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新年祝賀会

 祝賀会には当主だけが出る決まりなので、俺は一人で馬車に乗り込み、王宮へと入った。


 我が領地の南隣を治めるコンラード侯爵ルーカスと廊下でばったりと会ったので挨拶をする。


「フレデリク殿、新年おめでとう」


 さわやかな笑顔で挨拶をされた。


「おめでとうございます」


 ペコリとして、俺は彼の少し後ろについて歩く。


 苦手なんだ。


 何かと俺たちは比較されて、全戦全敗の俺とすれば勝手に苦手意識をもっているのだ。


 年齢が近い、領地が隣、ということでいちいち比較すんじゃねぇ! と皆に言いたい。


「フレデリク殿、結婚されたと聞いた。おめでとう」

「ありがとうございます」

「どのような奥方で?」

「私には過ぎた人です」

「蛮族の娘と聞いたが本当に?」

「はい」

「それは大変だね。我が領地にちょうどいい家格の女子がいれば紹介できたのだがなぁ……うまくやっているのかい?」

「ええ」

「困ったことがあればいつでも相談してくれていいよ」

「助かります」


 どうだ? この最短で応えながらも失礼にはなっていない技は!?


 すばらしいだろう!


 それから会場まで、コンラード侯爵の自慢話を聞きながら進む。


 広間には、すでに大勢が集まっていた。


 王家を守るように各地方を治める四侯爵に俺は含まれる。それから王領の地方を治める六名の伯爵に、行政の責任者、軍の責任者などなど。


 けっこうな数の奴らが俺をちらちらと見てる。


 そして、ひそひそとした。


 やがて、笑ってやがる。


 俺の耳は特に優秀ではないけど、為されている会話はすぐにわかる。「レジト候だ」「嫁をもらえたそうだ」「蛮族の娘だそうだ」「きっついな」「うける」「俺なら無理だ」「あいつ笑える」「笑笑笑」だろう。


 ムカつく。


 いや、無理はない。


 俺も始めはそうだった。彼らの反応がまともなリタニア人の反応だろう。家中においても、俺がちゃんと説明したから臣下たちは理解してくれたようなものだ。


 広間に王が現れる。


 リタニア王国の王ズラターン二世だ。その後ろには王妃のカトレアが続き、リタニアの花と敬われて調子にのっている第二王女のイングリッドも入ってきた。


 なんだろ? いちいち姫が出てくることねーはずなのに。


 なにかあるな。


 ここで、ズラターンのくそ長くて退屈な挨拶が始まり、あくびを噛み殺して耐える。


「――ようではないか! 乾杯!」


 シャンパンを飲み、皆で歓声をあげるなか、俺はあげたフリをした。こういうノリにつき合えないほど俺は王家やこいつらに冷めている。


 でも、付き合わないと叛意あり! とか言われて虐められる。


 ここでいつもなら立食しながら談笑し、挨拶をしてまわって終わるのだが今日は違った。


 王は皆に言う。


「皆、見よ! リタニアの花! 我が誇り! イングリッド姫だ!」


 皆が歓声をあげる。


 いや、普通、親が言うかね? きもい。


「イングリッド姫は今年、婿を迎えることにしたのだ!」


 もう一八歳だもんなぁ。王家の女子にしては政略にも使われずどうして残っているのかと不思議だったけど、両親が可愛がって手放さなかったって感じなんだろうなぁ。


「それで、我こそは思う男性は名乗り出よ! 姫がこの場で五名を選ぶ! 夏までにその五名にそれぞれに試練を与えるゆえ、成した者に我が姫の婿となる権利を与えようではないか!」


 皆が歓声をあげる。


 すげぇな……五名以上が名乗りでる自信がなければできないことだ!


 俺はもう妻がいるし、ここはスルーしても角はたたないと思ってスルーを決め込む。


 適当に食事して、近くにいた人達に挨拶をして、わざと「あれ? 体調がすぐれないなぁ」「お酒を飲み過ぎたかなぁ」とぼやきながら早退の布石をうっていた。


 コンラード候が心配してくれた。


 そういういい奴ぶりながら、早退を阻止しようとすんのやめてくれる?


「少し座っておれば大丈夫だ。ほら、あそこに席があるゆえ」

「ええ」

「一人で歩けぬなら連れていくぞ」

「大丈夫です」


 邪魔な奴……。


 俺はハンカチで顔の汗をふく演技をしながら広間の端っこに置かれた休憩用の椅子に座る。


 目を閉じて、寝ているフリをした。


 早く終われ。


 ……。


 あの夜以来、レイと初夜を迎える機会がない……寝室の前で可愛い顔をみせられておやすみと言われると、おやすみと言って自室に戻ってしまう男が俺だ……。


 一緒にお風呂に入ろうと誘って……可愛い顔ではずかしいから嫌だと言われたら、そうだねと返してしまって終わりにするのが俺だ。


 どうしたものか……。


「レジト候」


 うるせぇ。


 俺は今、寝ている……。


「レジト候、大丈夫ですか?」


 女の声……というか、これは姫の声だ!


 慌てて飛び起きたので、イングリッド姫が目を丸くしていた。


「あ、大丈夫です」

「候、具合が悪いのですか?」

「いえ、休んだので大丈夫です」


 くそ! これで宴に戻らないといけねぇじゃねーかよ! その作ったに違いない可愛い声が逆にイライラさせてくる!


 だいたいが、お前の魂胆はわかってんだぞ!


 こうやって俺を心配するところを皆に見せて、姫はお優しいと思われたり言われたり噂になったりしたいんだろ。


 俺は知っている。


 この姫は性格がとっても悪いことを。


 だから俺は嫌いだし、話もしたくない。そもそもコンラード候といい、この姫といい、俺は避けているんだからかまってこないでほしい。俺を笑い者にしたり、利用したいからといってかまってくるのがわかるからよけいにそう思う。


 他でやって。


 他の人が被害にあうのはどうでもいいから。


 ということを思いながらお礼を言って離れようとした。


「ご親切にありがとうございました。失礼いたします」

「お待ちになって」

「はい?」

「レジト候の奥方はどんな方?」

「ええ、まぁ」

「照れておいでなのね? 蛮族の娘というからとても興味があります。教えて?」

「いえ、まぁ」


 面倒だから去りたいのだが、離してくれない。


「披露宴には、お父様とお母様しか招待されていないでしょ? わたくしも出席させてくださらない?」


 お前!


 ふっざけんな!


 口をぱくぱくとさせていると、王が近づいてきた。


「イングリッド、どうした? こちらで候補者達と話をしなさい」

「お父様、レジト候の花嫁がどんな方なのかお会いしたいので披露宴に出席させてほしいとお願いしていたところなのです」

「ああ、そんなことか。レジト候、よいな?」

「……」

「レジト候、聞こえていなかったか?」

「あ、いえ……はい」

「イングリッド、さぁ婿候補の者達と話を」

「はい! お父様!」


 めんどくせぇええええええええええ……ぇええ?


 一人増えるとだね……それだけお金がかかるんだよ!


 お前ら、三人で祝儀はひとつだろ? ふざけんなよ、マジで、ガチで……。


 俺はこのせいで、本当に体調が悪くなった……待機していた医者に診てもらい早退を勧められたので、帰宅を許されたのである。

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