第21話:デートなお仕事・Ⅰ
更に数日後。
特に目立った事件は起きない平和な平和なアウフタクトの昼。
・・・いやまだ朝かな?
くらいの時間帯、
私は大通りを散歩していた。
基本的に散歩は趣味で元の世界に居た時もよく近所をブラついていたりはするのだけれど、
その癖はこちらの世界でも遺憾なく発揮されている。
なにせ、こっちの世界は人も建物も個性的で飽きないから。
在庫処分セールで剣を売ってる店なんて、私の世界じゃあり得ない事だ。
勿論一方で、道端の屋台ではソフトクリームが売っていたりと、私の世界にもある店だってちゃんとある。
剣よりはソフトクリームの方が好きな私は、フラフラと屋台へと吸い寄せられていった。
「いらっしゃいませ!氷魔法でいつまでも冷たいソフトクリーム屋です!」
屋台のお姉さんが、青白く光るヘラを使って、ソフトクリームをかき混ぜている。
私の世界だとこういう店員さんはマスクに三角巾みたいな公衆衛生スタイルだったりはしていたけれど、
こちらはそういうものは無く、顔やヘアスタイルがしっかり見える。
衛生面だと確かに劣るのかもしれないけれど、こっちの方がなんか活気がある感じ。
「どれにいたしますか?」
流石に屋台の前でじっとお姉さんを見ていたら、購買意欲があるお客さんだと思われて注文を聞いてきた。
実際今日は暑いし何か買おうと思っていたので、
「じゃあこの、ローチェベリーで」
「かしこまりました!!」
お姉さんは、ヘラを持ち替えて、屋台の薄ピンク色のソフトクリームをコーンに盛っていく。
ソフトクリーム生成器のあの絞り出していく奴でもないのに、綺麗に渦巻きに盛り付けていく見事な手際だ。
「はいどうぞ!130ゴルトです!」
手渡されたそれは、私の良く知るソフトクリームと同じビジュアル。
代金を支払って屋台を後にした。
これ、ローチェベリーってことは、ローチェ村周辺が原産の果物だよねきっと。
やっぱリズちゃんも摘んで食べてたりしたのかな。
もしかしたら、一緒に作ったあのケーキにも実は入ってたのかもしれない。
そんな事を思いながら、やや大きめの一口を頬張って、
「んっ!?」
ローチェベリーが、どちらかと言うと酸味の強い果物である事を知った。
これはこれで美味しいんだけどね。
そうして、右手にソフトクリームを持ちながら町を歩いていたら、
「あっ、あの!!」
突然私の正面から歩いて来ていた子から声をかけられた。
年齢的には高校生前半。カイン君とかレイル君位の、元の世界でいてば同級生か、あるいは一つ下かくらいの外見の男の子。
なんとなく見覚えがあるような無いような・・・?
私の記憶力なんて大したこと無いので、多分、元の世界の誰かと勘違いしてる。
「はい。なんでしょう?」
こっから何を聞かれるのかは分からないけれど、最低限の礼儀として返事はする。
でも、ぶっちゃけ道案内は出来ないよ?
男の子は、緊張の面持ちで、
「あの、ユイ・リクエ・レイフィールさん、ですか?」
と、私の名前を呼んできた。
名前を知られてる?
「そ、そうですけど・・・?」
なぜ見ず知らずの子が私の名前を?
と一瞬思ったけれど、あの退魔石事変以降どうも私の名前はちょくちょくギルドの人達の中で広まっているらしく、恐らくそれ経由で知ったのだろう。
有名人気取りにはなりたくはないけれど、正直まんざらでもない。
「あの・・・レイフィールさんに一つ頼みたい事があるんですけど、良いでしょうか!」
男の子は、恐る恐るといった感じで探りを入れてくる。
頼みたい事・・・
また何かバグ退治とかさせられるんだろうか・・・
実は、あれからと言う物、私個人への依頼と言うものがたまーに舞い込むようになった。
あれだけの魔法がパなせるのなら相当強力な魔法使いなのだろうと言うことだろうか?
今の所怪我の療養による経過観察中、という名目でお断りしているので、
一応今回も、と思っていたのだけれど、
「お願いって?」
男の子は、一瞬言いよどむような躊躇いのあと、こう告げた。
「ぼ、僕の彼女になってください!!」
「えぇ!?」
え、ちょっと待って???
こっ告白!?
まさかのまさか過ぎるお願いに、一瞬思考停止してしまう。
「え、いやそのぉ・・・か、彼女・・・!?」
告白なんてしたこともされたことも無い私はあからさまに狼狽えてワタワタとしてしまうが、
同時に目の前の男の子も同じように狼狽えているように見える。
「あっ、えっとですね!これには深い訳がありまして・・・!」
「とっ、とりあえず人の少ない所行こうか!」
男の子の大胆な告白は周囲の人にも聞かれていて注目を集めてしまっていたので、
この時ばかりは意気投合。人の少ない路地へと逃げるように飛び込んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
急に走ったせいで軽く息を切らしながら休憩する。
これでもソフトクリームは守り切ったのは褒めて欲しい。
「はぁ・・・で、訳って・・・何・・・?」
肩で息をしつつも、気になった部分はちゃんと聞く。
そのそも、人と付き合うのに深い訳って、随分な言い様だけど。
男の子も、軽く息を整えてから真っすぐ私の方を向いて、その訳を話し出した。
「え、えっと、実は僕の仲間内、みんな可愛い彼女が居て、それで羨ましくってつい、僕あの退魔石事変を解決したレイフィールさんと付き合ってるよ!って、言っちゃって・・・」
「は、はあ・・・」
「だから、せめて今日だけ、少し彼女のフリをしてもらえると・・・」
「・・・」
もう、完全にとばっちりじゃんよ私。
そういう、なんか広告で流れてくるマンガみたいな内容のアレ。個人的にはただに自業自得だし、自分で何とかしな?
って言ってやりたい所はあるけれど、
皆可愛い彼女が居るから、それを見返してやりたくて私を選んだという理由には少し嬉しくなってしまう。
まあ、だったら普通にまずはお友達から、で始めて欲しい気持ちはあるけれども。
それに人のお願いを無下にするのもなんだかなー、という気持ちもある。
これを断った所で、特に他にやる事があるかどうかと言われると無いし、
別にこの世界に定住するつもりはないので、この子と疑似的に付き合う事でモノホンの彼氏が出来にくくなる事のデメリットもぶっちゃけあんまない。
「ど、どうでしょうか・・・?」
小動物っぽい潤んだ目でお願いしてくる男の子に、
まー、一日くらいは付き合ってあげてもいいのかなーって方向に考えが傾きつつあった。
「う、うーん、ま、まぁ、1日位は・・・?内容にもよるけど」
まだ曖昧な感じで答えたにもかかわらず、男の子はパッとその表情を明るくして、
「本当ですか!だ、大丈夫です!ちょっと町を二人でブラブラするだけですので!」
と、目をキラキラ輝かせながら言ってくる。
内容は完全に俗に言う街デートなんだけど・・・
「んー・・・まあ、いいかぁ。私も暇だし」
たまにはこういうのも良いよね。
本当は元の世界に帰るヒントを探すべきだけれど、ちょっと前にかなり有力な話を聞いたし。
「ほんとうですか!!ありがとうございます!!」
それに、こうしてすっごい喜んでる姿を見ると、私も嬉しい。
これは人助けだと思って、デートしよう。
「僕はアルフって言います!よろしくお願いしますね!レイフィールさん!」
「よ、よろしく・・・」
あ、アルフ君ね。
凄い勢いで私の手を握ってぶんぶんと握手してくるアルフ君。
肩関節が千切れる前に、さっさと次に行こう!