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第22話:走れ、追え、飛べ!・Ⅱ

「はぁっ・・・はぁっ・・・!」


走り出した地点から、路地をいくつか抜けた街路。

ここもまだ様々なお店がならぶ中央街のメインの一角であり、人通りは多い。


しかしネコはそれを軽々と縫うように抜けていき、

私達をあざ笑うかのように走り去っていく。



「・・・まだ遠くには行ってないわね」


マリナさんが機転を利かせてくれて、何らかの魔法でネコのだいたいの位置は分かるのだけれど、

追いかけても捕まえられないので状況は好転しない。





そんな中ぶっちゃけてしまうと、

私は既にバテていた。


そもそも運動が得意でもなんでもない、どころか超苦手レベルの私がネコに脚で追いつける訳が無いのだ。


「ユイちゃん、大丈夫?」


マリナさんはまだ余裕そうだけれど、それでもネコに追いつくのは中々大変そうだ。


「だ、ダメそう・・・」


足も上がらなくなって来ているし、息も苦しい。



「これじゃあ、らちが明かないわ」


指を軽く顎に付けながら何かを思案しているマリナさん。

また何かいいアイデアを出してくれればいいんだけど・・・


因みに私は何にも浮かんでない。


そりゃあ氷の魔法で動きを止められれば楽なんだろうけど、あれ、私達の方の動きも遅くなるからもう一手何か考えなくちゃいけない。


こういう時レナール先輩が居てくれれば!


ネコ捕まえるのに先輩の力を借りるのもアレか。

いや、でもお財布がかかってるし・・・



小休憩である程度息を回復させて、いざもう一度!と一歩を踏み出そうとしたとき、


「ちょっと待って!」


とマリナさんに止められた。


「なっ、何ですか?」


出そうとした一歩を急遽取りやめて振り向くと、

マリナさんが軽い足取りで私のすぐ近くまでやって来た。


「ユイちゃん、雷属性持ってわよね?」

「え、あ、はい。持ってますけど・・・」

「そうよね。じゃあアレを使えばきっと追いつけるわ!」

「ア、アレとは・・・」


なーんか嫌な予感。


怪しい雰囲気を感じて聞き返すと、マリナさんは物凄いキメキメの表情で、


「雷の指向の力で、ユイちゃん自身が飛んでいくのよ?」



・・・はて???

それって一体どう言う事?


「・・・え?」


思わず固まってしまう。


私が、飛ぶ?

まだ全然理解に及んでいない状態だけれど、マリナさんはそれ前提であるかのように続けて話し出した。


「雷の魔法に歯指向の力、つまり物を動かす力があるの」

「い、いや、それは知ってますけど・・・!」


今までだってその力で鉄の塊をぶっ飛ばしてきたし!


「でしょう?その力を自分の体に使えば、アレに追いつけるはずよ」

「そんな無茶なっ」


あれ物によっては音速越えるような勢いで飛ばしてるんだよ!?

私の体がそんなのに耐えられるわけ・・・!


「大丈夫!いざという時は私が回復してあげるわ!」

「それ全然安心できないんですけど!」



・・・でもお財布を盗まれたままなのもマズいし、

あれにはゴルト以外にも、元の世界の私の口座のキャッシュカードとかも入ってる。


背に腹は代えられないのも事実。


それに、あのお財布は私が元の世界から持ってきた数少ない物のひとつ・・・・!


んんー、やっぱり早く取り戻したい気持ちの方が大きくなって来たなぁ


ええい仕方ない!

どうせ私の足じゃ追いつかないのだからやるしかない!


「・・・よしっ、マリナさん、教えて下さい!」


恐怖心を自ら断ち切るように、マリナさんに教えを乞う。

なんで今日のマリナさんちょっと強引なのかは分からないけど、とにかくあのネコを捕まえないと、私の元の世界の思い出がまた一つ失われてしまう。


「わかったわ」


マリナさんは軽く道路の端の方の寄って、話し始める。


「といっても原理は簡単よ、前にユイちゃんがやってた金属を飛ばすあれ。あれを自分の体でやるだけ」

「それ、すっごい危険だと思うんですけど・・・」

「確かにそのあんな勢いのまま壁に激突したら危ないけれど、実は飛んでる最中はそこまで危険でもないのよ?」

「えぇー?そうなんですか?」


いくらマリナさんと言えど、流石にうんそうですねと素直には信じ切れない。


「雷の特性にはもう一つ、滞留の効果があるんだけど、それがユイちゃんを守ってくれるの」

「ほ、本当ですよね・・・?」


こんなところでマリナさんが嘘をつくような事は無いとは思うけど・・・


「一回お試しでやってみれば分かるわ。実際に発射しないで、準備までにとどめておけばいいの」

「じゃ、じゃあ、やってみますけど・・・」


疑心暗鬼のまま、とりあえず言われた通りやってみる。

全身から溢れる魔力を雷に変換してから、再度自分の体に流し込むように意識する。


無茶はするべきではないと思って魔力量はかなり控えめにはしているけれど、

それでも皮膚表面辺りから小さくパチパチと静電気のような音がし始める。

これ、髪の毛逆立ってそう・・・


そんな事を思た矢先、急に体にフワッとした浮遊感を感じる。

思わず周囲を見渡したけれど、別に体が浮いている訳では無さそうだ。


「あ、あれ・・・?」

「どう?何かフワフワした感触はしない?」

「しっ、してます!」


マリナさんの言う通り、今の私は何というか、浮きそうで浮かない、みたいな重量感を常に感じている。


「その感触が滞留の力で、ユイちゃんの体を保護してくれるの」

「な、なるほど・・・」


これがどう保護してくれるのかは分からないけれど、

マリナさんがわざわざ私を危険に陥らせようとするアドバイスをするとも思えない。

であれば、これが何やかんやで指向の力によるぶっ飛ばしをフワッと受け止めてくれるのだろう。

多分。うん。


「コツは掴んだ?」

「・・・多分?」

「後は前と同じ。目標地点を決めて指向の力を使うだけよ。あ、滞留の分の魔力を指向に回しちゃダメだからね?」

「な、なるほど・・・」


滞留の分は残しておかないとダメなのね。

魔力の量自体は不安は無いけど、私の脳の処理能力にはちょっと自信は無い。


「じゃあミーシェちゃんを追いましょう!」


マリナさんは、ネコ居るであろう方向を向いて軽く歩き出すので、

私も纏った魔力を解いて同じ方向に歩く。

・・・その拍子に雷の魔力が火花となってバチバチ言いながら散って周りの人をビビらせたのは内緒ね。



しばらくマリナさんについて行くと、

少し人の少なめな道に出た。

見た感じ、飲み屋っぽい店が多く昼の間は閑散としている地域なのだろう。


そしてそこを、ネコが歩いているのを見つけた。

口には相変わらず私の財布が咥えられている。

なんでそんなに執着するのか・・・


「・・・居たわよ」


若干小声でマリナさんが声をかける。

ワンチャン魔法無しでも捕まえられないと、周囲の人に紛れて接近しようとしたが、

その作戦は失敗。ネコに気が付かれて、一目散に走り出されてしまった。


しかし、その方向は一直線。

脇道に逸れること無く道路を真っすぐ逃げている。


「今よユイちゃん!」

「はいっ!」


マリナさんの合図と共に、私は軽く走り出しながらさっきのように魔力を纏う。

ショートした家電製品のような火花を散らしながら私の体に、ふわりと浮遊感を感じる。


急に体が軽くなり、走りにくくなってしまったが、それは今はあまり関係ない。

何故ならこれから私は飛ぶのだから。



先のマリナさんのアドバイス通り、この浮遊感の魔力は残しつつ新たに魔力を放出する。

こちらは指向の分。


体内の滞留の魔力と混ざらないように体の周囲を包み込むように展開すると、

意識はしていないけれど、体の真横に電流で作られた輪っかのようなものが生まれた。


当然そんなものを街中で出したら周囲の人の視線が凄いけれど、今はそんなの気にしていられない。

逃げるネコを目で捉えて、


指向の力で私自身をネコの元へと、吹っ飛ばす!


「うわわわわっっっあ!!」


瞬間、私の体は全身を何かに掴まれて投げられたみたいにグッと引っ張られ、あまりのスピードに目が追い付いて行かず視界がブレる。


周囲の景色も、辺りの人も、全てが残像のように流れて行く。

速い!速すぎるって!


あまりの速さに、そんな感想を抱く余裕すら一瞬しかなく、


もはやネコはどこに居たのかも分からないまま、気が付けば、



「あ・・・・・・あれ・・・?」


上下逆さまになって、道に止めてあった馬車の幌に突っ込んでいた。



そしてそんな逆さまの視界で、ネコがお財布を咥えたまま裏路地へと走っていくのが見る。



直後、体内の滞留の力も弱まったのか、私の体はゆっくりと地面に落ちた。


た、確かに速いしネコには追いつける、っていうか追い越したけど、

これ制御むず過ぎじゃない?

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