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第16話:闇に墜ちる町・Ⅳ

「ねぇ、これ見て頂戴」


何とかハンマーを消し去って、先輩たちが呼んでいる壊れた灯篭の方へと様子を見に行く。

見た目はどう見ても途中からボッキリ折れた石の灯篭そのものだけど、

先輩とカイン君の二人は、地面に転がっている退魔石では無く、その折れた灯篭の方に注目してた。


「何、何かあったの?」


私も気になってその辺りを覗きこんでみると、灯篭の柱は円柱状になっていて、中には赤い色の金属の柱のようなものが伸びている。

見た感じは、石の柱を鉄筋で補強しているみたいな感じだ。


まぁ、そんな工夫も虚しく折れてるわけだけども。


何の気なしにその赤い柱に手を伸ばしたら、その手首を勢いよくレナール先輩に掴まれて止められてしまった。


「待った、触らない方が良いわよ。かなり強い火属性が籠ってるわそれ」

「えっ!?」


試しに少し顔を近づけてみると、確かに熱気を感じる。

弱めの電熱ヒーターのようだ。


「・・・ホントだ。でもなんで・・・?」


今の時期、寧ろちょっと暑いくらいなのに。


「これは火属性のもつ伝導の特性を使った魔力伝達棒かしら?」

「これも魔法関連の物なの?」

「そうね」


本当にこの世界は魔法だらけだ。


「退魔石は独立で稼働するものだけれど、どうやら何かを送ったり送られたりしていたようね」

「何かって何だよ」

「それは分からないわ」


どうやらこの金属の棒は、魔力を伝達するものらしい。

・・・ぶっちゃけて言えば魔力版の電線かな?

しかし、退魔石にまさかそんなものが接続されていたなんて驚き。


「でも、どうやら今回はそれを悪用されていたみたい。ほら」


先輩は、灯篭の棒から、転がっている退魔石の方を指さした。

そっちに視線を向けると、さっきまで石のように静かだった退魔石が、ほんのりと青みを帯びているように見える。


「あっ、青くなってる」

「多分、この伝導棒の先で何か封印的な事をされていて、終端にある退魔石が影響を受けた、って所ね」

「それで、携帯退魔石は無事だったんだな」

「教会のも、これとは関係ない退魔石だったから、なのかな?」


クレイジーな発想だと思ったけれど、それのおかげで謎が一気に解決に向かおうとしている。


っていうか、灯篭から退魔石を引き離せば光が戻るなら、片っ端から引っこ抜いて行けばいいんじゃないかな・・・?



「・・・それにしてもこの退魔石、光弱くないか」

「あー、確かに」


確かに退魔石はさっきと違って青く光っているけれど、その光はあんまり強くない。

少なくとも、今まで私の記憶の中にあった退魔石の光じゃない気はする。


「それはどうしてかしらね?もしかしたら伝導棒の本来の役目は各地の退魔石の力を増幅するためだったのかも」

「そっか・・・見つけた退魔石の灯篭全部ぶっ壊していけば解決!ってわけじゃないなのかぁ・・・」

「あなたも結構物騒な事考えるわね・・・」

「あれ?」


もしかして私の思考、結構偏り始めてる?



「ともかく、これで原因はわかった訳だな!」


私が自分の心に疑念を持ち始めているのとは裏腹に、カイン君は希望に満ち満ちた表情で私の方を向いてくる。

どっちにしろ、分かったかそうでないかはレナール先輩の方に聞かないと分からないんだけど。


「これだってまだ仮説段階よ?」


そう言う当事者のレナール先輩はというと、こちらは見ようとせず、灯篭を真面目に凝視しながら棒を中心に魔方陣を広げている。


多分、また何か調査でもしてるんだろう。

今回は本当に先輩の知識に頼りっきりなので、間違っても邪魔は出来ない。


かと言って手伝うとかも特にできないので、

そこらへんに散らばった粉砕された灯篭の破片を拾い集めていたら、


「おーい!そこの君たち!」


と遠くから知らない男性の声が響いてくる。

それだけならまだいいものの、今私たちがどうなっているかと言うと、

粉々に粉砕した退魔石の灯篭のすぐそばに立って、それをどうこうしようとしている状態。


どう見ても、教会裏の墓場で肝試ししてた悪ガキよりも悪いやつそのもの。


「はっ、はいっ!!」


テンパりマックスで返事するわ、手に持ってた破片はボロボロ取りこぼすわ、

言い逃れできない程怪しさ満点の動きをしてしまう。


他の二人も、一応この行為はあんまり人に見られるものではないと認識しているのか、

強張った表情で声のした方を向いている。



そこには、さっき街路の端でバグと戦っていた男性が走って来るのが見える。

よかった、無事だったんだね。

などと胸を撫で下ろすよりも先に、


「君たち大丈夫か!」


と声をかけられてしまったので、


「あ、あぁ、一応な・・・」

「は、はい」

「そうね・・・」


と、皆一様にぎこちない返事。


男性はガシャガシャと重厚な鎧の音を鳴らしながら、わき目も振らずにこっちに走って来る。

そしてここらへんには、目立ったものも無く、3人で灯篭を隠すように並んで立つのもわざとらしい。

となれば必然的に、


「これは・・・退魔石の灯篭がっ!?」


この惨状は見つかってしまう訳で。


「あ、あー・・・これはですね・・・」


何とか取り繕おうと言葉を選ぼうとするものの、何一つそれっぽい言い回しは出てこない。

しかし、


「・・・これもバグの仕業か・・・いや、そんなことよりも、皆今すぐここから逃げろ!」

「「「え?」」」


灯篭についてとやかく言われるかと思った矢先に、結構な剣幕でそんな事を言われてしまって、

思わずそんな間抜けな声を上げてしまう。

しかもハモる。


でも、それにも男性は意に介さず、さっき走ってきた方を指さしながら真剣な声で続けた。


「向こうからバグの大群が押し寄せてきてる!ここから離れないと死ぬぞ!」


「た、大群!?」


突然そんな事を言われたらそんなリアクションになってしまう。

バグの大群!?


指さされた方向にはまだ何も見えないけど、確かに微かにざわめきは聞こえる気がする。


「今ならまだ間に合う、走るんだ」

「わ、わかりましたっ!!」


そう言って男性は一目散に走り出すので、

私達3人もそれについて行くように走り出す。

先輩の調査がどこまで行ってるのかは分からないけど、そんな事を言われたら中断するほかない。


「ちょっとなんだよ大群って!!」

「確かに町中の退魔石が機能してないとするなら、あり得ない話じゃないわ!」

「なんだよ!さっきまでバグもまぁまぁ控えめだと思ってたのによ!」

「あるいは、大群があったからこそそれ以外の場所は控えめだったって事じゃないかしら?」

「くそぉ、そう言う事かよ!」


2人は走りながら口々にそんな事を言い合っている。

一方で私は走るのに全体力を割いているので、喋る余裕なんて無い。



「はあ・・・っ、はあ・・・っ!」


正面を見据えつつ、必死で走る。

長時間あちこち歩いたり走ったりしてるせいで、サンダルの小指と足首の裏辺りが擦れて少し痛くなってくる。

こんなになるなら新品のサンダルにするべきじゃ無かったかも!

サイズはぴったりでも、穿き慣れてないとなんだかんだ擦れるもんね!



長時間走ってると、肺と言うか、喉の奥辺りから嫌な物がせりあがってくる感覚がする。


街路を抜け、町の中心辺りの川に掛かっている大き目の橋を渡り切った辺りで、少し前を走っていたカイン君が私の方、と言うかさらにその背後を見て叫んだ。


「ヤバイ、来たぞ!」


振り返らなくてもなんとなく分かってた。

だって、ずっと後ろから、沢山の人が走ってるときに聞こえるようなドドドド、っていう地響きみたいな音と、

各種動物の鳴き声みたいなものがバリバリ聞こえて来るから。

でも、そんな現実は受け入れたくなくて必死に脳内でシャットアウトしてたけれど、


もうそんな事言われたら気になるじゃん!?


そして私は、振り返ってしまった。



「・・・うわっ!」


目に入って来たのは、

街路を埋め尽くし、奥が確認出来ない程に濃密な真っ黒なもやの塊と、

そこから数を数えるのも面倒なほどの赤い瞳。

一体どんなバグが何匹集まってるのかも分からないような黒い集団。

それらが波打つように蠢き迫り、橋へと差し掛かって来る光景だった。


「ちょ、キモっ!」


先輩もその光景を見てしまったのか、ドン引いた顔をしながら走っている。


「レナール!何とかできないのか!?」

「この数じゃ流石にやろうにも時間がかかるわよ!」


「このままギルド前まで行けば、きっと何とかなるはずだ!」


相変わらず鎧の男性は私達を勇気づけるような事を言いながら一緒に走ってくれてはいるけれど、

正直言ってこのまま走ってても追いつかれるのは目に見えている。

目と言うか耳で分かる。

どんどん音が近づいて来ているんだもの。



だったら、私が何とかするしかない・・・!


やや悲鳴を上げ気味だった足を止め、スカートがひるがえりかねない勢いで180度振り向いた。

正面には、今にも橋を渡り切り、こちらの街路へと突入しようとしているバグの群れ。


「・・・私がやらなきゃっ!」


胸元から強引に魔力を引っ張り出すような勢いで両手を正面に突き出し、

手の先からは眩いほどの濃青色の光が溢れだす。



「ちょ、ユイ!?」

「君一体なにを!」

「あなたまた何かする気なの?」


背後から色々聞こえるけど、ぶっちゃけ足が限界だからここでやるしかないの!!


あんな数は未知数だけど、きっとやれるはず。

私はあのストラディウム城を生き延びたんだから!


全身の魔力を魔力を両手に集め、青い魔力の球は1メートルほどの大きさになった。

そしてそれを私は両手でかき分けるようにして、道幅広い街路対して横に広がるように引き裂いた。


球は、無数の球体に分かれて、シャボン玉のようにふよふよと空中を漂いながら広がっていく。


「これでも・・・」


向かってきたバグの波がその魔力の球にまさに触れようとしたその瞬間、


「くらえぇぇぇぇ!」


広がった魔力の球体全てから魔法を発動させて、バグの群れに向けて大量の水を吐き出した。


ドバーーン!


とダムの放水映像みたいな量の水と音。

視界は一切が水しぶきに覆われてしまって先の状況は確認できないけれど、

あれだけ間近に迫って来ていたバグの波が未だこちらに一匹も来ていない以上、きっと私の波に押し流されていったに違いない。


目の前の物全てを押し流す圧倒的な水の勢いは向こう側だけにとどまらず、逆流した水が私の足元を水で満たしてゆく。

このときばっかりはサンダル&生足で良かったと思う。

いつものブーツだったら多分ブーツが水吸った上で内側のソックスもビシャビシャだ。



集めた魔力を使い切り、水の勢いが収まる頃には目の前を埋め尽くすバグの波は綺麗さっぱり消え失せ、後にはほんの数匹程度が壁等に引っかかってピクピクして消滅しかけているのみだった。



・・・ついでに、その街路にあったはずの植木とか、川沿いにあったはずの鉄柵とか、

そういうのがいくつか無くなってる気がするけど、見なかった事にしよう。うん。


あっ、街灯も無くなってる!?



「・・・な、何だったんだ今のは・・・」


思ったより建造物に被害を出してしまったことにショックを受けつつ振り返ると、

さっきの鎧の男性がそれ以上にショックを受けて腰を抜かしていた。


「あー・・・えーっと・・・なんて言ったらいいんでしょう・・・私の魔法と言うか、なんというか・・・」


初見だとだいたい皆こうなってしまう。

魔法としか言いようは無いんだけど、それじゃあ説明不足だし、

かといってわざわざ魔力が暴走しててー、なんて説明は面倒くさい。


「この子こうなのよ。バカみたいに魔法が強いの」

「そ、そう言う事です」


そしてそれを簡潔にまとめてくれるレナール先輩がありがたい。


「・・・相変わらず意味わからんパワーだよな」

「川の下流に被害が出てないといいわね」

「うっ・・・」


でもその言葉は刺さる!


いくつか街灯がなぎ倒されて暗くなってしまってはいるけれど、あの大量の水を飲みこんだ川はものの見事に増水していて、ゴオゴオを音を立てながら勢いよく流れていっているのがが分かる。

間違いなく水の勢いもそうだし、瓦礫とバグが下流に押し流されていってると思う。

被害、出てるよなぁ・・・



「で、でも助かりました、ありがとうございます」


一応、鎧の人は持ち直したらしく、ガシャガシャと鎧の音を立てながら起き上がる。

・・・なんか敬語になってない?


「ご婦人の見た目で判断するべきではありませんでしたね。これだけの魔法、さぞ長い時の修行を続けたのでしょう」

「あ、あぁ、そうじゃなくって!」


っていうか、レナール先輩"この子"って言ったでしょう?

まぁ確かに見た目より実年齢は高いけど!それでも20代前半だし!


「そのようなお方が居るのなら、きっと大丈夫だったのでしょう、では私はこれで、他にも助けを必要としている方が居るはずですから!」


しかし、私の弁明など聞く暇も無いとでも言うかのように、鎧の人は紳士的な礼をしてから、颯爽と市街地の方へと消えて行ってしまった。


「な、何だったのあの人・・・」

「どうも思い込みが激しい人のようね」

「むうぅ・・・なんか腑に落ちない」


この見た目で婦人は無いでしょう?


「ま、世の中には若い姿を維持し続けてる老練の魔法使いも居るって噂だし、あんまり気にしないでいたら?」

「それとこれとは話が違くない・・・?」


とはいえ、体の成長が止まっているとお医者さんに言われている私だし、

将来的にはそうなるのかもしれない。


「あ、そうそう。あと、あの魔力伝導棒の先、分かったわよ」

「え、本当?」


レナール先輩の方がよっぽど熟練の魔法使いだけどなぁ。


ふと足元を見ると、平然と次の行動の答えを導き出してくる先輩と、

それに対してなにかピンと来てないカイン君の姿が、石畳に広がる水たまりに映る。


「伝導棒って、なんだっけ?」

「あの退魔石の灯篭の奴よ!」

「あ、そうだそうだ!ユイの魔法のインパクトで忘れてた!」


それはカイン君のど忘れが原因なんだから私のせいにしないで!?


「で、結局そこってどこなの?」


「・・・中央公園よ」

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