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新鋭機 昭和18年

昭和18年の新型機です。

 二式単座戦闘機[鍾馗]は、日本陸軍史上に無い高翼面荷重の高速機であるが故に操縦性にクセがあり、今までの九七戦や一式戦のつもりで操縦すると痛い目に遭う。軽戦のつもりで操縦する搭乗員からは評判が悪かった。いわく「小回りが効かない」「旋回半径が大きい」「ダイブアンドズームしか出来ない」「着陸速度が速すぎる」等々。

 ただ、上昇力については皆が素晴らしいと。


 陸軍航空隊は、鍾馗を気に入った搭乗員を集めて部隊を編成した。独立飛行第五十五戦隊である。垂直尾翼に55の数字をデザインした識別マークを入れた。


 ソロモンで恐れられた「ダブルニッケル飛行隊」の誕生だ。


 飛行第四十七戦隊からも多数の搭乗員と整備員が吸い出された。鍾馗に慣れた熟練者多数を引き抜かれた四十七戦隊は文句を言うしか無いが戦時中であった。

 集められた者達は「独立」と言う文字に反応していた。酷い所に行かされるに違いないと。

 独飛五十五戦隊に配備されたのは、火星発動機搭載の三型甲だった。無印三型の機首機銃7.7ミリがホ-103になり、13ミリ四丁の陸軍としては重武装な機体だった。

 ホ-103の炸裂弾は信管の信頼性の低さが有り筒発や不発・早爆等の問題が有ったが、空気信管の採用で格段に信頼性が上がった。信管小型化の恩恵で炸薬量も増え威力も上がった。

 射撃照準器も望遠鏡式から光像式に替えられ、前方視界の向上と望遠鏡をのぞき込む事への弊害も無くなっていた。

 発動機も中島の気難しい発動機から三菱火星になり、性能も稼働率も上がった。装備されたのは火星に機械式燃料噴射装置を採用した火星三五型で、離昇出力1700馬力、一速公称1600馬力、2速公称1550馬力の強力な発動機は小型軽量な鍾馗を余裕を持って飛ばしている。三五型は一五型に二十系の出力向上策を導入した物で、強制冷却ファンと延長軸は無い。そのせいか振動は少ないし、稼働率も良好である。

 防弾も多少強化され重くなったが、二型のハ-109に較べると強力な発動機からもたらされる余剰出力のおかげで性能は向上し、稼働率の向上と共に現場では好評だった。大きくなったエンジンにより前方視界だけは不評だったが。

 強力な発動機と推力式単排気管採用で、最高速度は630キロと日本戦闘機中最高速度だった。上昇力も5000メートルまで4分10秒という、とんでもない上昇力だった。


 昭和18年初頭。彼ら独飛五十五戦隊が訓練終了後に配備されたのが、激しい戦いを繰り広げていた「ブイン」だった。


 当時ブインに配備されていた戦闘機は零戦各型で、他の戦闘機はいなかった。陸軍機も借りてきた百式司令部偵察機が数機いただけだった。ブインにいる陸軍は、要地防衛のための歩兵2個連隊ほか戦車1個大隊、砲兵1個大隊、工兵1個大隊、輜重1個大隊と他に通信と防疫の各中隊がいるだけだった。旅団規模である。この後、戦争の激化と主に増大し最終的には5万人近くまで増えた。海軍も1万人を超えるようになった。

 独飛五十五戦隊が駐留したのは、ブイン飛行場だった。着陸速度が速いと言うことでコンクリート舗装の飛行場を使うことになった。

 合同訓練では零戦がかなり苦労したと伝えられる。零戦は発動機が強化された三二型だが、鍾馗配備と同じ頃に推力式単排気管採用の三二型甲になっている。速力は上がっていない。防弾の強化や二号銃とベルト給弾で重くなった事で、推力式単排気管採用による速力向上は相殺された形だ。

 

 この頃、同じ発動機を積む海軍期待の14試局戦”雷電”は依然として振動問題が片付かず、制式化後も量産に至っていない。振動問題に目処めどが付ないまま先行量産という形で量産開始されたのが18年4月であった。振動問題が解決され本格的な量産が始まったのは18年12月だった。

 その4ヶ月前の8月に紫電が制式化されているので、海軍航空行政の混乱ぶりがうかがえる。

 雷電は鍾馗と同じく火星を積み、最高速度はわずかに劣る330ノット(611キロ)だった。

 ただ武装は強力で九九式二号四型を4丁積んでいる。ベルト給弾の関係で外側機銃が前方に装備されており外側銃身が内側銃身よりも突き出ている。

 対大型機用として開発された先行量産の雷電がブインに配備されると、鍾馗は対爆撃機任務から外され対戦闘機任務が主になっていく。搭乗員はただニヤッと笑うだけだった。この頃には鍾馗三型から四型になっている。



 昭和18年は新型機登場が多かった。

5月  疾風(陸軍戦闘機) 彗星(艦上爆撃機)

6月  天山(艦上攻撃機)

8月  紫電(海軍局地戦闘機) 月光(夜間戦闘機)

10月 飛竜(陸軍重爆撃機) 銀河(海軍陸上爆撃機)

11月 彩雲(艦上偵察機) 流星(艦上攻撃機)

12月 雷電(海軍局地戦闘機)


 彗星は発動機の扱いに苦慮しており、性能はともかく整備能力の低い部隊では扱いかねる機体だった。機動部隊では母艦に多数の予備機材を持ち込み、辛うじて出撃率8割の維持に懸命だ。だが、母艦の限られた空間を圧迫し評判は悪い。陸上基地では機材供給の優先順位が母艦の後になるだけに、出撃率が7割なら上等とまで言われた。


 天山は開発中に火星へ転換したおかげか、順調に仕上がっている。


 紫電は零戦よりも優速で重武装以外は取り柄が無く、かと言って速度は雷電よりも遅く格闘戦性能も見るべきものは無く、主脚のトラブルも改善されたとは言え多かったので、いらない子扱いされている。

 アメリカ軍の評価も、戦闘機パイロットからは「ゼロよりも速度が速く強力な武装(20ミリ4丁)だが、機動性が悪く格闘戦で勝てる。ゼロの方が脅威度が高い」とパイロット達は評価していた。ただ爆撃機パイロットは逆で「その重武装とゼロに較べると防弾性能が高く何発か当たっても落ちないので脅威である」としていた。

 現場は紫電よりも零戦か雷電をだった。それでも零戦よりも高速・大火力の長距離戦闘機が紫電しか無く、前線への配備機数は増えていく。

 そんな事(応急ゆえに有る紫電の中途半端さ)は海軍側も分かっており、紫電の改良型は紫電の試験飛行開始くらいから始まっている。これは川西に一任されている。


 月光は、二式陸偵に20ミリ斜銃を複数装備した機体で、最初から夜間戦闘機だった訳では無い。最も最初は戦闘機として開発された機体だった。定見の無かった海軍の過大な要求性能に振り回され、一応長距離双発復座戦闘機として開発されたものの、役に立つかと言われれば「んー?」という感じの機体だった。その後陸上偵察機として採用され、細々と作られた。

 夜間爆撃に悩まされたラバウルで現地司令がいろいろやった結果が良好であるとして、夜間戦闘機として名前を変えた。

 ただ鈍足であり、昼間迎撃時、有力な護衛戦闘機がいるとかなり不利だった。

 鈍足から来る会敵機会の少なさも問題となった。


 彩雲は十七試としては異常に登場が早いが、中島で研究中の高速機を基にしたので早かったとも言える。


 16試艦攻(流星)は艦爆と艦攻を1機種で済まそうという発想の元、開発された。発注先は愛知である。

 要求性能は

発動機 誉  (設計開始時は当時開発が進んでいたNK9A)

最高速度   300ノット以上

航続距離   攻撃過荷 1000海里以上

上昇限度   特に設けず

兵装搭載量  最大2トン

        航空魚雷 1本 機体内で無くても良い

        50番で急降下爆撃可能なこと

         可能なら80番を望む

       水平爆撃または緩降下爆撃時、胴体と主翼に合計2トン 

固定武装   主翼に九九式二号四型2丁 装弾数各150発

       後席旋回機銃としてホ103 1丁  


注    主脚に2段伸縮式は採用しないこと。

     防弾と消化に留意すること。

     主翼折りたたみは可能ならば油圧で行えること。


 愛知開発陣は頭を抱えた。要求性能が無茶すぎる。

 2トン抱いて300ノット、1900馬力でだ。


 主脚は頑丈でなければいけない。伸縮式は1段でも危険と見なし採用しない。逆ガル主翼にして脚を短くすることになった。これは主翼面積を稼げるので都合も良かった。設計を詰めていき試作1号機が完成したのは昭和17年4月。しかし、防弾装備や油圧式主翼折りたたみ機構採用のため重量が増大。NK9Aでは出力不足もあり、性能は到底満足行くものではなかった。

 この頃、九九艦爆の改修や担当者交替等海軍側の事情もあり開発は低迷する。

 開発が順調になったのは、発動機がNK9AからNK9Bになったことで重量に見合う馬力が得られたこと。油圧式主翼折りたたみ機構を九九艦爆と同じ人力で折りたたむようにして軽量化を図ったこと。等で速度性能は要求値に達した。ただ航続力が不足しており、改修で燃料タンクを増やしている。

 また速度が遅くなったが、誉二一型の開発で搭載できるようになり、速度を取り戻した。昭和17年11月だった。運動性も良好で、格闘戦も可能な艦攻として注目される。

 しかし、自重が遂に3.8トンという日本艦載機史上最重量となり、母艦側発着艦支援装置の性能不足で母艦に積めない騒動が起こる。

「母艦に積めない艦上機では」という意見も当然あり、機体性能はいいものの艦載機としての採用は有りか無しかで意見が分かれた。この間、せっかくの高性能機体ということもあり、取り敢えず陸上で運用してみるとして、細々と生産が続けられた。これが試製流星である。量産試作であることを逆手に取り次々と改良改修が行われる。遂に自重が4.2トンまで増えた。母艦機の道は遠ざかる一方だ。

 ところが配備先の前線では好評を呼んだ。搭載量も多く、防弾も施され、零戦と同じ速度で飛び、いざとなれば戦闘機に反撃できるのである。「三号艦攻も九九艦爆も彗星もいらないから、こいつを寄越せ」と騒ぎになった。天山は母艦航空隊への配備が先行して前線基地航空隊にはまだ無い。制式化が後なのに前線配備は先になったという逆転現象だ。

 前線からの突き上げに驚いた海軍は慌てて増産させようとするが、愛知は彗星と九九艦爆の生産でこれ以上の増産は出来ない。九九艦爆の生産を外部に委託し試製流星の生産数増加を図った。

 遂に昭和18年11月。流星として制式化した。艦上攻撃機として。搭載可能なのは、損傷復旧のついでに改修した翔鶴級2隻と竣工間近の大鳳のみである。蒼龍・飛龍は設備を改修したが運用に無理がありそうだった。勿論それ以下の対応能力しか無い空母には積めない。小型空母では発艦も怪しい。艦上機として活躍する日は来るのだろうか。

 海軍としては中小型空母用に彗星と天山と零戦の生産を止める訳にはいかなかった。

 問題はそれだけでは無かった。銀河と飛竜である。額面上は、航続距離と双発で航法に不安が無いのと、搭乗員が多く目が多いことくらいしか優位性が無いのだった。



 疾風は陸軍より大東亜決戦機として期待を掛けられて優先生産機とされた。隼・鍾馗の生産ラインを閉めても量産するつもりであったが、鍾馗四型の評判が良すぎて(味方からすれば優秀。敵からすれば厄介)生産は終戦まで続けられた。隼は予定通り生産ラインを閉じている。

 この時点で疾風の配備は国内とマレー方面が優先され、ニューギニアやラバウル・ブイン方面への配備は18年暮れになってからだった。ブインの陸軍戦闘機隊の任務は迎撃であり、陸地が見える範囲でしか飛ばないので鍾馗の航続距離で十分だった。


 飛竜は一〇〇式重爆呑龍に次ぐ双発重爆撃機として開発された。海軍も一式陸攻の後釜として陸軍と共同開発の形になっている。発注先は三菱である。

 要求性能は水平全速540km/hで爆弾搭載量2トン、航続距離は3000キロ以上というものだった。いずれも公試時予定性能。

 さらに防御火力として99式2号20ミリ旋回機銃2丁とホ103を3丁から5丁搭載となっていた。

 発動機は火星の18気筒板であるハ104離昇出力1900馬力を搭載。ハ104-33開発後は33に換装された。この換装で要求性能を満たすことが出来た。

 機体設計は一式陸攻の反省と新思考で設計された。

 動力銃座は一式陸攻二二型で開発された銃座を改良した物で有る。上方銃座として設置された。尾部に設置予定だった20ミリ機銃は、尾部容積が一式陸攻に較べて小さいことからホ103に変更され動力では無く人力操作になっている。

 

 銀河は試験では良好な成績を納めたが、量産性を高めるために制式化が遅れていた。


 四式重爆飛竜と銀河は、長距離攻撃と長距離哨戒が主任務になっていく。生産もせっかく量産できる体制になっているのに、計画よりも減らされる目に遭った。流星が成功したせいだった。生産が予定されていた工場では空きが出ることになる。現在、どの機種を生産するかで揉めている。揉めている場合ではないというのに。

 流星は前面と下面に装甲を施し三式襲撃機として陸軍にも採用された。さらに重くなり軽快さは無くなったが、搭載量の大きな多用途爆撃機として重宝されることになる。九九双軽は三式襲撃機の配備に伴い前線から姿を消し、小型連絡機として使われることになった。九七重爆や一〇〇式重爆呑龍も同様の憂き目に遭っている。

 連合軍にとっては、小型高速で運動性も良い爆撃機の登場は厄介だったようだ。



誉が完調なら皆前倒しという。


次回更新 8月13日 08:00予定

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