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雪を待つ。  作者: 氷上 雪
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依頼内容は。


「あった、ここだな」



資料室に入ってすぐの、右の棚。

津田から渡された書類のファイルを指定の棚に戻し、「さて次は」と自分が求めている資料を探す。

 


「確かあの資料は、向こうにある筈」



記憶を頼りに探していると、目当ての資料ファイルを発見した。ファイルの背表紙には、『都市部連続女性誘拐事件』と書かれている。



「…………これだ」







--



 




刻は数日前に遡る。



「調査依頼…………ですか」


「はい」



事務室の入り口近くにあるソファに腰掛け、出された紅茶を一口啜り、依頼人────野田由希子は小さく頷いた。



「詳しい話をお願いします」


「ええ。まず調査対象は、ある犯罪組織です」



由希子の言葉に紅愛はぴくりと眉を動かした。



「……穏やかではありませんね。警察でも探偵屋でもなく、何でも屋の私達に頼むにしては」


「物騒な依頼だとは自覚しております」


「………分かりました、続けて下さい」




──────まず由希子の姉である、野田香奈枝が行方不明になり、更にその数日後、近隣の雑木林から香奈枝の遺体が見つかった。


事件当夜、由希子は香奈枝が帰って来ないことを不審に思ったが、彼女の職業は記者であり、夜遅くまで社に残ることもしばしばだったため、そこまで気に留めなかったそうだ。

しかし彼女は翌日になっても帰って来ておらず、流石に心配になった由希子は、香奈枝の勤める雑誌社に連絡。だが「彼女なら定時に帰って行った、それに今日は出勤して来ていない」との返答が来た。




「ちなみに、仕事以外で香奈枝さんが遅くなったことはありましたか?」


「いえ、姉には恋仲の男性も居ませんでしたし、仕事以外で遅くなることは滅多にありませんでした」




そして、会社の者に香奈枝が帰って来ていない旨を伝えたが、「自分達も知らない」とめぼしい情報は得られず。

一応警察に被害届を出したものの、その数日後に香奈枝の遺体が発見され─────




「検死はされたでしょう、どんな結果でしたか」


「………姉の遺体が発見される前日、激しい豪雨だったんです。落雷もあって」


「落雷、ですか」


「はい。姉が発見された雑木林にも、酷い落雷があったらしくて。それでかなり派手に焼け落ちた木もあったそうなんですが…………」



険しい表情のまま言葉を続ける由希子。紅愛は何となく察しはついたが、最後まで話を聞くことにした。何処にヒントがあるか、判らないのだから。



「姉の遺体は、その焼け落ちた木の根元にあったんです。本当に、すぐ側に」


「検死の結果は」


「………感電死でした」



落雷に巻き込まれた?

紅愛はそう思ったが、いや断定するのはまだ早いと考えを打ち切る。検死の結果次第では、また違ってくるのだから。



「事故死でしたか?」


「いえ……何らかの装置で感電させられた可能性が高いと」


「そうですか……」



矢張りか。


しかし、この手の案件は自分の得意分野ではない。取り敢えず話を聞いて、事件に場馴れした津田に引き継ぐべきか。


考えを巡らせながら、ちら、と津田の方を見る。



─────いや、駄目だな。



視界に入ったのは事務処理に追われている津田。ただでさえ少数精鋭─────という名の人手不足─────なのに、更に彼の場合は昨年若社長としてこの会社を引き継いだばかり。



これ以上手間は掛けられない。




そう判断し、さて相棒は誰に頼もうかなどと考え出す。無論由希子の話は聞いている。その上で最良の人選を考えているのだ。



元よりこの厄介事下請け会社『Snow Drop』、通称『SD』は、一つの依頼に二人ペアで請け負うのが基本方針だ。

片割れが依頼を受け、内容を聞く。そしてその内容に最も最良の相棒を選ぶ。尤も、簡単な仕事であれば一人でも請け負うのだが。



────津田が駄目となると、彰人か氷坂かな。



相棒候補を決定し、依頼内容が印刷された書類を一瞥する。かなり詳細まで書かれており、香奈枝の事件の資料まであった。ざっと事件内容に目を通す。

そこでふと、疑問が湧いた。



「……感電死にしては、随分外傷がありますね」


「はい、そこなんです」



こくりと頷く由希子に、再び事件資料の中にあった香奈枝の遺体写真に目を落とす。


スーツは所々破れており、ストッキングもボロボロだ。そして御世辞にも小さいとは言えない、腹部に走る生々しい傷痕。尤も、雑木林で発見されたという話だし、服装にも疑問は湧くのだが。


それにしても。



「ここまで大きい傷、ちょっとやそっと転んだ程度じゃ付きませんよ。それに、直に見ないと分かりませんが、何となく切り口が綺麗な気が」


「そうですよね。………ていうか、写真とはいえよくそんなに直視できますね」


「まあ、仕事柄ですかね」



けろりとそう返す紅愛に、「そうですか…」と半ば感心したように呟く由希子。

そう言う彼女は、確かにあまり写真の方は見ていないように思える。矢張り身内であるし、見たくないというのもあるのだろうが。



「それに、スーツなんです。姉の服装が」


「雑木林にスーツ……。確かにそぐわないですね」



怪訝な顔の由希子に、紅愛も同意した。写真と資料を見て、うぅんと唸っていると。




「御二人共、紅茶と珈琲のお代わりはいかがですか?」



場を和ませるように亜里亜がやって来た。



「あ、ああ。もらおうかな」


「お願いします」



そっとカップを差し出せば、彼女は「勿論です」と頷き、盆にカップを乗せて給湯室に入って行った。



「気が利くのですね。紅茶もとても美味しいです」


「そう言ってもらえると、あの子も喜びますよ。後で本人に伝えましょう」



先刻までの真剣な空気は何処へやら。息抜きとばかりに朗らかな雰囲気になる。

しかしそれも、亜里亜が紅茶と珈琲のお代わりを持ってくるまでの話だが。






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