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第20話:異世界の昔話・Ⅱ

「い、嫌ですよ・・・絡まれるのなんて・・・演技でも」


私は元演劇部だったらしいけど、そういうのは良くないと思います!

イヤイヤオーラを全開にしていたら、

今度はローズさんからの提案が出て来る。


「そうねぇ。じゃあ逆に私が絡む役やるから、アコニタムさんは捕まえる役やって?」

「・・・ウザ絡みコントの方向性は変わらないんですね・・・」


それじゃああんまり心理的に変わらないんだけど・・・

まあ、演技とはいえ絡まれるなら同性の方が気楽だけれども。



「じゃあそれでいいか。ローズ。頼んだ」

「りょーかーい」

「私の意思は!?」


無視!?


そう言うなりアコニタムさんは席を立ち、何かの魔法なのか、軽く手を振るとその姿がスッと消えてしまった。

あの口ぶりだと、逃げたんじゃなくって透明になってるだけな気がする。


残された私とローズさんは、


「じゃ、始めましょうか。大丈夫、乱暴な事はしないわよぅ」


いまいち、というか完全に信用しきれないその言葉に、椅子を軽く引く。

案の定ローズさんは、パチンとその手を鳴らす。

すると、ローズさん体がブレて、気がついた時には、このギルドの中に最低でも10人は居そうな、ザ・冒険者といった感じのオッサンに変わっていた。

しっかりとした目つきに、微妙に生えたヒゲ、がっしりとした体つきと、それを覆う強固かつ動きやすそうな革製の軽鎧。そして剣。


どうせこれも魔法なんでしょ?


と思った矢先。ローズさんだったはずのオッサンは、可愛らしく指で自分の頬を突きながら軽くウィンクをする。

その姿のまま女性らしい動作をしないでほしい。


「じゃ、始めるか」


しかも、声もまんまオッサン。

口調も男性らしいものに変えている。

一応、演技する気はあるようだ。


「なあ嬢ちゃん、俺の酒が飲めないってぇ!?」


そしていきなりのアルハラ。

さっきまでローズさんの所にあったワインの残りを、強引に私に押しつけてくる。


「い、いやあの・・・私は・・・」


どうしていいか分からず、演技と言うか素で困惑してしまう。

まあ、アルハラされた人は大体こんな感じにはなるでしょきっと。


「良いからさ、ほら!!」


ローズオッサンは、私の右腕を無造作に掴むと、強引に寄せて来た。

実際は掴んだ手はそれなりにソフトで、たいして痛くは無い掴み方をされている。


「や、やめて下さいっ!」


こっちはやや演技臭いが、優しい掴み方とはいえ嫌なので本心に近い。

掴み寄せられながらも周りをの様子を確認すると、やはりトラブルが起きたという事で多少ならずとも注目を集めているようだ。


もし本当にこういう事されてるんなら目撃者がいるのは頼もしいのだけれど、

これ演技だからすっごい恥ずかしい!


「俺は知ってんだよ・・・!君が子供じゃないのはさぁ・・・!」

「えっ・・・!」


何でそれを知って・・・!?

って、これは演技だってば!!


確かアウフタクトだとお酒は成人してからってルールはあったから、

アルハラも成人済み想定じゃないと普通に犯罪だもんね。

成人しててもダメだけど!!



泥酔して顔を赤くしたオッサンからは、香水の匂いが漂ってくる。

多分、変身前のローズさん本人の物では・・・


それでも演技を続けて掴まれた腕を振り解こうともがくふりをしていると、


「やめないか!!」


と視界の端から強い語気の言葉が飛んでくる。


「その子嫌がっているだろう!その子が大人かはともかく、無理やり酒を進めるのはこのギルドのルール違反だ!!」


声の方を向くと、ローブのようなものを纏った、どちらかと言うと草食系顔の青年が、怒りに満ちた表情で立っている。

その青年は、いきなり私の左腕を掴んで抱き寄せてくる。


あの!それじゃあ私千切れるんですけど!!

両方から引っ張られた私は、両腕をどうすることも出来ず、捕獲されたみたいな体勢になってしまう。


これどう収拾付くの!

と思った矢先、


「はい、そこまでだ」


と、青年の背後から突然アコニタムさんが現れて青年の両肩を掴んだ。

そして同時に、私の右手を掴んでいたローズオッサンも、指パッチンと共にもとのローズさんの姿に戻った。


「なっ、ローズ、アコニタム!?」


青年は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で固まっている。


「まぁまぁ、席に座ってくれや。詳しい話をしよう」


アコニタムさんは、青年の肩をポンと叩き、元々座っていた席に戻った。

それに合わせてローズさんも私の右手を解放してくれ、左腕はなんかあっさり抜けたので、自分の席に座る。


「えーっと、はい。そういうことなので・・・」


一応、申し訳ない気持ちが無い訳では無い私は、4人掛けテーブルの開いていた席のイスを引いて誘導してあげた。


「あ、ああ・・・」


青年は、訳が分からないと言った様子で、その席に座る。

席に座ったのを確認して、最初に動いたのはアコニタムさんだった。


「どこから話すべきか・・・まずはそうだな、フェル、騙して悪かった」

「ごめんね」


アコニタムさんとローズさんが素直に謝る。

フェルと呼ばれたその人も、まだ困惑しているようだ。


「騙すって、君たちは僕を誘うためにこの子を利用したのか!?」


フェルさんは、私を指さしながらまだカンカンだ。


「えっと・・・多分これは私から話すべきかな・・・?」

「ん、んん?まあ、話は聞こうか」


このタイミングで私が話し出すものだから、フェルさんはさらに混乱してしまった。

うん、ちゃんと話して誤解は解こう。



----------------



「なんだ、そんなことだったのか、そういう話ならあんな茶番などしなくても行ったさ」


一応、これまでのあらましを話したら、フェルさんはちゃんと理解してくれたのか機嫌を直してくれた。


「でもお前、いつも俺の呼びかけには答えないだろう」

「それはいつも君の話が新しい魔法使いの話だからだ。僕はそう言うのには興味ないんだ」


ただどうも、この二人最初からそこまで仲いいのかどうか微妙そうな感じがする。

これ、アコニタムさんがウザ絡みしすぎて辟易してるだけなんじゃあ・・・


「でも彼、偏屈なのは間違いないわよ?」


私の心を読んだかのようにローズさん。

そう言われてもローズさんも相当に怪しいので、フェルさんの実態は依然として知れない。



「で、お嬢さん、知りたい事があるんだったね」


アコニタムさんとの茶番は終わったのか、フェルさんは私に向き直る。

今までの感じだと、正義に燃えてない時はだいぶ優しそうな言動だけどなぁ。


「えっと、フェルさんはお伽噺とかに詳しいんですよね?」

「一応、民俗学や神学を含めた、物語にはそこそこ詳しいつもりだ」

「じゃあその、異世界を旅する方法とか、知ってたりしませんか・・・?」


そう聞くと、フェルさんは幾分か鋭い目つきになる。



「異世界か。異世界の存在は物語においては重要なテーマだ。オルケス叙事詩、マークエント古文学、ヴェクトリアン神話、他にも色々様々な神話、寓話においてこことは異なる世界、所謂異世界は存在する。それは別におかしい事じゃない。人は皆まだ見ぬ世界に思いを馳せ、時としてそれを想像物として文書に書き上げる。それが物語の始まりとしてー・・・」


あぁ、この人も十分変な人だわ。


アコニタムさん魔法使いオタクなのだとすれば、この人は物語オタクなんだろう。

類は友を呼ぶけれど、意気投合するとは限らない。



そして、彼は私が理解しているかどうかにかかわらず、畳みかけるように話し続けている。


「だが、それは人の想像の産物で片づけるにはあまりにも無謀な現象がある。それはどれも、物語や神話として語られる部分に、共通点があるからだ。人は同一の存在では無い。生まれの場所も、時代も違う、性別が違う、趣味趣向も違う、得た知識も違う、育った環境も違う。そんな幾多の存在が、異世界をテーマとした創造をするにあたって、同じ物語を書くと思うか?答えは否だ。当然、創作の物語にはある程度の筋道がある。例えば、物語の基礎として、起承転結がある」



「あの・・・できれば結論からにしてもらえると、初心者は分かり易いです・・・」


なるべく相手を傷つけない形での催促。

生徒会仕込みの、自分を下げて相手を誘導するテクニック。


「ん、ああそうだね。つい一人で熱くなってしまった」


ペラペラと饒舌だったフェルさんも、流石にそれには語るのをいったん中止する。

横でローズさんが、

「なるほどね、そう言うテクニックがあるの」

とか言ってるけど、このテクニック乱用は出来ないからね。


「そうだな。まずは結論からか・・・」


フェルさんは、コホンと一つ咳ばらいをしてから話し始めた。


「異世界をテーマとしたお伽噺、神話はいくつもあるけれど、それには大抵あるテーマが根底にあるんだ。それは、異世界とは、"夢"を通じて繋がっている、というもの」

「夢?」

「ああ、志す方じゃない。寝る時に見るものだ。異世界に行く事を物語として描いている作品は、基本どれも夢を見る事をきっかけに異世界へと旅立っている」


フェルさんはいやに神妙なテンションで話すので、こちらもつられて真面目な顔になっていく。


「夢を見る事によって異世界に旅立ち、目を覚ますという形で現世に帰ってくる。それが基本的なパターンだ」

「それって、異世界の存在は夢オチってこと、なんですか?」


実際私はこうして異世界に来ていて、痛みも感じているのであり得ない、と内心では思いつつ、

それでもここまでの話ではそうとしか結論付けられない。


そんな質問にフェルさんは、にやりと小さな笑みを浮かべる。


「普通はそう思うだろう。しかし僕はそうでないと思っている。例えば、ヴェクトリアン神話のユエストル戦記では、目が覚めた主人公は異世界で手に入れた薬草を実際に現世で手にしていたという描写があるし、オルケス叙事詩、流転の章では、複数人の人間が同時に夢を見て、同じ異世界で活動している。それらは通常の創作物としての夢オチではありえない現象だ」


またちょっと気持ち悪い側面が出てきているけれど、言わんとしていることはまだわかる。

ただの夢オチなら、夢の中の品物を持ってくる事は確かに出来ないもんね。


「そして、これはほんの一部の貴重な文献にしか記述されていない話なのだが、どうやら遥か昔には現存する16の属性の他に、夢の力を司る属性、"夢属性"があったという記述もある」


"あ、それ見たことある"

と、言おうとして咄嗟に口を噤んだ。

それを見た場所は魔女であるリズちゃんの家であり、どこで見たのかなどと追及されれば話がこじれる事は目に見えているから。


「夢の力・・・」

「現代においても夢は自由だ。物理を超越するのは当然、時に自身の常識さえ超えて来る事すらある。勿論それはただの夢の話で、目が覚めればそれは資産にもならない儚いものだ。しかし古代には、夢を介して見ているのは可能性に満ちた異なる世界の像であり、それを現世に引き出して使う魔法、という概念が存在していたらしい」


「・・・」


口には出さないものの、リズちゃんの家で読んでた本と、だいたい内容は一緒だなぁ、と思っていた。

夢で見るあの何でもありの世界観。

アレを現世に持ってくるというのが事実であれば、それはもうとんでもない事だ。


「そしてそこまでの事が出来るのなら、逆の事、つまり現世の人間を夢の世界に送り込む事も出来るだろうと僕は考える。お伽噺に出て来る異世界への旅立ちは決して架空の話では無く、その夢の力によって現世の肉体を夢を介し異世界に送っていたと、そう考えられないか?」


夢魔法によって、異世界へと旅立つことが出来る?

それを使えば、元の世界に帰る事も出来る?

でも、夢の魔法は、今は廃れて消滅してるって、リズちゃんの本では・・・


そして、その疑問には私の代わりにアコニタムさんが聞いた。


「面白い仮説だ。だが、夢属性はとっくに、それこそ何千年も前から途絶えている。だとしたら、お前のいう物語の大半には絡んでこない筈だが?」


フェルさんはその指摘にも、希望に満ちた顔で答える。

・・・本当に好きな事語ってる時のこの人楽しそうだなぁ。


「そこに関しては仮説どころか妄想の域を過ぎないんだけど、僕は夢属性を失ったのはあくまでも僕たち人類に限定した話で、まだ夢属性を保有している種がどこかに居るんじゃないかって思ってる」

「本当に妄想の話だな」

「ああ。まだその検証方法も何もわからない。王立学会にも提出できない机上の空論さ。けれど、もしこの一歩が証明されれば、異世界論は一気に現実の物に近づく」


頭が沸騰しそうなくらい大人の難しい話なのだけれど、

私の未来を左右しそうなほど重要な話なので、なんとか頭脳をフル回転させて話を聞く。


「どこかに夢属性を扱う生命体、魔法生物が存在し、それが何らかの目的で眠る人を異世界に誘っていると言う可能性がある」


「つまり、その生き物に協力してもらえば、好きな異世界に行けるって事ですか!?」


「結論を端折るとそうなる」


それを聞いたら俄然やる気が出て来る。

なにせ、今まで全くどうしていいか分からない元の世界に変える方法のヒントが生まれたようなものだから。


「まー、そういう生き物が本当に居るかどうかは分からないのだけどねぇ」


「それに、協力的とも限らないさ。魔女のように人間の敵である可能性だってある」


「そっ、そんなこと無いと思います!!!」


思わず声を荒げてしまい、慌てて周囲を確認してしまう。

どうもまだ私の中には、魔女=敵というこの国の共通認識が受け入れられない腹がある。


・・・実際、受け入れられないのだけど、それを発露してしまうのはちょっと危うい。


「まぁ確かにそうだ。仮説の段階から悲観的にものを見るのはよくないね」


幸いにも、私の魔女に関するアレコレを悟られることは無かったようだ。

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