晴れ時々流星雨 第二次トラック島沖海戦 もし誉発動機が完調だったら・外伝
「前方!煙。やや逸れたところに照明弾。無線電話です。無傷の機動部隊が居ると言っています」
「偵察機か」
「どうしますか」
「全機。照明弾の方に向かう。爆撃隊は高度5000に占位。雷撃隊の突入開始と共に降下開始。彗星は流星隊攻撃後に突入」
『『『『了解』』』』
トラック島第一次攻撃隊は零戦76型52型計74機と疾風24機を護衛に流星85機(爆装55機、雷装30機)、彗星34機、天山24機だった。
第51任務部隊と第53任務部隊の計4群が攻撃隊の標的になっていた。一機艦は第51任務部隊を狙い損害を与えた。トラック島攻撃隊が狙うのは第53任務部隊だった。
「直援機、突破されました」
「全艦、撃ち方始め」
「敵編隊、高度500と高度5000に分かれました」
「急降下、いや水平爆撃か」
「あの高度ですと、そうではないかと」
「見張り員、上空の機体を見失うな」
『イエス・サー』
「どうするか。高度5000の奴が気になる」
「ここ(CIC)では外が見えませんから」
「仕方ない。見張りに任す」
「低空の敵機、さらに高度下げました」
『上空の敵機、旋回しています』
「同時攻撃でしょうか」
「常識ならな」
「雷撃機さらに低空で接近中」
『上空の敵。降下してきます』
「降下だと?水平爆撃ではないのか」
『速度速い、急角度で降下』
「全艦、上の奴は急降下爆撃だ」
トラック島第一次攻撃隊に狙われたのは、運の悪いことに第53任務部隊だった。
回避運動を始めたが、降下を始めてからでは遅かった。
「真っ直ぐ進んどるぞ」
「いい的じゃ」
流星の戦法に高速高高度投下が有った。降下角60度。投下速度380ノット。投下高度800と言うものだった。少しでもタイミングを間違えれば引き起こしきれず海面だ。その問題は投下を自動化することで解決されている。高度800で勝手に投下する。投下索を引くことに気をとられず、敵を狙っていればいい。訓練では命中率も上がっている。投下後は操縦桿を手前に押してくれる。有り難い装置だ。水平まで面倒見てくれないので、真面目に操縦桿を持っていないと墜落する。
その投下高度なのは、安全性を確保したままどれだけ突っ込めるかというギリギリな高度だった。この頃からGで気が遠くなるのをなんとか出来ないかという意見が多くなる。それまでは気合いと根性でだったが、科学的に解決しようとし始めた。戦闘機にも使えそうだと言うと、一気に予算が出てきた。戦闘機用高機動服の開発が始まるが、遂に日の目を見ることはなかった。少数の試作品が実戦テストに投入されたのみである。
流星が自重4.2トンまで増えた主原因は「80番抱いて急降下出来たら凄いな」「50番と両翼に25番で急降下いけないか」と言う要望をかなえてしまったせいだ。胴体・主翼・投弾装置の強化で増えた。陸軍仕様である三式襲撃機にはこの機能は無いが、防弾重量が増えて自重は変わらない。
降下に入った流星45機の内訳は、80番22機、50番+25番2発23機だった。80番の機体は正規空母を、50番の機体は空母優先でと先に決められていた。
「少し舵を切ったぞ」
「まだまだ」
「修正可能だ」
「速すぎる、後ろで炸裂してるぞ。信管秒時が違う」
「調定急げ」
「機関砲何処撃ってる」
「間に合わん。伏せろ」
見たことも無い機体だった。逆ガルのデカい機体だ。異常に速い。
「ブルラン被弾。爆発」
「バンカーヒル被弾。爆発」
「カウペンス被弾。炎上」
「インディアナ被弾」
「エンタープライズ被弾」
「ベロー・ウッド爆発しています」
「モンテレー炎上」
「ラングレー被弾」
「コロンビア被弾」
「デンバー被弾」
「テイラー轟沈」
「フラム被弾」
「急降下。次の奴来ます」
「雷撃機来ます」
「雷撃機おおよそ40機。散開しました」
50番は防御出来たかも知れないが、80番は無理だったようだ。
雷撃機は炎上している艦は狙わずに健在な艦を狙ってきた。しかし、煙が酷く照準もままならない。ケイトよりも速い。余計に難しい。
第53任務部隊は1群2群とも輪形陣に突入された。
「カウペンス爆沈」
「何?」
「ブルラン停止。バンカーヒル爆発を繰り返しています」
「ブルラン、バンカーヒル。総員退艦命令が出されました」
「モンテレー停止」
「エンタープライズ消火困難。救援要請です」
「インディアナ航行不能」
「デンバー総員退艦します」
「スタンリー総員退艦」
第53任務部隊は全滅と言って良かった。特に空母が急降下爆撃で全部やられた。
逆ガル翼の雷撃機は機動性が高いのか、燃えさかる空母と煙を身を隠す幕とし大物から狙いに来た。ケイトとは違う高速の機体は燃える空母を狙った。インディアナは回避するも艦尾に2発被雷。その衝撃で舵が故障し、舵を切ったまま固定されてしまった。船体が歪んでしまいスクリューが1軸動かせない。修理しようにも時間が無い。敵地に近いと言うよりも完全に攻撃圏内だ。インディアナは放棄自沈となるだろう。
コロンビアとデンバーは各2本被雷。デンバーは総員退艦した。コロンビアも艦尾が沈み込んでいる。もうダメだろう。ボルチモア級重巡のボストンも傾いているが、持つと言うことだ。戦闘力は無いな。
次に狙われたのは第37任務部隊だった。一機艦二次攻撃隊である。ただ、待ち構えられており、後方から呼んだ戦闘機も間に合った。300機近い迎撃機の前に磨り潰され、攻撃が出来たのは20機程度だった。損害は至近弾数発で無傷と言えた。
我々、合同攻撃隊は、おおよその方向へと進撃している。任務部隊ごとに多少散開気味であるが、500機の密集集団等管理も出来ない。それに、その方が発見しやすいだろう。敵艦隊を。
途中で敵攻撃隊とすれ違ったから、方位は間違えていない。問題は距離だ。
「左、敵機」
「何?戦闘機隊は」
「一部向かいます」
40機の鍾馗だった。航続距離に余裕がないので、トラックまで直線で飛んでいる。他の機体は、やや西寄りの航路を取っている。万が一があれば、一機艦の陰に隠れるつもりだ。
そこに電探装備の一式陸攻から「貴隊前方に敵大編隊」との通信が、先導の一〇〇式司令部偵察機に届いた。相談の上、戦闘は10分のみとした。20分もやるとトラックまで怪しい。10分なら届くだろう。
「各機、一撃だけだ。全速で突っ込んで、全速でずらかる。いつもと同じだ。ちょっと相手が多いけどな」
ちょうど空になった増槽を捨てる。先行する一〇〇式司令部偵察機は敵を発見次第、信号弾を撃つことになっている。高度を上げつつ待機していると、前方に照明弾と「敵発見」の無線が届いた。
「全機突撃」
『『『『オオ!!』』』』
見えた。小型機の大編隊だな。日本では見ることが出来ない凄い数だ。こちらに向かってくる奴がいる。
「全機上昇、振り切って編隊に攻撃をかける」
『『『『了解』』』』
鍾馗の上昇力なら出来るはずだ。案の定、敵機は着いてこれない。
「どいつでも良い。目の前の奴をやれ。切り返すなよ。一撃だけだ」
『『『『了解』』』』
回数言わないと、興奮して忘れる奴もいる。
敵戦闘機が対進攻撃をかけてきた。ブローニングはよく伸びる。嫌になる。各機散開して避ける。それでも数十機の一斉射撃だ。何機か被弾して落ちていく。
わずか一回の機会を逃すことなく撃ちまくる。残弾を気にせず遠くから撃ちまくる。敵編隊を抜けると34機になっている。6機やられたか。それ以上の損害を与えたから、迷わず成仏しろよ。
何機か追ってきたが、追いつけないのかすぐに元に戻っていった。
拙い。敵大編隊を捉えた。ラバウル引き揚げ部隊の先導機で電探装備の一式陸攻の指揮官は思った。鍾馗隊はぶつかりに行った。戦闘機だし平気だろう。それが商売だ。だが、整備員や地上要員を乗せた機体が10機以上居る。旋回して空中退避だ。それしか無い。だが、戦闘機隊には受けが悪かった。特にこの航路でそんなことすれば余裕がなくなる雷電隊には。接触した一〇〇式司令部偵察機によると艦載機の編隊で半分が戦闘機でF6Fだと言うことだ。
戦闘機隊長からは行くという意見が出された。おい、俺たちの護衛は。零戦と紫電に月光で。零戦隊は、仕方が無いという感じで残ると言ってくれた。紫電は疾風と雷電に速度が付いていけないという理由で。零戦は五二型で航続距離には余裕が有った。航続距離が短くなった七六型はラバウルには配備されていない。月光は言わずもがな。対戦闘機は無理だと。
行くのは、一〇〇式司令部偵察機1機と疾風62機、雷電42機だった。
一〇〇式司令部偵察機が高度を上げた。戦闘機を避け高空に退避するらしい。
「各機、トラック島まで行くが、ちょっと目の前に障害物がある。邪魔だから排除する」
『邪魔ですな』
「敵戦闘機が多すぎるから無理に格闘戦に持ち込むな。袋だたきに遭うぞ」
『『『『了解』』』』
推定機数で500機だ。鍾馗の連中がどのくらい削ったかは知らないが、10機程度だろう。誤差だな。
100機くらいがこちらに向かってくる。そいつらを突破しても、まだ同じだけいると思うとうんざりしそうだ。
雷電、疾風の順に上昇していく。紫電はやはり残って貰って良かった。敵機も上昇してくる。遠いがもう撃ってきている。ブローニングの嫌なところだ。敵機が二つに分かれた雷電が敵本体後方に回り込む動きを見せたためだ。敵編隊が乱れた。今だな。
雷電の動きにつられて動いた敵機のお陰で、相対する機数が減ったのは有り難かった。概算で敵機を50機くらい減らして、突破した。また前にいやがる。こちらの機数も減った。今度は危ないな。
ラバウル航空隊の紫電と零戦隊を一機艦の援護に回すことにした。陸攻と呑龍は月光と残された技量未熟な若者の乗る零戦6機と共にここらでグルグルしていよう。敵編隊が過ぎた後でトラックに向かうことにした。零戦の機数は30機、紫電の機数は24機だが、大いに役立つはずだ。戦闘機が速度を上げて去って行く。間に合えよ。
ラバウル航空隊が敵編隊に追いついたのは、一機艦を攻撃しようという、まさにその時だった。一機艦直衛隊が敵機と組んず解れつをやっている。
「後上方、機影」
「味方か?」
「襲撃体制です。敵機」
合同攻撃隊はパニックになった。いないと思っていた後方からの襲撃だ。護衛戦闘機は敵戦闘機にかなり引き剥がされている。残っているのは50機程度だ。半数が上昇反転して行く。
ラバウル航空隊の意地を賭けて零戦隊が護衛戦闘機を突破して来た。40機まで減っている。最後の護衛戦闘機が立ち向かう。SB2CとTBFを攻撃出来たのは30機にも満たなかった。しかし、甚大な損害を与えた。60機近くが撃墜されてしまった。ラバ空最後の奮闘だった。
「前方、敵艦」
「全機、攻撃開始」
「敵機、直衛機を突破」
「撃ち方始め」
一機艦は150機近いSB2CとTBFの攻撃を受けた。
「比叡、沈みます」
「飛龍鎮火しません。総員退艦命令が出されました」
「加賀横転」
どれもこれも現状で良い報告はなかった。集中的に空母を狙うのは我が軍も同じだが。新型の機銃指揮装置や高射装置が全艦に行き渡っていればな。戦場でたらればを言っても仕方ないか。新型機銃指揮装置が有効で損害を抑えられたという報告も有る。
今は輸送船団後方に位置し、万が一の追撃でも輸送船団ではなく一機艦に敵機を集め輸送船団を無事パラオまで送り届けるのが任務だ。
第一機動艦隊
第一航空戦隊 加賀(沈没) 龍襄(沈没)
第二航空戦隊 飛龍(沈没) 蒼龍(中破)
第五航空戦隊 瑞鶴(中破) 翔鶴(小破)
第七航空戦隊 千歳 千代田
第三戦隊 金剛 榛名(中破)
第十一戦隊 比叡(沈没) 霧島
第八戦隊 利根(小破) 筑摩
第五水雷戦隊 能代
第十三駆逐隊 秋月 照月(中破) 涼月(小破)冬月
第五駆逐隊 初月 新月 若月 霜月
第一水雷戦隊 阿賀野(小破)
第六駆逐隊 雷(沈没) 電 響(大破自沈)
第十七駆逐隊 浦風 磯風(中破) 谷風(中破)浜風
第二十一駆逐隊 初春 初霜(沈没)
第二十七駆逐隊 有明(沈没) 白露 時雨
トラック島基地では第二次攻撃隊の出撃は取りやめとなった。一機艦二次攻撃隊全滅の報を受けたからだ。同規模の部隊を送っても同じ目に遭うだろう。一機艦の援護に向かうべきだという声には、今から出ても間に合わないと言う正論で対抗する。また、ラバウルから引き揚げてくる戦闘機隊がちょうどぶつかって戦闘中という情報も届いた。タイミングが悪く、どうすることも出来ない。時間だけが、過ぎていく。
そこへラバウルの鍾馗隊が着陸してきた。34機だ。燃料に余裕がないのだろう。第一旋回だけで着陸してきた。被弾の弾痕も生々しい。
鍾馗を皮切りに、次々とラバウルからの航空機がやってくる。一機艦の一次攻撃隊とトラックの一次攻撃隊も帰ってきたので収拾が付かなくなっている。激戦だったのだろう。損傷している機体が多い。救急隊は忙しげにしている。
ラバウルからは戦闘機200機以上が到着予定だったが、120機程度しか居ない。もう燃料は残っていない。未帰還だ。
東へ向かって航行していた第一艦隊が一機艦壊滅の報を受けトラックに向かった時に、第51任務部隊1群と第37任務部隊による攻撃が行われた。
後方から予備機を呼び寄せ、100機以上の雷爆撃機隊を編成。50機近くいたトラック島戦闘機隊という上空の傘が100機近い護衛戦闘機に制圧されてしまった第一艦隊に襲いかかった。ラバウルに機影無く空母戦力も無力化した今、トラック島戦闘機隊しか頼れる者は無かった。しかし、稼働機少なく強力な防空の傘を差し向けることは出来なかった。周辺に日本の航空攻撃能力が無いことをいいことに、トラックに逃げ込んだ第一艦隊とトラック島への攻撃は、後方から呼び寄せた各種機体で定数を満たし翌日も行われた。計3回の攻撃を受けた。実働機が少なくなっていたトラックの戦闘機隊では防ぎきれなかった。
第一艦隊
第一戦隊 大和(小破) 武蔵(沈没)長門 陸奥(沈没)
第四戦隊 鳥海(沈没) 摩耶(沈没)愛宕 高雄(小破)
第六戦隊 青葉 加古(沈没)古鷹(沈没)
第二水雷戦隊
軽巡 鬼怒(沈没)
第八駆逐隊 朝潮(沈没) 満潮 荒潮(沈没)陽炎(沈没)
第十五駆逐隊 黒潮 早潮(沈没)夏潮 不知火
第十六駆逐隊 雪風(沈没) 天津風 時津風(沈没)
第十八駆逐隊 藤波 早波(中破)浜波(小破)
武蔵と陸奥が沈没するなど甚大な損害を被った。沈没した船の多くが環礁内での沈没で救助された人員は多かった。
トラック島もせっかく引き揚げてきた戦闘機などが地上で多数撃破された。入港予定だった輸送船団はパラオに向かわせて無事だった。最優先目的は輸送船団を守り切る事であって、その意味では成功したと言える。
戦艦インディアナの漂流場所はトラック島の攻撃圏内であったが、航空攻撃力が尽きている事が分かり、その場で舵やスクリューを爆破するなどして曳航されていった。
トラック島への攻撃は、戦闘機が日本本土から島伝いにやって来たのと弾薬不足もあり控えられた。
第二次トラック島沖海戦は日本海軍最後の華々しい戦いだった。以降は圧倒的戦力差による一方的な戦いになっていく。
アメリカ軍には近接信管があるじゃ無いかと言う方には、史実でも供給された艦と数に限りが有りました。
レキシントンが沈んでいないので、エセックス級ブルランと言う名前にしてあります。
後1話、インド洋方面の話を投稿して完全に終了とします。
最終更新は、9月3日 05:00予定




