ご都合主義正当化シリーズ~『どうして聖女が追放されたら追放した国は不幸になるの?』編~
──まずい。
非常にまずい。
この私、みんなの女神様ことセントレアは下界を見下ろして冷や汗をかいていた。
理由は聖女……まぁ、私に仕えるスーパー女の子ね。
聖女の名前はリーラ。容姿端麗、頭脳明晰、誰もがうらやむ聖女様──に、見えるように私が一から作った。
私の代わりに世界を平和にするのよ? それぐらいして当然じゃない。
もちろん、リーラはその才能を遺憾なく発揮したわ。聖女パワーで各国を助け、愛すべき私の信者を救ってきた。
私もリーラの働きには満足してるわ。信仰が揺らがない確固たるものになっているもの。
……だけども、その次が問題なのよ。
今、私の目下で人間達が言ってることをそっくりそのまま教えてあげる。
場所はお城のパーティーよ。
「聖女リーラ! 我が許嫁のクラリスを辱しめた罪によりおまえをこの国から追放する!」
……はぁっ!?
バッッッカじゃないの!? アホの子なの!?
その衝撃映像を見てしまった私は思わず雲を殴る。
ちなみに、この言葉は国王の第一王子が言っている。いわゆる殿下様だ。
これがド田舎の子供達の『追放聖女ごっこ』なんていう質の悪い遊びだったら雨をふらせて中断させる程度で勘弁してあげるところだけど、一国の王子が真面目に言っているのだ。
しかも、その己が溺愛している許嫁の真っ赤なウソのせいで。
呆れてものも言えない。
……でも、さすがにリーラも黙ってないはずよ。完全に濡れ衣だもの。
それにこんな突拍子もないこと、そう簡単にことが運ぶはがずな──
「……分かりました。殿下がそうおっしゃるなら」
ええええええ!?
リーラ! 何バカな事を言ってるのよ! 何か悪い食べ物を食べたの!? 吐きなさい!
私が天界でもだえているにも関わらず、リーラは頭を下げてパーティー会場をあとにする。その足取りは速かった。
私は思いどおりにならない現実に泣き腫らしたまま仰向けになった。
私の積み上げてきた努力がどんどん崩壊していく。
どうして……どうして急にこんなことに……!
「ふふっ、これで自由です」
……ん?
リーラの軽い声が気になり、また下界を覗き込む。
えっ? なんでそんなに荷物をまとめるの早いの? 聖女の仕事で各地に行ってたから?
それにしては荷物が軽すぎる。というか私の小さい石像もかばんの中にいれなさいよ。
自分の部屋に入るやいなや、トランク一個に生活必需品を詰め込むリーラに私は顔をおおう。
──と、リーラは部屋には自分しかいないことをいいことに、こんな独り言を呟いた。
「私、スローライフに憧れていたんですよね。自然はいいものです。隠居するところは……エルフの国がいいですね。知り合いもいますし」
リーラの妙にウキウキした表情で、私は全てを悟った。
──いや、違う。リーラはもともと荷物をまとめていたんだ。
どうやら行く先はエルフの国らしい。
あそこは確かにいいところではあるけれど、王国よりも不便よ? 法律でお肉も食べられないし。
私はおろおろと届きもしない言葉をリーラに投げかける。
まぁ、それでリーラが止まるとは思っていないのだけれど。
リーラは動きやすい服に着替えてトランクを持つ。
「思いたったが吉日。さっさと姿をくらましちゃいましょう。ふふっ、まさか聖女が窓から飛び降りて国から逃げ出す悪い子だなんて知ったら、セントレア様は怒るでしょうね」
今絶賛激おこプンプン丸よ。分かってるならその窓枠から足をどけなさい。
しかし私の思いとは裏腹に、リーラは窓から飛び降りてしまった。
もう太陽も沈んだ。あんな追放のされ方をしたら番兵だってリーラを追おうとしないだろう。
……スッゴく困るんですけど。
どうするの私の信仰。このままだとなし崩し的に信仰されなくなるんですけど。
新しい聖女を作る?
いや、リーラという存在自体が私としてもかなりまずいと思っている。
あんなチートキャラが二人もいたら世界のバランスが確実に崩壊するわ。
私が下界に下りてリーラを説得しに行く?
……それはそれで面倒事になるわね。神様はそんなポンポン降臨できるものでもない。下界がお祭り騒ぎになる。
──やっぱり、ここはリーラを連れ戻すしかないわね。それが一番丸く収まるわ。
じゃあ、どうやって?
リーラに天罰を与えて無理やりとどまらせることもできなくはないわ。でも今回ばかりはリーラに非はない。むしろ、あのおバカ殿下に天罰を与えるべきだわ。
だけど、アイツに天罰を与えてリーラがどうこうなるわけがない。リーラがスカッとするだけだ。
ああああ! もうどうすればいいのよッ!
私がああでもないこうでもないとグルグル回っていると
「でも……教会の人たちに会えなくなるのはさみしいかなぁ……」
リーラは悲しそうな顔で大聖堂の方向をみていた。
そういえば、リーラは教会の人たちを家族のように思っていたわね。
小さい頃から一緒だったもの。嬉しい時も、悲しい時も、そして苦しい時も──。
……それだ。その手があった。
私はポンと手を打つ。
そうだ! 教会の人たちを第一王子の天罰に巻き込めばいいんだ!
教会の人たちが苦しい思いをしたら、あの子はきっと助けに帰ってくるはず。
リーラは優しい子だもの、そういう性格に私が作ったんだから。
私って天才! もしかして天災? 私としてはどっちでもいいけど。
この世界を創造した以来のひらめきに歓喜が私の心を満たす。
さすがに私ね。神様なだけのことはある。
「みんな……さようなら」
「逃がさないわよ」
リーラの独り言を勝手に会話にしながら私は頭の中に天罰をリストアップする。
疫病? 洪水? 地震? 飢饉がいいかしら?
最低でもあのバカ殿下が失脚するぐらいのものでなくっちゃ。
まぁ手始めに重要航路を波で荒らしちゃいましょう。これはかなり痛手だと思うわ。
私は視線をリーラから移して、リーラを追い出したバカ殿下の愉悦に浸った顔を見る。
アッハハハハ。
殿下の無知な顔がおかしくて滑稽で、やめようとしてもやっぱり笑みが誘われてしまう。止まらない。アハハハハ。
……腹がよじれるほど笑ったからだろうか。
あまりにもおかしいので、私はつい、心の中で思っていた本音が口に出てしまった。
「今さら許してと言ってももう遅い。リーラが帰ってくるまで、ずっと厄災は続きますから」
せいぜい足掻きなさい。ざまぁみろ。
この他にも個人的に気にくわない、納得いかない「ご都合展開」がありましたら感想などに書いていただけると幸いです。次の作品を書く上での参考にしたいと思います。




