74.修練期⑭ 霧が晴れればその下に
竜二も
「おっ!俺も聞きたい。教えてくれ。」と言ってきた。
その日はまた放課後に訓練のある日で、おとといの疲労は残っておらず、2人とも機嫌が良かったので会話が弾んで仲良くなってくれたらなぁ。と打算的な考えが浮かんだ。
僕はちょっと表現に悩んだけど、この二人だし気負いなく自然に伝えようと思って適当に話し出した。
ネネちゃんは関係ないけどにっこり笑顔で二人の後ろにいて、僕の話を監督の様に聞いてくれてた。
「畳を殴るやつね?初めの方はゴリ先を見て、動きを完コピする事を目標にしてる。最近は300回で「不合格」って言われて終わるじゃん??
大体いつも100回くらいでゴリ先のフォームが視界に入ってこなくなってきて、そっからは畳との勝負になってくる。
中盤は本の中に吸い込まれて始まるゲームがあって、なんか島?かどっかにいるんだよね。そんでそのゲーム、説明も解説も何もないんだよ。タイトルと同じ【霧】の中を理由なく彷徨ってるのに目的がわからない。
途中で何でこんな事してんだろって思ってゲームクリアどころかゲームすらもやってる意味を見失う。コントローラー持ってる意味あんのかなぁって思った事もあったよ。
あれと一緒で畳を叩いてる意味自体を見失う。夢中になって理由なく叩いてる。そんな自分に自問自答してるんだ。僕は、なんでこいつを叩くんだろう?って」
「俺もそれ!わかるわ!それが最後まで続く。」と竜二が言って
僕は続けて
「最後の方は、意識が僕じゃなくなる。何かをしなくちゃ、何かを守らなくちゃって気持ちになって必死で叩くんだ。」
2人が声を揃えて「へ~!!」と言った。ありのままに言ったんだけど変なこと言ったかな?
ヒカルが
「僕も似てるけど、最後だけ違う。守る、かぁ。それってもしかしてゴリ先の言ってた【なりたいもの】に関連するんじゃ無いか?
カガミはセビエドだったよね? そもそも合格・不合格の判定はどの時点で入ってるんだ?」
「そーだよな!前々から疑問に思ってた!!」
「え?ヒカルと竜二で考えてくれてたんじゃないの??」と他力本願寺の僕が言うと
2人は顔を見合わせて「??」となった後で「はははは!」って笑いだした。そんな二人を見てつられて笑った。
ん? 何でこんな事が出来なかったんだ?
2人の仲を壊さないように働いてたのは、いや、働けてたのはなんやかんやで訓練が自分だけ出来てるっていう優越感があって、余裕があったからできたんじゃないのか?
ホントに自分の事で精いっぱいだったのか??
困ってるヒカルに全くアドバイスしなかった自分は、
イラついてる竜二に一声も声をかけなかった自分は、
一番上手だ、一番出来てたと思いこんでいた自分は、ダッサいなぁと思ったんだ。
その後、日頃言いたかったのか、溜まっていたしょーも無い話をしてたら
僕は自分がビックリするビジョンを見た。
予鈴がなって竜二とヒカルが解散したんだけど、
なぜだか2人ともネネちゃんに振り返りながら
「「ありがと!」」って言って去っていったんだ。
カワイイけど不敵な笑顔のネネちゃんだけがその場に残った。
2人が去った後のネネちゃんは指を前に突き出すポーズを維持していた。
ここで僕らは完全にネネちゃんに操られていた事に気付く。
僕はちょっと前、自分でネネちゃんに相談してたのに虚を突かれて
ビジョンの通りビックリしてしまった。
やっぱこの子には頭じゃ敵わないなと思った。
でも、怖さを感じるんだったらその時感じてたのか?と問われれば全く怖くなくって、感謝しかなかった。
そのままの体制で待っててくれたネネちゃんは、竜二とヒカルの体のどっかを人差し指で突いて【リンク】してくれてたんだ。
二人とも知ってたんだな!竜二めネネ様に触られやがって!!あ、触感無いんだった。けど感情は流れてくるんだろ?やっぱ僕だけハミってんじゃん!
でも。なるほど二人が怒らなかった訳だ!
僕も最後にゃ「ありがとネネちゃん!」と言った、そしたらシンプルな笑顔に戻って
「高いよ~。」と言いながら笑い合い僕らは分かれて席に着いた。
その日からダメ出しと意見を出し合って改善の余地を三人で話し合った。
僕はツクモの事を話したかった。
「この間知り合いが出来たんだ。そいつが言ってた。【意思を持て!最後に絶対笑うんだ!】って」
「おかげで戻れた。そいつにゃ感謝だな!」
「そうだね!」
お互いの弱さもさらけ出して、泣いたことも言ったし、2人が泣いた事も知った。
3人で決めた方針は「強くなろう。」シンプルなこの一言だった。
訓練が終わった後、僕のマンションの下で30分くらい話し合っていたんだけど冬になりつつある最近は、日が短くなってきたから結構暗くって深夜に内緒で集会してる気分になって僕らはテンションが上がったんだ。
その時、僕らは持ち前の中二ソウルが爆発して【技】を作ったり、【技名】を考えたりした。
楽しかった。2人の為なら何でもしようと思った。
ケタケタ笑ってる最中に同じ場所だったからか、昔、父さんとよくここで遊んでたなぁと思った時。父さんの言葉が脳内で忠実に再生された。
【自分に能力が無いことを理解していれば、そこを補える仲間を頼ろう】
父さんは死ぬ前から僕がイチゴサイダーの誰かとリンクする事が解っていたのか?
11歳の誕生日の時、言葉にして残してくれた父さんが蒔いた【種】がやっとこの時、一つ。
たった一つだけなんだけど【芽】を出したんだ。
霧の中で種から育った小さな芽は、踏まれればすぐに折れてしまう芽だったんだけど、
土に隠れて見えない根っこは、竜二の種とヒカルの種のたった今、伸び始めた短い根っこと互いに土の中で握手してて、
2人の発芽を手助けする為に応援して自分の栄養ですら分け与える事を惜しまない、できない事があっても、時には仲間を頼ってでも3人で上を向いて花を咲かす為に諦めない、そんな誇りを持った【芽】に感じた。
それからの僕らは、足りないものを無理に埋める必要性を感じなくなった。三人で補完し合う、個人競技に思えた【走る】 【叩く】 【ジャンプする】が チーム戦だと言う事にようやく、気付けたんだ。
もうすぐ、霧が晴れる。




