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イチゴサイダー  作者: 南野 東風也
第三章
118/264

118.伝心期③ 戦いのブランコ

「竜二、昨日はごめんよ。怒ってる??」


理科の先生が僕らに熱弁してくれた帰り道、佐井寺兄弟と別れた後で僕は竜二に謝ったんだけど、


「は??なんでカガミが謝んだよ。俺は昔の話を聞いて確かに過去のブレイバーみたいにゃなりたくないなって思ったけど、カガミを恨む理由は特に無いし、怖さが無いから率直な意見で伝えてくれた事ぐらいわかってる。何を今更!」



「そうか。竜二はやっぱいいやつだよ。僕なんか正義の『せ』の字も無いから責任感とか全くなくて自分でも呆れてるくらいだよ。せめて身の回りに人の気持ちぐらいわかろうと努力はしてるもののやっぱりなんも分かって無いのかもって改めて思ったし。」


「いいよ、それこそがカガミだし。」おっ!バカにしたな!まぁいつもの感じだ。竜二といればこの先悪い事なんて僕がどうこうしなくてもなんとかしてくれそうな、そんなへっちゃらな気がした。



「でさぁ、見たか!市のホームページ!夏のお祭りと花火の日程決まったじゃん?」

「え?そーなの?急にどうしたの??」


僕はそのお祭りの会場に春休みの最後、アオリちゃんと(あとお荷物のみかんと)一緒に行った事を思い出した。


「いや!延期にならなかったんだよ!ちょっとすわろーぜ!」

「そうか!佐井寺家の権力で今年は開催するんだ!!」

「そりゃ知らねーけど。ちょっとカガミに聞いてもらいたい話があるんだ。」




僕らは近くの公園のブランコに体を預けキコキコと久しぶりに漕ぎながら話そうとしてたけど、案外楽しくって、会話内容も忘れてどっちが早く高くまで漕げるかを競ってしまった。


「もうやめとけ!カガミ!!危ないって!あさってまで飛んでっちゃうくらい漕いでる!高すぎだ!!」

竜二の注意で半分くらいの高さまで勢いを落としたが物足りなかった。

「ダイジョブダイジョブ!!ここで前後の回転スイッチだってできるぜ!!」


そう言って僕は調子に乗ってアクロバティックな技を繰り出そうと、鎖を持つ手をクロスさせ次のジャンプで前向きから後ろ向きへのスイッチを試みる。


ばっちり回転して竜二に「どうだい?竜二に出来るかい??」って言うビジョンを見るハズだったんだけど、どうも竜二に話しかけられない、何か硬直してるビジョンを見たんだ。


わかったぞ!竜二め!僕と同じ技かそれ以上の技を見せつけて勝つつもりだな!!


僕はとっさにプランを変更した!2回連続スイッチだ!!初めてやる大技を見やがれ!!そう思いながらジャンプすると1回目の前後回転スイッチで早くも足を踏み外して


股の間にブランコがチコリ~ンと当たった。


「うぐっ。」

僕は痛みで完全なる硬直を味わってしまう。その後、よろよろとよろけながら「OMG」と呟いた。



「カガミってホントにバカなんだな。未来が見えてる意味あんのか??」

「・・・。」暫く痛みで話せませんでした。



数分後

「でさぁこの前ネネちゃんとチャットしてたんだけど、確認したい事があって、寿さんって、カガミと同じ先行視覚じゃないのかなぁ??」


「え?うん、まぁ僕もそう思ってたんだけど、全くその気配が感じられないんだよね、何だったらゼロの方が僕に近い気がする。もしかしてエーコちゃんみたいに【無い】のかも。」


「そうかぁ~。ネネちゃん曰く感情欠損と強化感覚は結びついているのかもしれない。って言ってたんだよ。

ネネちゃんは【怒り】で視覚。

ヒカルは【驚き】で聴覚だったろ?


ツクモはヒカルに似てる気がしたんだけど、ネネちゃんが副センター長から聞いた話だとツクモもヒカルと同じ【驚き】の欠損だったらしい。


【怒り・驚き】で【視覚・聴覚・嗅覚】この近しい3種類が欠損すると言う仮説。それが研究所で出た答えみたいだけど、カガミはどう思う?」


「んんー研究所の人達とネネちゃんが言うなら合ってそうな気がするなぁ。アオリちゃんとこの前お花見行った時さぁ、」



「ちょちょちょ!ちょっと待て!!それ聞いてないぞ!!」


「いや、母さんと3人で行ったんだから別にデートとかじゃ無いし、あの子あんまりよくわかんないんだよね。まぁ、嫌われてはいないけど、僕なんかが好かれる理由も無いし。」


許嫁って事は親同士の悪ふざけだから言わないでおこう。


「そうかぁ?まぁ表情がわかりにくいからなぁ。少なくとも懐かれてる感じはするぞ。」


「猫みたいに言うね。いや、謎だよ。アオリちゃんはリンクしたらすごい笑ってくれるし僕の事も笑わせてくれるんだけど、やっぱり【喜び】の感情が無いから少しわかりにくい。かわいそうな気がする。」


「!え?【恐怖】だけじゃなくって【喜び】も無いのか!?」


「そうだよ、聞いてなかったの??」


「誰から聞くんだよ・・・。アオリちゃんとエーコちゃんの情報はカガミとヒカルに頼ってる。誰かイチゴサイダーの能力を把握できてる人いねーかなぁー。」


「それこそツクモさんがわかっていないんだったら僕の父さんしかいないんじゃない?」


「あー。そうだな。隔離部屋、旧遺伝子研究所病院、5階かぁ・・・行ってみる??」


「ええ~~!セビエド達が亡くなった場所を通ってか?僕はコワく無いけど竜二ビビりそうじゃん。それに万が一行くならせめて抗体を確保して行かなきゃ、安全じゃなく無い?今後の目標は抗体探しかなぁ。」


「そうだなぁ。とりあえず今日訓練じゃ無いから、道場見に行かないか?ヒカルも呼んで。」


「いいねぇ!行くいく!!エーコちゃん達の揺れる何かを見たいぜ!」




その夜母さんにみんなで出かけるって事を伝えて夕ご飯の後、外出を許可してもらったんだけど佐井寺家は安全の為、佐井寺家メイドの春日さんが同行してきた。


マンションの下まで来てもらって最後に車に乗り込む僕。


「おまたせーカガミ!」助手席のヒカルがそう言うと後部座席で手招きするネネちゃんと竜二がいた。


「春日さんがわざわざ送ってくれるなんて本当にすいません。」そう言うと

「私は独り身なので全然問題ありませんよ。どうぞごゆっくりお話しください。」と返事をされた。


春日さんキレイなのになぁ。婚期を逃したのかも知れないけど全然若いし、まだまだチャンスありそうなのにもったいない。何歳なんだろ?あ、でもツクモにおばさんって言われてたなぁ。


訓練じゃ無い日に道場に来るのは初めてかも知れない。文庫本を出して読書を始める春日さんを駐車場に残して僕らがいつも終わるくらいの時間より少し前にゴリ先たちのいるであろう道場迄、足を運んだ。


そこには必死でゴリ先に挑む三人がいてみんな真剣だったから結構見ごたえがあったんだ。

僕達も外から見たらあんなのなのかな?


ゴリ先には先に気付かれたけど、終わる迄、一切声はかけられなかった。


ボーっと見ていると竜二に叩かれるビジョンを見たんだけど、叩かれる理由が思い浮かばず、

まぁあの程度なら痛くないしストレス発散にたまには僕を使ってくれと考えて避けない事にした。


組み手が終わった時、ガラス越しに悔しがるツクモとエーコちゃんを見ているとアオリちゃんに気づかれ、Tシャツの首を左手でぎゅっと握り、恥ずかしがりながら腰の横で小さく手を振って来た。


僕は誰に振ってるんだろうと思って周りを見回したんだけど竜二に


「お前だよバカ!」と叩かれ、何で叩くんだよ!?という気持ちと僕に手を振ってたんだ!という気持ちから 


「えっ!僕??」と言って慌ててアオリちゃんを見つめ直し、手を振ったら何だか怒って口を膨らましていた。


「カガミ君ってマジで鈍感だね。」とネネちゃんが言って来て、手を振ってくる事に敏感や鈍感なんかあるのか??と考えてしまったんだ。

そして竜二にまた同じことを言われた。




「まぁ、それこそがカガミだ。」

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