うまくいったことと、うまくいかないこと
「レジト候、これはどういうことだ!?」
王はお怒りだ。当たり前だが……。
「謀叛などとんでもないぞ」
コンラード候、俺も先日まではこう思っていた。
ヴェラリー侯爵とフィル侯爵は沈黙し俺を睨んでいる。
皆、レイちゃんに捕まって縛られて俺の前に引きずり出されている。
俺の横には、ギル殿がいて彼らを嘲笑っていた。
「負けてからよく喚く犬どもだ」
王は顔を真っ赤にして罵詈雑言を喚き散らした。
俺は全てを無視して、王に言う。
「俺の領地も狙ってたんだろ? 知ってるよ」
「馬鹿なことを! そんなことをするわけがないではないか!」
「そりゃ否定するよな。しかしこちらは宰相殿からお前の魂胆は教えられている」
「な! な……馬鹿を申すな。それは宰相が騙しておるのだ! そうだ! あいつがお前を利用して王国を我が者にしようと企んで――」
「だとしても、あの宰相ならお前よりマシだ。俺は彼に騙されたとしても、お前を排除できて領地と山の民を守ることができたなら勝ちだ」
「今すぐに解放してくれれば処罰はせん! どうだ!?」
俺はまず、三人の侯爵に問う。
「この中で、王から我が領地の取り分に関して希望を訊かれた者はいるか? 正直に言えば命は助けてやる」
北伐に、侯爵たちが軍勢を率いて参加したのは、必ずそういう裏があると思っていた。
コンラード候が手をあげる。
「助けてくれ。王から、どこが欲しいかと訊かれた」
「ばばばばばかものー!」
王が叫ぶ。
「俺も欲しいなら軍を出せと言われた」
「そうだ。四分割にしようと。そして水道を島内に通して水を確保しようと……金鉱も共同で開発をもちかけられた」
ヴェラリー候、フィル候ともに白状し、王は孤立無援となる。
俺は大きく頷き、ギル殿に言う。
「三人の侯爵はギル殿に預けます。身代金を要求するなりご自由にどうぞ」
三人の侯爵たちが喚き始めた。
俺がこれをする理由。
三侯爵家はこれで、当主不在で混乱する。
殺したら相続が発生して、もしかしたら揉めるかもしれないが生きているのに不在という状態のほうが望ましい。重大な決断をする者がおらず、家中でそれをしようという者がいれば、きっと揉め事の火種になるだろうと推測した。
悲痛な表情となった三人の侯爵に俺は同情しない。
王の誘いに乗ったんだから。
俺は目の前の王に言う。
「では、一緒に都に凱旋しましょうか」
「が……凱旋?」
王はあらゆる感情の後に、無という表情となっていた。
-フレデリク-
レジト侯爵軍七百は軍列を整え、衣装を変えて都へと向かう。ここに山の民の軍勢から三百人ほど出してもらい、千人近くの大行列で北国街道を南西へと向かう。
途中にある村や宿場町では、何事かと街道まで人々が出て来て、派手な衣装で音楽を奏でながら、歌いながら行進する俺達に驚き、次に歓声を上げ始めた。
都に入ると、それは最高潮に達している。
人々へと花弁を撒き散らしながら進む行進の一番目立つ中央に、白馬を進めるレイがいて、光沢のある若草色のドレスが彼女の美しさを強調していた。
レイは近くでジロジロと見られるのが苦手だが、戦いの指揮をするだけあって、行進中は毅然とした態度で馬を進めている。
その後ろに、屋根を取り外した馬車に乗せた王がふんぞり返っており、憮然とした表情ながら歓声のなかで手をふることだけはしていた。
騒いだら殺すと伝えているから、助かりたくて誠一杯なのだろう。
王宮の方向は居残っていた者達が慌てた様子だが、俺は宰相殿に手紙で事の顛末を伝えているので、彼がある程度の制御はしてくれていたとわかる。敵対しようという者はおらず、戦に出掛けた王がおかしな集団と帰ってきたので驚いているという様子だった。
レジト侯爵軍と山の民の行列が王宮へと入り、そこで王が馬車を降りる。
妃と姫が慌てていた。
「レジト候! これはどういうことなのです!?」
「お妃様、まぁ落ち着いてください。このようにちゃんとお返しをしましたので」
俺はここで、書記官から差し出された筒を現れた宰相へと渡した。
「王の承認です。我が侯爵領は王を解放することを条件に独立しました」
宰相は書類を読み、頷くと皆に聞こえるような大きな声をだす。
「リタニア王国国王ズラターン二世陛下は山の民討伐という名目で軍を集めたが、実はレジト侯爵を廃しその領地を奪う算段であったことはコンラード候、ヴェラリー候、フィル候の証言で明らかとなった。ズラターン二世は敗れ、その責任を取るものとし、レジト侯爵領の独立を認め、その爵位を公爵とし、レジト公国を承認すると共に二十年間の不戦条約を締結した後、王位を娘のイングリッドに承継することを宣言する。承認はここにいる全員とする」
-フレデリク-
隠し財産は全て使い果たしたが、すばらしい投資になった。
俺は領地へと帰り、まだ混乱が続くコンラード候領北部と我が領地の境にあるベーリング湾の支配圏を確固たるものとすべく軍を動かした。イブラが上手にやってくれて助かったよ。
これで、貿易港のペテルブルグを支配下においたので、大陸との貿易で関税を取られる必要がなく、こちらが関税を取る側になった。
コンラード侯爵家からそれはもう抗議がきたけど、喧嘩をしかけてきたのはお前だ馬鹿と返してやると使者はこなくなった。
戦争にならないか?
ならないんだなぁ……コンラード候は山の民に捕まっている。返還交渉をコンラード侯爵家がしようと思っても人脈がないので、俺を頼るしかない。
返してもらえませんかね? いくら出すの? これこれで。じゃ聞いてみるよ。ということです。
三人の侯爵には恨みはないが、あの王に乗って我が領地を狙ったことは事実だから、たっぷりと仕返しをしてやる。
こうして俺は忙しく仕返しと領地経営の為に働いたのだけど、そうすればするほどに、レイとの関係がおかしくなってきているような気がし始めた。
距離が離れたような……。
彼女が笑顔を見せてくることが少なくなった。
彼女が俺に遊びに行こうと誘わなくなってきた。
レイを寝室に誘っても、最初の頃に戻ってしまったように一人で寝るという返答に戻った。
なんだろう?
悪いことをしたか?
俺は、彼女に何か悪いことをしたのだろうか……。




