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第18話:青い夜明け・Ⅰ

「申し訳の余地なく消えなさい!!」


エルドレッド家に伝わる最大の呪術。

呪詛滅式・黒穴。


無数の呪いのトリガーとなる杭を叩き込む事により、

相手の体内でそれぞれの呪いが干渉。

その反発したエネルギーを全て対象の命を奪う事だけに向けさせる。


あまりに強すぎる呪いのせいで、"命が潰れる音"が聞こえるって聞いてはいたけれど、

本当だったのね。

相手がバグとはいえ、あまりいい気はしないわ。



とはいえこれで私の魔力もスッカラカン。

もう予備に回す魔力なんて・・・



そうだ!ユイにかけてた死地蒙昧!

あれが途切れるって事は、痛みやらなんやらが戻ってくるって事じゃない!?



急いで後方のユイを確認すると、


「・・・ちょ、ユイ!?」


さっきまで立っていたユイは、そのまま地面に倒れ伏していた。

駆け寄って様子を見る。

脇腹からの出血は僅かだけれど、これまでの累積を考えるとこの程度でも危ない。


「カイン!!」


急いでカインを呼ぶ。


「ってて・・・どうしたレナール」


カインはユイの魔法によってぶっ飛ばされて地面に激突したレオンバグの余波でも受けていたのか、戦闘の傷以外にも土埃まみれになっていた。

とはいえまだ動けそうね。


「ユイが倒れてるのよ!」

「何だって!」


私の視線の先にいるユイをカインが確認して、思わず持ってた剣を取り落としている。


「私はこれから退魔石の件の調査をしないといけない。だからカインはユイを避難所に連れて行って!」

「あ、あぁ、わかった!」


「まだそこらにはバグが居るから、気を付けてよ!?」


私の忠告は最後まで聞いたかどうかは分からないけれど、カインは落とした剣を拾い鞘に納めると、ユイを抱き上げて公園の外へと走ってゆく。

一応、ここから避難所になってるギルドまでは近いからカイン一人でもなんとかなると思うけれど・・・


後は、私の治癒薬が効いてることと、カインが無事避難所に運べることと、ユイがそれまで耐えてくれる事を祈るばかりね。


私は、一刻も早く避難所では無く病院を使えるように、退魔石を何とかしないと。


私はすっと立ち上がり、未だ地面に残る大きな杭の傍で立っているアコニタムの元に向かった。


「・・・何してるのかしら」

「いいや、かのお嬢さんはこれだけの質量の金属を一瞬で生成したのかと思ってね」

「ま、どこまで行っても規格外よね」


突き刺さる杭は、地表に見えている範囲でも街灯の高さに迫っている。

太さの相当な物で、並の魔法使いなら数日はかかるサイズ。


「だが、この造形は中々に興味深いな。オルケス王国では見ない形状だ」

「はあ・・・私はさっさと退魔石の調査をするから、貴方はそこら辺の見回りでもしてて頂戴」

「ふっ、つれないねぇ」


軽口を叩くアコニタムを無視して、私は公園中央の噴水まで来た。

夜間も休むことなく滾々と水を巡回させ続ける噴水は、昼間とは違って空しさがある。


灯篭から得られた封印の反応は公園の中央、つまりこの噴水から出ているのよね。


噴水の中に入る都合、濡れないように靴と靴下を脱いでから噴水の中に入る。

多少の水しぶきで上のドレスも多少濡れるけど、流石にこっちを脱ぐわけにはいかないわ。


その点ははまあ、ユイみたいな恰好は理想なのかもしれないわね。


ざぶざぶと噴水の中央の柱へとたどり着くと、

そこには意味ありげな魔導具の起動装置が、水流と蓋に隠されていた。


「・・・何でこんなものがあるのかしら?」


蓋を開け、水流に手を突っ込みながらその起動装置に触れ、魔力を流し込むと、

今まで絶えず水を流し続けていた水がふと止まった。

水が止まると、足元の流れていた水も公園各地を流れる水路へと流れていき、噴水の周囲の水は全て無くなった。


・・・これは噴水の停止装置だったのかしら?

と考えた直後、


ガリガリガリガリ・・・


と何かが擦れるような音が足元から響き渡り、噴水の水を噴き上げていた柱が上へとせり上がっていく。


「ちょ、なんなの!?」


思わず後方へと後ずさり、何が起きても良いように、靴下はそのままにとりあえず靴を履く。

そのまま警戒しつつその様子を見ていると、せり上がる柱の下から、柱に埋め込まれた透き通る水晶のようなものが出て来て、さらにその下から灯篭の時にも見た火属性の伝導棒の束が現れる。


「・・・これは、」


恐る恐るそれに近寄り、水晶を見る。

まるでレンズ化のように透き通り反対側を見通すことすら出来るそれは・・・


「・・・退魔石?」


その在り方は退魔石そのものだった。

しかし、町で見かけるようなものとは圧倒的に純度が違う。

まるで、今まで退魔石と呼ばれるものは原石で、これはそれを磨き上げた宝石のよう。


しかし、その退魔石も今は光は無く、ただの透明で綺麗な水晶玉だ。


「なるほど。それがこの町の退魔石のシステムか」


後方から声がする。


「純度が高く、バグを退ける力の大きい退魔石を町の中央に配置し、その力を炎の伝導棒によって各地の退魔石に伝達。それぞれの出力を上げる事で町の規模に対して退魔石の密度を削減する。中々考えられたシステムだ」


長々と私がたどり着いた結論と同じ見解を喋りながら近寄って来るアコニタムの後方には、数匹黒い煙を上げながら今まさに消滅しようとしているバグの姿があった。

一応、見回りはしてくれたようね。



「どおりでこの町は町の規模に対して退魔石が少ない訳だわ」


この町の秘密を知った、というと大げさではあるけれど、まさかこういう仕組みになっていたなんてね。

噴水のしたにあるのは、この伝導棒を冷却するためかしら?


とりあえず水晶に触れると、やはりこの水晶は何らかの力によって封印されているのが分かった。

今回は、その封印の大本もここ。


「ふーん、やっぱり誰かによって封印されているようね」

「やはり人為的な破壊工作だったか」


アコニタムもまた、噴水の柱の周囲を見渡している。


近くに彼が居るのが気になるけれど、さっさと封印を解いてしまいましょう。


・・・


・・・あら?


「・・・これはエルドレッド家の封印魔法に似てるわね・・・ま、質の悪い模倣品レベルだけれど」


流石にこれはエルドレッド家の人間がやった技じゃあないわね。

誰かが私の家の誰かの魔法を真似してやってみた、って所かしら。


だったら解除は簡単よ。


「ここを引き抜いて・・・よしっ」


封印のトリガーとなっている術式を抜くと、

水晶は眩い光を取り戻す。

青く清廉な光。


そしてその光が、水晶の下に設置されている伝導棒を介して地下に流れていくのも分かる。

きっとこれが町中に広がっていって、退魔石が復活するのでしょうね。


証拠に、公園の出入り口にある退魔石の灯篭が青い光を取り戻しているのが見えるわ。


「・・・これでよし、と」


水晶の近くに備え付けられている魔導具の起動装置に魔力を流すと、今度は逆に水晶が埋め込まれた柱が地下へと潜っていく。

ま、こんな最重要機密、野ざらしにさせておくわけにはいかないものね。


柱が最後まで沈み切ると、今までぱたりと止まっていた水が噴き出し始め、もとの噴水の様相を取り戻す。


「さて、これで一件落着かしら」

「お疲れ様。流石封印魔導士といった所か」


噴水から出て靴下を履きなおしていると、背後からアコニタムの声が聞こえるので、

私は彼の方を見ずに返答する。。


「ここに施されていた封印。エルドレッド家の物を模倣したものだったわ。後でそれが誰なのかハッキリと突き止めないと」

「あぁ、それなんだがな・・・」


あまり彼と長々と話しては居たくないのだけれど、彼は何やら言いたい事があるみたい。


「この近辺でこんなものを見つけた」


振り返ってその彼が言う"こんなもの"を確認すると、

それは血に汚れた布きれだった。


・・・よく見るとそれは分厚い作業用の衣服の破片にも見え、そこにはどこかで見覚えのあるような紋章が縫い付けられている。


「これは・・・」

「これはヴィクティア帝国の紋章さ。普通、オルケス王国にこんなものあるはずがない」

「あぁ、そうだったわね」


ヴィクティア帝国。

オルケス王国と対をなす大国で、聞いた話によるとここオルケス王国で発展している魔法とはまた違った体系の魔法によって発展しているとかなんとか。


これまでは、どちらの領土でもない広大な湿地帯を挟んで相互不干渉な外交ではあったものの、

近年帝国を治める執政者が老いによって無くなって、後継者争いが起きてるとか、そんなうわさも聞いたわ。




「突然町中の退魔石が機能停止するという大災害と、このヴィクティア帝国の紋章が描かれた布きれ。どうもきな臭いとは思わないか?」

「・・・これは帝国の工作って事?」

「どうやら、最近後継としてついた帝国太子は、軍拡に積極的だという話もある。可能性はゼロではないと思うがね」

「だとしたら、どうして紋章の付いた布が落ちているのかしら?証拠を残すのは工作としては失格じゃない?」


相手国に侵入しての破壊工作なら、なおの事証拠なんて残してはいけない。

それは暗殺にもそして呪術にも言える事。


「これは俺の仮説でしかないが、恐らくこの布っきれの持ち主はさっきのレオンバグに喰われたんだろう。これ以外の布やら死体やらは見つかっていないからな」


「喰われた、と。工作員としてそれは間抜け過ぎないかしら?」


「どうだろうな。バグは未だ人類が御する術を持たない。故に対処が厄介だ。まさかこいつも、この大きな退魔石のすぐ近くであんなデカブツが湧くなんて思っても無かったんだろう」


「そういうもの?」


わざわざ退魔石の使わない、なんて真似はしないから分からないわ。


「さあな。だが、これが事実なら大問題。最悪戦争物だ」

「そういうのに私達を巻き込まないで欲しいわ」

「同感だ。だが、この件に関してはちゃんと町庁舎に報告しておかないといけない。ま、十中八九王都にも伝わるだろうな」


「・・・頭痛くなってきた。この話やめにしていいかしら?」


どうにも魔力が足りないからは気が立っているようね。私。


個人的には、誰が犯人でも、私エルドレッド家の呪術を模倣した工作ってだけで憤慨ものなのよね。

明日になったら、お母様にも報告しておかないと。


それにしても、一体どこでこんなものを・・・


「あ、そうだ」


そんな事を考えていたら、アコニタムがさらに何か言いたげに話しかけて来る。


「暫くすると戦闘の音を聞きつけたギルドの連中が、退魔石が復活したのを良い事にここに駆けつけて来ると思うぞ。この場を去るんなら今のうちだな」

「確かにそうね。じゃあ、私はカイン達の様子でも見に行こうかしら」


「実際に封印を解除したのはお嬢さんだ。名前は出していいよな?」

「お好きにどうぞ。封印の濡れ衣を着せられても困るしね」


そう言いながら私は公園を後にした。


この事件、厄介と言うか、不可解な事が多すぎるわ。全く・・・

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