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ソロモンの戦い もし誉発動機が完調だったら・外伝

外伝です。

 日本は不本意ながらソロモンの戦いに注力している。アメリカ海軍も恐らく不本意であろう。1944年になれば、正面から日本海軍を叩き潰せたはずだ。急がせたのは議員と陸軍だろうという事は、外部情報の分析で分かってきた。

 日本にとっては不本意であるが、同時に幸運でもあった。まだ対抗できたからだ。


 それが、ブイン航空戦を始めとする1942年暮から1944年春にかけてのソロモンの戦いだった。


 ブイン航空戦は、ポートモレスビーやガダルカナルから飛んでくるB-17・B-24と護衛戦闘機を迎撃し、またこちらからも空襲を仕掛けるという戦いだが、攻撃針路がいわゆるソロモン回廊が主であった。

 アメリカ軍が1週間に3回から4回空襲するのに対して、日本軍は2回くらいだった。迎撃で機数を減らすことを目的にしていることをごまかすためにやり返しているのである。やり返さないと士気が保てないと言うこともある。

 破壊力には格段の違いがあった。B-17・B-24が1機辺り2トンから4トン落としていくのに、一式陸攻は1トンである。

 攻撃針路がいわゆるソロモン回廊と言うことは、お互いに対空警戒と迎撃が楽だと言うことであり、損害もバカに出来なかった。特に戦闘機がP-40とF4Fが主流だった頃のアメリカ軍の損害の多さが目立つ。キルスコアは実に4対1近かった。日本機を1機撃墜する間にアメリカ軍は4機落とされているという勘定だ。現実には戦場での誤認は付きものだし、良好な防弾や頑丈な機体、米軍の救助態勢もあり機体は失われてもパイロットの損失はそこまで行っていない。

 また、一式陸攻と零戦の高空性能がそのクラスとしては比較的良く、高度8000で侵入する一式陸攻と零戦の迎撃がP-40とF4Fでは難しかったと言うことも有った。一式陸攻も零戦もギリギリの高度だったが、P-40とF4Fにとっても困難な高度だった。

 これもP-38とF4Uが主流になってくる1943年終わり頃からほぼ拮抗し始める。ただそれまでにベテラン多数を失ったアメリカ軍は、損害の多い格闘戦や単機戦闘を極力避け編隊戦闘に終始している。この頃には日本軍も最低2機単位の編隊戦闘に移行していた。


 空で激しい戦いが繰り返されているが、海上でも激しい戦いが何回か有った。お互いの補給を妨害するために輸送船団への襲撃と、空襲では飛行場の無力化が難しいために艦砲で一気に無力化を企んだ事による。


 昭和18年1月に起こった第1次ソロモン海戦は、ガダルカナル島飛行場を夜間砲撃しようとした日本艦隊と哨戒に当たっていたアメリカ艦隊との戦いだった。


日本

第八艦隊 旗艦鳥海

 第四戦隊 鳥海 摩耶 高雄 愛宕

 第六戦隊 青葉 加古 衣笠

 第三水雷戦隊 川内

   第十一駆逐隊 吹雪 白雪 初雪 叢雲

   第十九駆逐隊 磯波 敷波 綾波

   第二十駆逐隊 天霧 朝霧 夕霧 


 第八艦隊はラバウル・ブイン方面の警戒隊として編成された艦隊で、速力優先のために戦艦は配備されていない。この時の編成には、古鷹と狭霧・浦波が欠けている。ラバウル入港中の空襲で損害が発生。本土へ帰ってドック入りであった。

 駆逐艦の燃料が持たないことから、ラバウルを出た艦隊はショートランド島西方までは14ノットの巡航速力で。そこから徐々に速力を上げソロモン回廊を一気にガダルカナル島まで直線で航行する計画だった。欺瞞航路よりも時間の方が大切だった。


 

挿絵(By みてみん)


 米豪艦隊は、当日輸送船団を護衛してガダルカナルへ来ていた。万が一日本艦隊が襲撃してきても対応できるようにサボ島を周回して警戒する部隊と輸送船団直衛部隊に分かれた。

 この頃にはアメリカは各艦艇の半分にレーダーが装備され、日本も四分の一は装備している。性能は知らないが。だから奇襲は無く強襲が有るだけだった。そのはずだった。日本海軍もアメリカ海軍もそう思っていた。

 問題は米豪艦隊が艦隊を二つに分けた事だった。サボ島周回部隊でレーダー装備艦が島の向こう側になった時に第八艦隊が来てしまった。先頭にいた川内の電探では装備位置が低く捉えられなかったが、後続の鳥海は高い位置に装備しており、サボ島周回部隊の殿艦しんがりかんをしっかり捉えていた。

 第八艦隊司令長官は隊内通信を許可。艦隊に撃ち方始めを命じた。既に総員戦闘配置に就いていた各艦はサボ島水道に突入した。大出力で「これより敵艦隊に突撃す」と鳥海から発信。

 これは米豪艦隊や輸送船団に精神的な奇襲となった。いないはずだった日本艦隊がすぐそこに来ている。輸送船団は午後遅くから荷揚げに入っていたがまだ2割程度しか陸揚げできていなかった。多くの輸送船は船足を止め停泊状態だった。それは直衛部隊も同じだった。日本艦隊が見える前にボイラーの圧を上げるまでの時間が有るのかも怪しかった。

 第八艦隊は飛行場艦砲射撃のつもりだったのに、敵艦がうようよで興奮している。第八艦隊司令長官は、戦隊及び駆逐隊単位の戦闘を指示。夜間の上に戦闘海域が狭く、戦力単位を小さく取る方が良いと思ったのだ。実行できるだけの技量は有るはずだ。

 困ったのは先頭にいる川内だ。ボッチになってしまった。逆に取れば単艦行動で好き勝手やっていいと言うことだ。と解釈。川内の奮闘が始まった。

 すでに第八艦隊各艦は28ノットまで速力を上げている。まだ水道で有り単縦陣だった。

 川内と鳥海の電探に反応が有ったのは、サボ島周回部隊先頭艦が第八艦隊をレーダーで捉えたのとほぼ同時だった。

 乱戦が始まった。


 川内と鳥海に続く日本艦隊をレーダーでとらえたヘレナ艦長は一瞬で血の気が引いた。あんなとこに味方はいない。レーダー室からは前方に艦隊が通過しているという報告が。世界の海軍軍人が夢にまで見たT字戦法。でも、そこに突っ込んでいく艦長は悪夢でしか無い。しかも、この分艦隊の指揮は自分が執っている。ロジェストヴェンスキーには誰もなりたくないのだ。同時にブリッジの窓からは発砲炎が見えた。

 それでも鍛えられたアメリカ海軍軍人だ。直ちに「各艦取り舵。増速し同航戦にする」「撃ち方始め」を次々と発令。「船団全艦に「敵艦隊と交戦開始した」と伝えろ」「護衛部隊には「応援求む」だ」通信手は休む暇無く交信を続ける。


 初弾は当たらなかった。当たる方が珍しいので悔しくは無い。本当に無い。敵先頭艦は、条約型クラスの大型巡洋艦らしい。川内では相手取れんな。四戦隊に任そう。

「機関増速、前進最大戦速。進路このまま」

 川内艦長は単独で突っ込むことにした。後続の駆逐隊を待つよりも、単独で戦場を荒らしてやる。そう思った。

「四戦隊、全艦発砲始めた模様」後部見張り員から報告が有る。さぞや派手だろう。ここからは見えないのが惜しい。

「砲術、2番3番4番は吊光弾を詰めてくれ。他の砲は敵艦見え次第発砲して良し」

「砲術了解。目標はどうしますか」

「吊光弾は遠く2万でいい。狙うのは近い奴からだ」

「砲術了解です」

「水雷、多分右舷を撃つが、すぐに反転して左舷も撃つと思う。第二雷速で準備」

「了解しました。目標は大型艦でよろしいですか」

「いや、見てからだ。それと戦闘中の次発装填は無理かな」

「舵を切られると魚雷も人も踊りますから」

「予備魚雷は投棄したいな」

「そう言う構造にはなっていませんよ」

「分かってる。言ってみたかっただけだ」

「後方、敵艦炎上中」

 頑張っているな。

「前方に反応。距離2万。反応4隻以上」

「砲術、3番4番、射角左右に20度。撃て」

「砲術了解。3番4番、射角左右に20度。撃ちます」

 艦橋の左右で主砲が撃った。発砲炎でしばらく見えない。遠くで明るくなった。

「2時方向、輸送船多数。停止しています」

「通信「飛行場付近に輸送船多数。荷揚げ中の模様」急げ」

 直後、発砲炎が前方に多数光った。


「司令長官。川内からです『飛行場付近に輸送船多数。荷揚げ中の模様』」

「四戦隊と二十駆はこのまま。敵艦隊の相手を続ける。六戦隊、十一駆、十九駆を飛行場に急行させよ」

「川内より続報『敵艦多し。応援を求む』」

「六戦隊に転送せよ」


 四戦隊は敵艦隊先頭艦を炎上停止せしめ、さらに二番艦にも猛攻を加え停止にまで追いやった。見張り員によると一番艦、二番艦はセントルイス級、三番艦はアトランタ級のようだ。三番艦も煙を上げ始めた。こちらは高雄が二番砲塔に被弾。砲塔全壊の上三番砲塔まで被害が及び、使えるのは一番四番五番の三基になってしまった。他にも被弾したが、いずれも損害軽微という範囲だった。

 二十駆は四戦隊に敵弾が集中しているので健在だ。

 敵三番艦後方から、駆逐艦が数隻飛び出してきた。

「敵駆逐隊とおぼしき反応近づく。距離一万」「駆逐艦とおぼしき艦影近づく、距離1万。隻数三」

 電探と見張りから相次いで報告が有る。

「戦隊増速、最大戦速、変針10度」「二十駆は敵駆逐艦を阻止せよ」「雷撃に注意」

 と言っても二十駆の最大速力は四戦隊とさして変わらない。加速力の差でわずかに近づくが、そこまでのようだ。

「二十駆撃ち始めました」


 川内は敵の砲撃を受けている。逃げ回っているが、いつもで持つか。既に数発浴びており5インチ程度だから助かっているようなものだ。6インチ8インチだったら酷い損害が出るだろう。

「クソ、輸送船は遠いな」

「艦長、撃ちましょう」

「水雷、待て。距離が遠い。酸素魚雷が有ればな」

「いえ、今すれ違った奴は巡洋艦みたいでしたよ。射程内でした」

「目標は輸送船だ。巡洋艦はほっとけ」

勿体もったいないです」

「輸送船をやれば、後に効く」

「分かっていますが、撃ちまくっている砲術がうらやましくて」

「しばし待て。的は近い」

「はい。帰投したら酸素魚雷が使用可能になる改装を申し出たいです」

「そうだな。上申はしよう」

「敵輸送船まで8000」

「水雷、用意だ」

「待っておりました。集中して打ちますか。射角を拡げますか」

「沢山居る。射角を拡げよう。まず右舷から行くぞ」

「右舷発射準備整っております」

「よろしい」

「輸送船まで7000」

「取り舵。舵そのまま。発射始め」

「二番連管発射始め『一番発射、二番発射』四番連管発射始め『一番発射、二番発射』艦長、右舷連管発射終わり」

「正面。接近中の敵艦有り。距離1万2000」

「舵戻せ。輸送船の相手は終わりだ。水雷。正面の奴をやる。左舷用意」

 激しい衝撃と爆音が起きた。被弾だ。

「六番砲塔消失、後楼倒壊。五番砲塔被害甚大」「七番砲塔旋回不能」「後部指揮所連絡取れません」

「浸水は?」

「確認できません」「火災発生」「四番連管使用不能」

「消火急げ」「水雷、連管はどうか」

「一番三番とも使用可能」

「よろしい。すれ違いざまに撃て」

「当てて見せます」

「面舵。反航戦用意」

 正面から近づく大型艦に向かって行くのだった。燃えながら。


「燃えとるの」

「川内は派手にやったようです」「六戦隊から『敵泊地突入』と入電」

「川内も燃えてないか」

「消化に手間取っているようですね」

「主砲、索制でいい。撃て」

「了解。撃ちます」

「水雷参謀、戦隊各艦に任意で発射して良しと伝えろ。味方に気を付けるようにとな」

「了解」

 燃える商船は良い目印と照明になっていた。


 レーダーに移る艦影が多すぎて戦場の判断が出来ない現状では、CICが有る艦でも各艦長はブリッジに上がり指揮を執っている。

「あの燃えてる奴を撃て。味方には撃つなよ」

「ボイラーはまだか」

「第四戦速可能です」

「速力上げ、第四戦速」

「川内タイプ近づきます。本艦左舷を航過する模様」

「撃ちまくれ。奴らは魚雷を持っているぞ」



 鳥海は第三戦速で北東に向けて航走している。上部構造物が大破して機関への吸気が上手く行かない愛宕の、出しうる全力だった。航続艦は数が減った。結局ガダルカナル島飛行場砲撃は短時間に終わった。時間切れも有るが、その前の海戦で弾を撃ちすぎた。

 駆逐隊から速力を落として欲しい旨通信が有るが、ショートランド泊地まで持たせろと返答しておいた。少なくともブインから150海里まではこのままで行く。

 先ほど、上空をガダルカナル方面に行く味方航空部隊を見かけた。多分敵航空部隊の追撃は無いと思うが油断は禁物だ。

 戦果は多大な物が有った。巡洋艦5隻、駆逐艦4隻、輸送船8隻を沈め、巡洋艦2隻、駆逐艦3隻、輸送船複数を撃破。しかし飛行場砲撃は満足に出来なかった。

 この戦果も完全に確認できた物ではない。夜間で有るし交錯した戦場だ。確定は難しいだろう。敵の無線が飛び交っている所を見ると相当混乱している。

 第八艦隊は川内沈没、初雪沈没、夕霧沈没。愛宕大破、高雄中破、青葉中破、他小破はほぼ全艦という満身創痍の艦隊だった。

 川内、初雪、夕霧は乗組員救助の時間が限られ戦場に置き去りにした人員も居ただろう。捕虜になっても生き残ってほしいものだ。




米軍戦力 

巡洋艦7隻 

駆逐艦10隻 

輸送船18隻 


損害

巡洋艦   4隻沈没 1隻大破 1隻小破

駆逐艦   4隻沈没 1隻着底 後に廃棄 2隻中破

輸送船   6隻沈没 5隻着底 後に廃棄 3隻損傷


 後日の記録上は、日本海軍が相手の隙を突き圧勝したと見られている。

 沈没と着底した輸送船には、この輸送でまだ荷揚げされてないない食料・医薬品・航空機・航空機部品が積まれていた。最初に上陸したのは、海兵隊と陸軍に弾薬だった。上陸した人員の食料も医薬品も荷揚げされていなかった。

 ガダルカナル島では食糧不足と航空機不足で次の補給まで苦しい戦いを強いられた。



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