風呂・トイレ共同、キッチンなし、食堂有(12時~14時・18時~20時)全寮制
冒険者学校に併設された、学校用の寮。
基本的に冒険者学校に通う者は、この寮に入ることになる。
「あら、ここは冒険者学校の生徒しか入ってはいけないのですよ」
寮に立ち入ると、エプロンを着けた女性が現れた。
黒髪を束ね、黒い瞳がやや白い肌によく目立つ。
落ち着きながらも凛とした佇まいを感じる。
「えっと、自分はたかしって言って、今日から冒険者に」
「あら、たかしさんでしたか。お話は伺っておりますよ」
そう言うと、冒険の書を出すようにと言うので、カバンから取り出す。
女性は冒険の書を受け取ると、中身を確認した。
「はい、確認出来ました。ようこそ、たかしさん。私は寮を管理するアオイと申します」
エプロン姿の女性、寮母さんのアオイのお辞儀に合わせて、軽く頭を下げた。
「聞けば記憶喪失とか。色々と大変でしょうけど、頑張ってくださいね」
「あなたは……」
アオイさんが少女の方を向く。
「ああ、たかしを保護した冒険者でね」
「そうでしたか。それは大変だったでしょう。お部屋をお貸しすることは出来ませんし、何分食堂もオープンしておりませんから、おもてなしすることも出来ませんで」
申し訳ありません、という内容なのだが、どこか刺々しい言い方のような気がする。
しかし少女は気にもせずに、たかしをアオイに任せ、
「それじゃあたかし。また会うこともあるだろうが、達者でな。困ったらギルドを頼るんだぞ」
さっさと帰ってしまった。
あ、名前とか聞いてないや……。
少女が帰ったところで、アオイさんがさて、と言って施設を案内するようだ。
この寮にはまだ自分しかおらず、また本格的に稼働する前なので、いくつか使えない場所も多いらしい。
オープンに向けて、丁度調整やメンテナンスを行っている最中、行く当てがないたかしを、先に入寮させる連絡が来たとのことだった。
二人が向かったのは、まず食堂。
オープン前とのことで、当然誰もいない。
6人掛けのテーブルが並び、使われる時を待っている。
「食堂はお昼と夜、時間が決まっております。利用は任意ですが、寮生は無料でご利用いただけます」
調理場であろう、カウンターの向こう側は、しんと静まっており、鈍い色の大釜や、数台のかまどが鎮座している。
次にシャワールームとトイレ。
玄関からすぐの場所にある。廊下を汚さないように、シャワールームが廊下を跨がずに使える配置だ。
トイレはすべて個室になっており、シャワールームのすぐ近く。一か所にかためられており、仕切りはあるが、共用という感じだ。
「実はですね、このトイレはすごいんです」
アオイさんは少し嬉しそうにトイレの扉を開く。そこには磁器で出来た、まだピカピカの白い便器が置かれている。近くにはボロボロの紙のような物が箱に収まっている。
「なんと水洗なのです!この都市は下水道設備を最初から考えて造られたので、ここに設置したトイレはすべて水洗となっています!ああ、なんて素晴らしい……」
うっすら涙を浮かべる程にアオイさんが感動してしまったため、自室の案内はようやくといったところだった。
「ここがたかしさんのお部屋となります」
アオイさんが鍵を開けると、正面に小さな窓があり、左右には二段ベットが配置されていた。
ベットにはすでに布団と枕と思われるものが置かれており、いつでも寝ることが出来そうだ。
「個室、二人部屋とありますが、多くの方はこの四人部屋です」
そういうと、アオイさんは腰に下げていた鍵束から1つを外し、たかしに手渡した。
「鍵は各自が持ち、管理者の私がマスターを持っています」
ベットに腰掛けると、どっと疲れが押し寄せ、アオイさんの声が遠く聞こえる。
管理室にいるから、何かあったら声をかけてください。何とか聞き取れたところはそれくらいだった。
今日はもう休もう……。