第21話:デートなお仕事・Ⅲ
「ありがとうございましたー!」
ウェイトレスのお姉さんの声が背後で響く。
無事、とは中々言い切れない昼食を終え、中心街に出た。
「な、中々ハードなお昼ごはんだった・・・」
1件目でこれとは先が思いやられる。
100%あのフロートのせいだけど。
「でも、結構友達の事は見返せたと思うよ!」
「そ、そう・・・」
何?この世の中のカップルはもしかして皆こんなことしてるの??
この世界の恋愛事情怖ーっ。
「それで、次はどこに行くの?」
こんな惚気スポットがあといくつあるのかと気になってしまって、次の目的地を聞く。
周囲を見渡せば、飲食店以外にも色々お店はあるので、選択肢はかなり多そう。
「そうだなー、次は服屋かな」
「服かぁ」
服なら滅茶苦茶な事にはならないだろう。
私がアルフ君に服を着せるなんてトンチキな展開は流石に無いよね?
逆もしかり。その場合は猛烈に拒否するけど。
アルフ君に連れられてやって来たのは、大通り沿いにあるブティックっぽい店。
完全なハイブランドと言う訳では無さそうだけれど、店構えはお洒落な方だ。
一等地ともいえる場所の大通りに直接面したお店。少なくとも有名どころであることには間違いない。
大きいお店だし、品ぞろえは良いだろうなぁ、と思って来店した私は思わず度肝を抜かれてしまった。
「え、何このお店!」
「総合ファッションブランド"ウルトクロス"だよ」
「いや名前じゃ無くて」
店内に入るや否や、5体のマネキンがお出迎え。
それ自体は別にありふれたショップではあるんだけど、問題はそのマネキンの服だった。
1体は男性用っぽい、普段使いできそうな軽そうで洒落た夏用の私服。
もう1体は、シルクのような光沢が光る女性用のパーティドレスのようなもの。
さらに1体は、全金属製の重厚な全身鎧が右半身だけ着せられ、半分は丈夫でしっかりしたインナー。
そして、部屋着、あるいはパジャマとして使えそうなシンプルでユニセックスな服。
最後に、これからの季節に合う、女性用の水着が並んでいる。
まるでユニットでも組んでそうな雰囲気で並べられたマネキンにはあらゆるジャンルの衣服・・・というか装備?と言えるものまで着せられていたのだ。
「ここ、マジで品ぞろえは豊富だからさ」
「品ぞろえって言うか、鎧あるんだけど・・・」
「あれは鎧って言うか、中に着るバトルインナーのマネキンだけどな」
「そっちかぁ」
思わず納得しかけたけど、それもなんかおかしいよ??
そんなマネキン達を尻目に、アルフ君は店の奥へと進んでいくので、私もそれについて行く。
この店のフロア構造は全く知らないので、迷子にはなりたくないし。
通り過ぎるラックにかけられている衣服には、
"防刃加工、対火加工済み!"
とか、おおよそ普通の衣服では聞かない売り文句がなされているシャツとかがある。
"魔法縫製、継ぎ目なし。伝線無しストッキング"
・・・あ、これはなんか欲しいかも知れない。
ストッキング越しの魔力放出がどうなるのかは不安だけど。
そんな異世界ならではの衣服を眺めている内にやって来たのは魔法使い向け衣類コーナー。
まず、そんなコーナーがあるという時点で私の服屋の認識を越えている。
「魔法使い向け衣類・・・」
「ああ、この町はそう言う人口も多いからな」
確かに見ると、この辺りは男女関係なく、それなりに人が居る。
今私たちが居る辺りは女性が多いので、この一角は女性向け衣類コーナーだろう。
女性向け?
アルフ君自身の服を見るんじゃないの?
「あれ?今日ここに来た目的って?」
「ちょっと、レイフィールさんの新しい服でも見ようと思って・・・」
気になって聞いてみるとそんな答えが。
もしかして私ずっと同じ見た目だから服着まわしてると思われてる??
まぁ、実際、おんなじデザインのものを2、3着着まわしてるのだけれど。
「なんていうかさ、デートっぽくない?俺の服見るよりはさ」
「うーん、どうだろ」
どうやら私の恰好がずっと変わらないのを見て、みすぼらしいと思った訳じゃなさそう。
「でも、ここのを買うだけのお金は持ってないから、試着だけな!」
「それ冷やかしじゃない?」
それじゃあ流石に悪いし、さっきのストッキングだけでも買っておこうかな。
私のお金で。
とはいえウィンドウショッピングは私もたまにはやってしまうので、強くは言えないけどね。
でもまあ確かに、「これに合いそうじゃない?」
とか言いながら相手の服を探したりするのはすごくそれっぽい。
デートじゃないけど、友達とか、妹とやってたりしたなぁ。
そんな事を思いながら衣類を漁っていると、
どの衣服にも"感応器露出部位"と書かれたバナーが付いている。
なるほど。魔法使い向けっていうのはそういう意味なのね。
試しに一着手に取ってみると、魔法使いらしい金属の装飾がなされたオフショルダーのワンピースだった。
胸元からおへそにかけて一本縦に編み込みのスリットが入っているセクシーな服だけれど、
多分、こういう配慮が嬉しい魔法使いも居るんだろうね。
その足で、隣の魔法使い向けアクセサリコーナーを覗いてみると、
火属性のエーテルをパワーアップさせる、ガーネットの宝石付きチョーカー!
とか、RPGの世界の装飾品みたいなものも売っている。
これ本当なのかな?
そう思ってちょっと近寄ってみたら、水属性用のアクアマリンのチョーカーが青く光り出してしまい、慌てて離れた。
「あ、危なっ・・・」
これ私がダダ漏らしにしてるエーテルにでも反応してるのかな・・・?
もしそうだとしたらこの辺のアクセは効能は本物だし、付けてるだけで反応してしまう私には使えない。
残念。
いやまあ、これ以上私の魔法をパワーアップさせようだなんて思ってはいないけども。
何にせよ余計なトラブルは起こしたくはないのでその場を後にして元の衣類コーナーに戻ると、
「レイフィールさん、こういうのはどう?」
と、アルフ君が手に何かを持ちながら駆け寄って来た。
「ん?どれどれ?」
あー、こういう空気懐かしいなぁ、と思いながらアルフ君がが持ってきた物を手に取ると、
「・・・」
パッと見の印象は水着、というかどう見てもビキニトップとボトムでしかない。
確かに水着には似合わない凝った花の装飾とか、ソックスとかはついているけど。
「これ、水着コーナーのやつじゃ無いの?」
「魔法使いコーナーのやつだよ?」
・・・じっくり見ると、確かにバナーには
"ホンキで魔法を使いたいアナタに!"
"踊り子にもオススメ!"
等と書かれている。
確かにこれを街中で着てる人が居たら魔法使いとしての本気度は相当な物だろう。
でもちょっと水着っぽいキャッチコピーにするんじゃないよ紛らわしい!
それに触って確かめてみると、確かに布地は水着と違ってそんなに防水性のある素材じゃない気がする。
この布面積で水に強くないってそれはそれで問題では?
「とにかく、これは却下!恥ずかしいし!」
何にせよこれは試着する気にもなれないのでアルフ君に突き返す。
「えー?でもレイフィールさんこういう衣服に命賭けてるって聞いたよ?」
「・・・誰から?」
「えっと、ギルドの人」
「ううむ・・・」
命賭けてる訳じゃないんだけどなぁ・・・
確かに衣服の露出に物理的に命は係っているのだけども。
「あのね、私好きでこういう服着てるわけじゃ無いから」
「そうなんですか!?」
何故か凄い驚愕しているアルフ君。
え、何?もしかして私大衆的には露出魔の変態にでも思われてる??
「そうっ、だから私は決して露出狂とかではなくて、」
「あんなに魔法凄いのに?」
「えっ、あ、うん・・・そう、だけど」
あぁそうだそうだった!
魔法ね!魔法の話ね!
いい加減この世界、魔法使いとして活動するならば肌を露出させることは異常性癖とかじゃないって事を頭に入れて置かなきゃ。
「そう。私はこう・・・魔法使う事に命賭けてるとか、そう言うのじゃないからそんな服持ってこなくても、いいよ?」
なんかこう、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうし・・・
ちらりと辺りを見渡すと、さっきアルフ君が持ってきたみたいな服を着て試着室から出て来てわいのわいの言っている女の子グループとかも居る。
うん。認識がズレてるのは私の方なんだね。
その後ぶらぶらと服を見ているときに、ふと疑問に思ったことがもう一つ。
「所で、さっきからずっと私の服ばっか見てるけど、アルフ君は自分の服いらないの?」
ここに来てから、女性向け衣類コーナーにしか居ない。
アルフ君の為の服探しはしなくていいのかな?と思って聞いたんだけど、そのアルフ君はと言うと、
「え、いや、僕はほら夏の服はもう新しいの買っちゃったし」
「それ言ったら、一応私も夏服はもう用意し終わっちゃったんだけどね」
「えっ!?前見た時から全然変わってませんよ!?」
「そっ、そうなんだけどね・・・!」
一応変わってんの!ケープとか、スカートとか!ブーツとか!