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王の狙いとレイの活躍

 二月十五日。


 俺は王都に到着した。護衛の騎士二人だけを連れた強行軍は、宿にも入らない超節約で駆けに駆けた。


 二日間の移動は新記録かもしれない。


 別邸に入り、風呂に入り食事をして睡眠をとる。俺が別邸に入ったと同時に、王宮には謁見希望を提出しているので、目覚める頃には許可が出ているだろう。


 予想通り、目覚めて着替えをする頃には、許可が出た。


 騎士二人を連れて、王宮へと入る。


 目的は、金鉱開発の件だ。


 おたくさんが狙っている金はプルト族にとって神聖な滝がある場所なんで無理ですよ。


 こう説明するためである。


 待ち合い室で待機し、呼ばれて謁見室に入る。王が客人を迎えるための部屋で、謁見の間と違うのは、こちらは少人数での面会を目的としたものであるということだ。


 入ると宰相のドログノア・ジューレが席から腰を浮かし俺を迎えた。


「王陛下はもうじき参ります」


 彼の言葉に、俺は頷きを返す。


 一応……威厳はないようなことばかりを言ったり考えている俺であるが、侯爵なんだよね。


彼は宰相だけど爵位は伯爵。


 俺は侯爵で、北部一帯を領地にしていて、軍をもっているし、税率も決めることができる。


 俺のほうが偉い。


 とはいえ、国政に関しての決定権はない……。


 ドログノアは四十過ぎの働き盛りで、しかめっ面をしているけどいい奴だ。俺の披露宴では二心ない態度と祝いの言葉で喜んでくれたから、評価を改めて上げている。


 いい奴だから宰相なんて務まるのかなと出会った当初は心配したが、向こうもきっと、こんな若造が侯爵なんて務まるのかと不安だったに違いない……。


「先日の披露宴では、祝って頂きありがとうございました」


 俺が丁寧なお礼を述べると、ドログノアはいえいえと笑う。


 名前も顔も悪役っぽいけど、分類すると味方に近い中立だろうと思う。


 彼は言う。


「すばらしい奥方をお迎えになられて羨ましい。お美しいこともさることながら、静かに凛として過ごす姿勢に感銘をうけました」

「彼女にその言葉を伝えると喜ぶでしょう。ありがとうございます」


 それから世間話を少しして、金に関することをそれとなく伝えてみた。


 彼はしかめっ面をさらにしかめて腕を組む。


「さようですか……信仰がからむと難しいでしょうねぇ」

「ええ、ウラン族の族長は協力的ですが、我々に協力して味方を怒らせる義理はありませんからね」

「ですが、それを陛下はお許しにはなられないでしょう」


 意見があうね!


 俺もそう思う……。


 ここで、扉の外で騎士が声をあげた。


「王陛下でございます!」


 俺とドログノアは立ち、扉へとこうべを垂れて王を待った。


 すぐに、王の声がかかる。


「くるしゅうない。楽にせい」


 俺達は姿勢をただし、王が着席するのを片膝をつき見守る。


「よいよい、そこに」


 宰相と俺は、会釈をして椅子に腰掛けた。


「レジト候、してそちが面会希望とは例の金のことか? 問題でもあるのか?」


 俺は宰相にした説明を、そのまますることにした。


「は、申し上げます。ウラン族のギル殿は陛下への協力を惜しまぬ御方ではありますが、山の民は複数の部族の集合体……ギル殿がまとめているとはいえ、王陛下と臣らのような騎士道精神や王国貴族の有りようのような美しいものではございませぬ」


 美しいとは思っていないけどね!


「金が眠る土地を所有するプルト族は、その土地を神聖な場所として崇めているようです。その彼らにギル殿が王陛下のために差し出せと命じれば、内で戦になりましょう……結果、その戦火に我が王国が巻き込まれる可能性もあり、時間をかけて慎――」

「いやいや、候。それでいいのだ」

「……は?」


 俺と宰相は、大きな『?』を頭に浮かべる。


「予はな、そちがウラン族の娘と結婚すること、大賛成だった。だから許可した」


 うそつけ!


「それはな? あいつらに内輪揉めさせる材料を得られると思ったからよ! 協力的? 予が望むのは忠誠であって協力ではない」


 宰相が慌てる。


「しかしながら陛下、争わせて如何するおつもりですか?」

「今度こそ、北伐を成功させるのだ」


 ……頭が腐っているんかな?


 俺はまさかの答えに怒りやムカつきよりも、呆れて言葉を失う。


 それから王の腐った考えとやらを話された。


 お前らはちょっと領地をもったら現状満足して上を目指さない。どうしてだ? 島を統一したわけでもないのに満足するな。気合いがたりない。野心が足りない。上を目指せ。


 俺の嫌いなノリなのだ……。


 王はそれから俺へお説教を始める。


 お前は若くして侯爵になったから経験が足りないな。ちくいち自分に相談すればいいぞ。全て自分が指示を出してやろう。


 いらねぇし。


 王は言いたいことを言って満足したのか部屋から出ていった。


 残された俺と宰相は、場所を移すことにした。


 宰相の執務室。


 彼は俺にブランデーを注いでくれる。


 グラスを手に、都の景色を眺める窓を前に立った。


「レジト候、如何しましょう?」

「困った」

「ええ……」

「隠すことなく話すと、戦争は困る。財政がようやく好転しようという時なんだ」

「宰相として、その意見に賛成です。王国財政も決して潤沢ではありません。それに、投資すべきものにいき渡っているわけでもありません」


 特に問題になっているのは、戦死者遺族の困窮である。


 王国として戦に駆りだしたので、手当を出して遺族を助けるべきという宰相の考えは王にはあまり理解されておらず、ないよりはマシという程度の見舞金が支払われて終わりなのだ。


 二年前のリガ渓谷の撤退戦で王軍は大きな被害を出している。


 その時の傷がまだ癒えていない者もいる。後遺症に苦労している者もいる。


 しかし王は戦をしたい。


「困ったものです……」


 ドログノアの溜息に、俺も頷く。


 ここで、室の扉が叩かれた。彼の秘書が、王女の婿候補者たちの試練が決まったと宰相に報告に現れたのである。


 宰相が苦笑する。


「こういうしょうもない競争が好きなのですよ、王も妃も姫も……皆が自分達のために競うのを見るのが好きなのです」

「……宰相殿、俺がもし陛下に心酔している者であれば貴方はクビではすみませんよ?」

「そうではないから本音を話したまでです」


 王女を得るための試練を見せてもらい、友人の名前が書かれていたので驚いた。


「ガルガンティアを倒す? 無理でしょ、これ……そもそも、彼は魔王なんて言われてますけど平和主義者で戦いを好まない魔族ですよ。最強と言われていますが、無駄に誰かを倒したりして強さをひけらかさない」

「だから、競争させたいのですよ。そして、彼を倒して強さをひけらかしたい自信家がおるのでしょうね」

「ユウ・ミヤギ? かわった名前ですね」

「ええ、聖女が召喚した異世界人とかかんとか……四大魔王討伐のために召喚されたそうですが……」

「どうして婿候補に?」

「とても顔立ちが良い方で、姫たっての希望です」

「本人は希望していないのに?」

「……よくわかりません。偉い人達の考えることは」


 あんたも王国では十分に偉いよ、と脳内でつっこみながら笑い、その日は宰相の室を辞した。連絡を取り合おうと約束して、別邸に帰り、風呂につかってから食事をとる。そして睡眠をとり、領地へと帰るべく馬を用意させはじめた時、その報告が本領から入った。


 ウラン族から、救援要請が入ったのである。


 北の海岸に、デーン人達の大軍が上陸を始めたのだ。




-レイ-




 親父からの使者として、ウラン族の者がベリオットを訪ねてきたと聞いて、フレデリクが留守なので代わりに会った。すると、親父は北の海岸へと戦士達を率いて向かっているという。


「デーン人の大軍です、お嬢」

「親父殿から、援軍を頼んでこいと言われましたんや!」


 決定権があるフレデリクが留守であることを伝えたうえで、急いで親父への手紙を書いた。フレデリクが留守なので帰り次第、返答を出すという内容である。それを使者役の者達に手渡してから、家宰のアルフォンス、内務卿のオリビエ、筆頭騎士のイブラが集まる室に入った。


 彼らはすでに、援軍を出すべきかどうかの議論を始めている。


「お館様がおられたら、まず間違いなく援軍派遣を決定されたに違いない。すぐに動ける者達だけでまず駆ける。そして後続は編制を終えてから、お館様とともに北上すれば良いではないか?」


 オリビエの意見にイブラも賛成だったが、アルフォンスが反対している。


「勝手に軍を動かすことなどできるわけがない。お館様がおられんのに」

「あの山の民が我々を頼ったということは、余裕がないのだぞ?」


 イブラの発言は、まさしくその通りだと思う。


 アルフォンスが僕をみる。


「レイ様、如何いたしましょう?」

「ぼ……僕?」


 驚いた。


 イブラとオリビエが僕を見ている。


 僕は、援軍を出したい気持ちがある。でも、僕は山の民だ。僕が決めて、彼らを戦場に送り出すことは避けるべきだと感じる。


「フレデリクの帰りを待とう」


 アルフォンスが頷き、「ほれ、わしの意見が正しいじゃろうが」と二人に言った。


 二人が笑う。


 笑う?


 イブラが僕に言う。


「賭けに負けたんですよ」


 賭け?


 オリビエが口を開く。


「ええ、貴女の前で、わざと援軍を出す出さないで揉めてみせたら、貴女はどうするかって賭けていたんです」


 ……。


「自分の判断で援軍を出すというほうに、俺とオリビエは賭けた……アルフォンスは逆……俺達はまだ、貴女を信用していなかったということでした……」


 イブラはそう言うと、オリビエと揃って立ち、すぐに片膝をつく。


 僕はどうしていいのかわからなくて、アルフォンスを見た。


 彼が言う。


「すでに一個連隊に出発準備をさせております。レイ様、イブラを率いて援軍に向かってくださらんか? フレデリク様がお戻りになるまで、代理は貴女です」

「……わかった」


 僕は立ち、イブラとオリビエを立たせた。


「僕が道案内をする。親父を助けてほしい」

「は……奥様のご家族を助けるのは騎士の務めでございますゆえ」


 イブラが野太い声で言い、颯爽と室を出ていった。


 オリビエが僕に言う。


「すぐに支度を。使者が到着するまでの日数を考えると、すでに戦いは始まっているかもしれません」




-フレデリク-




 慌てて領地に帰ると、軽装騎兵の集団がちょうどベリオットに帰還するところだった。


 あれ?


 もしかしてもう負けたんか!?


 あちらが俺達の姿を見つける。


「お館様!」


 伝令が駆けてきたけど、それを追い越して近づいてきた白馬を駆る天使に見惚れた。


 白いマントをたなびかせて、雪よりも白い外衣に朱の縁取りが鮮やかだった。そして黒い髪は艶やかで、その笑顔は春の陽よりも俺を温かくしてくれる。


「フレデリク! おかえり!」

「レイ!」


 彼女は俺へと馬を寄せ、馬上で俺達は抱きしめ合う。


 何があったのかと訊くまでもなく、追いかけてきた筆頭騎士が口を開く。


「お館様、ご無事のご帰還おめでとうございます。報告いたします。お館様にウラン族からの援軍求むの報を発したその日に、レイ様に率いられて我々が救援に向かいました。そして敵を撃滅し、帰還した次第」


 ……えっと、おそらく報告を発して、俺が読んで、帰ってくるまで四日か五日くらいだと思うんだよ……。


 勝った?


 イブラが誇らし気に言う。


「レイ様はまさに戦神ヴェラムの生まれ変わりですぞ! 指揮も見事、弓矢も見事、我ら騎士を従えるにこれ以上の奥方はおられますまい」


 俺はレイの髪を撫でて、気になることを尋ねた。


「怪我はしていないか? 大丈夫か?」

「おう、なんともない。お前の部下たち、意外だけど強いな。こうしろ、ああしろと言ったらパッパッと動いてくれるから戦うのが楽だ。ウラン族を率いて戦うよりもやりやすい。だから勝てたぞ」


 それはこのイブラの手柄だな。


 彼が日ごろ、訓練をちゃんとしてくれているからだ。


「聞いたか? イブラ。お前の手柄だ。ありがとう」

「とんでもありません。お褒め頂き恐縮です」


 こうして俺は、大事件がおきた! と思って領地に帰ったのに、できた嫁が解決してくれていて楽ができたのである。


 レイちゃん、ありがとう!

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― 新着の感想 ―
[一言] よし!王家見限って独立しよう!(笑)
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