開戦
まずは開戦です。
昭和16年12月08日。
遂に英米に対して武力を行使してしまった。日米も加わった第二次世界大戦の始まりである。
「始まったな」
「回避努力は無駄だった」
「主戦派と強硬派をフィリピンとマレー半島に集中させただけいいじゃないか」
「そうだな。内地で行動を起こしても戻ってこれないしな」
「参謀本部からも、相当数を転属させたし」
「現地の司令官は大変だ」
「問題は辻か」
「辻だな」
「本間中将は、我々のやることに賛同はしてくれないが、それでも強硬派や主戦派ではダメだと思っているらしい。辻の暴走は許さないだろう」
「山下中将はどうだろうか」
「分からんが。おそらく大丈夫だとは思う」
「関東軍は、梅津大将が押さえていてくれるな」
「有り難いことです」
フィリピンでは順調に日本優位のまま戦況は推している。マレー半島でも同じだ。
「マレー半島はシンガポールを残すのみか」
「ではやるか」
「今しか無いと思うが、気乗りはせん」
「今更言うな。彼奴らが大手を振る様な事態になれば国が滅ぶぞ」
「英米にケンカ売った時点でダメだとは思うがな」
「言うな。誇りを示さねばならん」
その日、大本営と陸軍省と陸軍参謀本部が占拠された。様々な理由を付けられて、拘束されたり即日更迭された人間も多い。相当数の人員が入れ替わった。拘束の理由は、料亭での過度な使い込み(業務上横領)や民間への暴力(軍刀を抜いて見せびらかす)など、今までであれば軍内のなあなあや軍の強権を持って無いことにされた様な事柄も多かった。
海軍も、海軍省と軍令部が同じ事態になり、連合艦隊司令部も同様だった。
追い出された将校の多くは対英米強硬派や主戦派であり、統制派や皇道派などの区別は無かった。
軍内部のことであるが、クーデターである。
そして成功してしまった。
日本は、即日ジュネーブ条約の批准を国外に発表。翌日批准。国内に残る駐日大使や駐在武官に確認してもらい有効性を認められた。
しかし、中途半端なクーデターであった。「誇りを示さねばならん」と言うように即時停戦という手段は執らず、ある程度抗戦してから降伏するという道を選んでいる。
また、日独伊三国同盟の破棄もしておらず、やはり中途半端であった。
後年、即時停戦が最良では無かったかと度々議論になる。
マレー半島はシンガポール陥落で終結した。酷い規律の乱れは無かったようだ。山下中将がよく締めたのだろう。勝利で浮かれていたせいもあるかも知れない。
フィリピンでは辻中佐が度々問題を起こしている。賛同する指揮官・参謀や士官も多く本間中将は大変だろう。
しかし、本土の仲良しはほとんどが居なくなってしまっている。部隊内は元よりフィリピン-本土間でも通信が確保されていることで、好き勝手に出されていた参謀命令はいちいち確認され、ほとんどが無効とされた。
本間中将はジュネーブ条約を日本も批准したことを理由に締め付けを強め、捕虜虐待等の命令無視をした将校を問答無用で更迭し始めた。辻中佐は即時に捕虜虐待や参謀命令を中止。上手いこと逃れている。
更迭された将校の代わりは、部隊内での昇格や兼任、本土からの派遣で凌ぐ。そのせいで。部隊の統制が取れずに進撃は遅れた。
コレヒドール要塞に立てこもったアメリカ軍が降伏したのが、6月15日であった。
要塞内は酷い状態であり、救援物資の搬入が検討されたが皇軍の物資に余裕が無いと辻中佐が反対。逆に捕虜収容所まで至急移動させると言いだした。
本間中将の命令で救援物資を搬入し始めたが、辻中佐はそれに不満を持ったか捕虜の一部移送を独断で始めてしまう。我の強い性格で我慢できなかったのだろう。しかしトラックが不足しており、体力も残っていない捕虜を歩かせて移動させ始めた。捕虜と捕虜の監視のためフル装備で同行する日本軍兵士も倒れた。死者も多く発生。
この報告を受けた本間中将は、即座に移送中止と救援の開始を指示。同時に辻中佐の拘束を下命。また関係者多数を調査対象とした。
辻中佐は現地で地位の剥奪を受け、日本国内で軍法会議に掛けるべく送還された。
ジュネーブ条約批准後の事件であり、陸軍の恥とされ一部から有った辻の名声は地に落ちた。
ポートモレスビー攻略は大戦略の変更とともに中止となり、ラバウルを落とした時点で進撃は止めた。ただ、オーストラリア東岸とバヌアツ・ニューカレドニア方面の哨戒基地としてブインの占領はされた。
海軍は海軍で、東京空襲の影響も有りミッドウェーを手掛けたかったようだが、途中の机上演習でお遊びになったことが発覚。練り直しされた。結果として、損害多くして益少なし、となり中止となった。
お遊びとは、こんな事は無い(爆弾命中を無しにする)とか、ここに絶対敵が居る(ろくに偵察をしていない)とか、敵や状況を軽視すること度々で有って、これは机上演習では無く机上遊戯だと軍令部に報告が有ったためである。
その机上演習の主要メンバーで悪質な者は更迭された。中でも、統監兼審判長であった宇垣纏中将は特に悪質とされ、連合艦隊参謀長職を罷免。予備役編入にされる前に自ら退役願いを出し予備役になった。黒島亀人大佐も連合艦隊首席参謀の任を解かれ、1階級降格のうえ、場末の警備部隊に回された。
山本五十六連合艦隊司令長官は、監督責任は問われたものの直接の責任は無いとされ厳重注意にとどまった。人気の無い連合艦隊司令長官なら、間違いなく飛んでいただろう。
海軍艦艇は、ポートモレスビー攻略やミッドウェー作戦が中止されたおかげで、開戦から走り回った各艦の整備時間を取ることが出来た。この時、新型兵装の装備や対空火力の増加など、戦力の向上が図られている。
開戦
マレー半島上陸
ハワイ作戦 成功評価3割 理由 空母を捉えていない 港湾設備にダメージが無い
シンガポール占領 マレー作戦完了
シンガポールの安全性を高めるためインド洋作戦展開
主要目標はコロンボとイギリス東洋艦隊
大戦略の変更によりビルマ作戦は中止
上陸部隊は伴わず機動部隊と馬来部隊のみで展開
アンダマン諸島は攻撃のみで上陸せず
ミッドウェー作戦発動せず 不祥事により
フィリピン戦終了 辻中佐を始めとする思い上がった将校複数の更迭成功
ポートモレスビー攻略は中止。ラバウル攻略時点で進撃は止まる。
ブインは米豪哨戒用として占領、基地化。
海軍艦艇整備に入る 21号電探や新型探信義など装備
机上演習の結果を重視 対空火力の増加を行う
空母機動部隊同士の戦いはインド洋で有っただけだが、空母同士の直接対決は無く戦訓が足りないのが不安な所。
次話は発動機。