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第21話:デートなお仕事・Ⅳ

結局、何も買わずに冷やかしで退店するのもちょっと嫌だった私は、

伝線が無いらしい例のストッキングと、遠征に行くときとかに使えそうな、スケスケでは無いけれど魔力放出を妨げない感じの寝間着を買って店を出た。


店頭で推されてたモコふわの可愛いパジャマも欲しかったんだけど、季節的にも体質的にも断念。


とりあえず食事とお買い物と言うデートイベントを一応こなす事には成功したけれど、

次は何だろう。

ゲーセンみたいなアミューズメント系の場所は見た感じこの世界には無いしなぁ。


基本的には今回アルフ君側から、皆彼女が居て煽って来るから見返したい、という要望の元付き合ってあげている形なので、プランはアルフ君に任せてる。


「次はそうだなぁ、よく皆が行ってるらしいデートスポットに行こう!」

「う、うん」


結局その言い方じゃあどこに行くのかよくわからないや。


そう言いながらアルフ君が歩き始めたのは町の東の方。

中央街から見ると、教会とは反対方向だ。


アウフタクトの東側はあんまり散歩では行った事無いなぁ、と思いつつ街並みを眺める。

中央街とは違い、時計塔や個人商店の並ぶ商店街等、


落ち着いていて歴史のある、商業地区と住宅地区が織り交ぜになっている大人な街並みだ。

夜限定で開店しているのか、バーのようなお店が準備中で並んでいたりする。


しかしアルフ君はそんな街並みをスルーして、町の端っこ。

外壁の近くまでやって来た。


この町では一般的な2階建ての建物よりも高い石レンガの防壁があって、近づくだけで威圧感がある。

これがあるからこそここの人々は安心して暮らせる、大切な物なのだけれどね。


しかしこんな辺境の所に何があるんだろうと思っていたら、

アルフ君は外壁の途中に点在している、ちょっとした塔みたいな建造物の前までやって来て

その塔の入り口に入っていく。


「ちょちょ、ちょっと待って!?」


しかしその入り口は、立ち入り禁止をアピールするように1本の鎖が横切っているのだ。

それを無視してアルフ君は乗り越えていこうとしている。


「な、何?」

「そこ入っちゃいけない所じゃないの??」

「まぁ、そうかもしれないけどさ、ちょっとくらいは大丈夫だよ。別に危なくないし」

「はぁ・・・」


出たぁ、男子特有の危ない所に行きたがる奴!

そう言うのデートスポットとして流行ってるの良くないと思うんだよね。


立ち入り禁止になってる、別に危なくない場所って大抵危ないし!


とはいえ今の私には生徒会としての権限は備わっていないので、全体周知など出来やしないけど。


「た、立ち入り禁止の場所には行きたくないなぁ」

「ほんと今回だけで良いから!!」


今回だけも何も、って気がするけどアルフ君は聞く耳を持ってくれない。

なんでこの期に及んで急に強引になるの・・・


こんな場所フロートソーダと違ってお一人様でも挑戦できるでしょうに。


「この通り!!」


しかも、何故かアルフ君は当の入り口の前で土下座まで初めてしまった。


「わ、わかったから・・・!そんなことしないで!」

「ホント!?」

「・・・ちょ、ちょっとだけなら、ね」


土下座って何の意味があるんだろうと思ってたけど、確かに実際やられると効果ある。

プライド捨ててまでお願いを通したい覚悟も感じるし、

逆にやられる側としては、そんな事さっさとやめて欲しくて、軽いお願いなら折れた方が早いんじゃないかと思わせる。


・・・じゃあ私がやるかと言われたら、嫌だけど・・・



鎖を乗り越えて建造物に入ると、そこは石レンガで作られた螺旋階段のようになっている。

なんか、ストラディウム城を思い出すなぁ、なんてことを脳裏で思いながらアルフ君について行くと、その最上階辺りには扉があったが、

そこには階段が崩れているのか大きな段差が出来ている。


「ここ、2人じゃないと登れなくてさ」

「えぇ・・・」


普通に危ないじゃん。

そう思っている間に、アルフ君は私にどこからともなくロープを手渡してから、

自身はバレーのレシーブのような体勢を取っていた。


「まず僕がレイフィールさん持ち上げるから、その後そのロープをドアノブにひっかけて欲しいんだ」

「デートスポットでやる事じゃないなぁ」


この世界の中高生はみんなワイルドなのかな?


とりあえずここまで来てしまった以上は仕方ないので、

巻いたロープを肩にかけて、両手を段差に乗せて、レシーブの体勢のアルフ君の手に足を乗せる。


「行くよ、そーっれぃ!!」


背後で踏ん張るアルフ君の声と共に、私はグイと持ち上げられる。

段差が腰の高さまで上がれば、後は自力で上ることが出来・・・


あれ?これアルフ君側から私のパンツ見えてない???


登り切ってから急いで振り向くと、


「よし、あとはロープをひっかけてくれれば僕も登れるよ!」

「え、あぁ、うん」


純粋!!

見えてたのかもしれないけど、下心は無い・・・のかな?

なんとも凄い気になる所ではあるけれど、アルフ君、純粋に魔法使いの利便性としてあんな服勧めてきたし、その辺めっちゃ純粋なのかもしれない。

フロートでも2人してガチ照れしてたしね。


とはいえ何とか2人が最上階にたどり着いたのを確認してから、アルフ君がその目の前のドアを開ける。


「・・・わぁ」

「ほら、良い景色でしょ?」


ドアの先は屋外だった。

しかも、そこは防壁の上。

どうやら防壁はただの壁では無く上に人が立ち入るスペースがあったようだ。

確かに思い返せば、町の出入り口の防壁は結構な厚みがあった気がする。


そして、ここが防壁の上という事は町の中と外を見渡せるという事。

内側を見渡せば、アウフタクト郊外のレトロな街並みが一望できるし、

反対を見れば、海と平原と山の広がる大自然が広がっている。


「うわぁー・・・」


綺麗な景色と言うのは自然と声が漏れてしまう。

普段教会の窓から見える街の景色とも少し違うその光景は、やっぱりワクワクするもの。


セミの声は聞こえないけれど、広がる海と空、青々とした山並みはとても夏らしい光景だ。


「あのさ、」


街並みを眺めていたら、私とは逆に外側の方を見ていたアルフ君がふと何か言いたげな感じだったので、

私もその横に立つようにして町の外を見た。


「あそこの街道、見えるだろ?」

「うん」


アルフ君は、町の東から伸びている一本の街道を指さしながら、遠い目でそれを見ている。


「あれ、どうやら王都オルケスタまで続いてるんだってな」

「へぇ・・・そうなんだ」


あの道、一応私も利用したことあるけれど、ローチェ村に行くために途中で外れちゃったんだよね。

今ここから見えている街道は、途中で森の中へと入っていってしまっていてその先は分からないし、王都らしいものも全然見えない。


「いつか、王都とかに行ってみたいよなぁ」

「王都かぁ、どんなところなんだろ」

「噂だと、最高の魔法使いを育成する学校とか、世界中の書物が集められた図書館とかあるらしいぞ?」

「うわー、なんか盛ってそうな噂」

「それは分かる」


目では見えない遥かな王都の噂で盛り上げっていると、

視界の端の方。

北東辺りの山間辺りから、巨大な何かが飛び出し飛行しているのが目に入る。

遠目だけれど、大きな翼を持っているように見える。


「あっ、あれなんだろ」


指さしながらふと呟くと、

それと同じものを見たであろうアルフ君は興奮気味に、


「もしかして、龍族かな?すげぇ、始めてみたよ」

「龍族?」

「あぁ、オルケス大山脈辺りに住んでるらしい種族で、人間なんか目じゃない位強くて賢くて、長生きだって噂だ」

「へ、へぇ、そんなの居るんだ・・・」


確かに、遠くの山間から出てきたにしてはシルエットが大きすぎるというか、

あれ、下手したら百メートル以上あるんじゃないの??


この世界、そんなのも居るんだね・・・


眺めていたそれは、羽ばたくような動きを見せた後、またすぐに山間に消えてしまった。

でも、その後もしばらく2人してのんびりと町の外の景色を眺めていたのだった。



そして夕方。

2人は中央公園へと戻っていた。


公園の復興はまだ完全ではないけれど、公園としては機能するレベルには戻っていて憩いの場としての役割は復活していた。


その公園のベンチで私は座っている。

だって、あの防壁から公園、遠いんだもん・・・


「ふう、今日はだいぶ充実してたなぁ」

「よ、よかったね」


アルフ君はベンチには座らずに、私の前で立ちながら話していた。


「とりあえず、デートもどきのお願いは完了でいいんだよね?」

「勿論!これでだいぶあいつらの事見返せたと思うよ!」


満足気に笑うアルフ君からは、まるでキラキラのオーラが溢れているかの如く満足感が溢れ出ている。

まぁ、当初の依頼通りちゃんとデートとして成功したのなら何よりだ。


色々と妙な経験もしたけれど、良い暇つぶしにはなったし。



・・・


そう言えば、アルフ君、友達を見返すって言ってたけど、どういう形で見返したんだろう。

私はてっきり、このままその友達とやらの所に会いに行って、


そこで自慢でもするのかなとか思ってて、


もしそうだったらどういう対応するのが正解なんだろうとか、

そこでなんか変ないちゃつきとか要求されたらどうしようとか、


そんな事ばかり考えてたんだけど、結局そんな事は無かったし。



まぁ本人が見返せたって言ってるんならそんな事わざわざ聞くのも野暮っぽいけど、


でも、気になるよね。



「ねえ、アルフ君」

「ん、なぁに?」


やはり上機嫌モードは消えていない。


「友達を見返したって言ってたけど、私、その友達とまだ会ってないよ?」

「え?あぁ、そうだね」

「これ、このままだと友達は私とアルフ君がデートしたこと、知らないままなんじゃないの?」


アルフ君は、目をパチクリさせながら固まってしまった。


え、もしかして気が付いてなかったとかそう言うやつ??


それだと私ただアルフ君と義理デートしただけなんだけど!?



数秒間固まっていたアルフ君は、やっと動き出したと思ったら、その場を数週ウロウロした後、


「ま、まぁその・・・見返すって話は・・・あれだよ」

「あれ?」

「・・・えーっと、デート取り付ける口実、的な?」

「・・・は?」


気まずそうにはにかむアルフ君の顔。


・・・なんか見覚えあるなぁ、って思ってた。


・・・!


「あっ!!」


私がハッと気が付くと同時に、アルフ君は全速力で公園から逃げ出す。

あれ魔法併用してる速さだ!!


あの子!!


ちょいちょい教会裏の墓地で肝試ししてた悪ガキの一人!!



急いでベンチから立ち上がる頃にはもう遅い。

アルフ君は公園を隔てる柵を加齢に跳躍して中央街へと消えていくところ。

あれじゃあ私も魔法はぶっ放せない。


「騙されたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


やり場のない感情に、周りに人が居る事も忘れて思わず叫ぶ。



何が皆に見返すだ!


あれでしょ!メロンフロートも、服屋で進めて来た露出の多い服も!防壁の段差のパンモロも!

あれわざとだなぁ!!



地団太のように右足を地面に強く叩きつけた瞬間、

ビシャーーンン!!

と激しい雷が落ちた。

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