裏技のノーツ
すみません。文長くなりました。長すぎになりました。読むの疲れるかもです。
10月24日、土曜日、World Notes初となるイベントが始まる。
『いよいよイベント開始だよ!さて!今回参加するパーティー数はなんと1632個!たくさんの参加ありがとう!では早速ルール説明!やることは簡単、たくさんのノーツを集めること!制限時間は1時間!ステージはイベント専用のフィールドを用意したから、そこで生成されるノーツをたくさん集めてね!それじゃあよーい、スタートー!』
ワノによる開始の合図で参加プレイヤーは、イベント専用ステージへと飛ばされる。"天の音"は転移するとすぐに辺りを観察する。
「おー、ぱっと見はあんまり変わらないねー。草原じゃなくて砂漠ってことを除けば。」
「けど街はないね。」
「まぁ当然といえば当然じゃろ。ゆっくりするスペースをわざわざ用意する必要はない。」
「あとはダンジョン的なものがあるかが問題ですわね。」
「えっ、その辺のノーツを集めるんじゃダメなの?」
キョトンとした様子でヲノが質問する。
「全部のグループが同じ人数ならね。極端な話、個々の力ではいくら私たちが秀でても100人とかのパーティーとかがあったら同じ集め方だと勝てないでしょ?」
「あっ、確かに。」
「ここら辺は本来で言う草原。つまりはほとんどの者が集められるようにといったものじゃろ。」
「ただいつもと違うのは建物っぽいものがないことですわね。こうなるとダンジョンを探すのは意外に困難になりますわ。」
辺りは砂漠が広がり、〈星密の教会〉のような建物はもちろん、〈試練の迷宮〉のような入り口っぽいものも見当たらない。
「まぁ虱潰しにやってくしかないよなー。」
「ところでこの先はどうするんじゃ?ダンジョンを探すとなると4人まとまってでは効率が悪いぞ?」
「私とフリーネ、ルインは別行動。ヲノは3人の中の誰かといるって感じかな。」
「いえ、今のヲノさんならある程度のダンジョンならソロ攻略もできるでしょう。実際普段の方では初心者でも攻略可能なダンジョンは多いようですし。それにせっかく楽に取れるそこら辺のノーツを回収することも考えるならソロの方がいいのでは?」
「うーん、ヲノはどうしたい?」
「えっと、よく分からないけど……。時間も短いし、ソロで少しでも集めた方がいいのかもって……」
「本人がその気なら問題はなかろう。」
「そうだね!練習は今回は無駄になっちゃうけど別行動ってことで。」
「うん。」
「ええ。」
「うむ。」
それからカミナ、フリーネ、ルインの3人は積極的にダンジョンを探し、ヲノはその辺のノーツの回収に集中しつつダンジョンを探す。
「……、あれ?そういえばもしかして。【天奏】!」
思いついたようにヲノは手を伸ばす。するとその先にあるノーツ、普通に考えて届くはずのないほど遠くに浮かぶノーツはシャンッと弾ける。
「あっ、これって距離ないんだ……」
【天奏】は伸ばした先にあるノーツを発動と同時に処理するスキルである。障害物などを貫通することはないが、そういったものがない砂漠では、かなり効率を上げるスキルとなる。
「おー、これなら結構いけるかも。」
ヲノはいつの間にかダンジョンを探すことをやめ、近くのノーツは普通に処理し、遠くのノーツは【天奏】で処理する。それによりあまり動くことなく効率よくノーツを回収する。
「さーてーとー、行くか!」
カミナは想像してたよりも早くダンジョンを発見していた。正確には蟻地獄のようなものに呑まれた先がダンジョンになっていた。フリーネの予想通りの、大抵のプレイヤーがクリアできる設定のダンジョンに入ったカミナは、当たり前のように全てのノーツを回収する。
「この調子だと人数差は埋め難いかな。時間も短いし。」
カミナの予想通り、人数差による影響ははっきりと出ている。開始から10分ほどしか経っていない今現時点で"天の音"は561位と、実力からは想像しにくい順位にいた。
「これは流石にきついかの。」
「これ……、極端すぎますわね。」
フリーネ、ルインも場所は違うが同じことを感じていた。
だが、ここにきてヲノが再びとんでもない裏技を見出す。
「おぉ……、これはすごい!」
そのヲノの発想により"天の音"の順位は恐ろしい速度で上昇する。それを知る由もない3人は残り時間、必死で高難易度のダンジョンを求め動き回る。
『さて、イベントも残り5分!ここからはボーナスタイムだよ!ノーマルエリア、いわゆる草原とか砂漠とか森林とかいったところで1度に生成されるノーツ量が2倍になるよ!じゃあがんばってね!』
ワノの言葉通り、ノーツの量は倍になり、ダンジョンほどではないがノーツの密集率が跳ね上がる。結局高難易度のダンジョンを見つけられなかったカミナたちは仕方なくノーマルエリアでのノーツ回収に切り替える。そのまま最後の5分が過ぎ、第1回イベントは終了を迎える。
「みんなすまんのう。」
「いえ、今回は流石に仕方ありませんわ。」
「そうだね。」
街に戻ってきた3人はひどく落ちこむ。個人の実力では確実に優勝できる分、その悔しさは半端ではなかった。
『では結果発表だよ!まずはパーティー部門!上位100位はこちら!』
モニターに100個のパーティーの名前が並ぶ。たったひとつ2位のパーティーを除き、どこも多人数で結成されるパーティーである。
「嘘……」
「なんでじゃ……?」
「もしかしてお2人共、実は結構集めていたのでは?」
「いや、そんなことない…と思う。」
「我もじゃ。」
「ということは……」
3人の視線はヲノに集まる。3人の落ち込み様に声をかけられずにいたヲノは、イベント終了後初めて言葉を発する。
「多分私…かも……?」
「ヲノ、なにしたの?」
「【鏡対】。」
ヲノが見出した裏技は【鏡対】の使用だった。だが、過去にヲノから【鏡対】についての説明を受けているカミナたちは、それだけではここまでの順位にならないだろうと考える。だがその考えはワノによって断ち切られる。
『続いての発表は個人部門!こっちは表がないから上位3名だけ紹介するね!3位は"天の音"のカミナさん!集めたノーツ数は3321個!2位も"天の音"、ルインさん!集めたノーツ数は5946個!そして第1位!なんと1位も"天の音"!プレイヤーはヲノさん!集めたノーツは驚異の16322258個!』
その桁違いの数字に辺りは粛然とする。これに至ってはチートを使ったとしても不可能と思われるノーツの数だからである。
『うんうん!みんなのその反応はわかるよ!それについては本当にごめんね!悪いのは私たちなの……』
いつも明るいワノが初めてショボンとした様子を見せる。
『実は彼女が持ってたスキルが今回の結果に繋がっちゃったの。これについてはヲノさんには悪いんだけど修正させてもらうね……。いくらなんでも他の人がつまらなくなっちゃうから……。それじゃあみんな!またあとでね!』
最後はまた明るいワノに戻り、その場から消える。"天の音"、特にヲノは周囲からの視線を一気に浴びる。悔しいというよりは、どういうスキルでこうなったかが気になると言ったプレイヤーがほとんどである。そしてそれは同じパーティーメンバーも同じだった。
「それで?【鏡対】をどう使ったらあんな数値になるの?」
「えーと、普通に。」
「普通って……?」
「普通に使ったらああはならぬと……。いや待てよ。なるほど、そういうことか!」
「え?ルイン分かったの?」
「私たちにも教えてほしいのですが。」
「【鏡対】の効果はなんじゃ?」
「たしか結界を対象にして、両側にノーツが生成されるようになる….…でしたわよね?」
「うん、そのはず。」
「ではその範囲は?」
「範囲?範囲っていわれても……。範囲ってなくない?あっ。」
「そういうこと……でしたのね。」
ここでようやく3人はヲノがなにをしたのかを理解する。
「うん。【鏡対】の外で生成されるノーツ、つまりイベントエリア全部のノーツが【鏡対】の結界の中に生成されたの。あとはタイミングだけど、ノーマルエリア?で流れてる曲は多分タイミングが同じだったみたい。」
話を聞いた3人は、間違いなく修正案件だと考える。
「まっ、ともかく2位は2位だし!今回はよしとしよう。」
「そうですわね。」
「そうじゃな。」
難しいことを考えるのはやめ、4人はそれぞれゆっくり休むためにゲームからログアウトする。
その後、予告にもあった通り、【鏡対】はヲノにとって最悪な修正を受けることになる。
修正っていうのかな。まぁうん。修正ってことにしておこう。




