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王家は嫌い

 ちょ、待てよ!


 ちょ、待てよ!


 もう一回、ちょ! まてよ!!


 王家よ! なぜオッケーしないのだ!?


 手紙を出した五日後、王家から返事がきた。長いながい手紙を要約すると、『ウラン族との結婚の件、慎重に協議をした結果、認められない』である。


「爺、これはどう理解したらいい?」

「……お館様、手紙だけでなく、ちゃんと金も送りましたか?」

「十万リーグ、包んだ」

「……では、もしかしたら例の件では? 地下資源の……」


 ピンときた。


「北峰山脈に金脈や銀脈が眠っているというやつか……それを俺が狙って、山脈一帯を取り仕切るウラン族と結ぶという想像をされてるのかな?」

「王家としては、幾度か山脈に調査隊と軍を遣わし、場所の特定まではできているのですから……採掘したいのでしょうな」

「それを俺が横から……前回の派遣はたしか二年前……ウラン族にぼこぼこにされて逃げてきた王家の軍を助けたリガ渓谷の戦いの時だ」

「さようです」

「もう二年か……爺、では手紙に金鉱の採掘に関して、この結婚が成ればウラン族の協力も得られるから王家も金を掘ることができますよ、という説明を加えて出してみよう」

「さようですな。それであれば、王家も当家が金を狙ってのことではないと理解するでしょう」

「すぐに書き直す!」

「……十万リーグ、また必要です」


 詐欺だぜ、こんなの!


 くそ王家め!


 仕方ない。


 俺は婆さんに頼み、私財を保管している金庫の鍵を借りて、とっておきの財から十万リーグにはなろうかという絵画を取り出す。これは天才画家パラノイマ・ジャンクシーが当家の城の壁に落書きをしていったのを、切りとり固めて薄く切断して加工し額縁にはめこんだものだ。


 彼のサインもちゃんとある。


「フレデリク、それは本当に価値があるのかえ?」

「お婆様、大丈夫です。間違いなく」

「お前はまったくどういうものかわからぬことばかりに詳しい……剣や槍はてんで駄目なのにねぇ」


 大きなお世話だ。


 だいたい、俺が剣を握って戦うってのはもう家が駄目な時だろうがよ!


 俺は絵画を……重い! 重い絵画をよっこらせと運び、手紙と一緒に王都の王陛下へ送る手続きをした。


 五日後。


 王家から手紙が届き、内容は『お前は本当に立派な臣下だ。特別に許可する』というものだった。


 くそ王!


 忠誠心なんてねぇぞ! あほ!


 金を狙って北峰山脈に何度も攻め込んでは負けて、当家もそれに巻き込まれて、ウラン族との関係が冷え切ったのはそもそもは中央の奴らが金を狙って山脈を支配下におこうとしたからじゃねーかよ。


 それで普段、こっちは奴らの報復や略奪にビクビクとして、高いお金をかけて防御施設を作って、人をおいて……その負担は大きくて……父上なんて、お前らが山への攻撃をしかけた戦争に巻き込まれて戦死したんじゃねーかよ! 


 母上も、財政が厳しい当家の領政で心を痛めて……精神をやられてしまって……。


 ……ともかく、これで許可が出た。


 俺はさっそく爺に知らせる。


「爺、許可が出た」

「やはり金でしたか?」

「ああ、腹立たしいがともかく良しとしよう。さっそく、先方に伝えてもらえるか?」

「承知しました!」


 よかった。


 本当によかった。




-レイ-




 軟弱から手紙が届いた。


 王家の許可がとれたので、日取りを決めて教えてくれというものだった。


 よかった。


 本当によかった。


 なかなか連絡がないから、もしかしたら断られるのではないかと心配だった。


 僕は親父に、日取りの相談をする。


「いつでもいいだろう。本当によかったやん。おまえみたいなブサイクを引き取ってもらったうえに、戦いも減るんやからな」

「減る? 無くなるだろ?」

「いや、西の島に住むデーン人が、リタニア人達の国を攻めていたが北や東に目を向けて、ワシらのほうにも来はじめているんや。海岸の集落がいくつか襲われとってな」

「……卑怯だよな。攻撃して海に撤収されたら追えない」

「今はリタニア人達へ人を割いておるけど、お前が嫁いで南側が静かになったら海岸の監視に人をふれるからな。でかしたぞ!」

「……親父?」

「どうした?」

「いや、なんでもない」


 僕は親父から離れ、木の幹にもたれてから微笑む。


 親父に褒められたの……初めて敵を殺した時以来だ!


 ふふふふふ……。


 日取り、いつにしよう?


 狼の月の、いちばんいい日……真珠の日にしよう! えっと、奴らの暦ではいつだ? ひぃふぃ……二十日!


 ひとつきは先になるけど、真珠の日がいい。


 僕にとって良い日だから。


 大事なことはその日に行えばうまくいくと、名付け親の爺様が言ってくれたから。


 手紙を書こう。


 略奪してきた品々を保管する小屋へと入ると、兄貴が女を連れ込んでいちゃついていた。


「兄貴……別のところでしなよ」

「あ! 何の用や!?」

「紙と封筒がいる。手紙を出す」

「早く取って出て行けや! 邪魔や!」

「今度、見させてくれ。勉強したい」

「あほ! さっさと用を済ませて消えろや!」


 裸の女……幼馴染のパメランホールキランギラだった。


 恥ずかしそうに顔をそむけられた。


 見えちゃったけど……。


 自分達の小屋でしろよ……そっか。兄貴は本命が小屋にいるし、パメラは親と一緒だから気まずいのか……さすがに親の前ではしたくないだろう。僕だって、親父の前でと言われると無理だと断る。


 僕は封筒と紙、インク壺を取って小屋を出る。そして適当な木の枝を拾い、自分の小屋へと戻った。千人が暮らすこの集落で、手紙を出そうというのは僕くらいかもしれない。


 敵を殺して奪った品は個人の財産だけど、襲った施設から押収した品々は共有財産なので、集落の中心にある親父の小屋から近い保管庫に集められる。使いたいものはそこに入り、必要なものを取っていく。だけど、紙や封筒、インク壺などはいつまでたっても無くならない。


 手紙を書いて、直属の部下であるアリアナジョリーペレティノ、通称アリアナを訪ねると、彼女は荷物をまとめていた。


「アリアナ? どうした? 旅か?」

「あ! レイ様! おめでとうございます! 族長様から聞きましたよぉ。そしてうちについて行けとも!」

「アリアナが? ……たしかに親父と連絡を取りたい時に便利だな」

「あい! それに情報収集や、お嬢の身が危険な時は身代わりになれますんで」

「助かる。さっそくで悪いけど、これをリガの村長へ預けてもらえないか? 軟弱男への手紙だ」

「ああ、あの弱そうな……うちが窓の外から監視してても、まったく気付けへんかったですが、お嬢の相手として大丈夫ですやろか?」

「でも、僕のことを嫌がらなかった……」

「お嬢……」


 アリアナはそこで鼻をすする……演技をして、わざとらく目頭をおさえると僕から手紙を受け取る。


「たしかにお預かりしますさかい、さっそく行ってきま」

「頼む」


 リガから帰って来るときは捕虜だった者達をぞろぞろと連れていたから時間がかかったけど、彼女一人なら一日とかからないだろう。


 早く決まりますように。


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