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第17話:漆黒の獅子・Ⅲ

あいつは、光に弱い?


一つの疑問に行き着いた俺は、戦いの隙を突いて、反対側で同じくレオンバグを食い止めているアコニタムさんに意見を仰ぐ。

俺より、きっと魔法にもバグにも詳しいと思うし。


「アコニタムさん!!」

「何だ!!」


アコニタムさんも、襲い来る鬣を不思議な魔法の力で掻い潜りながら呼びかけに応じる。


「こいつ、最初の時もさっきも、光に反応して喰らいついてましたよね!?もしかして、このバグ光が弱点なんじゃないですか!?」


言い切った直後、頬をかすめるように鬣が飛んでくる。

相談するのも一苦労だ。


「光か・・・俺もその線は考えたが、2つ程不自然な点がある!」

「なんですか!?」


暴れるレオンバグを挟んでの会話。

中々に精神が持っていかれる。


「まずひとつ!こいつは莫大な魔力を宿していた光球を喰らった。光が弱点なら精々破壊が関の山だろう」


確かにそうだ。

弱点の属性の魔法をわざわざ喰ったりなんてしない。


「そしてもう一つが、元々レオンバグは光なんて苦手としていない!ま、俺の知ってるレオンバグはこんな奇妙な鬣なんぞ持ってないから、別種と考えるべきだろうがな!」


アコニタムさんは、冷静に事実を分析しながらも、気を引き続ける為の攻撃は欠かしていない。

考えるのに手いっぱいで防戦に回っている俺とは大違いだ。


「じゃあ、なんであんなに説教的に光を・・・」

「俺の見立てだが、多分こいつは明るい環境が好きではないんだろう」


そういうアコニタムさんの足元が突然膨れ上がり、アコニタムさんがそれに反応してバックステップをした直後、ユイにやったように鬣の束が地面を突き破って飛んでくる。


「・・・こうして闇に紛れて鬣で奇襲する、その戦法の為に過剰に明るい環境を排除していると俺は見るね。全く、バグのクセに賢い奴だ」


間一髪では無い、動きを読んだうえで反撃も、追撃への対応にも移行できる立ち回り。

やっぱりこの人は戦い慣れている・・・!

それに、戦況を見る力も、推理もそうだ。


ギルドではいつも女の人と居るからそれ目的でギルドに居るのかと思ったけれど、そうでは無いっぽいな。


しかし、推論通りなら光は別に攻撃に使うのは難しいか・・・

尤も、俺は光属性なんか持っちゃいないけど。





そう考えている間にも、バグの猛攻は続く。


鋭利な針の如く刺突攻撃を繰り出してくるバグの鬣を、寸での所で躱し、剣を叩き込む。

鬣はバグの体と違い、すっぱりと断ち切れるが、すぐに元の長さに再生してしまうし、

斬り落とした鬣の先端は地面に落ちるなりまるで液体のように溶けて消える。

・・・いったい何なんだこいつは。



続く爪の攻撃を剣の背で受け止めた時、向こうからレナールが走って来るのが見えた。


「レナール!」

「そっちは無事かしら!」

「あぁ、なんとかな!」


爪の一撃は身体強化魔法を使って尚よろめくほど重いけど、なんとか問いには答える。


「で、そっち・・・ユイはどうだ!?」

「一応やる事はやったわ。治癒薬と呪いで一命はとりとめさせてる!」

「そうか。わかった!」


治癒薬はともかく、あいつの呪いは便利な物も多いが結局は呪いだからな・・・

本当に大丈夫なのかは少々疑問だ。


「ただ、今すぐ動くのは難しそうね」

「・・・呪いがどんなものかは知らんが、あいつの魔力は切り札になる。そこまで無茶はさせられないさ」


アコニタムさんも大体思ってることは同じようだ。


「ミス・エルドレッド?君は何か分かったことはあるかい?」


そして相変わらずの余裕たっぷりのムードでレナールに話しかけてる、

レナール、ああいう対応は嫌いだぞ・・・?


案の定レナールは不機嫌そうな顔をするが、それを拒否するような状況でもないからか、

問いかけには素直に答えた。


「これは専門分野の知見じゃあないから信憑性はそこまで無いけれど、あいつ、多分口内は弱いと思うわ!」

「口内か・・・なぜそう思う!」

「こいつの外装の硬さはよく解らないけれど、ユイの魔法、あんな状態じゃ大した出力じゃない筈。でもあの怯みようは少々過剰じゃないかしら?」

「確かにな!」


交戦しながら俺もアコニタムさんとレナールの会話に加わる。

アレがどれだけの攻撃かはともかく、

魔法で炎を纏った剣で本気で前足を切り込んでもビクともしないこのバグがネコみたいにすっ飛んだのは少々リアクションが過剰だ。


「じゃあ、校内に全力を叩き込めば倒せるかもって話か!」


そう言いながらレオンバグの正面。口の方へと回り込もうとするが、

鬣と爪の波状攻撃に阻まれてしまった。


「おい、無理をするな。正面はこいつの最も危険な位置だ!」


鬣の追撃で危うく剣を取り落としそうになった俺は、素直に引き下がりバグの側面に付ける。

けれど、それじゃあ・・・


「じゃあ、どうするって言うの?貴方が囮にでもなる?」


辛辣な言い方だけれど、実際何か囮になる物でも無ければ、口内に攻撃を叩き込むなんて・・・


「だから、そこで光を使うんだよ」

「光?」


首をかしげているレナールだが、

ここまでの話を聞いていた俺にはアコニタムさんの作戦が分かる。


「こいつは光を嫌って、光源に喰らい付く習性があるんだ」

「そうだ。だから光さえあればこいつを誘導は出来る」


そんな事を言いつつも、俺は爪の一撃を重めに受けてよろけたところに口から発射される鬣の一撃を重ねられて、咄嗟に地面を転がって回避している。

俺の残り体力も怪しい。


地面なり鬣なりで、多少の傷を負い始めていた。


「誰かがどっかに光を作って、それをこいつが喰らう時に開けた口を狙って攻撃、って事だよな!?」

「そう言う事だ。光を作るのは俺がやる。だが・・・トドメは出来るだけ強力な方が良い」

「一応、ユイからは一発だけ頑張れるって事は聞いてるわ」


各々がバグの攻撃をいなしながら、最後の作戦への計画が整っていく。

ちらりとユイの方を確認すると、ユイは暗がりのベンチに座り息を整えているように見えた。


俺らが必死に戦っている傍でユイはとても楽そうな感じに見えるが、足元に広がる凍り付いた血だまりを見れば、ズルいなんて感情は湧いてこない。

俺だってあんな規模の怪我なんてしたことは無いんだ。


あんな状態の女の子に戦わせるのは申し訳ないけど、頑張ってくれ!



その時、アコニタムさんが、俺の名前を呼んだ。


「レーベンスだったか」

「そ、そうだけど・・・」


「お前、こいつを一人で相手出来るか?」





-------------------------------





「ふぅーー、ふぅーー、」



ベンチに座って苦しくなってくる息を整える。

痛みこそ封印されて感じないけれど、まだ出血は完全には止まっておらず、

さっきより呼吸が深くなってきている気がする。


・・・まあ、脇腹貫かれて呼吸が、ってあんまり関係なさそうだし、気の持ちようなのかもしれないけれど。


水で薄まった凍った血の池が広がる眼前の光景は、普通なら卒倒物だろうけれど、

今は呪いのおかげか、冷静に物事を考えられる。

それは良い事なのか、悪い事なのか・・・


視界の端では、巨大なライオンの足元で必死に戦っているカイン君達が見える。

今何も出来ていない私としてはとても申し訳ない気もするけれど、

今の私は咄嗟に魔法を使いつつ立ち回る、なんてことは経験的にも体調的にも無理。



なんてことを思っていたら、

その端の方からレナール先輩が走って来るのが見えた。


「ユイさん!体調は大丈夫?」

「う、うん、一応は」


良い、とはお世辞にも言えないし、どちらかと言うと、

どころかガッツリ悪い部類に入ってはいるけれど、さっきと比べたら、という意味合いではそこまで大きな変化は無い。


「作戦が決まったわ!」


その言葉に、ゴクリと唾を飲みこむ。

遂に私の出番が来たんだと。


「手短に説明するわね」

「うん」


私が頷くと、先輩はライオンが居る方向の上空辺りを指さしながら説明を始めた。


「まず、あの変態魔導士が上空に向かって光を放つわ」


変態魔導士って・・・


「そしたらあのバグはその光を喰らおうと飛び上がるはず。あいつは光る物を食べようとする習性があるらしいわ。それはユイも見たわね」

「見た」

「そこをユイに狙い打って欲しいの。あいつが光りを食べようと開けた口の中にとびっきりの一撃をね」


「な、なるほど・・・」


まだはっきりとはイメージ出来ては居ないものの、

打ち上げた光をライオンが素早く食らいつく場面と、

私に対してライオンが大きな口を開けて噛みつこうとして、私が雷で抵抗した場面は記憶にしっかりと残っている。

要するにその二つの複合をすればいいのだ。


・・・よね?


「因みにその間カインが一人でバグを引きつけることになってるから。あんまり時間は無いわよ」

「えっ」


まさかの追加情報だが、やらないなんて選択肢は無いんでしょどうせ!


「わ。わかった。やってみる・・・!」


両腕を小さく内側にグッとやって、やる気アピールをしながら、ベンチから立ち上がる。

その拍子に、体勢を変えたからか脇腹からまた血が溢れ出て、ベンチを濡らす。


「大丈夫・・・なのよね?」

「・・・多分」


・・・本当に大丈夫なのかな。私の体。






立ち上がった私のスカートは半分が真っ赤に染まっていて

スカートのスリットから覗く足もまた赤くなっている。

血が溢れださないようにしたいところだけど、生憎包帯にあたる物は無く、というか包帯とかで何とかなる傷でも無い。


血の巡りが悪くなってしまったのかいまいち上がらない左足を引きずるようにレンガの道に出ると、今まさに作戦が始まる所だった。


「レイフィール譲!先に魔力を放っておいてくれ!俺がそこに合わせる!」

「はっ、はい!!」


ライオンから距離を置いたアコニタムさんが杖に光を集めながら叫ぶのが聞こえる。

どうやら私が魔力を上空に放つところから作戦が始まるようだ。

いや、既にカイン君がライオンを引き付けてるところを見るに、もう作戦は始まってる。


両手を胸元に持ってきて魔力を集め始めると、

レナール先輩が私の肩を掴んできた。


「体は支えてあげるわ。ぶっちゃけ立ってるのもちょっと無理してない?」

「あっ、ありがとう・・・」


やっぱり先輩にはバレて居るみたいだ。

呪いで色々と感じないようにはされているけれど、実の所失血か何かでちょっとだけフラフラしているところだった。


でもまだ意識を失うレベルでは無い。

だったら今のうちに頑張らないと!


両手から、胸元から、背中から、足から、放出された魔力が集まっていき、

両手の真ん中に集まる魔力がどんどん膨れ上がっていく。


そしてそれは強く金と雷の属性に偏っていって、パリパリと光る雷光が、金属特有の光沢に反射して照明のように光っている。


その時、


ライオンを気を引いていたカイン君が、体当たりを喰らって派手に吹っ飛ばされるのを見てしまった。


「あっ!」


思わずそっちに視線を向けてしまったけれど、

そこにすかさず後ろからレナール先輩の言葉が刺さる。


「大丈夫!ユイはこっちに集中して!あいつはあんなんで倒れるやつじゃ無い!」


その言葉に意識を魔力に戻す。


エネルギー量的にはもう十分!

流石に数時間かけたあの時の量には敵わないけれど、今までの魔力と比べても相当な量がある!


あとはこれを、上空に飛ばす!!



バレーのトスの要領で、

この公園に来た時にやった時と同じ感じで斜め上前に魔力の球を放った。

もうこの際ちょっとジャンプした際に零れた血とか気にしていられない!


「は、放ちました!」


そしてそれをアコニタムさんに報告。

着地の際によろけて転びそうになったのを先輩に支えて貰いながら。


「良し来た。・・・瞬け、魔陽光!!」


私が空中に放った魔力の光は飛んでいくにつれてどんどん小さく泣ていったけれど、

そこに突然、太陽のような光が生まれる。


「ったく、このレベルの光量、こんなに魔力を使うのか・・・!」


思わず目を細めてしまったけれど、明るさの割に不思議と眩しくは無い。

これも魔法の力なんだろうか。


それでも周囲はまるで昼間のように明るくなり、

レンガの薄茶色の道路も、花壇の草花もはっきりと視認できる。

私が最初に放った光魔法よりも明るいかもしれない。


そして、そんな明るい状態に突然放り込まれたライオンは、


「グオォォォォン!!」


とまたしてもけたたましい咆哮を上げ、

たてがみをブルブルと震わせる。


「・・・やったわ。作戦通りね」


後方からもレナール先輩の嬉しそうな声がする。

後はライオンが光に喰らい付きに行くのを見計らうだけ。


・・・と、思っていたら、


ライオンが震わせてるたてがみがどんどん長くなっていっているような気がする。

そして、


「ウォォォォォォォオオオオオ!!!」


まるで狼の遠吠えのような声を上げた方思うと、たてがみがバサリと蠢いて、背中の辺りから左右に大きく広がる形を取った。


それはまるで翼のような・・・


というか、まさに、


「なっ・・・翼ですって!?」


翼そのものだった。



ライオンはその真っ黒で艶のあるたてがみを翼のように羽ばたかせる。

その度に、倒されそうな暴風が私達を襲う。


「油断するなよ!チャンスは一回だけだ!」


そんな中でも、アコニタムさんは諦めてはいない。


「そうだ!ユイ、やれ!!」


気が付けば、吹っ飛ばされたカイン君も起き上がっている。


・・・やるしかない!

いつ飛ぶ?



私は両手を光の方へと向けながらタイミングを見計らう。

たてがみを数回羽ばたかせたその時、ライオンがグッと姿勢を下げた。


これは飛び掛かる直前の仕草・・・!

来る!


身構えた次の瞬間、ライオンは羽ばたいた勢いに乗って、

今までよりもさらに早いスピードで上空へと飛び出した。


「今だ!!」


アコニタムさんが叫ぶ。

そして同時に、私は上空の魔力の球の魔法を発動する。

ぶっつけ本番の遠隔起動魔法だけど、光の中心部からなんとなく魔力を感じる。

・・・場所さえわかれば、案外何とかなる?


邪魔な前髪を左手で拭ったとき、血が左目に入ってしまって視界が片方赤くなるけど気にしない。


金属性の錬成はいつもはゆっくりと形を作ってから金属に変換するけれど、

このライオンのスピードには間に合わない!


だから、速度を意識して形も大きさも密度も素材も感覚で、

とにかく、少ない記憶の中を探し回って、細長くて、硬い何かを生成する。


ライオンが光りの球を口に含み、周囲が再度暗闇に包まれるのと、

私が巨大な鉄の棒を作ったのはほぼ同時。


後は・・・


「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


高く掲げた右腕を勢いよく振り下ろすと同時に、釘を雷の力でぶっ飛ばす!!

同時に、私の脇腹から再度血が噴き出す。

それでも!


ズバァァン!


と、どこから発されたのかも分からない破裂音だか衝撃音だかが鳴り響いた直後に、


ドォオオオオンンンンッ!!


と重いものが叩きつけられる破壊音。

丁度、城壁に杭を突っ込ませたときに似た音が響き、

ライオンの羽ばたきよりも強烈な土煙混じりの風が私の全身にぶつかった。



そして、そこまで行ってやっと、

私がぶっ飛ばした鉄杭がライオンを貫いたまま地面に叩き込まれて、胴体から口にかけて貫通した状態で地面に縫い止められていることに気が付いた。


「よくやったわ!エルドレッド家の神髄、見せてやるわよ!!」


それを確認した途端、私を支えていたレナール先輩は地面に叩き込まれたライオンに向かって駆けていき、


「・・・呪詛滅式・・・黒穴(こくけつ)!」


呪文を唱えると、ライオンの周囲に無数の紫色の杭が生まれる。

前に使おうとして阻止されてしまった奴だ。


でも、今回はもうライオンも抵抗する力を失っているのか手足を軽くばたつかせているだけ。

・・・っていうか、あれ喰らってもまだ生きてるの!?


「・・・申し訳の余地なく消えなさい!」


先輩の掛け声と共に、浮かんだ紫の杭がライオンに殺到する。

ドスドスドスッ、と鈍い音共に針山のような状態になったライオンの周囲の空間が歪んでいくように見える。


そして次の瞬間、


ズシャリ、


と何かが潰れるような音が周囲に鳴り響き、


「オオオォォン・・・・・・」


ライオンが断末魔と共に力尽いたように手足をだらんとさせる。

体は私の杭に貫かれたままなのでそのままだけれど、ライオンはゆっくりと黒い煙のようになって消えていく。



「やった・・・やったんだね・・・」


バグ特有の消滅の様をその目で見た私は、安堵感からか急に意識が遠のいていく。

もう立っているのも出来ないなぁ、なんてことを思ったとほぼ同時に、


フッと私の意識は途切れた。

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