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第17話:漆黒の獅子・Ⅰ

「グオオオオオォォォォ!!」


思わず耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げながら、ライオン型のバグが地面をひっかく。

それだけならネコ科特有の微笑ましい爪とぎのような動作ではあるのだけれど、

その度に公園の道に使われているレンガが掘り起こされてバキバキになっていくのを見ると、

微笑ましいなんて感情は一切湧いてこない。


奥に見える立派な噴水よりもはるかに大きい巨体を前にして、アコニタムさんは闇に紛れる黒いコートから1メートル位の杖を取り出した。

今までそんなの使ってなかったじゃん!

本気モードなのかな?


「さ、無駄話はここまでにしておこうか」

「あなたから切り出したくせに」


さっきまで皮肉り合いをしていたレナール先輩も、いつものブレスレットを右手に嵌め臨戦態勢だ。

これは私もやるしかない。


軽く息を吐きながら気合いを入れなおし、全身の魔力を意識し始める。


「やつはライオン型大型バグ、レオンバグだ。見た目通りとんでもないパワーを持つから、身を守る事に重点を置いてろよ」

「わ、わかりました・・・!」


アコニタムさんがポンと私の肩をかるく叩きながら前に出る。

頼りにはなるんだけど、そのボディタッチは少し気になる・・・


アコニタムさんは、前に出ると同時に、すでに前線にいたカイン君に話しかける。


「レーベンス君、だったか?」

「は、はい!」

「まずは2人で両前足を狙う。いいな?」

「わかった!」


そんな声かけをしながら二人はライオンの元へと駆けていくが、

ライオンは短く唸ると同時に、踏み込むように体を下げると、今度はその力をバネにするように大きく跳躍する。


最初に光球に喰い付いたときのようなその巨体からは想像も出来ない勢いで跳ねて、

向かっていった2人を軽々と飛び越えて・・・


私の方へ飛んできてる!?


ライオンが鋭い爪を露わにしながら真っ黒な腕を振りかぶる姿が、公園の街灯の微妙な明かりで何とか視認できる。


「バッ、バリアーーー!」


先に防御が大事だと教えてくれていたおかげで、あらかじめ用意していたバリアーの展開がギリギリ間に合った。

ガァン!!


と、まるで交通事故でも起きたかのような音と、実際に吹っ飛ばされてはいないけれどそれに近い衝撃を受ける錯覚を貰う。

以前の上級魔族の時のように1撃でヒビが入ってしまうなんてことは無いにせよ、その衝撃は相当な物で微妙にバリアが揺らいだ気がする。


光球の時もそうだったけれど、どうも魔法の制御に意識を割きすぎていると、その魔法に対してかかった力が少し脳内にフィードバックされるっぽい。


目の前で牙を剥き出しにしながらバリアを食い破ろうとしてくるライオンの迫力は凄まじく、動物園では決して見られない光景が目の前に広がっている。

思わす身をすくませて手を引っ込めてしまいそうになるけれど、

バリアを張っているのはその手なので、そこを引くわけにはいかない。


「・・・どんなジャンプ力してるんだこいつ!」


そんな大迫力のライオンの向こう側で、飛び越えられて攻撃を躱されたカイン君が悔しそうな顔をしているのが小さく見える。


「ユイさん、大丈夫!」

「なんとか!」

「わかった。じゃあ今度はこっちの番ね!」


私の後ろバリアによって難を逃れたレナール先輩も、このままではいけないと、

ブレスレットを光らせて何かの魔法を唱えている。


「呪詛滅式・・・禍つ剣っ!」


先輩の掛け声と共に、ライオンの足元に魔方陣が広がる。

これはトカゲの時の、剣を刺す奴・・・!


しかし、ライオンは何か身の危険を察知したのか、バリアを食い破ろうとするのを中断し、

バリアをに押しつけた前足を伸ばす反動で、ネコのようなしなやかな動きで後方へと身を翻す。


直後現れた紫色の剣は空しく空を斬る。


後方へと飛んだライオンの着地先は、今まさにカイン君とアコニタムさんが居たところで、


「うわっ、こっち来るぞ」

「・・・ちっ」


2人はお花畑に身を投げる勢いで振って来るライオンの巨体をギリギリで避けていた。

でも、その巨体が地面に振って来る衝撃波凄まじく、周囲のレンガは砕け飛び散り、

バリアで被害の無い私達も、その着地の振動を感じるほどだった。


「パワーもスピードも、その辺のザコとは段違いって事かしら!?」

「やはり足を何とかしないと機動力で負けるか・・・」


体勢を立て直したカイン君とアコニタムさんは、再度足を狙おうと協力して向かってはいるものの、やはりそのスピードとパワーに翻弄されて、有効な一撃を与えられずにいるし、

レナール先輩の魔法は、生半可な拘束は動きを止めるよりも先にその強靭な腕で破壊されてしまっている。


「ユイ、あれでコイツをひるませてくれ!!」


そんな苦しい戦いのさなか、ふとカイン君がそんな事を叫ぶ。


「アレ!?アレがなんなのかはわかんないけど多分コレ!!」


もう、アレを指す魔法が何なのかは分からないけれど、聞き返しているほど戦況に余裕が無さそうなのはなんとなくわかるので、

もう自分で判断することにした。


右手に大量の氷と雷の魔力を集め、それをライオンに向けて、


「行け―――!!」


一気に解き放つ。


水色の雪と氷の混じるビーム状の光がライオンに向けて発射される。

氷の力を雷の指向の力で射出する属性複合魔法。


氷の力ならこのライオンの動きも止められるかもしれない。

しかも今回は広範囲にぶちまけるタイプでは無く、一点集中の威力重視。


いくら身のこなしが素早いとはいえ、流石にビームは避けられずその大きな胴体に直撃した。

穴を開けるまでには至らなかったけれど、直撃した個所は凍り付いているかの如くバグに似つかわしくない白色に染まっている。


「ユイナイス!!」

「今だ、畳みかけるぞ!」


かつて植物に擬態するバグを撃ち抜いた一撃。

流石にこのライオンバグも無傷とはいかず、ぐらりとその巨体をよろめかせ、何とか踏みとどまるように4つの脚で体を支えて踏ん張っている。


そしてその隙を突くように、カイン君とアコニタムさんがそれぞれ炎を纏った剣と、炎そのものの魔法をライオンの両前足に叩き込んだ。


「オオオォォォ・・・・・・」


まだ指先から軽く火花が散っている先で、2人の炎が派手に爆発するのが見え、

ライオンがたまらず上半身が地面に崩れ落ちる。


「・・・や、やった?」


相手がバグなので焦げ臭い臭いとかはしないけれど、これだけやれば手ごたえはあるはず、

しかし、アコニタムさんは、魔法を撃った直後でまだ赤熱している杖構えながら難しい顔をしている。


「いいやまだだ、多少動きを抑えた程度だろうな」

「あれだけやって!?」


あれを喰らってそれだけなんて、どんな化け物なの!?

いやホントに化け物だけど!


そこに、ドン引く私の後ろから、レナール先輩がブレスレットを怪しく煌めかせながらライオンの眼前へと向かっていく。


「仕方ないわね・・・私がやるわっ」


先輩は右手に嵌めたブレスレットを左手で掴み、今までにない光量、

というか怪しいオーラのようなものを湧き出せさせながら魔法を唱えだした。


「今ここに万物を呪う力を!・・・呪詛、滅式・・・」


先輩の言葉と同時に、無数の紫色の禍々しい針のような、柱のような何かが空中に鋭い切っ先をライオンに向け包囲する形で配置されていく。


「・・・こく」


しかし、


「グオォォォォォォォ!!!」

「うわっ!!」

「くっ!」


突然、倒れ込んでいたライオンが咆哮を上げた。

しかも、今までの声よりもずっと強烈で、踏ん張らないと煽られて飛ばされてしまいそうなほどの衝撃が合わさっている。

その咆哮によって、先輩が展開していた柱のようなものは全て粉々に砕け散ってしまった。


「・・・まだそんな力があるの!?」


私と同じく、先輩は自分の顔を庇いながら、長い髪をバタバタとはためかせている。

ブレスレットの怪しいオーラももうない。


カイン君達も流石に至近距離でこれを喰らって平気ではいられないのか、既に二人ともライオンの足元からは退避して、少し離れたところで防御姿勢のようなものを取っている。


「気を付けろ・・・!また来るぞ!」


アコニタムさんがそう叫ぶと同時に、ライオンは波打つたてがみを揺らしながら起き上がった。

倒れ込んでいるときでも相当な威圧感だったけれど、今はそのシルエットはさらに大きい。


「オオオオォ・・・!」


ライオンが赤々と輝く口を開けながら体勢を低く構える。

また来る・・・!

そう思いながら両手に金属性の魔力を集めようとしたとき、


ライオンの口が急に黒く染まったように見え、

次の瞬間、


「危ない!!」


そんなレナール先輩の声と共に、いきなり私は真横に重い衝撃を受けて横に吹っ飛ばされた。


「う"っ」


鈍いうめき声を上げながら飛んだ先の地面に背中から突っ込み、

目の前には私にタックルでも仕掛けてきたかのような体勢のレナール先輩が居る。

そんな光景に訳も分からず目をパチパチと瞬きを繰り返す。


だがその直後、

ビシィ!

という鞭みたいな音が鳴り響き、吹っ飛ばされる前に私が立っていた場所に、黒い艶のある何かが突然現れた。


「な・・・何これ・・・!?」


その黒い何かは、まるで美しい髪の毛のような質感で、私が居た場所を全て埋め着くほどの量がある、

それが伸びている先に視線を移すと、それはライオンの口から伸びていて、

パッと見では口からビームでも吐いたようなビジュアルになっている。


「大丈夫?」


私のお腹辺りに顔を埋めていたレナール先輩がそのままの体勢で話しかけて来た。

そこでようやく今私は先輩の押し飛ばされて、庇われたことを理解したし、

動く口がお腹にに当たってくすぐったい。


「な、なんとか・・・」

「アイツ、いきなりこれを吐き出してきたのよ・・・!」


身を起こして、横転するように私の上から退いた先輩は、ライオンの口から飛んできたであろうそれを指さしながら忌々し気に答える。


公園のやや折れ曲がってしまった照明に照らされて怪しくテラテラと光を反射する細い束のようなそれは、風に吹かれてゆっくりと揺れている。

それを見ていたら、急にそれがするするとライオンの口の中に吸い込まれていって、

蕎麦かラーメンかみたいな勢いで口内に消えていく。


そして、そのライオンの首の回りには、

そんな黒い艶のある毛束が沢山・・・


「え、まってあれ・・・たてがみ!?」

「・・・そのようね」


「嘘でしょう・・・?」


身を起こしながらパンパンとスカートを叩いて砂埃を払い落としている先輩だけど、

当の私は未だ起き上がれないでいた。


口からたてがみをビームみたいに吐き出すって、どういう事!?


「もう・・・なんなのコイツ・・・!!」


早速心が折れそう。

ライオンかと思ったらそうでもないし!!

正直な話、強敵はもうこれっきりにしておいてほしい所。


「グオオオオオォォォォ!!」


ライオンは再度咆哮しながら体をブルブルと震わせて、その艶やかなたてがみを奮い立たせている。

おれがもう飾りじゃないなんて、どうすればいいのやら。


「また来るわよ!早く立ち上がりなさい!」

「えっ、あ、うん!」


先輩の声にハッとする。

茫然としている場合じゃない。

先輩が差し伸べてくれている手を掴んで、半ば引っ張られるように引き上げられ、勢いあまって前傾状態になりつつも、何とかバランスを取って立ち上がった。


よろめきつつ前を向くと、私とレナール先輩の元にカイン君とアコニタムさんが駆け寄って来るところだった。


「だ、大丈夫か!?」

「ま、なんとかね・・・」


体は砂まみれだし、押し倒された勢いで足先や背中に多少の擦り傷はあるけれど、大きな怪我はない。


「あんな攻撃方法、俺は知らないぞ・・・まさか進化しているのか?」


なんかアコニタムさんが不穏な事言ってるし・・・!


「とにかく、これ以降はあのたてがみにも気を付けろ。暗闇では視認しにくいぞ」

「・・・わかったわ」

「あぁ、何とか弱点を探さないとな」


そんな作戦会議もつかの間、ライオンはまたしても小さく唸って、重心を落とす構えを取る。


「来るぞ!」

「はいっ!」


4人全員の身を守るように、早めにバリアを張る。

口からのたてがみビームも防げるように。



しかし今度はたてがみを発射することは無く、その巨体を凄まじいパワーで蹴って跳躍して飛んでくる。

踏み蹴られたレンガの地面が、爆弾でも爆発したんじゃないかってくらい粉々に砕け散るのをこの目で見た次の瞬間には、

バリアが激しい音を立ててライオンの飛び掛かりを防いでいる瞬間に切り替わっている。


・・・いくらなんでも速すぎじゃない?

もし私がこのバリアの魔法が使えない体質だったら、もう私はとっくに死んでいる。


「・・・っう!」


軋むバリアの衝撃がうっすらと感じながらバリアを展開し続ける。

この、どこかわからない骨が悲鳴をあげて居そうな感じは、何時まで経っても慣れない。


けれど、バリアにヒビが入ったりはしないのでそれは安心できる。

バリアに穴を開けられたあの時はマジで死ぬと思ったからね。


ライオンは何度かバリアを押したり引っかいたりして破ろうとしてきたが、そのままでは無理だと悟ったのか、数歩身を引き四肢を地面に着地させ、またも重心を低く構える。


また突進してくる気?


と思ってバリアにより多くの魔力を送り込んで補強すると、

ライオンの首を覆うたてがみの下の方がざわめき出し、勢いよく真下の地面に突き刺さった。

バキバキバキ!と、地面を舗装するレンガすらものともせず突き刺さっていくたてがみは、相当な破壊力を持っているのだろう。


それにしても・・・今度は一体何を・・・?


バリア越しに見える不思議な仕草によりバリアを張る手に力が入ったその時、


「まずい、離れろ!!」


アコニタムさんの叫びが響く。

しかし、一瞬手の方に意識を割いてしまっていた私はその反応がワンテンポ遅れてしまう。


それでも無理やり左足に力を入れて、半ば強引に、重心の確保とかそういう事も考えず後ろに飛ぼうとして、

ギリギリ半身動かした瞬間、


「っ・・・!」


足元のレンガを突き破るように黒い何かが飛び出して来て、

脇腹に鋭い痛みが走った。

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