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第16話:闇に墜ちる町・Ⅴ

「ちゅ、中央公園・・・」


レナール先輩から宣言された場所は、ちょっと意外な場所だった。


だって、今日のお昼は私、そこに居たんだから。


「そこに何があるのかはまだ分からないけれど、エネルギーの大本がそこにあるのは突き止めたわ」

「さすがレナール!!」


さっと親指を立てながら先輩を称賛するカイン君は、すぐさまその向きを変えて川の方を見る。


「公園は確かあっちの方だったな」


「あれ、そっちってギルドの方だったよね」


「まあ中央公園はギルドの近くにあるものね」


「あ、そっか」


そう言えばそうだったね。

公園からはギルドの正面にあるアウフタクト町庁舎が見えてたっけ。


「だったらさ、先にギルドに寄って大人の人に報告した方が良いんじゃないの?」


今までは無断で私達子供だけであれやこれややって来たけど、

原因が分かったんなら大人の手も借りて、大人数でやった方が良いと思うんだよね。

でも、レナール先輩は、


「それも考えたけど、中央公園が原因だって報告するなら、間違いなく根拠を求められるわ」

「それはそうだろうな」

「で、その根拠を提示するために私たちが何やったか、説明できる?」


「「あぁー・・・」」


公共物?であろう退魔石の灯篭をぶっ壊しました、なんて言えるわけがないか・・・


「問題を解決した後なら、結果論でゴリ押す事も出来るでしょうけど、そうでない現状なら難しいでしょうね。勝手に抜け出したことも含めて」

「そうかぁ、難しいな」

「残念」


っていうか私達めっちゃ悪い子じゃないそれ。

これはもう、空振りじゃ済まないぞ・・・?マリナさん的にも。


「じゃあ、逆にギルドをちょっと避けて公園に向かうしかないな!」

「そうね」


そうして私達は、こっそりと中央公園に向かう事になった。

道中のバグはなるべく静かに倒さなきゃいけないので、

うるさかったり眩しかったりする雷は使えず、近くに川が無いとこっちにまで被害が及ぶ水もダメ。

ついでに私が寒くて嫌だから氷も無理と、残りは金だけになってしまった。


・・・で、その攻撃方法は何かと言うと、

先端の尖った金属の棒を即席で錬成して、周囲に漏れない程度の雷の力でそれを飛ばすという物。

要するに、自治区でやったエクスプロシヴ・パイルの弱い版。


これはこれでバグの体に直接棒が突き刺さる完全な物理攻撃なので、ビジュアルはだいぶエグいし、

金属も小さくて軽いせいか、音速に達してそうな風切り音を鳴らしながら飛んでいくので、どう考えても殺意が高い。


金属の矢を無から撃ちまくれる人間なんて、私は近づきたくはない。

どうだろう?これ私のモラル思いっきり下がったりしてないよね?




なんとか前線で斬った張ったしてるカイン君にそれを当てないように細心の注意を払いながら進んでいくと、見覚えのある道に出た。

今日の昼、中央公園に行くときに通った道だ。

良い香りが漂ってくるレストランがあったのを覚えてる。


幸いその道は人気もバグの気配も無かったので、3人小走りで駆け抜けるように進む。


そして、さっき言ったレストランの前を抜けようとしたとき、


「おっと、」

「「うわぁ!?」」


突然店の影から何かが飛び出して来て、私とカイン君は大声を上げてしまった。


「・・・ビックリしたぁ。人かぁ」


パッと見黒かったからバグ!?

と思ったけれどそれは衣服で、よく見ればその上にちゃんと顔があるし、白い髪の毛も見え・・・あれ?


「ん、君は確か・・・」


「あの時の人!!」


季節外れの黒いコートと、キザっぽい白い髪型!

間違いない。

あの時私をギルドまで送り届けてくれた人だ。


助けてくれた人ではあるし、悪い人じゃあないだろう。

しかし、


「・・・げっ」


と、レナール先輩は拒否的な反応を露骨にしている。


「まさかまた外に居るとはね」

「まぁ・・・これには訳がありまして・・・」


「ユイ、あんまりそいつに近寄らない方が良いわよ」


あまつさえ、こんなことまで言い放つ始末。


「え、何でよ」

「そいつ、とんでもない魔法使いオタクよ」


先輩はその人を軽く睨み付けるような表情をしながら指をさして露骨な反応をしてくる。


「おいおいおい、人聞きが悪いなぁ、俺は純粋に強力な魔法使い、珍しい魔法使いをおいもとめているだけさ」

「・・・私が言ったことをそのまんま復唱しているようにしか見えないわよ」


言い合うのは結構だけど、間に挟まれた私の事も気にしてほしいなぁ・・・


でも確かに、黒コートのお兄さんが私を見る目は、ちょっと鋭い気はする。

それがなんか気になってしまって、軽く胸元を隠すようにケープを掴み寄せお腹を腕で隠すと、

それを見たコートのお兄さんは、


「あぁいや、俺は魔法使いとしての感応器とか特質を見たいだけだから、発育とか体型とか、そういう下世話な部分に興味を持つことは無いよ」


なんて。

それはそれでなんか腑に落ちない。


しかも、そんな事すらどうでもいいとでも言うように、視線をそのままにさっさと次の話題に移ってしまう。


「で、何で君たちは外なんかに居るんだい。避難所はあっちだよ?」


「あー、えーっと・・・」


私が本当の目的を言おうか言うまいか悩んでいると、


「退魔石が力を失った原因が分かったんだ!」


とカイン君が思いっきりバラしてしまう。

瞬間、レナール先輩がカイン君の胸倉をつかむ勢いで、コートのお兄さんを背にする位置でしゃがみ込ませたので、

私もしゃがんで視点を合わせる。


「ちょ、何でいきなりバラすのよ!」

「すまん、ついうっかり!」

「カインさっきの話聞いてたわよね!!」


一応、内緒話のつもりではあったんだけど、絶対周囲に聞かれるであろう声量になってる。


「ど、どうするの・・・?」

「何とか見逃してもらうしかないと思うわよ・・・」


一応私は3人にだけ聞こえるであろう声量では言ったけれど、


「あー、俺はギルドの連中程かっちりした人間じゃないから気にしなくてもいいぞ」

「あ、そうなんですか・・・?」

「それに、封印魔導一家のお嬢さんも居るし、疑ってはいないさ」


話を聞く限り、この人にバレてもさっきレナール先輩が言っていた最悪のシナリオにはならなさそうだ。


「ね?こいつ自己紹介してもないのに私の事めっちゃ知ってるのよ」

「そ、そうだね・・・」


ただまぁ、確かに今のは気持ち悪かったかも。

その上でコートのお兄さんは、飄々とした態度を崩すことなく更に聞いてくる。


「で、原因って言うのは何だったんだい?場合によっては俺も同行しよう」

「同行?」

「ああ、いくら優れた魔法使いって言ったって、子供だけはやっぱり危険だろう」


お兄さんは、私達3人の周りをゆっくりと回り歩き出す。


「敵はバグだが、この混乱に乗じて盗賊共が出てこないとも限らない。そうなれば君たちはそれに対処しなきゃいけないだろう。ひとつ聞くが、」


お兄さんはふと足を止め私たちの方を指さし、

今までの軽めな態度からは想像もつかない程の真剣そのもののトーンで話し出した。


「・・・君たちは、人を、殺せるか?」

「「「なっ・・・」」」


いきなりそんな事を言われて、思わず固まってしまう。


「盗賊相手に、相手は人間なんだから、等とモタモタしていたら死ぬのは君たちだ。何も善良な市民を殺せと言っている訳じゃない、君たちの命を狙う悪人さ。でも、人間だ」

「「「・・・・・・」」」

「安全が保障されない場、特に今みたいな火事場時にはそう言う事も起こりうる。君たちは、胸を張ってそれに対処できると言えるか?」


・・・言える訳無い。

他の二人がどうかは知らないけれど、私は絶対に言えない。

勿論、ひとたび雷を振るえば人一人殺してしまうのは容易だと思う。

でも、それが精神的に可能かと言われれば、確実に無理。


何も言えずにただただ俯いていると、コートのお兄さんは幾分か声色を元に戻し話を続ける。


「ま、今は出来なくても何の問題も無い。そういう汚れ仕事は大人の仕事だ」

「それは、汚れ仕事全般は貴方が請け負うって認識でいいのかしら?」

「そう言う事」


それを聞いた3人は今度はしゃがむこと無く、立ったまま背面会議の体制に入る。


「どう?一応、私は人間を拘束する位はできるけど」

「うーん・・・怪しさはあるけど、頼りにはなる気はする・・・?」

「俺は良いと思うぜ」

「うん。私はあの質問、答えられそうにないしね」


短い協議の末、この人と一緒に行く事にすることにした。

人数の面でもそうだし、何より、人を相手にする、という事がまだ私には出来ないからだ。


「・・・とりあえず、貴方と同行しても良いって結論になったわ」

「そうかい?それはありがたいね。優秀な魔法使いの生の魔法を間近で見られる」

「・・・やっぱなしにしようかしら」

「冗談だって。この緊急時、バカな事はしないさ」


もうだいぶおちゃらけた事言ってるような気はするけどなぁ・・・

とも思いつつ、

実際私を助けてくれた上にギルドまで連れて行ってくれた事実はあるので、何も言えない私だった。


「って訳で、俺はアコニタム。こんな状況だ。所属とか、そう言うのは要らないな?」

「あ、えっと、ユイ・リクエ・レイフィールです。よろしくお願いします・・・」

「レナール・エルドレッドよ。もう知ってるとは思うけど」

「俺はカイン・レーベンスです。よろしく!」



一通りの自己紹介を終え、アコニタムさんに目的地が中央公園だという事を伝えた。

・・・それが分かったのは灯篭を壊したことだという事は伝えずに。


それを聞いたアコニタムさんは、そのまま疑うことなく一緒について来てくれた。

さっきも言ってたけど、レナール先輩の技量は本当に信頼はしてるんだろう。



道中は相変わらずのバグの巣窟だったけれど、現れるバグ達は私たちが手を出すまでも無くアコニタムさんが手際よく倒して行った。

本人はちょっと気持ち悪い所はあるけれど、やっぱりアコニタムさん自身も優秀な魔法使いではあるっぽい。

優秀な魔法使い大好きで、自分も優秀な魔法使いだからちょっとナルシスト気味なのかな・・・


しかし、前に言っていたような悪い人そのものは出て来る事は無く、

グロい光景は見ずに済んだ。


とはいえ、アコニタムさんの言う事は嘘ではないだろう。

実際、ギルドの依頼版には、「町はずれの森で発見した山賊の撃退」とか、そんな依頼も見つけたことはある。

勿論、見ない振りしたのだけれど・・・



暫く走ると、左右に並んでいた建物が無くなり急に視界が開けて来る。

目の前に広がるのはちょっとした柵で囲われた広い緑の空間。

暗めの空間に点々と立ち並ぶ街灯には、レンガ作りの道が照らし出されている。

そう、ここが私たちの目的地、アウフタクト中央公園。


「着いた、中央公園だ!」


それを見るなり、カイン君は2メートル程もあるはずの柵を軽々と飛び越える。

これが身体強化魔法らしいけど、あれだけ軽快に動けたら楽しいだろうなぁ。

なんて、今のこの町の空気感とは明らかに場違いな事が頭をよぎる。


「あんまり無計画に突っ込むもんじゃねぇぞ」


そう言いながらアコニタムさんもカイン君に続き、柵を乗り越えていく。

そしてそんな芸当は出来ない私とレナール先輩は普通に公園の入り口から入っていった。



昼間は人で賑わい、清らかな水と綺麗な花の広がる落ち着いたリラクゼーション空間も、

夜は人気が無く、街灯によって点々と照らされた花々や道は昼間と全く同じ物の筈なのに、何でか不安を駆り立てる。

中央の噴水を中心に公園全体を小川のように流れる水路の音が、周囲からチョロチョロと聞こる。

そこも昼間は陽光を反射してキラキラと輝いていたのに、今は真っ黒な闇に、僅かに街灯の光を反射する程度で、寧ろ闇の底を見つめている気分になる。


「・・・なんか怖いなぁ・・・」


思わず口に出してしまう。

水があるせいか風が幾分か涼しく、精神的にも物理的にも冷える。


「あなたの魔力があればなんとかなるでしょう?」

「うん、そういう意味じゃ無くてね・・・?」


出てくるバグが怖いとかじゃ無くて、全体的な雰囲気の話なんだけど・・・



あ、いや待って?


魔力でなんとか、できるかも。




例のごとく胸元の辺りを意識しながら正面に魔力を集め、光属性に変換する。


そうすると蛍光灯のような白い光が体の前に現れるので、

それをバレーボールをトスするように上空に打ち上げて、だいたい二階建ての建物の屋根位の高さで炸裂させる。


パァッ!


眩い光が溢れて、私たちの周り、引いては公園のそれなりの面積を照らす。

太陽の光には程遠いけれど、それでも暗くて怖い、という感情を払拭するのには十分な光量だ。


「なんか、昼みたいな明るさだな!」

「光源確保は良い考えだ。バグは暗所じゃ見にくいからな」


明るくなった公園を眺めながら、カイン君はちょっと能天気な感じで話しかけてくるし、

アコニタムさんはそう言いながら周囲を鋭い目で見渡している。


「相変わらずホント意味わからない事するわね」

「そ、そんなに変な事かな・・・?」


一方のレナール先輩のツッコミには異を唱えたい。

そのパワーはともかくとして、暗い場所を明るくしたいって言うのは普通じゃない??


そう思いながら上空に浮かぶ光球に視線を回したその瞬間、


ブォン!という風切り音にしてはちょっと重過ぎる音が鳴り響くと同時に光のあった場所を何かが横切り、さっきまで明るかった公園が、再度闇に包まれてしまった。

さっきまでそこにあった光の球はどこにも無い。


「え、何!?」

「また暗くなったぞ!」

「何事だ!」


周囲を警戒する私以外の3人。

だけれど、私はそれの正体をなんとなくわかっていた。


「あ、あそこ・・・!」


私は光を横切った何かが向かった先を指さす。


指を差したその先で、何か巨大な影が地面に落ちる。


地響きのような音を立てながら公園の土やレンガを捲り上げる勢いで降って来た黒い塊は、

直後そこから足が生えてきたかのように強く地面を踏みしめ体を持ち上げた。

大きさは、距離があるからよくわからないけれど、間違いなく巨大なのは分かる。


「デカい!?」

「手ごわそうね・・・」

「大型のバグか・・・気を付けろ、実際手ごわいぞ!」


それはバグ特有の真っ黒な体に、それを覆い隠すようなモヤ。

そして生気の無い真っ赤な瞳。


巨大な体を支える強靭な4本の脚と、それを更に大きく見せるようなモヤどころか、渦巻く水流の様にも見える立派な"たてがみ"。

闇を固めて作ったような大きなライオン型のバグが、こちらを見ている。


「・・・!」


そのライオンは見せびらかすかのように口を大きく開いた。

ライオンの口内は、今までのバグとは違い、爛々と光る目のように赤く輝いている。

そして、その中にさっき私が生み出した光の球が、飴玉のように鈍く光っている。


ライオンは私がそれを見たのを確認すると、ゆっくりと口を閉じる。


「・・・あっ・・・!」


途端、そこからほんのりと感じていた魔力の力が、何かに引き潰されるような感覚を最後に消え失せてしまう。

同時に、頭の脳細胞の一部が魔力と一緒に潰されてしまったかのような感覚が駆け巡り、思わず頭を抱える。


「っ・・・」

「どうした!?」

「だ、大丈夫・・・!」


手を差し伸べて来るカイン君に大丈夫と伝えてから、軽く頭を振って思考をリセットする。

実際に頭が潰れたわけじゃ無い。

あの光の魔力を制御下に置いていたから反動で錯覚を感じただけ。


数回瞬きを繰り返してライオンを睨み付けると、


「グオォォォォォォォ!!」


と、ライオンはその大きな口を目いっぱい開いて凄まじい咆哮を上げる。

全身がビリビリと震えるような衝撃が4人を襲う。


咆哮を前にして、カイン君はそれを斬り裂くようにして剣を引き抜いた。


「っ、どうやらやるしかないみたいだな・・・!」


それに合わせるように、アコニタムさんとレナール先輩も各々戦いの準備をして・・・


「アレだけのデカブツじゃあ、俺もフォローしきれない。勝手に死んでくれるなよ!」

「勝手にとは随分な言い様ね。まるであなたが殺したいと言っているみたいだけど?」

「貴重な封印魔法の使い手を殺すなんてとんでもない話だな!」

「あー、あなたはそういう人間だったわね。筋金入りのバカだわ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


何でこの状況で皮肉り合ってるの!?

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