王太子殿下に破滅を。男爵令嬢アリーナの復讐
「マリーディア・ミルタルト公爵令嬢、そなたとの婚約を破棄し、ここにいるアリーナ・サントレス男爵令嬢との婚約を新たに結ぶとする。」
マルド王太子の宣言に、周りの卒業生たちはざわめく。
マリーディア・ミルタルト公爵令嬢は悔し気な顔でこちらを睨みつけて叫ぶ。
「何故?わたくしが何を致しましたの?」
男爵令嬢であるアリーナはわざとらしく涙を目にためて、寄せてあげた胸をアレス王太子の腕に押し付ける。
ピンクブロンドにわざわざ染めた髪、目を大きく見せる為に、化粧を施していかにも、庇護欲を誘うかのような令嬢を演じて来た。
そう、全てはこの日の為。
卒業パーティには国王陛下や王妃も出席している。
そして、マルド王太子にミルタルト公爵令嬢と婚約破棄をするように囁き続けてきた。
マルド王太子をその周りの貴族子息達を破滅に陥れる為に…
宰相子息も騎士団長子息も、アリーナに熱い視線を送っている。
その二人にもいかにも頼りない令嬢を演じて、縋るふりをした。
二人ともアリーナの虜である。
愛し気な表情でこちらを見つめてくるマルド王太子。
答えるかのように目をウリウリとしてマルド王太子を見つめるアリーナ。
さぁ、破滅までもうすぐよ。覚悟をして頂戴。マルド王太子殿下。
アリーナは貧しい農村で生まれた。
貧しいながらも両親に愛され、兄や姉にも可愛がられて幸せに暮らしていたのだ。
それが一変したのが12歳の時だった。
マルド王太子は幼い頃から腕の立つ剣士として名をはせていた。
そんな彼が同じ年頃の公爵令息達と共にアリーナの村の山に生息しているドラゴンを退治しに騎士団と共に王都からやってきたのだ。
ドラゴン達は悪さをしている訳でもない。
15匹位のドラゴン達がどこかから移り住んで、村の山に住み着き、ひっそりと暮らしていた。
村人達は山に入る時は、村で取れた作物を祠に捧げ、その作物をドラゴン達は食べたりして、
それは良好な関係を築いてきたのである。
ドラゴン達だってやっと安住の地を見つけたのだ。
ひっそりと暮らしたい。
そんな思いを持っていた。
何故、その事を知っているかと言うとアリーナはドラゴンの少年と仲良くなったからである。
ドラゴンの少年はアレスと名乗って、人の姿を形取り、時々、アリーナと遊ぶようになった。
その少年から、ドラゴン達は山でひっそりと暮らしていきたいという話を聞いていたのだ。
その言葉を村長にアリーナが伝えると、村長は、
「村で獲れた作物を祠に捧げよう。村に降りてきて悪さをしなければ、ワシはドラゴンに危害を加えたいとは思わない。」
そのような方針もあり、ドラゴンと友好的な関係を築いてきたアリーナの村。
名前はキルト村と言う。
それが、マルド王太子達が山に分け入って、騎士団と共にドラゴン退治を行ったのだ。
キルト村の人達はどうする事も出来なかった。
マルド王太子達が血だらけの剣を持って興奮しながら、山を降りて来たのを見ながら、
ドラゴン達が全て退治されたのを聞きながらどうする事も出来なかった。
いや、ドラゴンは一匹だけ生き残る事が出来た。
アリーナと仲のよいアレスは村に降りてきていて、アリーナの家で遊んでいたのだ。
だから、命は助かった。
だけど…だけど…
アレスは家族を皆、殺されてしまって嘆き悲しんだ。
アリーナは慰めて…
「俺は家族を皆、殺されてしまった。許せない。」
「解る。解るわ。でも…相手は王族や騎士団よ。どうする事も出来ない。」
アレスがあまりにも悲しんで…ドラゴンに戻って空を飛んでいってしまったので。
アリーナは追いかけて…
山の道を登って行きながら、アレスに声をかけた。
「アレスっ。私がいるから。私がいるからっーーー。」
その時である。
川の水が濁流になって村へ襲い掛かる姿が見えた。
人の姿になったアレスがアリーナの傍に降り立って、驚いたように村を見つめる。
あっという間に濁流に飲み込まれる村。
あそこに父や母、兄や姉が…
何故っ???何が起きたの?
アレスは悔し気に、
「川の水をせき止めていた堰が壊れたんだ。王都の連中が俺の仲間達を追いかけ回して、
仲間達が逃げる時に堰にぶつかったのかもしれない。あああっ…ごめん。
ごめんなさい。俺達ドラゴンがこの山に来なければ…」
「お父さん、お母さん。お兄ちゃん。お姉ちゃん…」
涙がこぼれる。
さっきまで生きていたのだ。さっきまで家族は生きていたのだ。
全て水に沈んでしまった。村人は一人残らず助からないだろう。
ドラゴンに恨みはない。
全て王都の連中が悪いのだ。
面白半分にドラゴン狩に来なければ…
アリーナとアレスは共にマルド王太子やその周りの貴族達に復讐を誓ったのである。
サントレス男爵の養女になったアリーナ。
何故、なれたかと言うと、サントレス男爵もキルト村出身だったからだ。
年老いた両親がキルト村に住んでいた。
サントレス男爵とその夫人は、男爵の両親を王都へ呼びたかった。
でも、二人は生まれ育った村で生きて行きたいと、王都へ来なかったのだ。
そして、サントレス男爵はアリーナの事を知っていた。
サントレス男爵は時々、村へ里帰りするときに近くに住むアリーナの父と酒を汲み交わす仲だったのだ。
家族を失ったアリーナ。
夜、人目につかないように、ドラゴンに戻ったアレスに乗せて貰い、王都のサントレス男爵家に向かう。
そして、王都に到着し、人々にサントレス男爵家の場所を聞き回る。
お腹もすいた。
着の身着のままで来たのだ。
アレスなんて、腰に布を巻いた姿である。
ドラゴンなのだ。人間に化ける事も出来るが、素っ裸で…服を着る習慣もない。
二人はフラフラしながらも、懸命にサントレス男爵家を探して、
やっと見つけて門の前で声を張り上げた。
「キルト村から出て来たアリーナです。男爵様。どうか…門を開けて下さい。」
門番は男爵に取り次いでくれて、
門を開けてくれた。
二人は屋敷の中に通される。
サントレス男爵はアリーナとアレスを見やり、
「どうした?何があった?ともかく、温かくして、何が食べ物だな。」
毛布を持ってきてくれて、二人は温かいスープとパンにありつくことが出来た。
サントレス男爵は客間で二人に話を聞く。
アリーナは涙ながらに。
「マルド王太子達がドラゴンを全て殺してしまいました。ここにいるアレスを抜かして。
そのせいで上流の堰が壊れて、村が沈んでしまいました。お父さんもお母さんも村人全てが水の底へ…」
サントレス男爵は目を見開き、
「何だって?それでは私の父上も母上も。」
男爵夫人も真っ青になりながら涙を流して、
「あああああ…なんて事でしょう。」
アリーナは決意したように、サントレス男爵に、
「私は復讐をしたい。私や、男爵様、アレスの家族を殺したマルド王太子に。周りの貴族達に…」
サントレス男爵は頷くも、
「しかし、どうやって…」
男爵夫人がアリーナ達に向かって、
「貴方達、わが男爵家の養子にならない?そうしたらマルド王太子殿下に近づけるかもしれないわ。一応。下位とはいえ貴族。」
アレスは首を振って。
「俺は人間ではない…ここに使用人として置いて下さい。アリーナを陰から助けたい。」
アリーナは男爵夫人に、
「有難うございます。私は必ず、マルド王太子やその周りの人達を破滅に追い込んでみせます。」
アリーナはサントレス男爵夫妻の協力もあって、貴族が通う王立学園に入る事が出来た。
キルト村が滅びて3年後の事である。
いかにも男性が好みそうな、髪をピンクブロンドに染めて、胸を強調するような服装をし、
マルド王太子や側近達に近づいたのだ。
マルド王太子はマリーディア・ミルタルト公爵令嬢という婚約者がいたのであるが、
事ある毎にマリーディアに虐められていると訴えるアリーナ。
公爵令嬢と言えば、プライドが高く、マルド王太子に向かって言いたい事をズケズケと言うマリーディアもそんな令嬢であった。
それに対し、アリーナはマルド王太子を褒めちぎり、か弱さを強調して、それはもう、マルド王太子や取り巻き達の心を虜にしていったのだ。
1年が過ぎ、王立学園の卒業パーティで、アリーナは仕上げに入る事にした。
アリーナはまだ16歳。しかしマルド王太子は卒業する18歳になったのだ。
マリーディアとの婚約破棄を宣言させる。
当然、国王陛下も公爵家も知らされていない勝手なマルド王太子の婚約破棄宣言。
怒り狂った国王陛下はマルド王太子を廃嫡するだろう。側近達もそれ相応の罰が下るだろう。
「マリーディア・ミルタルト公爵令嬢、そなたとの婚約を破棄し、ここにいるアリーナ・サントレス男爵令嬢との婚約を新たに結ぶとする。」
「何故?わたくしが何を致しましたの?」
公爵令嬢マリーディアが悔し気に聞いてくる。
マルド王太子は、
「お前が愛しいアリーナを虐めているのは知っているぞ。」
虐めはあったのだ。マリーディアという公爵令嬢はアリーナを虐めた。
周りの取り巻き令嬢達を使って、事ある毎に蔑むような言葉を浴びせ続けたのだ。
「男爵令嬢ごときが王太子殿下と親しくするなんて。」
「マリーディア様の婚約者なのだから、分をわきまえなさいよ。」
「そうよ。はしたない。それでも淑女なのかしら。」
それをアリーナはマルド王太子に報告したのだ。
マリーディア様が取り巻き令嬢達を使って、私を虐めるの…と。
マリーディアは叫ぶ。
「だって、わたくしの婚約者である王太子殿下に男爵令嬢の癖して、馴れ馴れしくするから、わたくし…」
アリーナはちらりと国王陛下の顔を見る。
その時を今か今かと待った。
国王陛下はマルド王太子に向かって、
「ミルタルト公爵家と我が王家が取り決めた婚約をお前の一存で破棄するなど。
虐めがあっただと?男爵令嬢ごときが、婚約者のいるお前と親しくすること自体、問題があったのだ。令嬢達は当然の事を言ったまで。お前には王太子の荷は重すぎたようだな。
そこの側近達もそうだ。マルドを窘めるもなく…王太子が間違った道を進んだなら、正すのが側近の勤めであろうに。マルドを王太子の位から降ろす。」
マルドは叫ぶ。
「父上っーーー。私はっ…」
「言い訳は聞かぬ。サントレス男爵家に婿に入るがよかろう。愛しいアリーナと婚姻出来てよかったではないか。宰相、騎士団長。お前達の息子も側近から外れる事となる。」
宰相も騎士団長も真っ青になりながら、
「承知いたしましてございます。」
「廃嫡させます。この度の始末はきちっとつけます。」
二人の令息は真っ青になる。
二人とも廃嫡されて、貴族社会に二度と顔を見せる事はないだろう。
アリーナは卒業パーティに来ていたサントレス男爵夫妻と目を合わす。
男爵は頷いて…
アリーナは満足げに微笑んだ。
上手く行ったわ。彼は破滅した。
仕上げに入らなくては…
卒業パーティが終わり、
マルドはその日のうちに男爵家に送られた。
廃嫡の手続き中である。しかし、サントレス男爵家の婿に入る事は決定している。
王宮に彼の居場所はない。
そういう事だろう。
客間でヤケになったマルドが酒を飲んでいる。
「どうして…私は間違った事はしていない。」
そこへアリーナが黒のドレスを着て入って来た。
「広間へ来て頂けますか?マルド様。男爵家に婿入りの歓迎会をしたいと思っておりますの。」
「歓迎会?はぁ、仕方ない。アリーナがそう言うならば。」
広間に行くと、蝋燭が何本も立てられてゆらゆらと揺れていた。
サントレス男爵夫妻と、アレスが立っていて。
皆、黒の服装をして、手に蝋燭を持っている。
アリーナはにっこり笑って、
「椅子にお座りになって?マルド様。」
広間の中央にポツンと置かれた椅子。
薄気味悪く感じたマルドであったが、その椅子に腰かける。
アレスが近づいて来て、椅子ごと縄でぐるぐるとマルドを縛り付けた。
「何をするっ???」
アリーナも蝋燭を手に持ちながら、
「これからとある村の物語をお話ししますわ。マルド様。」
サントレス男爵が遠い日を懐かしむように。
「キルト村と言う小さな村がありましてね。その村は山に住むドラゴン達と友好な関係を築きながら、平和に暮らしていたんですよ。」
男爵夫人がうふふふふと笑って、
「男爵様のご両親はとても良い方で。わたくしが子を妊娠したと聞いたら、わざわざ村から出て来て喜んで祝って下さって。本当に良いご両親でしたわ。わたくし、両親がおりませんの…だから、本当の両親のように、男爵様のご両親の事…思っていたのです。」
アレスが蝋燭を手にマルドに近づいて、
「村人達は住むところに困って山に住み着いた俺達ドラゴンにとても親切だった。俺がドラゴンだって知っても、アリーナの家族はとても良くしてくれて。アリーナの家で遊んだりしたよ。あの頃は楽しかった…幸せだった…」
アリーナはマルドを見下ろしながら、叫ぶ
「それを貴方達が壊したのよ。ドラゴンを面白半分に殺して、山の上流にある堰を壊して…
私達の村は一瞬にして泥水に飲み込まれた。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。
優しかった村長さん。村人達…皆。飲み込まれたのよ。貴方が…貴方達が王都から来なければ私はずっとあの村で暮らしていけたの。」
男爵夫人は泣きながら。
「わたくしは自分の子を失ったわ。キルト村が水に沈んだ。男爵様のご両親が亡くなった…その事を聞いたわたくしは翌日、子を流産してしまったの。もう、子は出来ないって…
楽しみにしていたのよ。ずっとずっと出来なかったの。だからやっと出来た子を楽しみにしていたのよ。それなのにっ…貴方達が山に行かなければ…私は可愛い子を産むことが出来た。」
マルドは真っ青になりながら、
「知らなかったんだ。キルト村が滅びたなんて…私達のドラゴン退治が原因だったなんて…知らなかった。」
アレスはマルドの首筋にナイフを押し当てて、
「俺は両親を仲間を殺されたんだ。ドラゴン退治だと?俺達が何をした?人間に危害を与えた覚えはない。何をしたって言うんだ。許せない。許せない。」
血がすうううっとマルドの首筋から流れる。
サントレス男爵が皆に向かって、
「全てを終わりにしよう。さぁ、この男を好きなだけ刺して殺すがいい。さぁ…」
アレスは手のナイフを持ち直し、マルドの首に押し当てる。
アリーナも両手でナイフを持ち、マルドの左胸を狙う。
男爵夫人もマルドの腹を狙って、両手でナイフを構える。
マルドは真っ青になって震えて。
「許してくれ…私が悪かった…許してくれ。頼むから。生きたい。」
アリーナはふと、サレントス男爵がナイフを手にしていないのに気が付いた。
「義父上は殺さないのですか?」
サントレス男爵はアリーナを見つめて、
「私は臆病でね。勿論、憎い…私の両親を殺したマルドは憎くて許せないが…
この手を血で染める勇気がない…人の命を断つ勇気がない。
笑ってくれ…私は臆病者なのだよ。
このどうしようもないマルドだって、こうして生きている。こうして命乞いをしている…
そのような命をどうして私の手で終わらせることができようか…
例えどうしようもないクズでも私は人を殺す事は出来ない。」
アレスは泣き叫んだ。
「俺達だって、人間と同じなんだ。なのにこの男は、遊び半分で殺した。俺の家族を仲間達を。俺はこいつを殺す。こいつを…殺してやる。」
アリーナがアレスに抱き着いて。
「やめて。やめてっ…私もやはり殺せない。殺せないわ。貴方の気持ちわかる。私だって両親を家族を殺されたのですもの…でも、殺せない…私…駄目だわ…」
涙がこぼれる。人を殺す事なんて出来ない。
男爵夫人が床に座り込んで、啜り泣く。
「殺せると思ったのに…殺せると…わたくしも駄目だわ…」
アリーナに抱き着かれて、アレスも諦めたように、ナイフを床に落とし、座り込んだ。
サレントス男爵は皆に向かって、
「どっちにしろこの国にはもういられない。屋敷に火を放って、行こう。」
マルドを焼き殺す事も出来るだろう。
でも…人を殺す事は出来ない…
出来なかった。
マルドを縛ったまま、庭の外に転がす。
アリーナはマルドに向かって、
「貴方の命は助けてあげます。その代わり、貴方が犯した罪を一生、償って…祈って…
貴方が殺したドラゴン達を、キルト村の人達の冥福を一生祈って暮らしてください。
それが出来なかった時こそ、私達は貴方を殺しに再び現れるわ。」
マルドは涙を流しながら、
「解った。私は一生、修道院でドラゴン達やキルト村の人達の冥福を祈り続けよう。
だから、許してくれ。本当にすまなかった。」
アリーナは満足した。これで少しは家族も村人達も…ドラゴン達も浮かばれるだろう。
サレントス男爵が広間に油を撒いて火を放つ。
ドラゴンになったアレスに乗って、アリーナと男爵夫妻は夜の空へ高々と舞い上がる。
眼下に見える燃え盛る男爵家。
その炎は赤々と燃えて。
サレントス男爵はアリーナに、
「復讐は終わった。これからは好きに生きていくがいい。」
アリーナは男爵夫妻に礼を言う。
「有難うございました。義父上、義母上。私とアレスを引き取って下さって。
お陰様でこの日を迎える事が出来ました。これからはアレスと共に新たなる人生を送ろうと思います。」
男爵夫人がアリーナを背後から抱き締めて。
「貴方は私の大事な娘。私達の親子の縁は切れないわ。貴方とアレスが帰ってくる家は私達夫婦の家。いつでも待っているから。アリーナ。」
「有難うございます。義母上。」
本当の子を失って辛かったであろう男爵夫人。
アリーナにとって第二の家族だったサレントス男爵夫妻。
有難くて涙がこぼれる。
アレスが飛び続けて、朝日が山の彼方から登って来た。
隣国へ行って新たな人生を迎えるであろうアリーナやアレス。そしてサレントス男爵夫妻。
復讐を終えた4人の新たな人生を祝福するかのように、朝日が明るく皆を照らすのであった。
「そう…マルド様は修道院に行かれたのね…」
外は真っ暗…シトシトと雨が降る夜。
報告をしてきた使用人が部屋から下がると、窓の外を見る。
- マルド様、わたくしの罪を言って下さってもよかったのに… -
遠い昔に想いを馳せる。
「お父様が言っていたの。キルト村の山にドラゴンがいるんですって。
貴方、剣の腕が立つんでしょう。だったらドラゴン退治なんて訳ないわよね。」
「それは私にかかれば、ドラゴンなんて大した事はないが…」
「でしたら、ドラゴン退治に行ってくださいな。わたくし、強いお方が大好きですのよ。」
「君がそう言うなら、ドラゴンを見事退治してくるよ。」
「頼もしいですわ。マルド王太子殿下…」
自分がそそのかしたのだ。
ドラゴン退治をして強さを見せてくれと…
復讐されるのは本当なら自分だ。
- わたくしを庇って下さったのね… -
涙がこぼれる。
- さようなら…マルド様。
愛しておりましたわ。だから、わたくしを裏切った貴方の事、憎かった。
でも、わたくし、貴方の事…今日限り忘れる事に致します。愛も憎しみも全て…
わたくしはレイド王太子殿下と共に新たな王国をつくる事に致しますわ。-
自分の罪に蓋をして…愛も憎しみも全て忘れ去るように…
令嬢は一人、暗い窓の外を見続けるのであった。