【6話】ヒロイン視点の話っていいよね【明継×藍莉×美智♡】
【秋津川美智view】
今日は日曜日。
私は特に部活に入ってたりもしなく、友達との予定も特にないから1日中予定のない日。
だと言うのに、いつもの習慣なのか私は朝早くから目を覚ましてしまった。
時刻は朝6時。
朝日はもうしっかりと登っているものの、外の音を聞く限り人通りは全然少ない。
私は目をしっかり覚ますために部屋のカーテンを開ける。
聞いたところによると、日光を浴びると目が覚めるらしい。
詳しいことはよく知らないけど。
カーテンを開けると強く日差しが入ってくる。
まだ夏前だというのに、日差しだけは一丁前だ。
目を瞑っても光の明るさを感じる。
これは確かに寝られないかも知れない。
そんなことを考えていたらふと、隣の家の向かいの部屋のカーテンが開いているのが見えた。
私の部屋の向かいの部屋とは即ち、私の幼馴染、姫島明継の部屋だ。
つぐ(私が呼んでいる明継の呼称)はいつも不良ぶっているくせに妙に真面目で、喧嘩もした事が無いような変な奴だ。
正直、家が隣じゃなかったら私も関わりたいとは思わなかっただろう。
「……マヌケ面」
つぐはまだ寝ているみたいで、その間抜けな寝顔がよく見える。
少し可愛いと思ってしまうのはきっとつぐのストーカーに洗脳めいたつぐ談議を披露されたせいだろう。
布団を行儀良く被って寝ているあたり、何が不良なのかわからない。
私はしばらくつぐの寝姿をじっと見つめ続けた。
特に何か面白い動きをしているわけでもない。
何か魅力があるわけでもない。
それでも私はひたすらつぐを見つめ続けた。
ーーーーーーーーすると部屋の扉がいきなりゆっくり開き始めた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ホラーかよ。
ギィ〜〜〜とか鳴りながらゆっくり開いてる。
やめて。
ほんと怖い。
えっ何。
怖い怖い怖い。
そして扉が全て開き切った時。
そこには学園のアイドル、水戸藍莉がいた。
いやいやいや。
怖い怖い怖い。
あいりは私とつぐが通う学校の生徒で、学園でもすごく人気のある女の子だ。
スポーツ万能、成績優秀、誰に対しても誠意ある対応をして、先生からも一目置かれる、そんな理想的な女子生徒があいりだ。
しかし、そんなあいりには裏(?)の顔があった。
あいりはつぐのストーカーだったのだ。
あいりはどうやらつぐの残念なところが好きらしく、つぐの動向を追うあまりストーカー紛いの行動をしているのだ。
今だって、朝早くで鍵も掛かっているはずの他人の家に堂々と上がり込んでいる。
怖い。
あいりはおもむろに自分が持ってきた鞄から何かを取り出し始める。
……カメラだろうか?
と思ったけど、どうやら違ったみたい。
その正体はアロマキャンドルだった。
「?」
私は状況が理解できていないものの、あいりは私の視線に気付くことなくアロマキャンドルに火を点け始める。
換気の意味も込めて少し窓も開けている。
……好きな人の家に勝手に上がり込んでアロマキャンドルを焚く女。
中々の怪奇である。
ふと、つぐの顔がリラックスしてきていることに気付く。
「ふふっ……この間、体調が若干悪そうでしたから、リラックスしてくれてる様で良かったです」
そんなに体調悪そうにしてた時あっただろうかと思いながら、私はあいりの意図を理解した。
あいりはつぐの体調を心配して、寝ている間にアロマを焚いてリラックスさせようとしてるのだ。
いやいやいや。
不法侵入の上に回りくどい。
わざわざアロマ焚くくらいなら体調に合わせた飲料や食べ物を渡せばいいのに。
思考回路が不思議で不気味すぎる。
「ん、んぅ……」
つぐが寝息を立てて顔をしかめる。
おそらく、そろそろ目が覚める合図だ。
あいりがそそくさとアロマキャンドルを仕舞いにかかる。
つぐが上体を起こして目を擦る頃には、部屋は元の状態に戻っていた。
もう怖いを通り越してファンタジーだ。
「おはようございます、明継君」
「ああ、おはよう水戸さん」
しれっと挨拶したあいりに平然と挨拶を返すつぐ。
…………。
寝ぼけてる。
寝ぼけてるに違いない。
「今日は驚かないんですね」
今日“は”?
「そりゃ、今まで何回もストーカー紛いの変なことされれば慣れるよ」
「ストーカー紛いとは失礼な!」
紛いどころかストーカーそのものだよ。
「それで?今日は何しに来たんだよ?」
つぐが本題に入る。
というか寝ぼけてる気配がないんだけど。
簡単に不法侵入とかその他諸々受け入れてるんだけど。
私がおかしいのかな?
「明継君の体調が優れない様なので、栄養にいいものを持ってきました」
「それはサンキュー」
「早速調理してきますね」
「それはノーサンキュー」
つぐがあいりの腕を掴む。
「下に降りて調理なんてしたらバレるだろう。それはやめてくれ」
「わかりました……」
あいりが少しテンションが下がった様子で答える。
「それでは、ここで調理させていただきますね」
「ストップストップ!」
簡易的なカセットコンロと具材を取り出すあいりと、それを止めようとするつぐ。
私は中々2人のやり取りから目が離せない。
「ここでやるのはやめろ!燃え移ったらどうするんだ!」
「ご心配なく!一度、家で練習してきましたので燃え移りはありません」
「一度だけですごい自信!てか『燃え移り“は”』ってことは別の何かが起きてんじゃねえか」
「……」
「目をそらすな!」
何が起こったのか私も気になる。
「それでは仕方ありませんが、りんごくらいなら」
「ああ、それくらいならいいよ」
「皮を向いて一口サイズに切ったものがこちらになります」
「用意いいな!」
その後もつぐとあいりは変でありながらも楽しそうなやり取りを続けた。
2人とも笑顔で、本当に楽しそうだった。
そこに私がいないことが、少しさみしい様な気がした。
それから、ずっとそんな馬鹿みたいなやり取りが続いた。気が付くと、もう昼になっていた。
「それでは、私はこれで」
あいりはそう言うと部屋の扉から出て行った。
……窓から飛び降りるかと思った。
「……窓から出て行くかと思った」
つぐと同じ思考をしてしまった。
少し屈辱。
「あ」
つぐがこちらに気が付く。
「おはよう、つぐ」
もうこんにちはの時間だけど、なんとなく私はそう答えた。
「見てたなら混ざれば良かったのに」
「それは断固拒否」
つぐにとってはなんとなくで言った言葉だろうけど、私にとっては混沌への誘いでしかない。
「でも、少し思ったんだよな」
つぐは苦笑いをする。
「ここに美智がいないのがさみしいって」
「……」
それは、さっき私が考えていたことそのもので。
「クサい」
「クサい⁉︎クサいとはなんだクサいとは」
「クサいものはクサい。やっぱりつぐは残念」
そういう照れ隠ししかできなくて。
いや、クサいと思ったのは本当だけれど。
「でも、ありがとう」
私は思わずつぐに笑顔を返してしまった。
後日、姫島家では怪奇現象が起きたとして、家族中で騒ぎが起こっていた。
「人の出入りのなかった汚兄の部屋から女の人の話し声が聞こえてきたんですよ!しかも気が付いたら、冷蔵庫の中に見知らぬ食材が増えてて!聞いてます⁉︎」
「……」
やっぱり、あいりは怪奇現象の類の様な気がしてきた。