スキルのノーツ
言うほどスキルメインではないけど……
「ここが西の街、ミュスト街。雰囲気は最初の街と変わらないね。」
「だねー。で、目的のお店は…あそこだ!」
ルーテン工房店という店に入ると、そこには武器や防具などの装備品やスキルの書かれた巻物がズラっと並んでいた。
「いらっしゃい、ってあんた!この前の白髪!?」
店主であろうそのプレイヤーは、カミナを見て驚く。このプレイヤーもカミナのダンジョン攻略の様子を見ていた1人なのである。
「えっと、白髪って私だよね。私何か目立つことしたかな?」
心当たりはないといった様子でカミナは首を傾げる。
「したかな?って。S級ダンジョンひとつ攻略しといてよく言ったな!」
「あれ?ダンジョン攻略したとき周りに人なんていなかったと思うけど……」
「なんだ知らないのか?この世界ではダンジョンが攻略されるとその様子が街のモニターで放送されるんだよ。」
「ほえー、そんなシステムが。」
「カミナでも知らないことってあるんだね。」
「まぁずっと街の外にいたからそういう情報は確かに知らなかった。けど、放送されるのはいいな。自分のプレイの様子を見る機会ってあんまないし…って、そんなことよりヲノの装備!」
「装備が欲しいのかい?だったら安くしとくよー。あの伝説的なプレイヤーさんとその連れなら買ってもらえるだけで光栄だからな!」
「伝説って、ただダンジョン攻略しただけなんだけど……。まぁけど安くなるなら助けるからお言葉に甘えましょう!」
「んー、でも装備って言ってもやっぱりどれが合ってるっていうのは分からないな。」
「そうだね。こればっかりは私も試したことないからな。」
「売る側としてこういうことは言いたくないけど、装備の購入はお勧めしないな。」
「えっ?」
反応したのはヲノだけだが、カミナの方もこのセリフには驚かされた。
「装備には耐久があるからな。定期的に買い直すか修理しなきゃならねぇ。それもタダじゃないし、初心者の内は避けた方がいい。比べてスキルの方は使い捨てスキル以外は永続したり、何度も使用できたりする。」
「なるほど!たしかにそれは言えてる。あくまでリズムゲームだし。装備は私みたいにダンジョンとかで集めた方がいいかも。」
「それじゃあお勧めスキルとかはありますか?」
「んー、それだったらこの【施しの雨】かな。効果は自身を中心とした半径3m以内に雨を降らせて、それがもしノーツにタイミングよく触れればノーツを処理できる。ただダンジョンとかだとトラップノーツにも反応しちまうのが玉に瑕。」
「なるほど。それだとダンジョンとかだと使いにくいのか……」
事前に渡されていたノートのおかげで用語やその意味を把握していたヲノは差し支えなく、会話を理解する。
「それってトラップノーツを処理しないやつもあるんですか?」
「どうだろうなー。俺は見たことないけど、もしかしたらどっかにはあるかもな。」
「うーん……。カミナはどうする?」
「私が欲しいスキルは【オープンアイ】かな。これがあればだいぶ楽になる。」
「おや、それは意外だったな。てっきりそういう路線なら【察知ノ覇気】かと思ったんだが。」
「それだとデメリットがなくてつまらないからね。」
「なるほどな。」
ここまで話が進むと単語しか知らないヲノは、話にはついていけなくなっていた。そのため2人の会話が弾む中、1人で棚に飾られるスキルに目を通す。
「ここら辺は基本装備とか条件が必要なやつ。反対にこっちは条件なしで使えるやつ。その中でタイミングが重要にならないスキルは……。全部で60個くらいかな。ひとつはさっき話に出てた【察知ノ覇気】。けどこれは流石に高い……。他には……おっ?」
ヲノが見つけたスキル、それは【刻線界】である。これはノーツの処理タイミングが分かるスキルで、音楽だけではリズムが掴めない人には役に立つものである。
「すみません!これください。」
「おっ、悪いな。話に夢中になっちまって結局まともにアドバイス出来なかった。えっと、【刻線界】か。なかなかにいいスキルを見つけ出したな。じゃあ約束通り値引きして…4000ポイントでいいぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
ヲノはポイントを支払い、早速スキルをセットする。操作方法はカミナに教えもらっていたため、戸惑うことはなかった。
「何か変わった?って言ってもノーツ用なんだよねそれ。他にはないの?」
「うん…。あとはちょっとまた後でにしようかなって。」
「そっか!私も欲しいスキルは色々と買えたし、今日はこれから実際に試してみようか!それじゃあえっと……、名前聞いてなかったね……」
「あぁ俺か。そういやまだ名乗ってなかったな。俺はテンザ。ルーテンのテンは俺の名前が由来。前半のルーは俺の相方の名前で、そっちは基本スキル、装備を集めてる。まぁ機会があれば紹介するさ。」
「じゃあ改めてありがとう、テンザさん!」
「ありがとうございました。」
「おう、また来てくれよな。」
2人はお礼を言い、店を出る。
「さて、どうする?その辺の草原で試すか、それとも装備狙いでダンジョンに行くか。」
「うーん、ダンジョンで!できるできないはともかく、体験はしてみたいから。」
「おっけー、こっから1番近いのは……すぐそこに見えてるやつっぽいね。それではー、レッツゴー!」
「ま、待ってよー、カミナー。」
カミナは真っ先に駆け出し、ヲノもそれを追う。そして着いた先は、何らかの教会のような場所だった。
「ここはソロ限定っぽいから、とりあえずクリアできてもできなくても終わったらさっきの街に集合で。」
「うん、分かった。」
「じゃあ先行くね!」
カミナは勢いよくダンジョン内に入る。それに続き、ヲノも恐る恐るダンジョン内へと足を踏み入れる。そのとき、聞こえてくる音楽の曲調が一瞬で変わる。同時に少しだけ後悔を覚える。その曲は明らかに今の自分にできるようなレベルではないと思ったのだ。
「これ、大丈夫かな……。けど、やるしかないよね。」
いくら後悔しても後戻りはできない以上、覚悟を決める。呼吸を整え、ゆっくりと開始のボタンを押し、ヲノにとって初めてのダンジョンへの挑戦が始まる。
開始早々でやけに店に高性能のスキルが揃ってる気がするけど、それについてはそのうち書くかも……?