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発動機 三菱の現状 屁理屈をこねる

MK9の開発は中止させられた三菱ですが。

 三菱は小型空冷星形18気筒発動機の開発を中断させられたが、火星ベースの大型18気筒ハ-104は開発のさらなる促進を願われていた。

 これは、中型双発機以上に使える発動機が現状三菱火星しかなかったことと、中島は栄と誉しかなくなったためでもあった。

 開発当初は、カムとプッシュロッドを前方に集中させた配置で有ったが、冷却性が悪い事と高回転に弱いことが発覚。後列用の動弁機構は後列専用として、カムとプッシュロッドは気筒後方に配置された。高速回転でも不具合が出なくなった。冷却も十分に空気が行き渡るようになり改善された。

 また、以前から三菱が開発していた機械式燃料噴射装置の完成を見て、金星・火星・ハ-104に搭載された。

 発動機の統合名称は戦時中で有ることもあり、現場が混乱するとして採用されていない。他の機材も統合名称は採用されていない。

 製造側も整備側も不慣れなこともあり当初はトラブルが続発したが、慣れてくるにしたがってトラブルは減っている。特にキャブレターに較べると格段に日常整備が楽であり喜ばれた。分解整備となれば現状ではメーカー戻しになってしまっているが、早い段階で整備技術者を養成して前線で可能にしたい。

 

 ここで更なる出力向上を目指している。過給圧の上昇と回転数の高回転化だ。過給圧の上昇は一気筒辺りの出力向上であり、高回転化は時間辺りでの出力向上になる。

 高回転を目指すのは制約も多く、時間を掛けることになった。火星とハ-104は振動問題の解決に時間を掛けている。過給圧を上げるにも限界があり、回転数を上げて対処しようとしている。従来の回転数なら問題無いのだが、3000回転は遠かった。動弁機構の配置変更でかなり問題は減ったがまだまだだった。学の方から人が来ており、社内だけで対処するよりも解決は早そうだ。誉の結果も会社の枠を越えてフィードバックされる。戦時でなければとても出来ないことだ。

 やがて、延長軸と強制冷却ファンとプロペラの振動による複合要因で酷くなることが解明された。根本的な解決は難しく、対症療法に頼ることになる。プロペラを含む各部の強度向上と、強制冷却ファンとプロペラの回転数変更である。他には各部の精度向上だった。重量バランスを今まで以上に細かく取り、真円度も上げた。各ベアリングに回る油量も増やした。これにより振動を抑え振動数を変え、3000回転以上の高回転でも運転が可能になった。可能になっただけで常用は出来なかったが、緊急出力としては使える。エンジンベンチでは30分持った。実機とは違うので、実機だと5分程度であろうか。燃料消費も凄まじく多用は出来ないだろう。

 この対策は、火星とハ-104共通で行われた。この対策で加工時間が増えコストが上がってしまったが、軍には呑んで貰うしかない。


 この成果が盛り込まれた発動機が火星四二型とハ104-33だった。安定しており、雷電はエンジン換装とプロペラ換装でまともに飛べるようになった。


火星四二型 四三型

離昇出力   1900馬力

1速公称出力 1780馬力/2000メートル

2速公称出力 1620馬力/6000メートル


 緊急出力 2050馬力/5分 四二型のみ

 いざという時のためで時間制限が離昇出力発揮時よりも短い。

 スロットルレバーに仕掛けがしてあり、4分で自動解除されるようになっていた。

 一部では搭乗員と整備員で解除できないようにしていたらしい。無論、禁止事項であり、見つかれば厳罰物だ。

 発動機はかなり痛んだようだようだし、発動機が止まって墜落したリ撃墜された機体もある事から、かなり軍内で問題視された。主にわざと解除できないようにした機体だろうが、墜落現場が戦場であり調べることも難しい。結局発動機のせいになった。こんな機能付けるからだと。

 緊急出力が付いたのは四二型だけだった。停止事故多発後、緊急出力は出せないようになった四三型に移った。既存の四二型も出せないよう調整された。

 やはり四二は語呂が悪いとして、以降型番に載らないようになった。



ハ104-33

離昇出力    2500馬力

1速公称出力 2300馬力/2200メートル

2速公称出力 2060馬力/6200メートル


この発動機が出来て、ようやく欧米並の発動機が出現した。積むのは四式重爆のみであるが、速度が30キロ程度向上した。護衛の隼を置いていく速度だ。

 海軍はこの発動機を制式化した。陸海共用機である四式重爆に採用されているのだから、制式化しない訳にも行かない。

 海軍は雷電へ搭載も検討したが、重量問題が有り、ただでさえ前のめりに飛んでいる雷電に搭載は難しいとなった。一式陸攻は、銀河の登場と四式重爆を陸海共用機とした影響で生産が止まるので検討もされなかった。

 そして二式大艇への搭載が進められた。大場力で離水が楽になると思いきや、馬力に振り回されて逆に難しくなる有様だった。

 プロペラの大径化と低回転化によってかなりマシになったという。ただひとたび舞い上がれば、270ノットの高速と大きさや重さを感じさせない飛行が出来たという。

 2000海里近い航続距離の低下には、燃料タンク増設と戦闘機用増槽4個(1個320リットル)を主翼下に装備することで実質500海里の低下にとどめた。もちろん緊急時には切り離し可能だ。






 一方三菱には、MK9の開発は中止となりはしたが、他の発動機は性能を上げるように注文が入っている。

そう、他のだ。


「ここに金星が有ります」

三菱うちで作っているから有るよな」

「MK9はくじけました」

「出だしが遅かったし、軍が金を出さないなら開発資金がな」

「そこで」

「そこで?」

「こいつを16気筒にします」

「おい」

「大丈夫。目指すのは1600馬力。最大でも1700馬力。NK9Bの領域を侵しません」

「何に使うんだ?・もしかして?」

「金星や栄の代替としてです」

「軍は大丈夫なのか」

「監督官を通して陸海航空本部にはそれとなく」

「感触は?」

「そうですね「MK9の事も有るから、こちらも申し訳なく思っている。金星の部品を多数流用して最高1700馬力なら、金星や栄の代替として使えるかもしれんからやっても良いが、金はあまり出さんぞ」と」

「金を出してくれるのか」

「他の発動機生産に影響が無いなら、詫びの部分も有り問題無いと」

「だが、単列だと8気筒だろ。星形偶数気筒で動くのかね。聞く所によると動かないらしいが」

「それは間違っています。彼らの言い分は蒸気レシプロ機関が基本です」

「蒸気レシプロ機関?蒸気機関車か」

「そうです」

「ほう。簡単でいいから説明したまえ」

「はい。彼らは上死点と下死点を問題にします」

「うむ」

「確かに蒸気レシプロ機関で有れば、始動は静止したシリンダーに外部からの蒸気注入ですので上死点なら動かない。必ず上死点からズレている必要があります」

「まあ分かる」

「しかし、内燃機関の場合は違います。始動するのに内部に燃焼のための混合気を注入する必要があります」

「当然だな。そして上死点ではバルブが閉まっていて出来ない。混合気が残っていても燃焼した膨張気体の逃げ場がない」

「それが間違いです」

「間違い?」

「はい。始動の時に混合気を吸入しなければいけないので、シリンダーの隙間を作るべくピストンを動かします。そして上死点ではなくなります。彼らは静止状態の事を言いますが、内燃機関は動的状態で始動します。そして連続回転になりますからどの気筒が上死点でも問題ありません」

「始めからズレるのか。じゃあ動くじゃないか」

「当然です。星形偶数気筒で動かないなら、水平対向2気筒も動きません。と言うか上死点を問題にするなら何気筒であっても動きません」

「そうだな。奇数気筒でも始動時にどれかが上死点なら動かないか」

「おっしゃるとおりです」

「お前、それで軍を説得したのか」

「まあ、そうです」

「そうか。多少でも出してくれるならやって見ろ。ただし金星の生産に影響がない事と金星の性能向上を怠るなよ。でなければダメだ」

「心得ております」

「そうだ。新規部品は使うのか」

「シリンダー・シリンダーヘッド・ピストン・コンロッド・バルブ・タペットなどは金星用を流用出来る予定です。ただシリンダーは干渉しないはずですが、干渉した場合は基部で若干の寸法変更があるかも知れません。気筒数が増えるので、マスターコンロッドやクランクケースは当然新規です。クランクシャフトも強化する必要があると思いますので新規です。過給器やオイルポンプは新規になります。馬力が違いますので減速ギヤも新規です。点火系も新規です」

「過給器とオイルポンプは火星の物を使えんのか。馬力的には同じだろう」

「ちょっと外寸が大きいので、金星や栄の搭載機には苦しいと考えました」

「では仕方ないのか」

「では開発しても問題ありませんね」

「もう一つだ」

「なんでしょうか」

「冷却だ」

「冷却は気筒間の隙間が大きいので18気筒のように苦しくありません」

「分かった。やり賜え。失敗しても骨は拾ってやろう」

「いい上司に巡り会えました」

「給料は上げんぞ」

「……」

「…待て。1600馬力だったな。計算したら1400馬力から気筒が増えただけの馬力アップか」

「実現性は高いですよ」

「もういい」

「はい。失礼します」


 


「過給圧は+何ミリまでやろう」

「450から500だろう。あのガソリンならいける」

「3000回転を目指ないと」

「誉で実用化されている回転数だし、我々も試験で回している。過給圧も金星の1500馬力運転でやっている。問題無い」

「クランクケースの剛性は大丈夫だろうか」

「リブを付けるとかで対処できると良いな」

「ベアリングの材質なんかは誉の結果を分けて貰っているから、それを使おう」

「バルブのオーバーラップを変更して吸気量を増やせないかな」

「カムの変更は手間が掛かるぞ」

「後列の変更に合わせてやれば、そう手間でもあるまい」

「いや、今までは前を外せば良かったが、今度は全部バラさないと替えられないぞ」

「整備の問題は無いだろ。組み付けてしまえばカムをいじることなど無いはずだ」

「開発の間は整備に苦労を掛けるな」

「なあ、1800馬力はいいから、1600馬力の仕上げをしないと」

「1600馬力は、細かい調整だけだしな」

「先日、名古屋工場で生産準備を始めたところだろ。間に合うよ」

「おまえら」



剣星けんぼし二二型   金星16気筒版 

二重空冷複列16気筒  機械式燃料噴射装置

直系     1220mm

乾燥重量   705kg


離昇出力   1600馬力

1速公称出力 1480馬力/2000メートル

2速公称出力 1370馬力/6000メートル


 金星の部品を出来るだけ流用して作られた。1400馬力の金星に2気筒足しただけ。酷い手抜きである。従来技術の利用で新しい機構は無く、その分安定していた。

 

 剣星とは北斗七星の古い地方名。新規なので陸海共通名称である。正式な型番はハ212。剣星は愛称または通称であった。



軍はたいした手間もかけずに出来上がったこの発動機を気に入り、栄や瑞星や金星から換装して性能向上を図ろうとした。

昭和18年秋であった。


屁理屈で行く架空戦記。


次回更新 8月14日 05:00 予約済み。

8月15日の更新はありません。

8月16日、17日とも05:00 予約済み。

と予約してありましたが、台風。

14日の分を13日06:00に

16日の分を13日07:00に

17日の分を13日08:00に

まとめて投稿します。

15日の投稿はありません。

16日05:00に第8話を投稿します。

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