
ちなセンセは軽自動車だから四人乗りだから、壱正は自分のバイクでだ。
しかし会場見渡すともう、テントの骨組みなんかが並んでるな。
「彼処だな。我々の受け持ちは」
「どこ…えーせんせー地味じゃね?」
「仕方ないだろ。抽選なんだから」
「でも中々開放的なところですよ真白さん」
「まーイッチーが言うならいっかー」
「マシロちょれ〜」
「ん…(でも確かに目立ち難いトコだな)」
場所的に言うと入り口入って左奥、しかも手前隣に大きめの木があって目立ち難い所だった。
ココだと右から回って来ないと中々気付かれないかもしれない。
「僕も呼び込み頑張りますから!」
「頼んだぜ〜いっくん〜」
「壱正ばっか頼りにしないでアタシ等もガンバ……ん…」
なんて、色々言ってたら、他の準備来てる高校の人らから、なんとなくジロジロ視線が向いてるのがわかった。
多分、アタシ等の格好からしても、テキトーにだとか、参加するだけみたいに思われてんだろな。
「お?あーしらケンカ売られてん?」
「抗争か〜?」
「何、別に見下してる訳でもなかろうよ」
『?』
「あ、あの!」
わ、なんか、向かいの出店の女の子等が話し掛けて来てくれた。
髪黒くてキレーな子達だな〜清楚系で可愛い。
「何…?」
「そのシュシュめちゃくちゃ可愛いですね!手作りですか?」
「およ、おねーさん達コレの良さ分かるたあマ・クベだねぇ」
「わかんねー例え言ってねーで説明したれよヒナー」
なんて真白にけしかけられたら、そのまま説明したげる姫奈。
こんな風に興味持ってもらえるの、初めてだな。
「そのワイシャツのカスタムもカッコいいですね!」
「おっ?わかるー?あんがとなー!」
真白も真白で満更でも無さそーだし、なんだろ、ここの会場ってか他のガッコの連中の空気、案外悪くないかも。
「あの…」
「ん、なに?」
アタシにも、可愛いボブカットの女の子話しかけて来てくれた…。
「爪、凄く整えられてて綺麗ですね。お料理上手なんですね」
「!…ジェルネイルなのわかって…うん。アタシが上手かは良くわかんないけど…確かに好きではある…かな」
「!私もなんです!良かったら本番は味見しあいませんか?私はエスニック料理で、ガパオライスを和風にアレンジした一品なんですけど…」
「お、おう…」
凄くグイグイ来ながら興味持たれてる。
だけどモノ珍しさというよりは、ただただ気になる、知ってみたいって好奇心で。
好きなモノが同じなら…外見は関係無い…って事なんかな。
そういう気持ちで、壱正もアタシ達に寄り添ってくれて…?
「アレ…壱正は…?」
「むォォ!!そこの御仁!コレは最高出力十五馬力を誇る125クラスでもフルスペックを以ったハイパフォーマンスマシン!」
「スロットルレスポンスが中々ピーキーな事で知られておりますなぁ!」
「あはは…ありがとうございます…」
「(まぁ…アレもアレで…交流は深まってんのか…な?)」
「どうだった?中々面白い子達が沢山いるだろう?」
「それなー玲香ちゃん!皆いい奴だわ!」
「デザぢゃなくて縫製褒められたんウチ初めてだわ〜あげぽよ〜」
「あげぽよとか何年前だしウケんだけど姫奈よー」
姫奈も真白も、めっちゃ嬉しそうだ。
かくいうアタシも、色々話せて良かった。
普段の学校じゃ、先ず感じれなかった事、いっぱい感じれて…よかった。
「単に気になるんだよ。皆出し物に個性を出したくなるからな。キミらの様な者達が作るモノがなんなのか、気になって仕方ないんだろう」
「確かに…僕もいきなり皆さんの出店みたら気になると思います!」
壱正…相変わらず素で思った事言うよなお前はさ。
でもそういう視点で見てくれてて、多分当たってるんだろうから、なら当日は。
「んじゃいっちょ、本番はもっとビックリさせてやっか!」
『おー!』
「ただいま」
「おう裕美子。今日は団体二組入ってるから忙しいぞ」
「へいへい」
テンション上がったまま帰宅するも、父ちゃんの予告がかったるいけど、今日の良い日に免じて答えとく。
正直やる気みなぎってる分、ライスバーガーの試作を頑張りたいけど、一応材料の提供してくれる条件でこの繁忙期の手伝いが交換条件だから仕方ない。
「…あとお前、俺に言っとく事あんじゃねぇのか」
「は?何」
「今日警察から電話掛かって来たぞ。先月の事でってよ」
「あー…アレか。で、なに「何じゃねぇだろう!!」っ…なんだよ大声でうっさいなぁ」
遮ってまでキレ散らかす意味わかんない…。
なんで急に怒ってんのこの頑固オヤジ。
あーもう折角の下見での良い気分が激萎えだわ。
「引ったくりなんてなんで親に言わねぇんだ」
「だって…ちゃんとお財布帰って来たし」
「それでも危ねぇ目に合ってんだから言え」
「っ…」
仕込みしてた包丁置いて、エプロン着けるアタシの方ジッと見て言う父ちゃん。
母ちゃんの事があるから…そりゃそういう気持ちも分かるけどさ。
「しかも見ず知らずのあんちゃんに助けてもらったそうじゃねぇか」
「っ…(なんで知ってんだし。あの警官喋ったな…)」
「タツさんのお孫さんなんだぞ、そのあんちゃん!」
「…えっ!?」
流石に声が出た。
まさか…壱正、タツさんの孫だったのか。
やっぱりこの間の引っ越して来たバイク乗ってる孫ってのは…そういう事ね。
多分壱正は言ってないだろうから、タツさんが警官ヅテで聞いたんかな…。
「ご贔屓さんの身内に迷惑かけんじゃねぇ」
「迷惑はかけて…ない…と思う」
「礼はしたんか」
「うん…」
ちゃんとお礼になってるかはわからないけど、壱正…アタシのお弁当美味しそうに食べてたから、一応礼には…なったかな。
「…」
「…」
「…じゃあいい」
「!…うん」
ガンコ親父だけど、しつこいオッサンじゃない父ちゃん。
ちゃんと言っときゃ、それ以上は煩くない。
けど…今のはちょっと、ハズかった。
「うふふ…だから最近一層頑張ってたのね。裕美ちゃん」
「もうおばあちゃん…」
奥に手洗いに行ったら、ヒョコッと佇んでたおばあちゃんが笑ってた。
でもとりあえずコレで隠し事はナシだ。
あとはただ作るのに集中出来る。
壱正、頑張るからな。アタシ。
ーーーーーーーー
「ッ…」
「もっと着座位置の切り替えを速くだ!」
「(もっと…!膨らむ…!)」
「アクセルの開け戻しは瞬時にタイミング良く!!」
車体を左右に振って、庭に並べてあるコーンを何本も潜り抜ける。
おじいちゃんの特訓であるスラローム。
特に細かく、素早くて正確な挙動が求められる僕のバイクには、この練習が一番大事だった。
「…どう?」
「…さっきより遅いぞ。壱正」
「!そんな…」
「切り返しを急ぐ余りハンドリングが腕になっている。しっかり体重移動を意識せんとな」
「わかっ「所で壱正」…何?」
「その技術は、何に使うつもりなんだ」
「それは…もっと上手にバイクを…」
「操って、引ったくり犯を捕まえるのか」
「!…おじいちゃん…」
さっきまでの熱心な雰囲気から一転、静かに、だけど張り付いた空気を纏ってるおじいちゃんな気がした。
どっかで…バレちゃうよね。ただでさえこの町で起こった事件だし、御意見番のおじいちゃんにはいつか必ず耳に入る事だったよな…。
「壱正、お前はまだ普通の高校生だ。やる事はしっかり分別をつけなさい」
「でも…もしまた…って思ったらさ」
「…それで何かあったら、母さんもばあさんも私も…お前の仲の良い友達も悲しむぞ」
「っ…うん」
わかってる。わかってるんだ。
おじいちゃんの言う事は最もで、そうするのが当たり前なのを。
だけどココで、じゃあ早く捕まえてよって言えば良い事に、したくなかった。
僕…僕は。
「でも…せっかく出来た居場所と友達…傷付けさせたくない。悲しませたくないんだよおじいちゃん。僕、裕美子さんがあんな悲しそうな顔してるの、二度とさせたくないんだ」
「っ………まったく、いつの間にか良い顔をする様になったな」
「…」」
「だが先ず通報が第一だからな」
「はい」
「…よし。では一層厳しく行くぞ!」
「ハイ!」
もう一度気を引き締めてハンドルを握り直した。
「イテテ…今日も厳しかったなぁ…」
身体が相当バキバキで痛い。
握力もかなり使っちゃってる。
だけど今日も少しだけ、バイクの運転が上手くなった気がする。
使う必要が無いに越した事無いけど、それでも充実感があった。
バイクに詳しい人の知り合い?も少し出来たし、良かった…かな?
「…もう少し…よし」
だけど僕にはもう一つ、やらなきゃならない事がある。
「やっぱり…皆を繋いでくれた縁はコレだから…ココに配置して。後は…一人ずつを、それぞれ皆の好きなモノを、一つ一つ、分かる様に置いてって…」
スケッチブックに毎日少しずつペンを走らせて、形になって来たデザイン。
それがもう少しで、完成しようとしていた。
「筋肉痛治らないな…」
学校での授業にちょっと支障が出てるけど、もう少しで慣れるはずだと思って我慢しなきゃだ。
「そういえば展覧会の宣伝とかはどうしようかな」
裕美子さん達は、別に学校でしなくても良いってスタンスだった。
沢山の人に来て貰う事が目的じゃなくて、ただ見て貰える場が有れば良いって。
僕もその気持ちを尊重したい。少し…勿体ない気持ちもあるけど。
「友達居なくて一人でお絵描きかァ?」
「…」
「ちょい見せてみろよ…ッ…手前ェ…」
またちょっかいかけられて、スケッチブックを取られそうになったけど、しっかり抑えて、取られない様にする。
「良いから見せ………チッ…」
「人から物を取ろうとしておいて舌打ちとか、カッコ悪いね」
「オイオイちょっと鍛えたからってチョーシ乗んねぇ方が身の為だぜもやしっ子ヨォ」
「君程乗ってないよ。見たいなら見せて貰えるまで待てば良いだろ」
だから、堂々と見せた。
この人だけでなく、クラスの周りの皆にも良く見える様に。
家政部の皆が何をしてるのか、伝わる様に。
「三人は、自分の好きな物に熱中して、それを一生懸命取り組める場として、部活をやってるんだ。決して遊んでる訳じゃない。僕はそんな姿がカッコよくて、応援したい気持ちがあって、手伝ってるだけだよ。変だったり疾しい事だったりなんて、無い」
『…』
他のクラスメイトの人達も一斉にコッチを見て、耳を傾けてくれた。
驚いてる様な顔をしてる人も居れば、怪訝な顔をしてる人も居て。
だけど僕がスケッチブックに描いたその絵は、しっかり見てくれた気がした。
「あっそ。ま、ならもっと分かり易いカッコでやれってんだよなァ」
「分かりやすくカッコ悪い人よりカッコ良いよ」
「ッ……」
明らかに攻撃的な顔と目になる。
殴られるだろうか。だけどそれでも良い。
何も言えずに殴られないより、ずっと良い…!
「…ヤメだ。あーシラケたな」
「…」
「おいお前、口先と筋肉だけ鍛えてても…単車で撒かれてちゃ意味がねぇってのは、覚えとけよ」
「?………!(まさか…)」
その言葉に、思う様に返せなかった僕。
だけど浮かぶのは勿論一つ。
この間の事みたく、ありありと頭の中に写し出される。
とはいえ、今確かめる手段は…無い。
「…てな感じ…なんですけど、どうでしょう?」
『…』
モヤモヤした気持ちは残りつつも、放課後の部室で皆居る中、完成したステッカーデザインを見せてみる。
んだけど…じーっと見つめてて、感想が…無い。
と思ったら姫奈さんが。
「乳が…爆乳ぢゃない」
「それな」
「乳以外見ろよ……」
「なら、めっちゃ可愛い〜」
「それな!」
「ん…良いじゃんコレ。壱正」
「!ありがとうございます!」
良かった…喜んで貰えた…。
カートゥーンっぽくデフォルメした三人がそれぞれ服と手芸雑貨と料理を持って、シートを大きく広めに書いた僕のバイクに座ってるデザイン。
あの日に縁が出来たから、全部入れてみたかった。
それが何とかカタチにできたんだ。
「でもイッチーいなくね?」
「おーホントだ。いいんか?いっくん」
「いや、居んじゃんココ」
『?』
不思議がる姫奈さん真白さんに、裕美子さんが指差してくれた。
ヘッドライトの…所に。
「このライトのトコに描いてある眉毛と目、ビミョーにタレてんのが壱正でしょ」
「おーん…あ、マジだ!よく気づいたな裕美子!」
「やーばい察しパワーエグい。良くできた嫁はんやで〜」
「…別に見てりゃわかるし」
「ありがとうございます…裕美子さん」
「ん…まぁね」
正直自信は無かったんだけど、気付いて貰えて…良かったな。
気付いてくれたのが…裕美子さんで、とっても嬉しい。
「あ、アタシあっちのスーパー寄ってくわ」
「おん?コッチじゃダメなん?」
「かき揚げ用の桜エビ、あっちの方が良いのあんだよね」
帰り道、裕美子さんが思い立った様に立ち止まって、反対方向に足を向けた。
「んじゃ行くか」
「皆準備忙しーっしょ。大丈夫だって」
「でも裕美子「僕ついてきますよ!」お?イッチーだいたーん」
「スリーはガンダムの前番組ってか〜?」
姫奈さんに茶化されてる元ネタはわからないけど、やっぱり一人にしちゃいけない気がして。
「いや壱正も「ついてっちゃダメです…か?」そういう言い方は止めとけって…」
恥ずかしがってる裕美子さんだけど、嫌そうな顔はしてないから…オッケー…かな?
ーーーーーーーーーー
「ホントにちょっとの距離だったのに…」
「でも「でも、ありがとうな。壱正」!…はい」
姫奈と真白と分かれて、壱正と二人、帰り道と反対方向のスーパーへ歩く。
壱正が多分並び方考えて、左側の歩道を。
車道側からバイク、壱正、アタシの順で歩く。
「…ふふっ」
「?裕美子さん?」
「あーいや、なんか、壱正来てから変わったなーって」
「どういうことですか?」
目線を少し上げて、大分夕焼けが黒く染まり出してる空を見ながら、呟く様に声に出た。
「ほら、ウチら、別に目標とかがあった訳じゃなくてさ、単に好きなもの、やりたい事やりたい為だけに家政部作った訳」
「そういえばそうでしたね」
「そ。だからさ、あの日も終わったらテキトーに駄弁りながら帰って、家でマイペースに練習しようと思ってたんだ」
あの日。が何の日かは、言わなくても壱正の方見れば、勘付いた様な顔してた。
それは丁度、今日みたいな夕方だったから。
「したらあんな目あったっしょ。そん時ちょっと思ったんだ。あー、そっか。周りからテキトーな連中と思われてるから、こういう目会うのかなって」
「裕美子さん…!」
「どんだけ頑張ってもさ…結局外から見た部分でしか判断つかない事ってあんじゃん。そういうツケ?みたいなさ」
「…」
声の明るさが無いのが自分で分かる。
らしくない様に壱正には見えるかな。
でもこういう弱さが垣間見える所も、アタシなんだって、壱正は思ってくれるだろうか。
「したら、なんか、他のバイクの音聞こえてさ」
「っ…」
「そんで、それに乗ってるやつの顔が、凄く真剣でさ、ただ…真っ直ぐで、必死でさ」
「あ、あの…」
恥ずかしさが凄い。
なんでこんな口に出す様な事じゃない気持ち、ベラベラ喋ってんだろ。
でも壱正は真面目に聞いてるから、ちゃんと…最後まで言わないと。
「それで本当に取り返してくれたんだもん。ビックリした。見ず知らずの、どっからどう見てもギャルなアタシの為に、危ない事して」
「中々の、危なっかしさですよね…」
「そうだよ。ホント危ない。そんな頑張る事じゃない」
今度はちょっと心配気な顔で壱正を見る。
怒ってる…し、悲しんでる…様な顔で。
「すみません…」
「んーん。謝んのはコッチ。見ず知らずのアタシの為に、身体張らせてゴメン」
勢い付けてぺこっと頭を下げる。
一回、ちゃんとしとかなきゃって思ったし。
だけど、謝る以上に。
「それと…ありがとう。壱正」
お礼をちゃんと言いたかった。
壱正に、色々助けて貰っちゃった今までだけど、先ずは一番最初のコレに、ちゃんとありがとうって改めて言っときたかった。
「どう…いたしまして」
それに、照れ臭そうに笑って受け止めてくれる壱正。
ホント…カワイイ顔してるよな。コイツ。
こんなカワイイ顔して、いざって時の顔とギャップありすぎなんだよ…もう。
だから。
「好きだよ」
「…?」
思わず、漏れちゃった。
だけど丁度隣をトレーラーが通り過ぎて、声が掻き消された。
暗いし、あんまり表情もわかんなかったと思う。
それで、良かったかもしんないし、良くなかったかもしんない。
今はまだ…勝手に出ちゃった言葉だから、それで良いんだ。
「…あ、もう着いたから早く買いに行こ」
「はい」
聴こえて…無かったよね…。
「こんだけありゃいいかな」
「沢山買えて良かったですね!」
「店の人かなり不思議がってたけどな」
袋一杯に詰めた桜えびが、袋通り越して赤いの見えさせちゃってる。
明日はこれが全部なくなったら良いななんて、期待しながら。
「さて、じゃあありがとな壱正」
「えっいや帰りも送りますよ裕美子さん!」
「いーよ。あんま暗くなるとじいちゃん心配すんぞ」
「へっ裕美子さんなんで僕のおじいちゃ「心配されんのはお前もだろ裕美子」?」
「父ちゃん…なんだよ来たのかよ」
声の方振り向いたらウチの店の軽バンがあって、定休日だからか知らないけど店主まで乗ってた。
「そりゃ毎日かき揚げ作ってたらココに来んだろってな」
「お見通しか…」
「あ、あの!裕美子さんと同じ部活やらせてもらってます!結城壱正です!」
「おぉ。お前さんがタツさんトコのお孫さんか!」
壱正が自己紹介するや否や車から降りて挨拶する父ちゃん。娘との対応の違いが露骨だよな。
「おじいちゃんを知って……あ!もしかして偶におじいちゃんが飲みに行くお店って…」
「そうそう。ウチだったわけよ。コイツがろくすっぽ店の事話さねぇからわかんなかったよな。ゴメンな」
「アタシだってついこないだまで知らんし…」
第一改まって言うのもめちゃハズいじゃん…。
そういう家族の事情とか関係なく、壱正とは仲良くなりたかった訳で…。
「(って何仲良くなりたいとか考えてんだろアタシ…)」
「おい裕美子。帰るぞ」
「あっ…うん。壱正ゴメン」
「いえいえ!良かったです」
「ありがとな!気をつけて帰んなよ!タツさんにもよろしく」
「はい!」
良かったって言われると、もう何も言えないから、渋々乗る。
正直寂しい。でも…。
「…あっ…」
「…」
手を振る壱正の顔も、少し寂しそうなのが分かったから、発進し出した軽トラから、ちょっと窓開けて乗り出して。
「明日!!絶対成功させよーな!!!」
「っ!…はぁーーい!!!」
それだけは、伝えときたかった。
ーーーーーーーーーー
そして、当日。
「服飾!」
「カンペキ!!」
「ヨシ!手芸!」
「当たらなければどうという事は無〜い!」
「ヨシ!料理!」
「大丈夫だよセンセ」
「うむ!ステッカー…しっかり貼ったな!」
「ハイ!」
「家政部ゥゥゥゥ…出店のタマァ取ったるぞォォォォ!!!!」
『オオオオオ!!!!!』
青戸先生が一番気合い入ってるなぁ…あははは…。
「っしゃーせ〜」
「オリジナルTシャツ見てってねー!」
そして始まった展覧会。
炎天下の中、真白さんと姫奈さんの元気な呼び込みの声が響き渡る。
裕美子さんは奥で黙々とかき揚げを作ってた。
つまり、お客さんに食べてもらう為の役割を受け持った僕が、大事な販売係な訳だ。
「かき揚げライスバーガーでーす!お一ついかがですかー!」
会場は想像以上にごった返してて、沢山の人が訪れてる。
向かいも隣も、皆料理や服飾の販売に忙しない。まさにお祭りって感じだ。
「えーコレカワイー」
「あ、コッチもカワイー」
早速服と雑貨を女性のお客さん達が見てってくれる。
やっぱり二人ともセンスがあるんだなぁ。
「色沢山あるから見てってね〜」
「あ、なんかめっちゃ良い匂いする!」
「食べ歩きし易いライスバーガーです!美味しいですよ!」
「じゃあ…ライスバーガー二つと、コッチのシュシュと、イヤーカフ下さーい」
『ありがとうございまーす!』
「裕美子さん二つ売れましたね!」
「うん!」
キッチンで忙しなくサンドするおにぎり焼いてる裕美子さんが、笑ってる。
三角巾から見えるカッコいい真剣な眼差しが綻んで、可愛い。
汗が迸ってるのが…なんか綺麗だった。
「よーしこのまま全部売り捌いてテッペン取ったるかー!」
「ウイ〜!」
俄然やる気が出て来た僕達。
このままお昼時になれば、もっと人気が出るかな。
なんて思ったんだけど…。
「…マ?」
「それ…な」
「…」
客足が、パッタリと止んでしまった。
元々確かに目立たない場所で、隣の木もあるし、他の出店が勢いつくと、そっちに皆持ってかれていたんだ。
「ヤバいな…かき揚げちょい揚げすぎた…」
「裕美子マジか!」
「時間経つとベチョるよね〜…」
「僕!出張試食に出ますよ!売り込みに行きます!」
「おぉ頼むぜイッチー!」
「ゴメン壱正…」
「大丈夫です!帰って来たら大行列ですよ!」
紙皿を二枚をお盆の上に並べたら、裕美子さんにかき揚げを細かくカットして貰って、爪楊枝を一つずつ刺してく。
そのまま入口近くの大通りへ。人の往来の多い所で宣伝だ。
「かき揚げライスバーガー販売中でーす!サクサクで美味しいですよ〜!かき揚げの試食いかがですか〜!」
呼び掛けてみるけど、来てくれる人が居ない。
こうなったらこっちから寄ってみよう。
「かき揚げライスバーガーやってます!お一ついかがですか!?」
「うーん…暑いからかき揚げって気分じゃないかな〜」
「あっ…そうですか!ありがとうございます…」
そっか…この炎天下で清涼感の方が重視されちゃうよな…。
どうしよう…せっかく裕美子さんが美味しく作れたのに…何か…何かないか…!
「あ…そうだよ…このかき揚げ人参入ってるんだから!」
「裕美子さーん!」
「おー壱正…悪かったな。暑いから休憩しろよ「飾り切り!やりましょう!」…は?」
「飾り切りの涼しげなお花作って、SNSアップして宣伝しましょう!味が中々伝えられないなら、先ず技術を見てもらいましょうよ!」
走って戻っていきなりこんな事言うの、裕美子さんもビックリしてると思う。
だけどこのまま裕美子さんの料理の良さが伝わらないまま終わるなんて…僕は嫌だ…!
「……わかった。ちょい待ってろ。青戸先生の車から道具取って来る。壱正店番な!」
「ハイ!」
ーーーーーーーー
「っとに…一番張り切りやがってさ。壱正は」
会場から少し距離のある駐車場まで、走って向かうアタシ。
相変わらず、お節介なトコがあるのがアイツだけど、やっぱり言ってる事に嘘やおべっかは無くて、本気でそう思ってるって伝わって来るのが、ちょい嬉しい。
「(だから…アタシも応えたくなるじゃん)センセ!」
「おぉ黒井、どうした」
あんだけ気合い入れたケド、基本金庫番なのが青戸センセの役割。
だから気合いだけでも入ってたんだろけどね。
「包丁、もう二本必要だから持ってくね!」
「ん。気をつけて持ってけよ!」
「うん!(ちょい重いけど…)」
クルマ開けて貰って、中の十徳包丁の入ったポーチを持ってく。
出来るだけ早く、沢山作りたい。
小走りだけど、とにかく急いで。
「大丈夫…まだ昼過ぎだから全然盛り返せる…!…あっぶな…」
ちょっと躓きそうになった。だけどどうにか踏みとどまって、体勢立て直す。
こんな所で手をついて怪我なんかしたら作れない…のに。
「?…(このバイクの音……)」
後ろから近付いて来たバイクの音。
聞いた事ある音。
だけど、壱正のじゃない。アタシが安心出来る音じゃない。
コレは…嫌な音だ。
「そんなっ…あの時の……あぁっ!!」
でも後ろ向いて気付く頃に、もうその手が伸びてた。
ポーチが思いっきり引っ張られて、持ってかれる。
体勢がまた崩されて、今度こそコケる。
だけど手をやっちゃう位なら、顔ごと行こ…………。
「(…アレ…?)…!!!」
「大丈夫ですか。裕美子さん」
受け止めてくれた、可愛い顔にちょっと似合わないしっかりした腕。
顔も、腕に見合うくらい引き締まって。
「壱正何で…」
「この間のバイク好きの人達が、嫌な排気音がするって言われて」
「店は!?」
「それも…この間の仲良くなった女の子達が」
「マジか…」
そんなに、助けてくれるんだ。
ちょっとしか話してないのに。
だけどそれが、好きなモノで繋がった縁…なのかな。
そんでもってその始まりが…目の前にいる…。
「後は…取り返して…来ますね。絶対」
短く呟く様にアタシに約束したら、急いで、駐輪場まで走り出した壱正。
「危ねぇから止め!!………バカ…」
もう止まらずに、一目散に向かって、あっという間にエンジンの音が聞こえて、響き渡って来た。
心配と一緒に、どこか安心感があって…。
ーーーーーーーー
「何処……ううん。多分…」
狭くて車通りの少ない方に曲がる…って見せかけて、木を隠すなら森の中だから…!
「やっぱりだ!」
「!」
車列に見えたスクーターが、左からどんどんすり抜けて前に出る。信号が変わって一気に左折して逃げ出す。
でもコレもフェイクで…。
「本当はそっちなんだろッ!!」
曲がって直ぐ左の小道に入って巻こうとするのも、僕は見越す。
スマホのナビに映る、その先の大きな半円カーブ。付け替え用の道を曲がり出すひったくり犯。
この先は更に入り組む。また見失う可能性は十二分にある。
それなら…。
「コッチだ…ッ!!」
ナビにはもう映ってない、旧道。
そこに十数個並べられた、バリケード代わりの沢山の鉄ポール。
僕はそれを…。
「おじいちゃんとの練習で…あの人の為に…覚えたんだ…!!!」
アクセルを開けて、ブレーキを踏んで。
着座位置を変えて、腕じゃ無く体重移動で。
それを何度も何度も、緩急を付けて、早く、速く切り返して繰り出せば…。
「先に…抜けられるッ!!!」
「ッ!!??」
カーブを曲がって来たひったくり犯の、目の前に現れる。
ビックリした犯人はパニックブレーキで操舵を失って、道路脇の植え込みに突っ込んで、遂にその動きを、止めたんだ。
「……っ!」
「待て!」
それでもまだ走って逃げようとする犯人。
その脚に、思いっきり飛びついた。
「クッソテメ離せ!!!」
「!…やっぱり……お前かぁぁ!!!!」
ヘルメットが脱げて、顔が見える。
薄々勘付いてはいたんだ。だけど…いざ実際確証が得られてしまうと…僕は。
「ちったぁ練習したからってイキってんじゃねぇ!!!」
「その練習に負けたのがお前みたいなバイクの使い方するヤツだろッ!!!!」
「ナイト気取りかよ調子乗んナァ!!」
「グッ…」
しがみつく僕の頭を、何度も殴り付けるコイツ。
身体も大きいし、力も強い。
だけど…こんな心の小さくて弱い奴に…絶対負けたりするもんか!!!!
「もうイイわ…テメェ死ねよ」
「ッ!!」
ポケットから、光るモノを取り出された。
それがナイフなのは直ぐわかって、真っ直ぐ僕に突き立てられようとしてるのも分かる。
「刺すなら刺せよ!!!裕美子さんの恐さはこんなモノじゃなかった!!!刺されたって絶対逃がさないからなッッッ!!!!!」
「っ……とっとと殺してや……!?なっ…動かね…」
刃が目の前まで迫って来た直前、苦悶の声を上げたコイツ。
僕も状況が飲み込めなくて顔を上げてみれば。
「良くも孫とその友達に沢山迷惑かけてくれたのう……」
「なんだジジィ、ぶっ殺されてぇの…ぐぎぎぎぎぎっ!!??」
現れたおじいちゃんが、四十年仕込みの逮捕術で、あっという間に組み伏せた。
「そのバイクも明らかにボアが125の径ではない…不正排気量変更じゃのう…」
「離「黙れェッ!」ヒッ…」
気迫に押されて竦むコイツ。
やっぱり…さすがだなぁ。おじいちゃんは。
「壱正。良くやったな」
「うん…どうにか…ね。ありがとうおじいちゃん」
「全く…手放しで褒められる事では無いが、それでも素晴らしい心意気と運転だったぞ」
「!…へへへ。あ!僕…」
「後で色々聞かねばならんが、今は裕美ちゃん達の所へ行きなさい」
「うん!」
ポーチを車載スペースにしっかり入れて、また急いで走り出した。
今度こそ、見てもらうんだ。裕美子さんの…美味しくて綺麗な料理を…!
ーーーーーーーー
「いやー終わった終わった」
「それな〜」
真白と姫奈がグーって伸びして、一息ついてる。
二人も自分の売る分だけじゃなくて、アタシ達の手伝いもめちゃくちゃ頑張ってくれた。
本当に、大切な友達だ。
それは勿論他の高校の子達もおんなじで、本当に…本当に助かった。
感謝してもしきれない。
そんな出会いも作ってくれた、想い出に残る展覧会になったと思う。
「二人共沢山売れて良かったじゃん」
「まーな。あーしのハンドメイドだし?」
「予定調和っしょ〜」
「自信ありすぎ。ウケる」
したらめっちゃ爆笑する。
けど、でも、アタシは知ってるから、二人の一生懸命さを。
それが身を結んでんのが、素直に嬉しいんだ。
「つってもま〜今日の一番のダイジェストである黒ギャルプリンセスの下に現れたバイクの王子様のインパクトには敵わんよ〜」
「それな!入口真正面につけてさー、何処のヤンキー来たかと思ったら、汗迸らせて、可愛いイッチーが一生懸命包丁入ったポーチ抱えた走ってくんだもん!胸キュンがパねぇのなんの!」
「…茶化すなよ」
「いや当の本人が完全に恋する乙女顔なのになーに言ってんだよ」
「目がハートだったよな〜ガチで〜」
うっ…だって…しゃーないじゃん。
本当に取り返して、アタシの方だけ見て、全力で走って来て、渡してくれて…。
「『僕の一番大好きな裕美子さんの料理を信じてます!』だもんな〜。それで気合い入りまくって、めっちゃ映える飾り切り作って爆売れじゃん。やべぇ〜母乳出る〜」
「やっぱイッチーに飲ますかー!」
「飲ますな!………てか…あんま胸で壱正揶揄うなよお前ら…」
っとにさ……壱正もめちゃくちゃ居た堪れない顔してんだから、頻度を控えろっつの…。
「へーい。んじゃ裕美子が先におっぱいプレゼントしてからな」
「いっくんはレア乳ゲット出来るのか〜!……おろ?つかいっくんは?」
「あー、タツさ…おじいちゃんと一緒に色々警官にワケ話して、もう直ぐ……あ」
そんな事言ってたら、向こうからバイクと、ヘルメット越しに見えた笑った顔。
漸く…アタシもハッキリ見られた気がする。
「裕美子さん…今更ですけどお怪我無いですか?」
「うん大丈夫。壱正支えてくれただろ?」
「すみません咄嗟に…」
真白と姫奈に何でか背中押して来て、二人で話してる。
ちょっと、初めて会った時みたいなやり取り。
少しだけ、懐かしい気がした。
「コッソリ練習してたの…壱正らしいな」
「裕美子さん優しいですから、言ったら心配させちゃうかなって…」
「でも…それで壱正がもし…」
「それでも僕は、一番に…もう裕美子さんを悲しませたくなかったんです。ごめんなさい」
何で謝んだよ。謝んのはアタシ……ううん。てか…ありがと。ホントに…ありがとう。壱正」
真っ直ぐ眼を見てそんな事言う。
だからアタシも、真っ直ぐ眼を見て感謝を伝えたい。
こんな黒ギャルの格好とメイクで近寄りがたさばっか見えるアタシみたいな女に、いつだって壱正は…そのままを伝えてくれるんだから。
それが凄く嬉しくて、そんな壱正に…アタシは…。
「……ほら」
「えっ…あっ……」
頭抱えて引き寄せて、胸に…埋めさせてあげた。
そろそろ…アタシだって、壱正に、おっぱいのあったかさ、教えてあげたい。
もう二人だけには渡さないよ。
ううん。壱正だけのおっぱいにしてやるんだから。
「…ん?壱正…?」
「…zzz…」
「頑張ったもんな…おつかれ」
ーーーーーーーー
「行ってきまーす」
「はーいいってらっしゃーい…あ、壱正」
「?」
朝、今日は珍しく遅い母さんが、コーヒー飲みながら出掛けようとする僕を引き止めた。
「学校、楽しい?」
「…」
今までも、時々聴こえて来た言葉。
今までなら、適当に、取り繕う様な言い方で返してた質問。
だけど、今の僕は。
「うん!」
思ってる事、そのまま素直に伝えられた。
「行こう!」
バイクに声をかけて、タンクに貼ってある、四人が描かれたステッカーが、キラッと輝いた気がしたのを確認してから、今日もエンジンを掛けた。
「…よいしょっと「おーっすイッチー!」真白さん…おはようございます」
「はよ〜いっくん」
「おはようございます。姫奈さん」
学校着いて、バイクから降りたと思ったら、真白さんが肩を組んで、姫奈さんがあくびしながら挨拶。
僕もそれに、元気に返す。そして。
「…オハヨ」
「裕美子さん、おはようございます」
「イッチー、今日は裕美子イッチーの好きなモン沢山入ったラブ弁だから楽しみにしとけよ〜」
「裏山〜ウチも食いてぇ〜」
今日も裕美子さんに、お世話になっちゃってる僕。
したくてしてるんだって言ってくれるけど、感謝してもしきれない位嬉しい。
「ありがとうございます」
「ん」
「僕、裕美子さんの料理大好きです!」
「……バカ。こういうトコで言うな」
だからせめて、ちゃんと言葉で表したいんだ。
「…朝からエッチだな。マシロ」
「それな……っし!朝パイ行っとくか!」
「りょ〜!」
「こーらお前ら「家政部共!」青戸センセ…先生も止めて「私も混ぜろ!」ダメだこりゃ…」
両脇を二人に固められたら、先生もコッチに来て、おっぱい近付けて来てくれた。朝から三方向に大きなお山であったかくて大変だ…でも…。
「ダメ、あげねーし!」
「裕美子さん…はい!」
今日は、真正面からも抱きしめてもらえた。
僕も、真正面から応えたい。
んだけど…。
「う、動けない…」
前後左右全部おっきなおっぱいで、身動きが取れないね…あははは…。
終わり