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第21話:デートなお仕事・Ⅱ

「まずは、昼食にしようか!!」


アルフ君に連れられて路地を出ると、外は路地に飛び込んだ時と変わらぬ人の量が流れている。

ギルドにやや近いこのエリアは、戦えそうな衣服を纏った人々と、普通の生活を送る一般市民の割合がだいたい半々で、お店の傾向もそれに比例している。


だから、いかにも私服然とした恰好のアルフ君と、ある種戦闘衣に近い格好の私が並んで歩いていても何ら違和感はない。


道路に立っている時計を見ると、時刻は昼真っ盛り。

確かにアルフ君の言う通り、お昼ご飯の時間だろう。


「うん。・・・っていうか、急に口調変えたね」

「そりゃあ、付き合ってるのに敬語って、おかしくない?」

「あっ・・・そ、そうだね・・・」


付き合っている関係(という設定)だからタメ語。

それは理には適っている。

実際、外見で言えば同年代どころか、私の方が年下な可能性すらあるし。


お互い丁寧語や敬語で喋るよりは、たしかに仲は良さそうに見えるだろう。

何もそこまでこだわらなくても、と思わなくも無いけど、見返すためには必要なんだろね。きっと。



そうして2人で食事をするために入ったのは、大衆向けのレストラン。

若者カップルの食事処としては妥当な選択式な気はする。


高校でも、近所のデートは大抵ファミレス、って人が多かったらしいし。



店の奥側の4人席に2人で案内された私達は、お互い対面になるように座った。


「じゃあ、何頼む?」

「そうだなぁ・・・」


テーブルに1つしかないメニュー表を、2人が同時に見られるようにテーブルの真ん中に置いて、

それを両者がやや乗り出すようにして見る。


・・・昔、喫茶店に友達と行った時もこんな事したっけ。


若干の懐古と共にメニューを見ると、内容も大衆食堂らしく、ハンバーグやら、オムライスやら、

懐かしのメニューが並んでいる。

書かれているイラストの通りであれば、正体も大体私が知るものと同じだろう。


・・・知らない肉のブランドだけど。



メニューを一通り眺めていると、ふとアルフ君が、


「おっ、これとかどう?」


と何かを勧めて来た。

差された指の先にあるものはただのメロンフロートソーダ・・・じゃ、ない!


そこには、氷で作られたストローのようなもの。

その・・・1本のストローが途中で枝分かれしている、あまりにもあまりな2人用ストロー。


「んぶふっ」


完全に油断して何の気なしに見た物がそれだったため、思わずサービスのお冷を噴き出しかけてしまう。


「うっ、え?そ、そんなのあるの!?」

「あるみたいだね」


自分で進めてきたくせに他人事なアルフ君。


「な、何・・・頼みたいの?」

「いやさ、せっかく付き合ってるんだからさ」

「今どき付き合ってるからってこんなの頼むバカップルなんて居ないって」


っていうか正式に付き合ってる訳でもないしね。


「そんなこと無いって。今学校のカップルの間でこれ超流行ってるんだって」

「そうなの!?」

「そう。この前も友達がめっちゃ自慢してきて・・・」

「へ、へぇー・・・」


異世界の流行りはよく解らないなぁ・・・


「じゃあ、これも頼んじゃうよ?」

「え、あ・・・うん。まあ、流行ってんなら・・・」


そしてその勢いに流されるがままに、注文を許してしまった。

ま、まぁほら、同じストローの口使わなければ間接キスにもならないから、ね?


最終的に私は海鮮パスタとサラダ。アルフ君はなんか良く知らない肉料理とライス、あと2人ともなんかティラミスっぽいケーキを追加で注文した。

私はもうソフト食べちゃってるけど、甘味はいくら食べても良い。



料理が来る間、私達は雑談タイムになる。


「で、なんで私だったの?」

「え?」

「彼女になってくれーって。他にも候補は居そうなもんだけど?」


事実、昼のギルドはレナール先輩やカイン君を始め、中高生くらいの人もそこそこ居る。

男女比も、確かに男子の方が多いけど、女子だって希少って程じゃないし、私の目から見ても可愛い子なんて結構いたよ?


そんな素朴な疑問にアルフ君は、やや照れ気味に、


「そっ、それはええっと・・・レイフィールさん、滅茶苦茶凄い人だし・・・それにほら、年齢も近そうだし・・・」

「年齢はその・・・そうだね」


真実は言わないでおこう。


「だろ?レイフィールさん、中等部なのにあんなに魔法凄くて、」


グサリ。


どうせ私は万年中学生ボディですよ!!

とまあ、初対面の人に理不尽なキレ散らかしをするわけにはいかないので踏みとどまった。



「でその・・・可愛いし」

「え?何?」

「な、何でもない!!」


ちょっとからかったらそっぽを向かれてしまった。

あんなに突然押しかけみたいなことしてきた割に可愛い所あるじゃないの。


なんて調子に乗ってたら後で痛い目に遭いそうだしやめておこう。


「おまたせしましたー」


丁度何か来たみたいだし・・・って、


最初にやって来たのは例のメロンフロートソーダだった。

確かに、ドリンクは準備早いよね!



しかしまあ、実物を見ると中々エグイこと。

大きめのグラスにたっぷりのメロンソーダが入っていて、

そこに氷で作られた例のストローとアイスクリームが乗っている。

思っていたより2股のストローは短く、結構顔を近づける形になりそうだ。


「おぉ・・・これが噂の・・・」


アルフ君は感動の面持ちでソーダを見ている。

まー確かにこれは憧れてても一人じゃ注文は出来ないね。


っていうかこれ本当に流行ってるの?

実物を見て急に疑念が湧いてきてしまった私は、軽く席を立ちながら、周囲の席を確認する。

私たちの他にもこれを注文している人が居ればー・・・


居るなぁ・・・


しかも2組ほど。


本当に流行ってるんだこれ。


すごすごと元の席に戻ると、アルフ君がキラキラとした目で私を見ている。


「ほら、早くやってみましょうよ!」


アルフ君はその丁寧語すら忘れる勢いで本気だ。

いやー、えー?本当にやるのこれ??


・・・やらないと始まらないんだろうなぁ。


「そ、そうだね・・・」


最早諦めの境地で、テーブルの真ん中に置かれたソーダに、2人して身を乗り出して近寄る。


「・・・うわぁ、いざこうすると緊張しますね」

「ほっ、本当にそうだよ!」


ええい!当たって砕けろ!

恥ずかしさで魔法が暴発したらゴメンね!!


なんとなく先にアルフ君に口を付けられて後発で行くのは辛そうだったので、

先手必勝でストローにアタックをかけた。


「んっ!」


氷で出来ているストローだけあって触れた唇はやや冷たい。

しかし魔法製だからか、そこまで極端な冷たさでは無かった。


そんなストローに意識が移った矢先、私の目の前には同じくストローを咥えたアルフ君の顔が。

ちっ、近い・・・!


想像以上に恥ずかしいぞこれ!!


比較的短いストローを咥えた事によりさらにお互いの距離が縮まり、それこそ目と鼻の先に居る状態に。


ストローとは裏腹に紅潮していく顔をごまかすように、ソーダを吸う。

しかし、2股に分かれている部分にはなぜかちょとしたスペースがあり、中々ソーダは口に入ってこない。

これはあれか!2人で協力して吸う時間を伸ばさせていつまでもこうさせる策略の構造か!!



お互いにその意図に気が付いた2人は、アイコンタクトで察しあう。

まんまとストローの策略にハマった私達は、結構な時間、お互いの顔をガン見する羽目になったのだった。






「ねぇ、これ、本当に流行ってるの?すっごい恥ずかしかったんだけど・・・」

「だから流行ったんじゃないの?」


2人で頑張ったにも関わらず、ソーダは4分の1も減っていない。

しかし、お互いの顔を見続けるアレに、私が先に根を上げてしまった。

そりゃ上げるよ。


火照った顔に冷たいソーダが心地よい。

・・・これももしかして2口目を誘導する策略か?


なんとも疑心暗鬼に陥ってしまった私の元に、救いの手とも取れる他のメニューが運ばれてきた。


これで一旦は普通の昼食タイムとして心を落ち着かせることが出来る。

こんな事ならサラダはチェラ菜とベーコンのソテーにでもしておけば良かったかもしれない。


「あ、やっときた。じゃ、頂きます!」


アルフ君も大体同じ感情だったのか、料理が来るなり、2人で黙々と食事をし始める。

お互い、示し合わせたかのように相手の目線を気にしないようにしながら。


料理は普通に美味しかったけど、やっぱりちょっと気まずかったよね。

そのせいでアルフ君が食べてた肉料理が一体何だったのかも聞きそびれちゃったし、もやもやが残る。



そうして二人ともそれなりに食事も終盤、残りはデザートを待つ、位のタイミングで、

まだ半分以上も残っているメロンフロートソーダに再度視線が集まる。


「で、これ、どうする?」

「も、もったいないし、飲むしかないんじゃないかなぁ・・・」


まだソーダも全然残ってるし、アイスも溶けてない。

流石にこれを残して帰るのはもったいない。


「だ、だよな・・・」


アルフ君が一人で氷ストローを咥えて吸ってみてはいるけれど、私側の口から空気が入っていってジュースは吸えない。

やはり二人同時にやる必要がある設計だ。


「い、いや、世の中のカップルは皆これを乗り越えてるんだ!いわばこれは試練なんだよ!」

「だから、私とアルフ君は今日限りの仮のカップルであって・・・」


「でもさ、いつかレイフィールさんも本当の彼氏作った時にコレやるんだぜ?今のうちに慣らしておいた方が良くない?」

「やらなっ・・・い、と、思うけど・・・」


少なくとも元の世界に帰ってからやる事は無いと思う。

無いよね?

そもそもこんなストロー用意してる店知らないし!


「だとしても、結局二人で飲まないと飲めないから協力してもらわないと」

「あー、もー・・・!わ、わかった!協力する!」


食べ物はむやみに残してはいけないという教育の元育った私のプライド!

生徒の模範となる生徒会としての責務!

それにかけて私はこれをちゃんと飲み切ります!


・・・あ、いや待って?生徒の模範でいうならこれゴリッゴリの不純異性交遊なんだけど?

あーもう細かい事は気にしない!


飲む!




んで、


後あと知ったんだけど、

あのラブフロート、最初の一口はああやって気恥ずかしい感じで飲んで、

あとは店員さんに普通のストローを貰って普通にシェアして飲むのが通例らしい。


そりゃあそうだよね!!


あの量を全部あの形式でやるのめっちゃ恥ずいでしょ!

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